大抜擢の理由
明後日。
王都カラメルから調査団が到着した。
総勢15人。思ったより大がかりだ。さっそく大広間で会議が始まった。
茶色いヒゲの偉丈夫がエタンに挨拶をした。
「パスカル村調査団団長ソニレテです。
エタン殿の詳細な報告書のおかげで、即座に調査団を結成、派遣することができました。感謝します。
キキリの香りで心が落ち着きますな。
お、これはこれは、ゾゾ・ミショル老師、ご健在でしたか!」
威厳のオーラが凄すぎる曽祖母、100歳を超える魔法使いのゾゾ長老がゆっくりと部屋に入ってきた。黒いローブには色とりどりのクリスタルが縫い付けられている。
伝統学派の魔法書に書いてある定説に異議を唱えて、ククル魔法院を追放された変わり者。
魔草を使う魔法は全て草木の魔法だというのが、主張だったらしい。
若い時は記録上唯一のSS5の魔法使いとして隣国にも名前が轟いていたそうだ。無詠唱で魔法が使えるらしい。
今は、故郷のパスカル村で隠居しながら、独自の研究を続けている。
敬礼するソニレテ団長と向かい合って、所どころ抜けた歯を見せながら、豪快に笑った。
「かっかっか。おぉ、ソニレテか。逃げ足の早いイタズラ小僧が大きくなったものじゃ。わざわざ来てもらって、悪いな。
パスカル村は、もうダメじゃ。川が干上がれば、人は住めなくなる。これも自然の摂理。非力な人類になす術などない」
パンセナが祖母でもあるゾゾ長老を制止する。
「ゾゾ長老、せっかく来てもらったのに、何も希望のないことを言っては。何かできることを考えましょう」
「ふむ。希望か。そうじゃな。それについて話さねばならぬな」
ソニレテ団長、エタン、パンセナ、ゾゾ長老、そして、僕も円卓に座る。
いや、僕だけ場違いすぎてそわそわする。何もできない子供が1人紛れ込んでいる。
ゾゾ長老が威厳があふれる目つきで、皆を見渡して言った。
「ソニレテ、よく来てくれた。
わしが知る限りの希望を話そう。
川を遡って、山を登り、雲と同じくらいの高さの場所に、開けた草原とダヨダヨ湖がある。そこにはダヨダヨ川の水源の泉がある。
そこには水と風の精霊アクアウ様がいるという言い伝えがある。
誰か、精霊と話せるものが行って、知恵をもらってこれたら、解決策が見つかるかもしれん」
ソニレテ団長が困った顔をした。
「ゾゾ老師、お言葉ですが、精霊と話せるものなど、聞いたことがありません。
それどころか精霊を見たものもいない。もっと、何か地に足がついた案をかんがえましょう。おとぎ話に付き合っている時ではないのです」
ゾゾ長老が大きな声で笑った。
「かっかっか!ソニレテよ。頭が堅いのう。ここにおるんじゃよ。精霊と話せるものが。そうじゃろ?ピッケルよ」
「「「え???」」」
皆が一様に驚いて、僕を見る。これはもう全てを隠してはおけない雰囲気。。。
エタンが不思議そうに言った。
「ピッケルは、精霊と話せる人を知っているのか?」
「あ、いや、その?え?でも、ゾゾ長老、なんで?そのことを知っているの?誰にも話してないのに!」
「かっかっか!知っているさ。
ピッケルが精霊と話せるとしか考えられんじゃろ。
そうでなけば説明できない。
当時9歳で死の森に入り、何匹もの炎犬に追いかけられながら、カリンを救出して、不思議な草舟に乗って川を飛び越えて帰ってくることなど、自力では不可能じゃ。わしでもカリファでも絶対にできないことなんじゃ」
「「「え???」」」
また、全員が僕を見る。エタンが頭を抱えている。
「ピッケル、本当なのか?精霊を見たり、話をできるなんて。そういえば3歳くらいのころ、不思議なものがたくさん見えるとか言っていたが。。。」
「えっと。。。黙っていてごめんなさい。
いつもじゃないんだ。精霊は、気まぐれというか。。。
3歳くらいの時には、毎日精霊と目が合ったんだけど、今は、どうしても困った時くらい。
1年前、死の森で草木と風の精霊ポッコロ様に助けられてから、精霊には会ってないんだ」
精霊が見えたり、話ができるだけで、この騒ぎだ。転生のことや女神様の加護があることは、まだ話さない方がいい。ゾゾ長老には、何もかも見透かされていそうな怖さがあるけど。
ゾゾ長老がギロリと目を光らせて、ニヤリと笑う。
「やっぱりな。ピッケルは、絶対に精霊が見えると思っておったよ。草木と風の精霊ポッコロ様か。パスカル村の守り神様じゃないか。
しかし、なんでピッケルだけが特別なんじゃろうか。まぁ、いい。それはそれとして。。。
ソニレテよ。どうせ死の森から帰還したピッケルとカリンがどれほどの実力かも、今回の調査項目に入っているんじゃろ?」
ソニレテ団長が頭をポリポリとかいた。
「参りましたな。国王から追加された調査項目は、口外できません。
しかし、ゾゾ老師には、全てお見通しですな。いやはや。
では、私を含めた調査団数人とピッケルとカリンで、山に登り、水と風の精霊アクアウ様を探し、助言を求める、というのはどうでしょうか?」
パンセナがガタンと椅子を倒しながら、飛び上がるように立って言った。
「私も!私もいきます。まだ2人の魔法は未熟です!ピッケルなんてまだ10歳になったばかりですし」
「かっかっか。パンセナ、ダメじゃ。過保護じゃのう。可愛い子供には、旅をさせよ。
山の上とはいえ、パスカル村側では魔獣なんか出ないわい。
それにプリンパル国騎士団長にして、最強の剣士ソニレテが一緒なら大丈夫じゃよ」
ゾゾ長老には逆らえないパンセナが、恨めしそうにしぶしぶと席を直して座る。
エタンが重々しく口を開いた。
「ソニレテ団長、ピッケルとカリンをよろしくお願いします。
地震は今日も続いています。事態は、急を要するかもしれません。
それに魔獣への警戒をいつもに増してお願いします」
「承知した。このプリンパル国騎士団長の名にかけて、ピッケルとカリンをお守りしましょう。
今日は、補給の準備をしっかりして、明日の早朝に出発します」
大変なことになった。早くカリンに知らせないと。




