表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

甘い話には罠がある〜俺の奇行は世界を救う〜

作者: 花河相

思いつきで投稿しました。

最後まで読んでくださると幸いです。

 少し冷たい伊吹、暖かい日差しを肌で感じることのできるその日。

 季節としては春と冬の間くらいだろう。


 今俺は入学式に参加していた。


 ボーデン王立ハルム学院。

 ボーデン王国の貴族の子息子女は16歳になったら通う義務がある。


 俺は入学する多くの新入生のうちの一人だ。ただのモブ、数百いる有象無象の一部。


 そう思っていた。


 だが、残念なことに女神は俺が風景の一つ、一生徒でいるのを許してはくれなかった。


 何故かって?そんなの決まってる。

 

 俺の今から起こす行動によって国が半壊する運命を回避できるのだから。


 過程?そんなの知らん。俺が知ってるのはあくまで国が半壊する事実とそれを防ぐための単純な行動のみ。


 

 ……はぁ、なんでこんなことになるんだよ。あんなこと言うんじゃなかったよ。


 もう後悔してもしょうがないのに、運命のその時が来るまで俺はどうにかできないものかとため息をする。


『これより第59回、ボーデン王立ハルム学院入学式を開始いたします』


 ああ、ついに始まってしまったか。

 司会進行役によって宣言された。その後は国歌斉唱、校長式辞、来賓紹介と挨拶、在校生による歓迎挨拶と進んでいく。


 周りを見ると長くてウトウトしている人がちらほら見え始めた。

 

『続きまして、新入生代表挨拶』


 だが、司会進行役がそう言った瞬間、先程眠そうにしていた男子生徒の皆意識が覚醒して今か今かとそれを待ち望んでいた。女子生徒はそんな男子生徒を見てため息をする。

 

 そんな中俺は心臓がバクバクとなり続ける。次第に鼓動が今まで以上に速まっていった。


 別に俺が新入生代表挨拶をするわけじゃない。挨拶をするのは男女の生徒がそれぞれ反応を示した人物、俺じゃない。


 もう、やらなきゃダメなのか。

 なんで俺がこんな目に遭わなければいけないんだよ。

 

 俺は内心ため息をつきながらもすぐに行動を起こせるように準備をする。


『新入生代表、ボーデン王国第三王女、クラリッサ=フォン=ボーデン』


 司会進行役がその人物の名前を呼ぶ。


「はーー」

「ふぁぁぁぁい!!」


 俺はクラリッサ王女殿下が返事をするタイミングを見計らいその場で直立、右手を大きく上げて大声で叫ぶ。



 こうして俺の望んでいた平凡の学院生活の幕が閉じたのだった。

















 みなさんは異世界転生をご存知だろうか?


 


 意味を聞くのは今更だろうから簡潔に言ってしまえば、生まれ育った世界とは別次元の世界に生まれ変わることだ。


 思春期を迎える少年少女ならば誰もが憧れた現象だろう。

 好きなアニメやゲームの世界に。チートをもらってハーレムを。前世の知識を活かして内政チートしたいなどなど……。


 あげたらキリがないほど沢山の夢が詰まっている。


 俺もそのうちの一人であった。

 あった……のだ。過去形だ。


 俺は気がつくと真っ白い何もない空間にいた。


 あたり一面は壁が存在せず、どこまでも永遠に続くような感じの場所であった。


 だが、そんな無の空間に一人で佇む美しい女性が立っていた。一瞬息をするのを忘れてしまいそうになるほどの美しさ。神秘の存在というのはこのことをいうのだろうと思うほどに。


 俺は現状がわからなかったので、その女性の近くにいき、会話をした。


 話をしていると色々わかった。


 俺はひょんなことから死んでしまったこと。女性は女神という存在。女神さまの気まぐれによって前世の記憶をそのままに。転生したい世界や欲する能力を特典でくれるという好条件。


 だが、甘い話には裏がある。


 俺はそのことを失念していた。夢の異世界転生することができる。そのことで頭が一杯一杯だったんだ。


 今思えば女神は少しにやけていたような……。


 まぁ、俺の現状を思えば気のせいではなかったのだろう。


 女神は転生する上で何か欲しいものはあるかと言われた。俺はいくつか条件を出した。


 創作物語の世界ではなく、魔法のある普通の平和の世界。俺だけの特別なチート能力。生まれはそこそこの身分。


 この三つが俺の出した条件だ。

 

 女神はその条件に対してこう発言した。


「平凡すぎますね。退屈しませんか?……まぁ、どうでもいいですが。……残念ながらあなたが望んでいる世界はありませんが近い世界は存在しますよ」


 そう言った女神はその世界……グラシアの世界についての説明をしてくれた。


 説明を聞いている限り、俺の希望に合致する部分は多く、その世界に転生したいと思った。 

 ある一点を除いて。


「実はグラシアは世界が崩壊するかもしれないんですよね〜」


 そんな軽いノリで女神は言ってきやがった。

 俺はそんな物騒な世界に転生はしたくない。断ろうとしたのだが、女神のある提案でグラシアに転生したいと思った。


「ご安心を。あなたが転生先にグラシアに選んでくれた場合、色々サービスします。あなたに危険が迫ってきたら、それを未然に防ぐための手段を教えるための女神の加護として与えます。一方通行の電話を想像してくれれば良いでしょう。私から貴方の頭の中に的確な指示をしますよ。それに従ってくれさえすれば最悪の事態を未然に防ぐどころか初手の段階で止めることができます!あなたは私からの声が聞こえたら、指示通りの行動をするだけ!少し嫌な気持ちになることもあるかもしれませんが、世界崩壊に比べれば些細なことですから」


 俺はそう言われ、ならいいかなと思ってしまった。

 そして、さらに女神は説明を続ける。


「そうだ!あなたが二つ目に提案したチート能は一つだけとしていましたが、私に能力の選任を任せてくれるならなんと、3つの能力を差し上げましょう!ただ、能力の詳細はお教えすることはできませんが………。ですが、その能力を駆使すれば、誰もが近づけない、英雄になれるでしょう!」


 別に英雄になりたいわけじゃないが、貰えるものは貰っておいた方がいいだろう。


 だから、俺はその提案に承諾した。


 その後、転生先の出自や転生特典の使い方は転生時に記憶に流してくれるといい転生したのだった。


 




  


 転生して後悔した。



 もらった3つの能力は確かに強力であった。無敵……とは言えないが、使う場面を工夫すれば臨機応変に対応できる。

 だが、もらった3つの能力には大きな欠点があったのだ。



 第二の人生を過ごして絶望した。



 女神がくれたという恩恵は確かに世界を救うことには繋がるが俺の人生が大きく狂わす存在であった。


 俺は今でも思う。

 これは俺の第二の人生の教訓だ。




 甘い話には罠がある……。



 








女神の力により「グラシア」の世界へ転生をした。

 

 俺の今世の名前はルド=フォン=ホルシア。茶髪の黒目と特に特徴といったものがない容姿で顔はまぁ、イケメンの部類になるだろう。

 辺境白家の爵位を持つ貴族家の一人息子で、ボーデン王国とその隣にある国、オージアン帝国との国境に領地があり、周りは自然が豊かで俺の領の近くには森林から湖があった。


 ここまでいうだけならば平和に聞こえるかもしれないが、残念ながらそうではない。


 ここ100年はボーデン王国を含める三代大国が結んだ平和休戦協定のおかげとあって戦争はないが、この世界には魔物と呼ばれる存在がいる。それはこの世界に充満する「魔素」と呼ばれる存在が集まり出現した生物。だが、それは害虫のような存在ではなく、むしろ人間にとっては理恵に気なり得る存在だ。


 魔物を倒すことにより、魔石と呼ばれる魔素でできた石を入手することができ、魔道具の燃料として使う。


 この世界は文明は西洋くらいだろう。これは転生して驚いたことなのだが、この世界は魔法が発展している。電子レンジや冷蔵庫をはじめとする電気用品からスマホのようなタブレットまで存在していた。


 動力源は魔石。また、魔法陣を組み合わせることによりそう言った便利な道具が出来上がっていた。

 

 あと、リバーシや将棋といった娯楽も存在していた。


 ……知識チートも内政チートもできないじゃん。


 異世界転生の醍醐味は残念ながらできなかった。


 それを知った時は少しショックを感じた。

 本当にほんの少しだ。

 俺の人生に置いて些細なことでしかない。


 先に言おう。

 俺の第二の人生……波瀾万丈であると。


 それは女神が俺に与えた能力と恩恵にある。

 もらった能力は四種類の固有魔法。しかし人前では使うのは抵抗感があり、躊躇するような類のものである。

 それは以下の3つ。


 『滑りがよく白色の粘りのある水を出すだけの魔法』『縛りプレイの束縛拘束限定の触手召喚魔法』『服しか破れない風魔法』


 ……一体何をさせようとしているのだろう?


 そして、恩恵はというと……これが最も俺の人生を狂わせる元凶だ。


 魔法は使わなければいいだけ。

 だが、恩恵に限ってはやらなければ最悪の未来になりてしまう。


 恩恵の名前は『女神の導き』


 内容は女神が俺の脳内に今その場でできるような簡単な行動の指示とそれをしなければ起こる未来を教えてくれるというもの。



 内容だけは聞こえはいいかもしれない。


 だが、提示された未来は物騒であり、俺の指示された行動は奇行だけ。


 二つほど例を出した方がわかりやすいだろう。


 一つ目は俺が13歳の時。

 両親が仕事で遠出する時、女神から提示された未来は《両親が崖崩れに巻き込まれて死亡する未来》そして俺に指示された行動は《幼児のように地面に寝転がり駄々をこねる》というもの。


 その時は両親からはまたかとため息され呆れられ、使用人からは可哀想な人を見る哀れな視線を向けられた。


 俺は内心で泣きそうになるが涙を堪えてやり続けた。両親が死ぬのはいやだ。

  だから両親が呆れて外に出ようとしたら足にしがみつき時間を稼いだ。


 結果だけ言ってしまえば両親は無事であった。

 本当に崖崩れが起き、後少し出るのが早かった場合、巻き込まれて死亡していた。


 

 そして二つ目、

 これは俺が15歳でハンターとなり一ヶ月が経過した頃のことだ。


 二つ目のことを説明する前に少しハンターについて話しておこう。

 ハンターとはいわば何でも屋だ。

 ハンターギルドという組織で15歳になった人は誰でも登録可能で、魔物討伐や護衛など戦闘の依頼から採取や雑用などする。

 

 ランクはEからSの6段階でCランクが平均だ。


 Sランクは人外の部類で国同士の戦争ではSランクのハンター、一人いれば戦況が傾くとすら言われている。


 人数もそれほどいない、十人いるかいないかだ。


 俺は5月生まれであったので、15歳を迎えた日に即日登録をし、活動を始めた。


 ハンターギルドは必ず街に一つ支部が存在する。俺はホルシア辺境伯支部で活動を開始した。


 女神からの能力は使わず、コツコツと経験を積んで……いこうとした。


 あんな変な能力に頼らなくても大丈夫なようにハンターになる前にしっかりと訓練を重ねた。

 父上に頼んで指南してくれる先生を頼んで、訓練をした。

 魔法と剣を使っての戦闘に磨きをかけてきた。

 その結果、先生からはCランクに匹敵する実力があると太鼓判を押され、父上交渉した結果、ハンターとして活動することを許されたのだ。

  

 こうして、俺はハンターとして活動を始め、一ヶ月が経過、ある程度実践に慣れてきて初めて遠出で依頼を受けた日


 内容は荷物の配達。


 ホルシア辺境伯領の隣、ラダベル子爵領の温泉が有名な街に訪れた。俺は依頼内容もそこまで難しくないため、観光気分で訪れたのだ。


 依頼を終え、るんるん気分で街を出歩いていたら突然、酔っている女二人と男三人のハンターに絡まれてしまった。


 助けを求めようと周囲を見ると誰も助けるそぶりは見せず、素通りする人ばかり。


 俺はその場から全力で逃げようとした……その時!女神からの恩恵が来た。



 【将来多くの麻薬中毒者が現れ、ラダベルの町は崩壊する】と提示され、《目の前にいる人物を笑いながらチート能力で最大限辱めて拘束する》と指示が出た。


 俺はその通りに行動した。拘束プレイの触手魔法で拘束し足場をチートの水魔法で滑りを良くし、生まれたての子鹿のようになっている状態で少しずつ服しか着れない風魔法を使い最大限辱めた。

 風魔法は条件次第で強いらしく「服」とは鎧や防具も含まれるらしく、ハンターの装備も簡単に破くことができた。


 結果は、始めは俺に憐れんでいた周囲の人間は時間が経つにつれて絡んで沸きたい人間を憐れみ始め、いつしか俺のことをゴミを見る目で見始めた。


 俺はその場で衛兵に捕まった。もちろん絡んできたハンターも含め。


 事情を説明したら周りの証言も一致、俺はすぐに釈放された。

 残念ながらその後のことは何もわからない。絡んできたハンターたちは一体何者だったのか。ハンターたちは本当に麻薬と関係しているのだろうか?


 何もわからないまま、この件は終わった。

 

 だが、残念ながらこの一件を通して俺は二度とこの街に行けなくなった。

 いや、別に出禁になった訳ではないんだが、行きづらくなった。


 素顔丸出しで鬼畜行為をしたんだ。

 ただでさえ変な噂が広がっている状況。身バレするのを防ぐために行かなくなった。


 ただ、幸いなことに事件が起きたのは夜。そこまで人通りが多くなかった。そのおかげでそこまで顔バレはしていない。


 だが、その日を境にハンター活動をしていると、能力を頻繁に使うような「女神の導き」の指示が出てくるようになった。

 なんか、悪戯かはわからないが女神の悪意を感じるが、掲示の内容が物騒なので従った。

 ただ、俺は素顔で活動するとただのヤバいやつと思われるので顔バレを防ぐため仮面をするようになった。

 体格を隠すため、黒色のマントを羽織り、身長も誤魔化すため靴底が少し高いシークレットブーツを履くようになった。


 ハンターの活動する時の名前も変更した。

 身元がしっかりしていれば手続きをすることにより、別の名前も名乗ることができる。


 だから、ホルシアのイニシャルからMr.Hと名乗ることにした。


 今思えば、『女神の導き』が出始めた初期から変装して名前を変えてよかったと思う。

 

 なんせ、『女神の導き』の頻度は次第に増していった。

 そのせいで俺は固有魔法を頻発に使い、奇行も重ねた。

 

 その結果俺はこう言われるようになってしまう。


 「変態の奇行士」と。


 女神の導きで多くの魔物の討伐、盗賊の捕縛を繰り返した結果、俺のハンターランクは短時間でBまで上がった。

 だが、尊敬は全くされず、近づくだけで悲鳴をあげられ、ギルドで飯を食べようとすれば人が離れていく。


 俺には悪い噂が多い。

 「視線を合わせたら全裸にされる」「束縛プレイの大好きな変態」「奇行をするとき魔物の大群が現れる」


 ……たった数ヶ月でここまでよく広がったもんだ。

 

 

 だが、これまでのことは序の口でしかないのだ。



 俺の奇行には理由がある。


 今世の父上と母上はそう信じてくれている。

 正直、本当に受け入れてもらえてよかった。

 

 『女神の導き』により廃嫡だの家を出されるとかなくてよかった。

 

 こうして俺はハンター活動を除いて平穏な生活を続けることができた


 『女神の導き』は絶対だ。


 一度だけ逆らって指示に従わなかったことがあるのだが、その掲示は必ず起こる。


 だが、今までのことを考えると人が死んでしまうという物騒な掲示以外は全て俺が重症な怪我をするという掲示のみ。


 転生前に言っていた世界が滅亡とか言ってたけど、今思えば疑わしい。




 能力といい恩恵といい……俺の異世界生活最悪だわ、ちくしょう!


 まぁ……今はそんな些細なことはいい。

 今の俺はそんな悩みなど些細なことだ。


 今、俺はハルム学院の入学式を控えている。

 なんでただの入学式なのにここまで楽しみにしているのか。


 それは高等部は行事が多く、楽しみも多い。

 貴族の子息子女は必ず入学しなければいけないからだ。


 


 高等部に入学すれば俺は晴れて友達ができる……はず。


 イベントも盛りだくさんだ。

 課外授業。対戦形式のトーナメント。

 

 貴族の家間の付き合いである程度グループができていると思うが、そのイベントをきっかけに仲良くなることはできるだろう。俺の家は辺境伯なので、貴族同士の付き合いはないに等しい。


 父上曰く、国の周囲に警戒をしなければいけないから忙しいとのことだ。


 でもイベントでは学校の配慮で、よっぽどのことがない限り仲のいい連中だけでグループは作ることはしない。


 イベントをきっかけに友達もできるかもしれない。

 俺はあわよければ婚約者を作れればと狙っている部分もある。いや!絶対作ってみせる。


 俺は決意を改める。

 そして、俺は期待を胸に高等部の入学式を迎えた。









 だが、俺の考えは甘かった。

 女神の恩恵を甘くみすぎていた。

 

 今までの生活は全て序の口だったのだのだ。


 これは入学式当日のことだ。

 俺は新しい制服に着て、学生寮から張り切って入学式の会場へと向かっていた。




 だが、それは突然に脳内に女神の音声が流れた。



 む?

【今から2年後にこの国は半崩壊するであろう】


《入学式、新入生代表挨拶、代表の王女様の名前が呼ばれ瞬間、直立不動で右手をまっすぐ天井に上げ、大声で元気に返事をせよ》



 ……む?

 ………むむむ!


   ………え?なんで今こんなの流れた?

 

 半崩壊って……嘘だよな?

 今までこんな大規模なこと起きてないよな……。


 いや、てかなんだよ直立不動で大声で返事って……こんなことで国救えるのかよ!


 ……本当にこれやらなきゃいけないのか?俺下手したら停学……いや、退学の恐れあるじゃん!

 

 別に女神の恩恵って強制じゃ無い。


 初めて女神から恩恵が来た時……転生して間もない5歳の頃だった。


 女神から示された掲示はそこまで物騒ではなく、俺の指示された行動が恥を晒す内容だった。

 

 当時の俺は女神の掲示に反抗的な態度をとっていた。

 だから、その指示された行動をしなかった。

 女神からの恩恵と呼ばれていた強制力があるとのばかり思っていたのだが、そう言った類のものはなかった。


 だが、それから数日後、俺は全身を大怪我した。それは女神の掲示通りだった。


 初めの頃の女神の恩恵は俺自身に降りかかるものばかりであった。

 恥を晒すくらいなら災いを受けた方がマシだと思っていた。


 今思えばその時の俺はどうかしていた。

 反抗期があったようなのだ。


 次第に女神の掲示は俺個人ではなく、周りを巻き込むようになり、掲示内容も物騒なものに変わっていった。


 だから、俺は自然に従うようになっていた。


 ……どうするべきか。

 今から2年後国が半崩壊するということは逆に言えば2年間は平穏ってことか。

 

 対策すれば国外逃亡できるかもしれない。

 幸い俺には変態的な能力があるが、チートがある。

 それを使えば生きていくことはできる。


 二年間の平穏か、国の平和、そして俺の学園生活の終わりか……。


 

 さて……どうきたものか。
















「ふぁぁぁぁぁい!」



 最終的に俺が選択したのは後者だった。

 この国には大切な家族がいる。

 なにより、俺のこの羞恥を晒すだけで多くの命が助かるしボーデン王国は平和になる。


 だから、いいんだ。………ぐすん。

 

 俺は平和をまもったんだ……ぐすん。

 俺自身の平穏を犠牲にして。


 だから……お願いだから俺に冷たい視線を向けないで……ぐすん。心がすでにボキボキ折らんといて!


「そこの生徒を連れ出しなさい!」


 すぐ近くにいた教師に拘束され、会場から追い出された。


 俺は特に抵抗せず潔く拘束された。

 

 さよなら……俺の望んだ平穏の学校生活。


 さよならこれから出来たかもしれない友人……そしていたかもしれない未来の恋人よ。


 こうして俺の学園生活に幕が降りたのだった、





 












 







「それで君はなんでこのようなことをしたのかな?」


 会場から強制的に連行され、俺は一室に連れてこまれた。

 そこは生徒指導室のようなも部屋はそこまで広くなく、部屋の真ん中に机が置いてあり、椅子が複数個……どちらかといえば尋問部屋に近いだろう。

 

 俺は一人座らせられ、三人の教師に睨まれていた。


 いや、どうって言われても……。


「これには深い事情がありまして」

「だからそのわけを言えと言っているんだ」


 ……さっきから同じようなやりとりをしている。

 本当になんと言えばいいんだ。


 

 女神からこの国の危機を提示されたため、あのような行動をしました。


 こんなこと言ったって信用されない。むしろ変人だ。

 どこかの怪しい狂信者と思われる可能性もある。


 だから、何か言い訳を探しているわけだが、何も思いつかない。

 

 こりゃ、両親にも報告いくな、

 どうにかなるかもと少し期待していたが、……どうもダメらしい。


 時間が経つにつれて教師たちの視線がキツくなる。


 こう言う時に限って女神の掲示は全く来ない。

 まぁ、来たら来たらで俺の風当たりがさらに悪くなるだけなのだが、それでも何かしらの打開策がほしい。

 

 ……誰か……誰か助けてください。


 女神の助けがないなら悪魔でもいいから。


 すると、願いが通じたのか、突然コンコン、とノック音が聞こえた

 今俺と教師たちがいる空間は無音だ。

 だから小さい物音でもすぐにわかる。


 部屋にいた全員が視線がドアのほうへと向いた。


 そこには……。


「お取り込み中失礼します」


 腰まで伸びた艶のある綺麗な銀色と青色の目が特徴、青のタータンチェックのスカートに黒色のカーディガンの高等部の制服に着ている美少女が入室してきた。


「クラリッサ=フォン=ボーデンです」


 そこには俺の奇行の被害者である我が国の第三王女様がいた。


 ……もしかしてあなたは俺を助けにきてくれた女神なのか?















ボーデン王国第三王女クラリッサ=フォン=ボーデン。


 文武両道、才色兼備。その言葉は彼女にこそふさわしい。百人いれば誰だってそう言う。

 

 俺は直接会ったことはないが、噂でしか聞いたことしかない。

 武器を持たせれば練度の高い近衛騎士と張り合え、魔法は四種以上の魔法を操る。


 だが、噂のその人物を実際に見たらなんとなくそれが本当なんだといやでも思い知らされる。


 なんと表現すれば良いかと迷うが、一言で言えばオーラが違うのだ。


 それ以上は何も言えない。

 だが、そんな有名人が何故こんなところにいるのだろう。

 

 俺に文句を言いに来たのだろうか?


「あの……ホルシア様の件で来たのですが……申し訳ありません。ホルシア様は私のためにあのような行動をしたのです」

「はい?……それはどう言うことですか」


 いや、俺が知りたいです。

 教師たちが俺とクラリッサ様を交互に見ている。

 いや、だから知らんて。始めて対面しているし、あなたのために俺が何をしたとか知らないよ。


「実は私とホルシア様は交流がありまして……今日、初めて迎える代表挨拶に緊張していることを相談をしまして……ホルシア様は私の緊張を解くためにあのような行動を……」


 だめだ……王女様の意図がわからない。

 あと、なんでそんなに照れながら言ってるんだ?演技にしてはでき過ぎている。


 でも、これが素だとしても俺を助けようとする意図がわからない。


 ……てかこんな言い訳通用するわけないじゃん。

 緊張解くためならもっと別の方法があるかと。


「ですが……仮にそれが真実だったしましょう。何故式の途中であのようなことを」

「彼はとても不器用でして……ほかに方法が思いつかなかったのだと思います」


 なんか俺が問題児ってことになってるんだけど。

 こんな説明で納得するわけないじゃん!

 先生たちも戸惑っちゃってるじゃん!

 

「ホルシア様は辺境伯の御子息、貴族の交流も少なく、友人と呼べる存在は私だけでして。私が言うのもなんですが彼は……その……相当な変わりものでして。辺境伯夫妻様からの意向で今まで貴族の交流会も出席したことがなく、まともな友人の付き合いがなかったのです。そのため目立った問題行動がなかったのだと思います」


 いや………ひどくね?

 俺を庇ってくれてんのか、貶してんのかわからないよ。

 てか、そんな理由で納得するわけが……。


「そうなんですね」


 いや、納得するんかい!


 ツッコミどころ多過ぎじゃん。無理がありすぎる。たしかに友達いないけど……友人王女だけとか無理がありすぎるよ。

 確かに交流会参加したことないけど。

 それは父上とか母上からの意向で参加できなかっただけだから!」


 てか、なんで知ってるんだよ。

 

「今回の件は彼なりに私を助けようとしてくれただけなのです。今回の件は気にしておりません。私に免じて許してはいただけないでしょうか?」

 

 王女様の意味不明な言動のお陰で俺は一切の罰則はなった。


 ただ、王女様のせいで俺は変わり者の問題児というのレッテルが貼られてしまった。

 助けられた身としては贅沢すぎるかもしれないが、ほかに言いようはあったのではないだろうか?


 なんであのような面倒くさい言い換えしたんだ?

 その疑問はすぐにわかることになる。


「申し訳ありません。少しこの部屋をお借りしても良いですか?ホルシア様と二人で久々にお話がしたいのですが」

「はい。大丈夫ですよ。終わりましたら職員室までお声掛けください」

「ありがとうございます!」


 王女様は意図はわからないが、今回の件についての話をしたいのだろう。

 王女様の頼みを承諾した教師たちは部屋から次第に出ていき、二人となった。


 ……なんか気まずいなぁ。

 俺がそんなことを思っていると王女様は魔法を発動させた。

 魔法の内容はわからないが、何かやったのか?


「ねぇ」

「はい!」


 いや、驚いた急に話かけてくるんだもん。

 あと、声のトーンがさっきの教師たちと話していたときと全く違うんだけど……キノセイカナ?


「あなた……なんであんなことしたの?理由次第ではこの国に居られなくしてあげるわ。発言には気をつけなさい」


 王女様は近くにあった椅子を引き、座り足を組んで質問をしてきた。

 

 

 かなり怒ってらっしゃるそうだ。

 俺の周りには氷の槍がいくつもあり、俺に矛先が向いていた。


 ……終わったわ俺の人生。



 











 「ねぇ……どうしてくれるの?新入生代表挨拶……私の思い描いていたとおりに進んでいたのに……全て台無しよ……黙ってないで何か言ったら?」

「いやぁ……あの…あの行動には理由が………ひぇ!」


 ひぇ!今俺の真下に氷槍刺さったんだけど!

 こえーよ。さっきまでの教師がいた穏やかな雰囲気は一切ない。

 目の前にいるのは例えるなら……悪魔だ。


「次は風穴を開けるわよ」


 あ……これマジなやつだ。

 ……どうしようこれ死ぬわ。


 なんて言えばいいんだよ。素直に言ってもいいものか?


「……黙っているということは理由なしであんな奇行を?何か特別な理由があるのじゃないかって思ってあなたを庇い……理由を話せる場を用意したっていうのに……」


 あ……あれれ?

 なんか王女様の魔力がどんどん上がってるような。氷槍の数がどんどん俺に近づいてくる。

 

「これで最後ね。……何故あのような「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!」……」


 俺はその場で土下座をした。頭が地面に擦りながら。


「悪意はなかったんです!クソ女神からの指示でやったことなんです!それをしないと2年後に国が半崩壊してしまうと言われたんです!俺自身も何故あの謎行動をしなきゃいけないのか!」

「?!」


 洗いざらい話した。言ったって信じてくれないのに。

 ……あれ?てかなんで王女様は何も言わないの?

 俺は気になり顔をあげると……王女様は少し驚いている顔をした。

 そして、俺と視線があったのに気がつき我に戻ったのか話始める。


「……女神?……国の半壊?……あなたはないを言って……」

「いや、今のは忘れてください。……別に嘘をついていたわけじゃなくてですね、はい」

「そういえばリタの情報でも確か……ふふ」

「あのぉ……殿下?」


 王女様は一人でブツブツと独り言をいい、何かを考え始める。

 そして、思考がまとまったのか、一人笑い出した。

 ……情緒不安定すぎて怖いわこの人。

 

「ルド=フォン=ホルシア」

「……はい」

「実は私には優秀な諜報員がいてね……さまざまな情報が入ってくるの。噂から貴族間の裏の情報まで……ね」


 何それ怖い……。

 何が言いたいんだろう?もしかして俺のことを脅しにくるとか……。

 でも、一刻の王女がそんなことするわけが……。


「以前、ホルシア辺境伯について調べていた時にあなたの話を聞いたことあるわ。ホルシアの問題児……いつもは普通なのに偶にたかが外れたような奇行にするとか。しかも何か事件が起きるたびに……もしかしてそれもその女神とかの指示なの?」


 マジかよ……王族って超怖い。

 なんでそこまで調べられてんだよ。


「その反応を見る限り本当なのね」

「……はい」


 素直に肯定した。

 王女様の言ったことは全て事実だ。

 以前も言ったが、俺の奇行とその後に起こった事件……指で数えられる程度だが、本当に起こった。

 だから、父上も母上も普段の俺の行動と奇行のギャップから何か理由があると信じてくれた。


 まぁ、女神と掲示については完全には信用してもらえなかったが……。

 すると王女様は肩を小さく揺れ始める。


「ぷ……あはははははははは!」


 声を出して爆笑を始めた。

 え?どうした急に。


「あのぉ……どうかされました」

「あはは!……あら、ごめんなさいね……ぶ!」


 俺を見て笑うなよ!失礼にも程がある!


「あーあ。……あなた最高よ!……こんなに笑ったのは生まれて初めてかもしれないわね」

「そ……それは何よりです」


 俺は道楽かな?

 王女様は呼吸を整え、俺に向き、話始める。


「ねぇホルシア君」

「なんでしょう?」

「あなたって、目で見た世界に色はある?」

「はい?」

 

 何言ってるんだよ急に。

 真剣な顔してるからなにかと思って心構えしてたのに。

 でも、真剣そうだし、


「色とりどりだと思いますよ」

「そう。……私はね……全て灰色だったの」

「灰色?」

「そう……幼い頃はそうじゃなかったわ……それでも私は退屈だったの。やり始めたことはすぐになんでもできてしまう。人生はつまらない。そう思っていたの。そうしたら去年あたりからかしら……目に映る景色に色がなくなってしまったのよ」


 ……なんと羨ましい。

 生まれ持っての天才。人生苦労しなさそうで……。

 天才ならではの悩みってやつか。


「あなたが最初に言っていた理由……この国が半壊するって理由ね。あながち間違いではないわよ」

「え?!それはどういう……」


 つまり、女神の掲示は正しかったのか!

 俺は国一つ救ったってことか!


「人生つまらないから、何か刺激が欲しいと思って。いっそのこと、この国半壊させたら何か変わるかもって思ったの」


 目が……本気だ。

 この人……いや、この悪魔は本気でやろうと思ってやがる。

 物騒すぎるでしょこの才女!


「仮想計画も立てて……私の直属の部下を使って手を回し始めようと思っていたわ。二年間の時間をかけてゆっくりとね……でも、それはもうやめることにするわ」

「ほ!本当ですよね?」

「ええ……だって、目の前に私の渇きを潤してくれる存在が現れたのだもの!」


 王女様は座っていた席を立ち上がりの俺の近くによる。

 そして、その場に座り込み、両肩を掴んで顔を近づけてきた。


「少しずつだけど私の灰色の世界に色が現れ始めたの。……それも今日、あなたが新入生代表の時に奇行をし始めたから少しずつ。……常識では測ることのできない未知の能力を持つ存在」

「え……えと」


 怖い怖い怖い怖い怖い。

 てか、顔近ーし!

 

「ねぇ、次はどんなことをしてくれるの?見せてくれるの?」

「え?……いや、まだ行動とかは」

「その女神様の力ってどのように発動するの?」

「いやぁ……いつ発動するのかは……不明で……」

「そうなの。……あら!ごめんなさい」


 もうホラーでしかないんだけど。

 まだ、尋問されてた方がマシかもしれない。

 王女様は全てを見透かされているようで、怖い。

 このまま全てを搾り取られそうで怖い。


 だが、俺との距離が近くなり、ハッとして落ち着きを取り戻した。


「少し取り乱してしまいました。……私にこんな探究心があるなんて思いもしませんでした。……これも発見なのかもしれませんね。……あ、その体勢では辛いでしょうから立っていいですよ」

「はぁ……」


 うふふと王女様は俺に微笑んできた。

 何も知らない人だったら一目で見惚れてしまう表情。俺も何も知らなければ即刻惚れていたかもしれない。

 だが、今はその笑顔に恐怖しか感じない。


 俺はゆっくりと立ち上がり様子を伺う。


「ホルシア君……いや、ルド君、あなた……私と婚約を結びなさい?」

「……すいません、よく聞こえなかったのですが……もう一度お願いしてもいいですか?」

「婚約を結びなさいと言ったんです」

「り…理由をお聞きしてもよろしいですか?」


 突拍子もない提案に戸惑う。

 しかも今聞き間違いでなければ、命令形のような。

 拒否権はあるのだろうか?


「そんなの簡単よ。……束縛するために決まってるじゃない?」

「…へ?」

「ほかの人に取られる……ことはないと思うけど、絶対とは限らない。それに近くであなたを見たいからよ」

「いや……でも立場とか」

「あなた辺境伯の嫡男でしょ?立場は関係ないわ」


 どんどん逃げ道が塞がれている。

 王女にとって俺は道楽の一種なのだろうか。


「……でも、婚約って結構重要なんじゃ……将来結婚するわけですし」

「別にそれは構わないわ。……でも、結婚する前にこの国がなくなるかもしれないし」


 つまり……俺への興味だけで婚約をし、興味がなくなったら切り捨てて国を無くすつもりということか。

 この国の命運は俺次第ってことかよ。


「拒否権は」

「答える必要あるかしら?」

「いえ……結構です」


 もう、俺の逃げ道はない。

 しかも、結構重要な立ち位置にいます俺」


「それで返事は?……まぁ、断ったら何するかわからないわね?この国に居られなくするのは当然として……いや、これは罪が軽いかしら?」


 いや!重すぎるわ!

 

「もしかしたら暗さ「よろしくお願いします!」……うふふふ」


 俺は腰をおり、提案を引き受けた。


 悪魔なんて生ぬるい。

 この人は……魔王だ。

 

 俺の人生はこうして幕を閉じた。









 皆さんは学校生活……どのように過ごしたのだろうか?

 高校生という単語を聞いてまず俺が思い浮かべる言葉は「青春」である。

 

 友人を作り、クラスの休み時間。学校帰りの寄り道。休日に予定を合わせ、遊びにいく。


 彼女を作り、帰り道の帰宅デート。クラス内できゃっきゃうふふとイチャつき、恋愛を楽しむ。


 部活動に青春の全てをかけ、練習で汗を流す。仲間と勝利を掴み笑い合う。試合に負けてしまい悔し涙を流す。練習で挫けそうになっても仲間と共に乗り越える。


 俺個人の主観的意見も入ってるのを抜きにしてもほんの一部でしかない。

 十人いれば十人違った過ごし方がある。

 

 では何故今このようなことを言ったのか……理由は今の俺の学園生活にある。


「ふ……」


 日が真上に昇り、時間帯としてはちょうどお昼時だろう。

 午前中の授業を消化し、俺は一人食堂でポツリと座り昼食を食べている。

 テーブルに並んでいる料理は、肉汁が豊富な大きなステーキ、朝取り立ての刺身の盛り合わせ、スープはじっくり出汁が聞いている特製スープなどの贅沢三昧。

 食費にして銀貨5枚。


 この世界のお金は通貨だ。

 

 日本円に換算すると一枚につきそれぞれ銅貨10円、大銅貨100円、銀貨1千円、金貨1万円、白金貨10万円……とまぁ、こんな感じ。

 

 普通なら一食銀貨もあればお釣りも来るのだが、俺はその五倍。

 食べたいものを食べたいだけ注文した。


 食べてストレスを紛らすと言った感じだ。


 入学式から一ヶ月ほどが経過している。


 生徒たちも学園生活に慣れてきてある程度グループが形成されつつある。

 だが、残念なことに俺は未だに馴染めず、完全に孤立してしまっている。


 理由は至ってシンプル。入学式での奇行と全ての元凶の魔王のせいである。


 魔王との一件の後……婚約の手続きは何か神様が裏を引いているのではないかと思うくらい円滑に進んだ。

 現ボーデン国王……リオネル=フォン=ボーデン様は口一つ挟まず承諾した。

 むしろ、感謝と応援をしてくれて祝ってくれた。「娘をもらってくれてありがとう」と言われたくらいだ。

 ……クラリッサは一体、自分の父親に何をしたんだろう?雰囲気からして彼女の本性を知っているような態度が見えた。

 怖くて何も聞けなかった。


 父上と母上も勝手に婚約話を進めてしまっているのに特に何もお咎めはなく、むしろ祝福され褒められた。

 我がホルシア辺境伯の家系に王族の者はいない。王族と親戚関係になる。

 俺が行ってしまったことをマイナスしても、プラスに持ってこれるくらいらしい。


 何かしらのお咎めはあると思ったのになぁ。


 そして、家同士では批判するものが現れなかった。


 それ以外の人間はそうではない。

 批判殺到だ。

 俺には殺害予告が直で届いたり、陰口を言われるのは日常茶飯事。

 また、噂話が右往左往している。

 「脅して無理矢理婚約させた」とか「常識がない問題児」とか「卑怯で姑息な陰険やろう」などなど。


 めちゃくちゃ陰口言われる。

 なんか文句あるなら直接言ってくれば良いのに。

 そう思っているのだが、それをできない理由がある。



「ルド君、難しい顔してどうしたのかしら?……もしかして体調悪いの?箸が進んでないわよ?」

 

 クラリッサの存在だ。

 彼女は入学式の一件以降、昼食は毎日一緒に、後は廊下ですれ違えば笑顔で微笑んでくる。

 その都度俺に対する殺気が増していくのだが……今はその話はどうでも良い。


 何を言いたいのかというと、俺の学院生活はクラリッサによって全てぶち壊された。


 クラリッサは男女問わず学院から人気がある。元々の容姿や人当たりの良さ。

 絶対に憎めない……クラリッサが作り上げた理想の人間像は誰もが羨み、尊敬する。


 崇拝者すらいる。


 それほどまでに彼女の一つ一つの言動がもたらす影響力はとてつもないのだ。


 まだ唯一の救いが俺に向かう殺気や敵意が物理的にきていないくらいだな。


 あははははは。

 それも全て魔王のせいだな。


「いや何……孤高の存在は辛いなと思って……」

「孤独の間違いでは?」


 おい、すぐに訂正すんな。

 少しくらい気をつかえよ。


「……誰のせいでこうなってると思ってんだよ」

「さぁ……なんででしょうね?」


 クラリッサは俺の文句を右から左へ受け流し、洗練された所作で料理を食べ始めた。


「……自覚ないのかよ。周りの殺意煽るような行動しやがって」

「殺意を煽ってるだけじゃない。ちゃんと殺されないように手配はしてるし、直接手を加えようとしてる人いないし、何か問題あるかしら?」


 こいつ!


「他にやりようがあるだろ!なんでわざわざ……」

「どうかしたの?」

「……いえ、なんでもありません」


 俺は文句を言う前に言葉を切る。

 

 文句を言おうとした瞬間、周囲のざわめきが増したからだ。


『おい、まさかあのクズ、王女殿下に暴行加える気か?』『まじ最低』『可哀想……』『学校やめろよ』



 ……ぐすん。

 俺悪くないのに。全部魔王のせいなのに。

 

 周囲の反応と俺の反応を見て、クラリッサは肩を震わせ、笑いを堪えている。


 だめだ。話せばクラリッサのペースになるだけだ。

 俺は黙って食事を開始する。


「あ、そういえば再来週に校外演習ありますね。よろしければ組みませんか?……婚約者同士ですし」


 それからしばらくして、クラリッサは話しかけてきた。

 ただ、クラリッサは婚約者……の部分を少し頬を赤くしながらいった。

 そのせいで周囲の視線が厳しくなる守る俺は黙食を続ける。


 ペースに乗ってたまるか。


「どうせあなたには班は組めないでしょ?私の班、一つ空きを作っておいたわ」


 無視だ無視……痛!

 急に左足から激痛が走り、足元を確認する。

 すると、俺の足の上にクラリッサの脚があった。

 俺は恐る恐るクラリッサの顔を見た。

 

「ねぇルド君……二度と国に入れなく「いや、校外演習は自分で班員見つけるつもりなんだよ。だから、そんなに気を使わなくても平気だよ」……そうなの」


 クラリッサは笑顔だったが目が全然笑っていなかった。

 さらっと脅してくるのは心臓に悪いからやめてほしい。

 もう、無視はやめよう。俺は魔王のしもべなのだから


「とにかく……今回は自分で解決するから」

「そう。わかったわ。枠は開けておくからいつでも声かけてね」


 ふ、今に見てろよ魔王。

 お前の思い通りにならないことを教えてやるよ。


 だが、俺は甘く見ていた。

 

 自分がどれほどこの学園の生徒に嫌われていると言うことを。












 クラリッサとの昼食を終わらせて俺は急いで校外演習の班員を見つけるべく行動を開始した。

 

 校外演習まで残り二週間だ。

 そろそろ動いたほうが良いだろう。


 午前中に薬学、経済学、王国史、社交などの基礎科目、午後は魔法や剣術といった実践科目で分かれている。


 授業はクラス単位で行う。

 複数人教師がついて、指導を行う。


 魔法ならば得意な属性に合わせての指導、剣術ならば実力に合わせた指導を。


 1年は基本的にクラス単位だが、2年からは実力に合わせて段階でクラスが分けられる。

 

 ちなみただが、この世界の魔法は適性がないと魔法が使えない……と言うわけではない。


 炎、水、風、土、光、闇など。


 ちなみにだが、この基本属性以外にも個人にしか使えない固有魔法を稀に持つものがいる。俺の女神からもらった魔法もそれに部類する。


 まぁ、俺は学園関係ではでは使う気がないが。……あんな能力知られたらただの変態野郎だ。


 閑話休題……。


 存在する属性は全て使える。ただ、人によっては得意不得意が存在する。


 例えば、炎魔法が得意で、上級魔法が使えるが、水魔法は水を出すだけしかできない。

 

 なので、人によってはその適性は多岐に渡るため、学園では個人の適正を最大限に発揮できるように、指導する。

 

 そして、定期的に段階を踏むように行事が用意してある。

 校外演習もその一環だ。


 内容も近くにある初心者のハンターが入る初歩的な森林。

 入学したの基礎がある程度できた状態での実践。

 段階を見極め、基礎と実践を繰り返す。


「貴族は強くあれ」


 貴族は国を守る義務がある。平民を守らなければいけない。 

 王族の盾となはなければならない。

 それほどまでに貴族には戦う力が重要視されている。


 だが、入学してはじめての行事。

 生徒たちの中には不安に思う人もいる。

 

 だから、班を作るとき、なるべく優秀な人と組みたいと思うんだ。


 俺はその優秀な部類に入る。


 魔法は風魔法を得意とし中級まで使えるし、剣術もそこそこ。

 平均よりは上。

 

 引くて数多ではないが、10件超えかければ半分くらいの確率でOKはもらえるだろう。



 ……そう、軽い気持ちでクラスメイトだけでなく、他のクラスの人にも声をかけたのだが。






「ごめん、実はもうメンバー決まってて、他探してくれない?」


 そうか、残念だ。なら仕方がないな。


「僕もう他の班に誘われてるから」


 ……気を取り直して次に行こう。


「君を入れるわけにはいかない。……俺は学園で嫌われたくないから……ごめん」


 ………そうか、俺はクラリッサと婚約してるし、現状嫌われてる。

 ……次行こう!


「……お、別にいいぜ!ちょっと他の奴に確認をーー」

「おいやめとけ!そいつが例のやつだぞ!」

「マジで!……あ、本当だ。ごめん、やっぱなしで!」


 ………俺のことは例のやつだけで通じるのか。

 なるほざわーるど。


 ……でも、班はまだまだいる。


 1班4人から6人だし、探せばあると思う。


 俺はその後も声をかけ続けた。



「ごめん無理」「ほかあたって」「なんで入れると思ったの?」「学校やめたほうがいいよ」「王女様に入れてもらったら?婚約者なんだから」「君と友達と思われるから離れてくれない?」「話しかけないで」「へ!」「リア重死ね!」



 ……………ぐすん

 現在惨敗。声をかけても相手にされないどころか罵倒される。

 何故こんなに嫌悪されるのだろうか。 

 もう、原因はわかってる。


 俺の奇行とクラリッサの人気。

 割合としては2と8の割合だ。



 ………だが、神様は俺を見捨てていなかった。

 俺が班員を探している最中、こんな話を耳にした。


 それは、もし班員を見つけられなかったら組めなかった人たちはハブられてる人だけで集められた人たちで組む。

 もし俺一人だけ残ったとしても、最悪先生と二人で組めるらしい。


 クラリッサに宣言したんだ。

 彼女の慈悲に縋るくらいなら俺は先生と組むことを選ぶ。

 

 それに結果はどうあれ、教師とマンツーマンで教えを請えるんだ。

 改善点とか教えてくれる。


 至れり尽くせり!今思っても絶対こっちの方がいいに決まってる!


 それにそろそろ俺のメンタルがもたない。

 声をかけるだけでも人によってはゴミを見る目で見られることもある。

  

 ああ、なんか踏ん切りがついたら清々しくなってきた。

 そうだ、初めからこうすればよかったんだ。


 何故、こんなに班にこだわっていたのやら。


「今日はもう寮に帰ろう」


 授業も終わったことだ。もう目的は達成できたわけだし。

 ん?なんか声聞こえる。揉め事か?

 


「しかし、ウェルネス!絶対ではありません!」

「だから心配無用と言っているだろう?」

「ウェルネス様はご自身のお立場を考えた方がよろしいのでは?」

「そうだぜ、初心者対象の森といっても、何があるかわからないんだ。人数が多いに越したことはないぜ!」

「しかしなぁ……信用できる人間には限りがある。人数が多すぎるのに越したことはないだろうが……」


 ……なんだ?

 俺は帰宅のため、廊下を歩いていた。

 そして、数分歩いていていると、男子生徒の四人が集まり、口論をしている。

 それぞれ爽やかな金髪、赤色ロン毛、青色の短髪のワイルド系、緑色の髪に眼鏡をかけた知的系のそれぞれ違った特徴を持つなんともまぁ、バラエティ豊かなイケメン集団。


 言い争いというより説得しているという感じか?

 でも、俺には関係ないから素通りしたいのだが、今歩いてる廊下一方通行なんだよなぁ。


 関わりたくないし、遠回りしてかえろ……。

 ふと、そんなことを思っていると、脳内に女神の声が聞こえてきた。

 

 ああ……今度はなんだよ。

 国の半壊救ったばっかだろ!

 ふざけんなよマジで!


【校外演習当日、コーリー大公爵嫡男、ウェルネス=フォン=コーリーが暗殺される】


《その場でバク転し、目の前の集団の注意を自分に向け、一気に接近。ウェルネス=フォン=コーリーを除いた三人を触手召喚で拘束し実力をアピール。校外演習の班に入れてもらう》


 俺……この世界嫌いだわ。

 

 

最後まで読んでくださりありがとうございました。


次の連載をどうしようか考えてます。

この物語の連載版が読んでみたいと少しでも思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。





https://ncode.syosetu.com/n0988hz/


他にも短編投稿してます。

「摩擦勇者は平穏を望む」

興味とある方よろしければ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ