賢王パピペコがアレイオスに
「うぅ、余は、王様の仕事もう嫌だもん!アシュリ、代わってよぉ」
幼子のように駄々をこねている小さな女の子のダークエルフが賢王パピペコだ。
パピペコは、エタンとの会議のためにアレイオスに来訪している。
あたしは、子守り。。。じゃなかった、お世話をさせていただいている。
「まぁまぁ、陛下。そんなに嫌がると、国民が心配しますよ」
1万年生きているとは思えない幼さ。ダークエルフは、特に成長が遅い種族らしい。
「でも、王様の仕事ってつまらないし、難しいんだよ。
最初は、わざとらしく偉そうにするのが楽しかったんだけどさ。
ウォッホンってね。へへへ」
「そうそう。
とっても似合ってましたよ。ちっちゃくて可愛くて。
うふふふ」
「う~ん、でも、もう飽きた!
エタンに騙されたんだもん!
あの甘くて美味しいお菓子に釣られてしまった、余も余だけど。
ねぇ、コッペリームもうないの?」
「コッペリームは、今日はもう食べましたよ。
ほら、陛下。このティアラ、かぶってみない?」
「えっ、それ可愛い!」
「ほらまぁ!お似合いです!」
「わー、やっぱり冠ってカッコいいし可愛いな!」
乗ってきた。このまま乗せていこう。
「その勢いです!
その可愛くてカッコいい王冠で国を守ろう!」
「うん、よーし、やるぞ~!」
パピペコが小さな手で握りこぶしを作ってニコニコしながら勢いよく右手を上に挙げる。
「おー!」
やーやーわーわー言いながら可愛いパピペコと遊ぶ。
エタンがニコニコしながらやってきた。
「お!ずいぶん乗り気ですね。
流石賢王。やっぱり王様の器です」
「あー!またそうやって余をからかって!」
「いえいえ、本当です。
歴史に名を残す王様に相応しいです」
「てへへへ。そうかな」
賢王とはエタンがつけたイメージ戦略らしい。実際賢いのは間違いないけど、賢王という名前から誰もこんな幼い女の子だと思わないだろう。
「どうだ、エタンが余にブブンパで勝ったら、もう少し王様をしてやるのだ!
余が勝ったら、エタンが王様をやるんだもん!」
「そんな国の未来を決めるのに、ブブンパを使うなんて。
王様は、パピペコがいいのです。
私は、宰相が似合います。
パピペコは、偉そうだから王様にピッタリです」
「いやじゃ!パピペコが王様だから、余が決めるんだもん!」
「まーたそんな屁理屈を」
「もんもーーん!エタンの意地悪!」
「どちらにせよ、ブブンパでは、私が勝ちます。
ブブンパを考案したのはパピペコだけど、勝負は私の方が上です」
パピペコは、ダークエルフの賢王としての傍ら、ゲームの才能も持っていた。
気の遠くなるくらい昔、彼女は国と国の戦いをボードゲームとして再現するアイデアを思いた。
そのゲームは、戦略と知恵が重要でありながら、短時間で楽しめるのが特徴だった。
ブブンパは、パピペコの創造性と戦略の結晶であり、エキサイティングなゲームとして永く人々に愛されて、今にいたっている。
「エタン、じゃあブブンパの駒を犬や猫にしてやってみるのだ!」
いや、それは無理がある。
エタンが正論で生真面目に返す。
「犬や猫?でも彼らはすぐにどこかに行ってしまうし、駒には適しませんよ」
「でも、もふもふ可愛い犬や猫の駒で遊ぶのって楽しそうなんだもん。
余が魔法で精神操作すれば、じっとしていてくれるのだ」
「確かに可愛いかもしれませんが、駒として使うのはちょっと…
精神操作で理不尽な動作を無理強いするのは、よくありませんよ。
犬や猫も望まないでしょう。
ブブンパには、ちゃんとした駒が必要です」
「うーん、じゃあブブンパの駒は何にしようかな…」
「ブブンパは、パピペコが考えた世界最高のゲームですよ。普通でいいのです。いつものが最高です。公式戦用の駒と盤をご用意します」
「嫌じゃ嫌じゃ!普通は、嫌なんだもん!エタンがズルしていつも勝つんだもん!」
「失礼な!私は、愛するブブンパでズルなどしませんよ」
「じゃあ、熊にしよう!」
「大きいし、危険すぎます」
「鳥!」
「鳥は、飛んでいきます」
「魚!」
エタンの真面目な意見にもかかわらず、パピペコがまだまだ駄々をこねている。
エタンが頭を抱えながら、パピペコのわがままに付き合っている。
「じゃあ、カタツムリにする!王様の決定なのだ!」
「やれやれ」
「強そうなカタツムリを探すのだ!」
いや、駒にするカタツムリの強さは、ブブンパの勝敗と関係ないと思うけど。
エタンは、パピペコの頑固さに困りながらも、パピペコと一緒に庭に出て、カタツムリを探し始めた。
いつもその辺にいるのに、いざ見つけようとするとなかなか見つからない。
「アシュリも手伝うのだ!カタツムリ!」
私も手伝ってカタツムリを探し回る。子供の頃は可愛かったカタツムリも、今になってみるとちょっと気持ち悪い。
カタツムリの生態に関する古文書でも調べてみるか。
春の陽気あふれる日差しの下で庭で探し回るエタンとパピペコを横目に、図書室の図鑑を調べる。
なになに? 基本的には夜行性なので、明るい時間は隠れているのか。
庭に戻るとパピペコが不機嫌になっていた。
「カタツムリ、全然いないのだ!」
「陛下、カタツムリは、地下水路にいそうです」
「おお!そうか。よし、行こう!」
地下水路に向かうと、カタツムリが何匹もいた。
「おー!流石、アシュリ!」
パピペコは大喜びでカタツムリを選び始めた。念願のカタツムリを見つけ出したら、今度は工作の時間だ。
殻に色を塗ったり、飾りをつけて、ブブンパの駒として準備した。
パピペコは、カタツムリの駒を見て、大喜びだ。
「わーい、カタツムリの駒、可愛い!エタン、アシュリ、ありがとう!カタツムリ探し、楽しかったのだ!」
パピペコがエタンに輝くような笑顔を向けた。
そして、いよいよカタツムリの駒で、ブブンパを始めた。
色とりどりのカタツムリが盤上に並ぶ光景は、壮観だ。
カタツムリの駒は、気がつくと動いて、思わぬ場所にいってしまう。
それでもエタンとパピペコは、真剣にゲームを進めた。
パピペコは、自分の駒にしたカタツムリのそれぞれの個性を想像しながら動きを予想して、戦略を練っている。
個体差がかなりあるが、カタツムリの駒は、ゆっくりとではあるが確実に動く。もうめちゃくちゃだ。
「エタン、見て!余のカタツムリのコマがこんな場所に!」
「あ!え?!いつのまに!
そ、そこはダメです!形勢が逆転してしまう!」
「可愛いなぁ!余のカタツムリちゃん。賢いねぇ。いいところに行ったねぇ。
ちょっと興奮してきた!」
「私の美しい計画が台無しです!なんてことでしょう!」
カタツムリのコマはゆっくりと動きながら、駒同士の戦いを繰り広げます。エタンとパピペコは、カタツムリのコマの動きに合わせて戦略を練り、ギャーギャー言いながら楽しい時間を過ごしている。
最終的には、カタツムリのゆっくりとした動きが、ゲームに独特の魅力を加え、エタンとパピペコはカタツムリのブブンパを楽しんでいた。
実際、ブブンパで無敵のエタンと互角に戦うパピペコの実力は、相当なものだ。流石ブブンパの考案者だ。
普通、エタンの前では、どんな手練れも瞬殺されてしまうのだから。
「話は変わるけど、亡くなったザーシル王の碑を作る話はどうなったのだ?
凡庸な王だったけど、実は生真面目で堅実な良き王だったよ。もっと称えられてもいいよね?」
「確かにその通りです、陛下。
ザーシル王は、王としてはあまり目立った業績を残しませんでしたが、王国のために尽力していたように思います」
「確かにザーシル王は、志や野望を持たなかった。
でも、王様は歴史に残る戦の勝利や大規模な事業だけじゃなくて、平穏な日々を続けたことでも評価されるべきと、余は思うよ」
「その通りです。
私は、ザーシル王のおかげでアレイオスの総督になれました。
それにザーシル王がガラガラを討ち取ったことで、戦争による被害や死者を最小限に抑えることができたのです」
パピペコとエタンは、ザーシル王の死を悼みながらも、彼の生前の姿勢を称えた。
「そして、同じく敗者として死んだガラガラも余は、讃えたい思うのだ。
敗者なくして歴史が進むことはないんだよ」
「そうですね、ガラガラもまた統一国家の歴史の一部であり、その役割は決して小さくありませんでした。蛮勇王として自国では英雄でもありますし」
「ガラガラの敗北があったからこそ、歴史が前に進んだ。
どんなに長く生きても余もガラガラもこの星のカケラにすぎないもんね」
「その通りです。ガラガラの死もまた星の意志なのです」
「ガラガラの功績も忘れられないようにしないとね」
「そうですね。ザーシル王と蛮勇王ガラガラを並べて記念碑を建設する予定です。
というわけで。。。
はい、ブブンパ」
エタンがパピペコを詰んだ。
「あ!えええ?!
なんでエタンのカタツムリがそんな場所に!
いやいや、余のカタツムリがちゃーんとここを守って、、、いない!どこにいった?!
あ!お前!さっきはいいところにいたのに!裏切ったな!
もぉ!しっかり詰んでるじゃないか!
そんなのズルだもん!インチキ!」
「文句は、カタツムリに言ってください。
カタツムリの気持ちを読むのが大変でした。
しかし、私の勝ちでしたね。
パピペコの王位は守られましたよ。よかった。価値ある勝利です」
恐るべしエタン。
「嫌だもん!エタンのケチ!意地悪!
今度は、ダンゴムシを駒にしてやるんだもん!」
「またそんな御無体な。
頑張ったのでおやつにしましょう。
新作コッペリームのマンゴー味が国王に献上されたみたいですよ」
「なんと!それは王として味を確かめる必要があるのだ。絶対今すぐ食べるんだもん!」
そこに慌てた様子でメルロがやってきた。
「エタン、アシュリ、大変!」
総督府の前の広場に行くと、そこに見たことがない巨大な鳥がいた。
そして、その巨人な鳥に背に乗ったピッケルとカリンがのっている!
え?!
「ただいま、アシュリ」
「ピッケル!」
ピッケルが巨大な鳥の背中から降りてきた。
私は、思わず、ピッケルに抱きついた。
「ピッケル!おかえり」
「約束通り、無事に帰ってきたよ」
「遅いよ!ずっと待ってた」
「ごめんね。僕もアシュリに会いたかった」
横から少しヤキモチを焼いたカリンが笑いながら言った。
「あたしもいるんだけどー?」
あははは。
カリンとも強く抱きしめ合う。
離れながらキズナを強めたのは、ピッケルとだけじゃない。カリンとも筆談で毎日話していた。
一体どうしてこんな嬉しいことがあるんだろう。
私のピッケル。
こんなに逞しくなって。
カリンも成長して、強くなっているのが分かる。パスカル村での日々が懐かしい。
素直になれなかったアレイオスでの見送りの日を思い出す。
あの時、未熟だったのは、私もだった。
話したいことがたくさんある。
でも、とにかく、今はただただ嬉しい。よかった。本当に。




