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白鷺 あおぞらをゆく

作者: 池畑瑠七

よく晴れた秋の 日曜日

車内に流れる 大好きな曲「飛燕」

音楽は ドライブの欠かせない相棒だ 


古い神社を横に見て 

目の前の信号が 赤に変わる


ぐるり 石柱の柵が 取り囲む 鬱蒼とした杉林

まるで道路にのしかかるように

こちらへと深く 影を落とす


社へ続く参道は 赤い鳥居に枠取られ

奥へと薄暗く 延びている

黒々茂る 杉の梢は 空の右半分を 覆ってる


十字路の奥 左手に

古びた家の 赤い屋根

上には 広がる青空と

モクモク湧き出す 羊雲

黄金の色に 縁どられ 青い海原に 浮かんでる


信号の赤い灯火は

眩い空を背負って 仄暗い

心地よく響く歌声に ぼんやり耳を預けつつ

瞳は凝らして しばしの間

青が点るのを じっと待つ


一羽の大きな白い鳥が 

赤屋根の陰から 目の前に

突然 姿を現した


鋭い嘴 細い首

爪先まで全部を真直ぐに すらっと伸ばした白い体

矢印みたいにピンと開いた

大きな翼を広げていた


弓から放たれた 矢のように

滑る様に雲の下を つき進む


ガラス越しに広がる 秋空は

二本の黒い電線が ロープ橋の様に渡されて

上下と真ん中 三面に

スパッと 切り分けられている


白い鳥はその三面を

縫い合わそうとするかのように

斜め下から 上方へ

スーッと 滑らかに 貫いていく


ああそうか、あれは白鷺


彼の行く手に 飛行機雲が

一筋並び伸びて待つ

手前の雲は 風に吹かれ

絵筆でなぞり散らしたように

微かに滲んで 広がっている

けれど先へと辿っていけば

くっきりと潔い 白線だ


二つの軌跡が 浅く遠く静かに 交わって

再び 音もなく 離れていく


何を想って 空を行くのか

きみから此方が 見えたかい


彼は二、三度 悠然と羽ばたくと

更に スピードを上げていき

社の森の向こう側

彼方の空へと 消えて行った


ほんの1-2小節 流れる暇の

吸い込まれる様な一幕だった


信号がいつの間にか 青に変わっていた


後ろの車から 軽いクラクション

我に返って ブレーキを離し

そっと アクセルを踏みこむ


飛燕を聴くと 不思議に甦る


秋晴れ眩しい青空と


真珠色に光る羊雲と


一羽の 真白い 鷺











「飛燕」作詞作曲歌唱:米津玄師氏

曲名を作品中に掲載させて頂きました、御礼申し上げます。


偶然が幾つも重なって起きた、奇跡のような美しい一瞬の光景でした。

写真や絵画のように切り取って、その瞬間の感動と共に文章で残せないかな、どこまで描けるかな伝わるかな…と挑戦してみました。

お読みくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「飛燕」が流れている中のほんの僅かな時間の出来事。 その表現が美しくて。 池畑さんの心の美しさが現れているんだろうな、といつも思います。 文章を綴り始めての日々はいかがですか。 きっと日々…
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