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アクアウ様の叡智

「あらあら。

 みんな黒焦げね、とくにこの大男2人。ギリギリまだ死んでなければ、治せるかしら。それ!」



 目の前に青い光の塊が浮いている。ものすごい魔力の塊みたいだ。これは?



 身体の火傷がみるみる治っていく。キュアの何十倍いや、もう別物の回復力。間違いない。身体中の細胞一つ一つが綺麗に生まれ変わっていくような。。。

 これは精霊の力だ。



「ピッケル、久っさしぶりー!

 ずいぶん大きくなったね!

 それにしても人類というのは、本当に弱い生き物だね。最下級の魔獣の炎一吹きで全滅なんて、非力すぎる」



「よ、弱くてごめんなさい。。。あなたは?」



「それでも誰も死ななかっただけ、マシな人達だったのかしら?

 私は、水と風の精霊アクアウ。

 山の湖が炎のワンちゃんの縄張りになっちゃって、麓で暮らすピッケルの様子を見に降りてきだけど。。。

 まさかちょうどワンちゃんに焼かれてるとは思わなかったわ。。。。

 幸運な人たち。

 もう大丈夫。でも、勢いあまって、炎犬を溺死させちゃったわ。哀れなワンちゃん」



 炎犬が倒れている。

 全員服が焼け落ちて、ボロボロだ。

 アクアウ様のおかげで生きているみたいだ。

 焦げ臭い白いもやの中で、よろよろとみんな立ち上がる。ポンチョとカリンの服の破け方がまずい。はだけすぎて、目のやり場に困る。



「ちょっと!ピッケル!見ないで!今、ポンチョのおっぱいを見てなかった?

変態!見るならあたしを見なさい!

いや、見ないで!」



 いや、あ、これはまずい。

 でも、ちょうど白いもやが濃くなって、身体が隠されていく。

 最前列で火傷が酷かったはずのソニレテ団長もガンダルも、火傷一つないくらい回復している。

 よかった。本当に。みんな無事で。

 ガンダルが当惑している。



「な、なんだ?どうしたんだ?なんで俺が裸になってる?ここは、あの世か?炭になるどころか、前より調子がいいぞ。身体が5歳くらい若返っているようだ。

 おい!みんな無事なのか?炎犬は?」



 ソニレテ団長が落ち着いた声でみんなを集める。



「どうやら、死んではないようだ。

 炎犬が倒れていたが、倒したのは、そうだな、人間ではないだろう。

 あぁ、そうか。ピッケル、そうなのか?精霊が?」



 僕は、白いもやの中にいるはずのアクアウ様に呼びかけた。



「アクアウ様、ありがとうございます。みんなを助けてくれて。

 みんなに姿を見せたり、声を聞かせることをお願いできますか?」



 目の前に、スイカくらいの大きさのキラキラ光る水の塊が現れた。水の塊は、可愛らしい小さな女の子の姿になった。神々しくキラキラしながら、水をまとってフワフワと浮いている。

 やはり、全裸だ。目のやり場に困る。



「別にいいわよ。さぁ、どうぞ。見えたかしら?私の美しい姿が!ふふふ」



 ソニレテ団長が驚いている。



「こ、これが精霊。な、なんて美しいんだ!ピッケル、本当に精霊と話せるんだな。。。」



 うっとりと一瞬呆けたソニレテ団長が、ハッと気づいて、かしこまる。

 ソニレテ団長がアクアウ様にひれ伏すと、全員がそれに倣った。

 ソニレテ団長が神妙な面持ちで、アクアウ様に尋ねる。



「水と風の精霊アクアウ様、お助けいただきありがとうございます。

 プリンパル国騎士団長ソニレテと申します。

 最近の度重なる地震やダヨダヨ川の水位の減少などの調べに参りました。どうか非力で無知な人類に、お知恵を授けください」



 アクアウ様がソニレテ団長に答えた。



「うふふ。いいわ。教えてあげる!

 まず、川の水位の減少の理由は、確かにこの地震ね。地震が地中に断層をつくり、地表を流れる水量が地下に分散してしまったのよ」



 ソニレテ団長が続ける。



「お知恵をありがとうございます。

地震の原因については何かご存知でしょうか?」



 アクアウ様がめんどくさそうに話す。



「わー、人類というのは、この世界パナードのこと、何にも知らないんだね。どこから話をしたらいいのかな。

 まぁ、知らないからドラゴンが眠る場所に住んでいるんだろうけど

 そもそも。。。」



 それからアクアウ様は、人類が知らないドラゴンのこと、隕石のこと、魔法のことをたくさん教えてくれた。



「という訳で、この土地に眠る土のドラゴン、タイトスは、いつ出てきてもおかしくないわ。

 ドラゴンが目覚めることで、人類の住む土地が無くなる。

 ドラゴンの魔力が魔獣を引き寄せるの。この土地にも魔力が満ちるようになる。

 今から5年から10年の間に魔獣の侵攻が始まる。

 ピッケルに与えられた試練は、ドラゴンが起こす天変地異や魔獣の侵攻に対処することよ。

 ピッケルが滅亡する手前の人類の巻き添えになったとも言えるけど」



 ソニレテ団長が汗をかきながらお礼を言った。



「歴史を知らない浅はかな人類に、尊い知恵をお授けくださり、ありがとうございます。

 ですが、人類が生き延びるための何か手立てはないのでしょうか?」



 アクアウ様が困りながら言った。



「んーー!!そうだなぁ。人類が助かる手立てなんてないね。

 この星の命運にくらべたら、人類の存在って、あまりに短命で小さいのね。

 でも、どんなに小さな存在でも、懸命に生きようとする尊さは、等しいわ」



「なにか、無力な人類に戦う糧をお授けください」



 「ソニレテといったわね。いい男。私、あなたが気に入ったわ」



 アクアウ様とソニレテ団長が見つめあう。ふわりとアクアウ様がソニレテ団長の頬に近づいて、チュッと口づけをする。

 ソニレテ団長の頬が赤く染まって見える。



「そ、そんな恐れ多いことです」



 「ふふふ。赤くなっちゃって、ソニレテって、可愛いわ。

 身を投げ出して仲間を守る姿が凛々しかった。弱いのが残念だけど。

 そうね。毎回、炎のワンちゃんに焼かれるのを助けるのも面倒だから、水の魔法を授けるわね。自衛してよね。

 川の水流も少し増やしておいてあげるわ。

 私は気前がいいの。今回だけよ。

 諦めずに行動することね。うまくいく時は、すんなりうまくいくものよ。

 あら、ちょっと、しゃべりすぎたかしら?」



 ソニレテ団長がひれ伏しながらお礼をする。



「人類にとって、貴重な知恵をありがとうございます。

 お返しに何か、人類にできることはありますか?」



 叡智を授けたアクアウ様は、笑って言った。



「知っていることを話しただけよ。お礼なんていらないわ。それに人類ができることで、私が欲しいものなんて一つもないもの。気持ちだけ受け取っておくわ。

 そうね。私、ソニレテを好きになったわ。

 じゃあ、私の中にあなたの種をもらおうかしら。私が人との子を授かるか、試してみる?

 ふふふ」


 僕の隣でカリンが興奮してもじもじしている。子供には刺激が強すぎる。

 ソニレテ団長の首筋が真っ赤に変わる。


「いや、その。。。もったいないことです。なんなりと」


 ぷーっとアクアウ様がほっぺたを膨らませる。


「もったいない?そんなに気が利かないことしかいえないの?」


 ソニレテ団長が顔を上げて、アウアウ様を見つめる。


「私もあなたが好きです」


 アウアウ様が恥ずかしそうにはにかんで、ソニレテ団長にスーッと近づく。アクアウ様の白い肌が、少しだけ桜色に染まっている。

 それから、ソニレテ団長の髭が生えた頬に両手を添えて、愛おしそうにチュッと口付けした。

 隣のカリンは、興奮しすぎて放心状態だ。


「うふふ。よくできました。

 私がソニレテを人類最強の男にしてあげる。

 試練を乗り越えるのよ。

 ピッケルも元気でね。ばいばーい」

 

 顔を上げて、ばいばいと力なく手を振った。

 元気でやっていけるだろうか。

 

 すごい情報だった。

 今日から何もかもが変わってしまうほどに。人類にとって、新たな歴史の始まりとも言える。



 精霊から試練を与えられることが公開された僕の人生も、激変してしまうだろう。

 アクアウ様がビュウビュウと小さな竜巻を起こすと、白いもやが晴れた。



 そして、晴れた夕暮れの中、もうアクアウ様はいなかった。


 そこには、人類が初めて目にする、倒された水浸しの炎犬が横たわっている。

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