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王都のアシュリ

「アシュリ!ボーっとしてないで、こっちを手伝って!重くて腰が痛いわ。

 なにそれ、ゾゾ長老の手紙?」

 

 10歳年上の天才魔法使い、カリファがゾゾ長老からの手紙を私の取り上げる。



「あぁ、カリファ、ごめん」



「アシュリの弟子たちはやんちゃすぎるわ。

 死の森から生還するなんて、精霊の仕業でない限り不可能ね」



 カリファがパラリと手紙を私の手に返す。

 カリファのつける花の香水がふわりと香る。


 ゾゾ長老からの手紙を読んで、思いふけってしまった。

 内容もそうだが、パスカル村から帰って、もう2年も経つのか。私ももう15歳になる。年上ばかりのここではぶっちぎりの最年少だが。

 手紙には草木と風の精霊ポッコロ様からもたらされたとされる青々とした細長い葉が添えられている。パッと見るとなんの変哲もない緑の稲の葉のようだ。でも、枯れたり萎れたりすることはないらしい。

 それにこの秘めた魔力。ゾゾ派と研究している古代の魔法の再現に使えるかもしれない。

 ククル魔法院に保管されている古文書の草木の魔法をあれこれ試してみよう。

 新しい素材の取り扱いは、慎重に行おう。安全が第一だ。


「だから早く!手を動かす!

 横暴なガナシェ伯の理不尽な言いがかりのせいで私たちが研究室に移動しないといけないなんて。腹立たしいわ」



「それは、本当にそうね。ゾゾ派の後ろ盾が王都にあまりないのをいいことに、貴族たちはやりたい放題だわ。これでは魔法の基礎研究が他国に遅れているのも当たり前よ」



「カリファ、アシュリ、議論はいいから、引越し作業を進めてちょうだい!」



 カリファの同級生メルロは、働き者で真面目な研究者だ。カリファばかり目立っているが、メルロも優秀な魔法使いだ。



「メルロ、ありがとう。あなたの働きぶりに見習うことにするわ」



「そうそう、みんなでやれば、早く片付きます。

 お父様の計らいがなければ、ゾゾ派の研究室がククル魔法院からなくなるところでした。

 ずっと使われていないボロ屋の研究室でも、ないよりましです」


 クロロは、パスカル村のエタンの親友だ。ゾゾ派の後ろ盾がない中で、行政大臣という立場から助け船を出してくれる。エタンと違って世渡り上手で人たらしのクロロは、王都での出世争いの中

、涼しい顔で優位に立っている。


 そして、かつてゾゾ長老が使っていたが、魔法の事故のあと放置されていた荒れ放題の旧研究所を「清掃し、修繕すること」そんな目的を持たせることで、クロロがゾゾ派の居場所を作ってくれたのだ。


 しかし、10人以上がゾゾ派を離れて他の派閥に行ってしまい、私たち3人と、別用で不在にしているゾゾ派研究室室長のポンチョだけがゾゾ派に残った。研究室がボロ屋敷に移るくらいで離れるようなら、離れて行けばいい。


 そうは言ってもポンチョが戻ってきたら、さぞ驚くだろう。やれやれ。

 策士のガナシェ伯のことだ。邪魔なポンチョをわざわざ不在にしたのも意図を感じる。


 カリファが気持ちを切り替えるように大袈裟にニカっと笑う。


「クロロのおかげで、今より広い研究室になったのだからな!それを喜ぶことにしよう!クロロにお礼をしに行かないとな」


「カリファがくれば、お父様も喜びます。いつもカリファのような天才が、不勉強な貴族のせいで不遇な立場なのが許せないと言っています」


 王都カラメルでも一際目を引く、白い大理石の大きな柱が立ち並ぶ宮殿のようなククル魔法院からゾゾ派の研究室が引っ越すことになったのは、パスカル村から持ち込まれた白い花が原因だった。


 カリンが死の森から持ち帰った白い花の魔草は、発見された場所パスカル村と発見者カリンからペカリと名付けられた。

 そして、新種としてククル魔法院の研究室に送られてきた。

 未踏の地域から、まれに持ち込まれる魔法の植物は、大抵、人類に害をなすことが多い。

 厳重に密閉されて送られて、厳重な管理の元、さまざまな検査、検証がされる。

 薬草キキリや火炎草ファイのように、人類に有用で、かつ、管理可能な魔草は、珍しい部類に入る。まだ、水の攻撃魔法や防御魔法を発動できる魔草などは、見つかっていない。

 数年に一度、たまたま持ち込まれる新種の魔草を研究する価値は大いにある。

 利権になる可能性があるので、新種の検査は、貴族の息がかかった研究者が独占して行う。その筆頭は、ガナシェ伯だ。

 今回も利権に目がない強欲なガナシェ伯の研究チームが申し出て、強引にペカリの検査を行った。


 だが、しかし、検査の結果、ペカリは、お金になるようなものではなかった。お金になるどころか、どうやら人に寄生してゾンビ化させる魔草だったらしい。

 実際、研究者の何人かがゾンビになる事故が起きて、大変な騒ぎだった。

 ペカリは厳重に封印されて保管されることになった。

 どうせならガナシェ伯がゾンビになればよかった、とまでは思わないが。

 

 その事故でガナシェ伯の息子を含む魔法使いが数人亡くなることになった。

 事故による死亡事故は、本当に悲しい。どんなに慎重に行っても起こる。私の両親も。。。

 ガナシェ伯は、本当に最大限の慎重さを厳重に指示できていたのだろうか?

 

 ガナシェ伯は、息子を失ったその腹いせに、普段からガナシェ伯の研究の間違いを指摘することが多いゾゾ派の研究室を取り上げて、ペカリの事故で死んだ研究者の慰霊碑を置くとか言い出したのだ。

 研究者の事故死は痛ましいが、息子の慰霊碑を公共の場所に作るなんて、横暴すぎる。

 ところが、他に亡くなったのもまた貴族の息子だったと言うこともあり、すんなり慰霊碑の設置が許可されてしまったというわけだ。酷すぎる。

 とはいえ、死亡事故の碑を作り、反省を後世に伝えるのは必要なことだ。


 ククル魔法院の広大な敷地の外れにお化け屋敷のような、全体に蔦の巻き付く古びた館がある。

 晴天だというのに、ククル魔法院の日陰になっていて、薄暗さがある。


「いつも景色の一部のようにみていたボロ屋敷を研究室として使うことになるなんて。。。」


「新月の夜は、お化けがでるらしいですよ?ウヒヒヒ」


「誰もしらないゾゾ長老の隠し部屋があるって噂もあるわね」


「男女が夜な夜な忍び込んで、いやらしいことをしてるって話も聞くわ」


「それ聞いたことある。エッチなことをしていたら、骸骨のお化けに襲われて、裸で飛び出したって話でしょう?」


「試しに女の子同士でエッチなことしてみる?アシュリの胸は揉み応えないけど、メルロのおっぱいなら楽しそう。。。それ!」


 カリファがメルロを屋敷の壁に押し付けて、おっぱいとお尻を服の上からワシワシ、コリコリと揉みしだく。


「きゃあ!変態!や、やめて!力が抜ける。こんな場所で、なんてことを!」



「うひひ!たまらんのぅ!尻も具合がいいわい!こんな場所じゃなかったら、もっとエッチなことをしちゃうかもよ?」


 悪ふざけで、カリファがメルロの耳を舐め回す。


「いやぁあ!らめぇ」


 だめだ。カリファとメルロに変なスイッチが入る前に止めないと。


「ちょっとカリファ、何やってんのよ!さっさと掃除して、修繕箇所を調べるわよ」


「なによ、アシュリ。良いところだったのに。妬いてんの?」


 はぁ。

 目つきの怪しいカリファが絡んでくる。


「く、くせになりそう」


 メルロがへなへなと地面にしゃがみ込む。

 やれやれだ。


 玄関の扉は錆びついて鍵も腐っている。ゾゾ長老が集めた頭蓋骨の骨の残骸が散らばっている。

 どうやって入るんだ?



「こっち、こっち!壁が破れた隙間があるよ!」



 カリファが手招きする方に行ってみると、大きく壁が壊れた場所がある。

 中には散乱したゴミが散らばっている。

 夜な夜な男女の密会場所になっていたと言うのも分かる気がする。

 カリファがドン引きしてる私とメルロに発破をかける。



「さぁて、やりますか!お掃除、お掃除!」


「す、少しずつやれば、3人でもなんとかなります。さ、アシュリ、やりましょ」



 そうだ、地道にコツコツ。それしかない。

 ピッケルもカリンも死の森から生還できてよかった。才能だけではなく、あの2人には努力を続ける力がある。

 私も次に会うときに胸を張れるように、日々努力しよう。

 まずは、研究所の整備からだ。



「カリファ、メルロ、何からはじめようか?」

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