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異世界転生《第一章》

 あぁ、幸せな人生だったな。

 頑張っても頑張ってもダメだと思うたびに、また救われた、また助けられたと思うことばかり。

 努力したから、諦めなかったから、当たり前の幸運だなんてとても思えない。僕以上に努力を重ねて、結果に繋がらなかった人がどれほどいただろう。



 たまたまの幸運といえば、そうかもしれない。



 どんなにピンチになっても、最後にはひっくり返して、うまくいく。流石に毎回、常にではないけど。

 でも、一年も一緒に働けば、同僚から羨ましがられるくらいに不自然な幸運が起こった。付けられたあだ名は、「ラッキーさん」。最初は、お前ってホントついてるな!と笑って済まされても、だんだん噂が広がって、霊感じみてくる。決算前に社長がわざわざ拝みに来たこともある。恐れ多いことに。



 さっきまで夜桜が満開の公園の森の中にいたはずなのに、突然、上も下も真っ白なところに来ていた。

 服装は、スーツのまま。

 ぼんやりと真っ白な世界の天を仰ぎながら、達観したように呟いた。



「ついに死んだな。これは」



 平凡だけど幸運に感謝することの多い人生だったな。お前も別に特別じゃないとか、もっと幸運な人がいくらでもいるとか、幸運ついでに戦争の被害者を助けてみろよとか、幸運とかいう割に貧乏だとか、インチキだとか言う人もいた。

 確かにそうだ。僕もうまく説明できない。

 でも、やっぱり、平凡でいい。それだけでも幸運だと心の底から思える。



 そうだ。地元の企業で33歳まで真面目に働いて、死んだ両親が生前に会社経営の失敗で作った借金を返しながらでも、感じることができる幸福がある。

 都心から1時半の急行が止まらない駅から徒歩20分、雨漏りのする木造築50年、和式便所の6畳風呂無しの部屋で、一人暮らしをしていても。

 もちろん、彼女もいない。



 ネズミが配線をかじって、電気が三日三晩使えない時もあったな。

 やっと配線が直った時、電気が使える幸せと感謝を心の底から感じた。



 生活費を削ってコツコツと毎月10万円から20万円、返済を続けて10年。親の作った借金もやっと半分返すことができた。そんなところだったのに。



 出来心、かな。



死ぬ直前のことを振り返る。

仕事の帰り道、夜空から光り輝く物体が広い森のある公園に落ちたのを見かけて、なんだかワクワクしたんだ。

 何か新しいこと、素晴らしいことが始まるんじゃないかってさ。

 桜が咲き乱れる公園では、花見の宴会が至る所で催されて、酒や肉の匂いが立ち込めていた。

 楽しそうな人たちを横目に森の奥に進んでいくと、イチャイチャと乱れる半裸のカップルがいたな。

 本能に忠実な若い男女は、不思議な光にも僕にも全く気づかずに、欲望を貪っていた。


「ああん!はぁはぁ!もっと、もっとシテ!耳は弱いの。やぁだぁ、焦らさないでよぉ」


 チュッチュと瑞々しくキスするエッチで淫らな女の子の声が耳に残っている。


 いいなぁ。幸せな人たち。

でも、本能より好奇心が優っていた。いや、33才にして童貞の僕には眩しすぎて、いたたまれないといった方が正直だ。


 少し森の奥に進むと、不思議な金色の液体が宙に浮かんでいた。

 

 もっと警戒するべきだったし、慎重になるべきだったよな。


 童心にかえったように、好奇心に駆られていた。

 この世のものではないようにキラキラと金色に輝く液体が、ふわふわと。

 

 よせば良かった。今になって思っても遅い。


 不用心に手を差し伸べると、その液体が手を包み込み、不思議な感触で、あったかくて、気持ちがよくて。。。うっとりしてしまった。


 そこまでは良かった。。。いや、もうすでにおかしかった。


 それからいきなり、全身にビリビリと感電したような衝撃が走って、意識が途絶えた。



 そして、気がついたら、この上も下も真っ白な場所にきている。



「ユウマ、こちらへ」



 目の前に、これは女神だなと、本能的にわかる全裸の女性が目の前に現れた。

 真っ白な世界で、なお輝いている。

 ほんのりピンクの乳白色をした豊満で美しい裸体を惜しみなく露わにして。

 何も隠さない白く透けたヴェールをひらひらさせてフワフワと浮いている。

 エロさより、美しさが勝る。でも。。。



 全能とは、官能も含んでいたのか!!!巨乳!!!

 

 眼福という言葉しか見つからない。気がつくと涙が出てきた。

 

 はっ!心とか見透かされそうなのに、こんな煩悩をひけらかしてしまった。



 「私は、あなたの世界の管理者です。皆がそうするように、私を女神と呼びたいなら、それもいいでしょう。 

 生まれつき与えられた欲情を恥じる必要はありません。

 あなたは、今日死ぬべき人ではありませんでした。なぜかあなたは、因果律のちょっとした不具合を引き寄せてしまったようです」

 

 全裸を堂々と拝ませ発情させながら、僕の戸惑いや感動などぶった斬るように要件を話す女神様。

 スーツを着ている僕に対して、全裸にして自身は一切の恥じらいもない。堂々と遥かなる高みからお言葉をのたまう。

 全裸からのドS。ふ、踏みつけてくれたりするんだろうか?



 今何を考えたんだ?!



 生まれて初めて持つドMな欲求に戸惑うしかない。いや、女神様はそれさえも受け止めてくれるというのか。

 むしろ、死んだことへの感傷や怒りを無視して、都合よく話を聞かせるために、不自然な非加虐趣味を付与されている気もする。人の尊厳もへったくれもない、厳しさ。それも管理者というものがもつ性質かもしれない。



 いやいや、今はそんなことより、やっぱり死んだのね、僕は。



「そうです。

 あなたは、死にました。

 正体不明の金色の液体に触れたことによって、雷のような高圧のエネルギーによって無傷のまま死んだのです。

 原因については、調査中です。

 私の管理下の世界で原因不明なことなど、他に例がありません。何か大きな危機の兆しかもしれません。

 あなたは、元々幸運に恵まれていましたが、死ぬ瞬間に、さらに正体不明の異常な幸運が付与されました」



 女神さまでも正体不明の幸運!?



「私にもお手上げです。正体と原因解明のためにも、あなたには、私が作った別の世界を旅してもらいます。

 各地に眠っているドラゴンを使って実験と検証してみましょう。

 あなたの幸運を試すために、あえて厳しい環境を選びました。これからあなたが転生する星、パナードでは、隕石とドラゴンの目覚めによって人類が滅亡することが決まっています」



 おー!こ、これは、異世界転生ではないか!滅亡の最中!?大丈夫かな。。。

 でも、さぞチートな能力が授けられるんだろう。アイテムボックスとか?レアなスキルとか?いいぞ、いいぞ!鑑定やステータスが見えるなんて使い古されたもので、全然良い!



「いえ、あなたが期待するような特別な能力はありません。しかし、わずかな加護を与えましょう。

 あなたの幸運に試練と困難を差し向けて、検証します」



 そんなドSな。助けてくれるどころか、滅亡する人類に転生という試練を通告されるなんて。



 でも。。。全裸からのドSな宣告。。。嫌いじゃない。。。



 なぜだ?!



 僕は、どうしてしまったんだ。。。こんなドMな本性があったなんて。

 でも、隕石あり、ドラゴンあり、滅亡が決定している人類。。。設定がドSすぎるけど。。。



「僕は、頑張って生きてきました。元の世界で授かった命に感謝しています。

 何度も挫けそうになっても、真面目に努力を重ねてきました。

 いきなりの死をまだ受け入れられないのが正直なところです。

 でも、僕の不注意で失くしてしまった命を役立てる機会をもらえるなら、やらせてください」



「ユウマ、あなたの幸運については、実験と検証によって必ず解明します。

 それほどに、あなたの体質は、世界の管理者である私の理解をも超えているのです。

 そして、このことで私の管理者としての力が制限され始めています。

 このままでは、私の力が失われてしまう可能性さえあるのです。

 これからあなたが実験と検証のために行くパナードという星は、やっと鉄を使うことができたくらいの文明世界です。産業革命は数100年後。銃器は、まだありません。

 その代わり、わずかな魔法があります。強力な魔獣が支配する世界で、人類は、細々と生きながらえて、今にも死に絶えようとしています。

 しばらくしたら、あなたの身体がパナードに送りだされます。

 いってらっしゃい、ユウマ。全てを力に変えることです。あなたには、試練だけでなく、私の加護があることを忘れないで」



 目の前から女神様が消えていく。きっとここでの説明を終えたと言うことなのだろう。

 無慈悲なドSからの、加護を与える甘やかしの匙加減。



 ううっ!たまらない。



 女神様に心を奪われてしまった。



 もう少し詳しく試練について、教えて欲しかったけど。何か事情などもあるのかもしれない。

 僕は、不思議なことに嬉しかった。女神様が僕を見ていてくれたんだな。

 素晴らしい幸運を授かったとしても、決して驕らず、油断せず。ただ人生に感謝しよう。また、努力を続けよう。



 そうだ。なんて僕は恵まれているんだろう。



 真っ白な世界から、身体が透けるように消えていくのがわかる。きっと次に目に映る世界は、異世界なのだろう。



 できれば、眼福極まりなかった女神様のお姿も脳内、いや、魂に記憶したまま転生したい。いや、する。



 さぁ、行こう。新しい人生に!




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