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魔球オナラ球

作者: ヨッシー@

魔球オナラ球


魔球(まきゅう)

【意味】球技上で、相手を惑わせる特別な変化球のこと…


僕たちの青春は終わった。


カーン、

ボテ、ボテ、ボテ、

ゆる〜いボールが転がってくる。

学校のグランドの奥の奥。

パシッ、

一人の野球部員が、ボールを掴んで内野に投げる。

「ヘーイ」シュッ、

その背には、背番号は無い。


われら野球部補欠三人衆は、今日も球拾いに精を出す。

トンビの鳴き声がし、バッタが飛び回り、たまにヘビ。

田舎の高校のグランドとはこんなものだ。

空気がきれいで広い。

どんなに遠くまでボールが飛んでいっても、近所からの苦情はない。そりゃそうだ。グランドの奥は山だからな。

そうそう、猿は怒る。

今日も天気がいい。

先輩たちの下手くそな野球が見える。

あれは野球か?イチローが見たら激怒するぞ、

また、外した。

あ〜あ、早くあの前の方で練習がしたいものだ。

また外した、しかし下手だな、

あんなゴロ、小学生でも取れるぞ。

草野球か、っての、

背面キャッチをしている。取れない。イチローの真似をしているらしいが、下手くそで誰の真似だか解らない。

年功序列の我が校は、上級生は神様だ。

掃除、洗濯、グランド整備。先輩たちが卒業しない限りレギュラーの道はまだまだ遠い。

つまらない時間を費やし、僕たちの青春は無駄に消えていく。

そこで一句、

「草野球 そこのけそこのけ 先輩が外す」

「無駄、無駄、無駄、無駄」(ジョジョの奇妙な冒険より)

だが、

いつもの雑談は楽しい!

球拾いの間はエロ話三昧だ。鷹山は、どこからかエロい話を大量に仕入れてくる。

親戚のお姉さんの話や、東京のいとこの武勇伝。女子には、とうてい聞かせられない内容ばかりだ。耳年増の僕たちは、想像力だけは甲子園級。たまにグローブで股間を隠す。


校長先生だ、

皆、練習を止めて脱帽。

面倒くさい。

わが校が甲子園出場したのは30年前だ。

今だに、伝説が後輩たちに伝わっている。

甲子園1回戦突破、爽やか野球部!

町中が大騒ぎだったらしい。

オープンカーで町内をパレード、町長からの表彰状。校庭には石碑も建っている。

過去の栄光にすがる先生たちは、「リメンバー甲子園」が合言葉だ。今だ夢物語を忘れないでいる。

しかし、

現実は予選1回戦敗退の連続。

町の人たちの野球部への期待は年々消え、今や部員15人の弱小野球部に成り下がった。

先生たちに言いたい!夢を見ているうちに化石になってしまうぞ、

ゆる〜い、ゆる〜い部活。それが富宮山高校野球部だ。

ピッチャー志望の鷹山、キャッチャー志望の登志夫、そして、ライト志望の僕(町田)、それが、われら補欠三人衆だ。

そして、

校外での活動には別の名前がある。

「サンキュー3」だ。

誰が名付けたか不明だが、いつの間にかそう呼んでいる。

始めてマクドナルドのサンキューセットを食べた時、感動して付けたと言う説が有効だ。

ちなみに町内にマクドナルドはまだ無い。

隣町のマクドナルドまでは電車で30分。遠い(汗)

スターバックスなど夢の夢。

一時、モスバーガーができると噂があったが、人口が少ないので中止になったらしい。コンビニはある!「11ピーエム」だ。どう考えてもバッタモンコンビニだろう。田舎の住人が考える典型的なパクリ商法だ。結構、繁盛はしているが、売っているのは手作り惣菜弁当ばかり。

そんな僕たちはクラスも一緒だ。教室の最後尾が特等席。

隣町から転校して来た僕は、最近入部したばかりで新人だ。一人辞めた後、サンキュー3にも勧誘された。ちなみに野球経験はゼロ。

僕たちの青春はくすぶっている。


ある日の午後、

古典の長澤先生のお経の様な授業を受けていた時だった。

「なんまいだ〜」

クラスの半分以上が寝っている。長澤先生は催眠術の才能がある。いつの間にか、みんな眠らされている。恐るべきスペック!

で、その時だ、

鷹山が妙な動きをしていた。

机に座りながらピッチングフォームをしている。

シュッ、シュッ、

何をやっているんだ?

オーバースロー、サイドスロー、アンダースロー、

色々、試している。

長澤先生が黒板に板書し、背を向けると始める。

シュッ、シュッ、

振り返るとやめる。知らん顔。

あいつはアホか?

まあ、普段から行動がおかしな奴だが、今日は一段とおかしい。

シュッ、シュッ、

何だ?

よく見ると、長澤先生の髪の毛が、ふわり、ふわりとなびいてる。

見間違いか?

シュッ、シュッ、

ふわり、ふわり、

鷹山がピッチングフォームをするたび、時間差で長澤先生の髪の毛が、ふわり、ふわりと、なびいている。

この先生、頭のてっぺんが禿げており横から髪の毛をかき集めて隠している。

いわゆるバーコード頭だ。

その髪の毛が、

シュッ、シュッ、

ふわり、ふわり、

シュッ、シュッ、

ふわり、ふわり、

不自然に浮かび上がる髪の毛。

長澤先生、頭に手を乗せ、髪の毛の乱れを直す。

不思議そうな顔。

窓は閉まっている。扇風機は止まっている。

完全に無風状態だ、

「おかしいな、」独り言を言う長澤先生。

その事に気がついた男が、もう一人いた。

登志夫だ。

登志夫は、何を食べているのか、かなり臭いオナラをする男だ。

ニンニクやラッキョウが大好きで実家は肉屋をしている。無限にオナラができると、いつも豪語しているアホ2号だ。

登志夫は、野球部のサインで鷹山に合図を送った。

「何をしている」登志夫。

「実験だ」鷹山。

「何を、」登志夫。

「魔球だ」鷹山。

「魔球?」登志夫。

「じゃ、これを投げろ、」登志夫。

「何?」鷹山。

登志夫は、お尻をもじもじし手を添えた。

ううん、顔が赤くなる。

何かを掴み、こっそりと鷹山に手渡した。

ニヤリと笑う二人。

そして、鷹山がピッチングフォーム!

ビュッ、

時間差だ、

5、4、3、2、1…

ゲホゲホゲホ、ゲホ、

激しく咳を連発する長澤先生。

ゲホゲホゲホ、ゲホ、咳が止まらない。

そして、ひどく臭そうな顔。

涙目、鼻水、歪んだ顔がグチャグチャだ。

教科書で扇いでいるが、間に合わない。

シュッ、シュッ、

再び、ピッチングフォーム、

パキッー!

バーコード頭の髪の毛が垂直に立ち上がった。

「ひゃー」

慌てて、教室から逃げ出す長澤先生。

「何だ、何だ、」

教室内は、大騒ぎだ。

「幽霊でも出たのか?」

「どうした、どうした、」

僕は、その一部始終を目撃した。

大笑いの鷹山と登志夫。

ドヒャヒャヒャヒャー

サンキュー3のポーズ。(お互いの腕を組んで指を三本出し、眼にあてる)


部室、

「さっきのは何だったんだよ」

鷹山に尋ねた。

「ああ、魔球におい玉だ」

「ええっ、魔球?」

「登志夫のオナラが臭いの知っているだろう、」

「うん、」

「そいつを超スローボールで投げたんだんだ」

「少し時間はかかるが、確実に古典の長澤の頭に当てるんだよ」

「面白いだろうー」

思い出した。鷹山はコントロールが抜群に上手い男だ。ピッチングマシンの様に正確だ。

しかし、球速がかなり遅いので、実戦では、いつも打たれてしまう。

あれで、早い球でも投げればプロ野球から声がかかるかもしれない危篤な男だ。

だが、疑問が残る。

「投げてる間にオナラが散らばらないか?」

「大丈夫だ、ちゃんと回転をつけて中心に巻き込む様に固まりになって届くのさ、つむじ風の原理さ!」

「つむじ風?」

「におい玉を投げる時、中指に薬指を添え、人差し指を曲げながら手首を捻る」

「大リーグボールの進化版だ」

「大リーグボール?」

「そう、研究に研究を重ねて、やっと完成させた魔球『におい玉』だ、凄いだろう!」

確かに凄い、そんなバカバカしい事を研究すること自体が凄い。

その労力を野球の方に使えないのか、まったくアホな二人だ。

その日、学校中は、臭い幽霊の話でいっぱいだった。


県大会の季節が来た。

先輩たちが先生に励まされている。

「今年こそ、甲子園!」

「ウッス、」やる気がない返事。だるそうな先輩たち。

早く負けて、のんびり草野球をして遊びたい顔だ。

何のために野球部に入ったんだろう。高校球児は、「甲子園命」じゃないのか、まったく困った先輩たちだ。

OBから極上プリンの差し入れだ。

「暑いから早めに食べてね」

「頼むよ甲子園!」

「ウッス、」やる気のない返事。

鷹山と登志夫がニヤニヤしている。

また、悪巧みの表情だ。


数時間前、

「極上プリンは冷蔵庫に閉まっておいてね」

「ウッス」

鷹山と登志夫は、OBから極上プリンを受け取った。

ニヤリ、

すぐさま、鷹山と登志夫は、極上プリンを直射日光にさらした。

今日の日差しは強い。絶好の腐り日和だ。

ジリジリジリ、

極上プリンは程よく腐りかける。 

ファーストミッション終了。

次は、先輩たちにバレない様に、食べる寸前に、魔球で別の極上プリンの匂いを飛ばす。

校舎と校舎の間から、絶妙なタイミングと角度で先輩たちの鼻に魔球におい玉を投げる。

しかも6人も、

かなり難解なミッションだ。


セカンドミッション開始。

シュッ、シュッ、シュッ、

背の高い先輩、低い先輩、太っている先輩、

鷹山は数々の変化球を使い、タイミングも計算し、魔球におい玉を投げる。

距離も長い。

当然、匂いが飛ばないよう、つむじ風回転もつける。

シュッ、シュッ、シュッー

「いけー、」

鷹山が叫ぶ、

パッツン!全員に命中、

「美味そう!」

先輩たちは、誰も、そんな事をされているとは気づきもしない。プリンに大喜びの先輩たち。

僕たちには一つもくれない。全部先輩たちがたいらげる。

美味そうにプリンを食べる先輩たち。

5分後、匂いが消える時間だ。

5、4、3、2、1、

「うっ、これ腐ってねーか?」

「うっ、そーかも、」

「変な臭いだぞ、」

「うえー」

「気持ち悪〜」

「最初は、美味そうな匂いだったのに、」

「おかしいな?」

「何か、腹が痛くなって来たぞ、」

「俺も、」

「俺も、」

「俺もーーー」

バタバタバタ、トイレに駆け込む先輩たち。

「どうしたんだ、君たち?」慌てる先生。

ドヒャヒャヒャヒャー、鷹山と登志夫が笑い転げる。

「ざまーみろ、」

先輩たちは食中毒になった。6人入院。

釣吉先輩とキノコ先輩は、いい先輩なのでにおい玉は当てなかった。

あと、いつもいない東大先輩は間逃れた。

これで1、2年生を混ぜて9人だ。

ミッション成功、完全犯罪!


地区大会の準備、

ポジションを殿山監督が発表する。

「ピッチャー釣吉」

「キャッチー登志夫」

「ファースト、富田」

……

「セカンド、鷹山」

「ライト町田」

やった、レギュラーだ!

当たり前か、9人しかいないからな。


組み合わせ抽選会。

男前高校野球部と隣り合わせになった。

「お前ら、まだ居たのか。とっくに解散したかと思ったぜ、ガハハハハ」

男前高校キャプテン佐久間が吠える。

こいつら、30年前に甲子園出場を奪われた恨みを今だ後輩たちに伝授し、我が校を恨んでいる。

いつまで恨んでいるんだ。納豆のようにしつこい奴らだ。

釣吉先輩が、クジを引いた。

「あっ、」

よりによって、一回戦、男前高校との対戦だ。

しまった、

男前高校は、昨年ベスト8まで行った強豪校だ。

「終わった…」

釣吉先輩が、ガックリしている。

「鼻くそども、こてんこてんにしてやるからな!コールド記録だぜ!」佐久間が吠える。

男前高校の野球部員が大いばりして出て行った。

部室、

困ったぞ、

せっかく、レギュラーになったのに、一回戦負け。しかもコールド負け。

実力では到底勝ち目は無い。明らかに負ける。

僕たちは全員、ロダンの考える人になった。

「うーん」「ふーん」「ぷーん」

ブゥー、プゥー、スゥー、登志夫がオナラをした。

ゴボゴボゴボ、ゴホ「臭えなぁ、まったく〜」

「すまん、すまん、」

「お前のオナラは凶器だよ。まるで兵器だな」鷹山が言った。

「そうだ!」

「何だ」

「オナラでいこう」

「何?」

「オナラだよ、」

「そんな物、どうやって使うんだよ」

「男前高校の攻撃の時、キャッチーの登志夫がオナラをするんだよ」

「すると、臭くてバッティングどころじゃなくなくなるだろう」

ドヒャ、ドヒャ、ドヒャ、

大笑いの二人。

「しかし、そんな上手いタイミングでオナラが出るのかい?」

「練習するんだよ、大会まで」

「出来るかな?」

「できるよ、練習だ」

「うん、解った」

「オイラも魔球を作るぞ、」

「におい玉改め、オナラ球だ!」

エイエイオー、掛け声の二人。

「普通に、野球を頑張ればいいんじゃないのかい?」町田。

「無理だよ!」ハモる二人。

何かおかしい。


試合当日、

「すんませーん」

鷹山と登志夫が遅れてやって来た。ドロドロのユニホームだ。たくさんのさつま芋とニンニクを担いでいる。あと、ラッキョウの酢漬け。

「来ないかと思いましたよ〜」殿山監督。

「すんませーん」ニヤニヤ、

「それは何かね?」

「へへへ…」


「プレイボール」試合が始まった。

先発、釣吉先輩。

釣吉先輩は、釣りが得意だ。

その釣り竿を投げる投法を利用したピッチング、釣り竿投法だ。

ビュッ、

「なかなかいい球を投げるぞ、」男前高校が驚いている。

我が富宮山高校は後攻だ。

「男前高校 一番ショート、速水君」アナウンサーの声。

タッタッタッタッ、地走り。足が早そうな奴だ。

「ピッチャー釣吉君、振りかぶって投げたー」アナウンサーの声。

ビュン、

「ストライーク」審判。

インコース低めギリギリ。なかなかのコースだ。

ビュン、2球目。

カキーン、センター前。

「走れ走れ、ヒットだ」男前高校が騒ぐ。

その時だった。鷹山と登志夫がニヤリと笑った。

「今だ、」

プウ、

登志夫がオナラをした。

ゲホゲホ、ゲホ、

激しく咳をする速水。苦しくて、まともに走ることが出来ない。

ふらふらふら〜

ボールがファーストに来た。

パシッ、「アウト、」

「くそ〜ゴホゴホ…」悔しそうな速水。

くっ、くっ、くっ、くっ、

鷹山と登志夫が笑いをこらえている。

「二番セカンド、河合君」アナウンサーの声。

こいつは、バンドが上手い。

一球目、ビュン、

コン、

「あっ、バンドだ」

「しまった、オナラを準備していなかった」登志夫がぼやく。

タッタッタッタッ、「セーフ」

ランナーが出てしまった。

「リーリーリーリー、」走る気満々の河合。

鷹山と登志夫がニヤリと笑う。

シュッ、

キャッチャー登志夫が、けん制球のマネをする。

パシッ、何故か、それを受け取る鷹山。

シュッ、投げるマネの鷹山。

5、4、3、2、1…

パッツン、

ゲホゲホゲホー、激しく咳をする河合。

実は、鷹山は登志夫からオナラ球を受けて、それを河合の顔に投げていたのだ。

ゲホゲホゲホー、

苦しくて、まともに走ることが出来ない河合。

ふらふらふら〜

ファーストがタッチする。

パシッ、「アウト、」

悔しそうな河合。

くっ、くっ、くっ、くっ、

鷹山と登志夫が笑いをこらえている。

不思議そうな顔の男前高校。

まったく、あきれた野球だ。

……

……

僕たちの攻撃になった。

ストライク、バッターアウト、

ストライク、バッターアウト、

立て続けに三振。

「三番、キャッチー登志夫君」アナウンサーの声。

ビュン、ビュン、

登志夫がバットを振る。登志夫は太っているので力がある。

カキーン、

当たった、ピッチャーゴロだ。

「走れ、走れ、」

ドタドタドタ、

「こんなゴロ、アウトだぜ」男前高校のピッチャーが難なくこなす。

「今だ!」鷹山が叫ぶ。

ブゥーーーー、長いオナラをする登志夫。

スジ状のオナラが風向きでがピッチャーの顔に絡まる。

ゲホゲホ、ゲホ、

悪送球、ファーストが外した。

「走れ、走れ、」富宮山高校ベンチ。

ドタドタドタ、走る登志夫。

プップップッ、

やっと追いつくファースト、ボールを投げる。ゴホゴホゴホ、苦しそう。

ブゥーーー

二塁前で、再びオナラをする登志夫。

ゲホゲホゲホ、ゲホ、

ボールを外すセカンド。

「走れ、走れ、」

ドタドタドタ、

登志夫、三塁前まで来た。

ブゥ〜ブブゥ、渾身の一発、

ゲホゲホゲホーホ、

バタッ、サード失神。

ドタドタドタ、

「ランニングホームラン!」

「何なんだよ!」怒り出す男前高校たち。

「あいつら何か毒ガス出してます」男前高校が審判に抗議した。

審判が登志夫のボディーチェックする。

しかし、何も持っていない。

「ノープロブレム」

くっ、くっ、くっ、くっ、

鷹山と登志夫が笑いをこらえている。

悔しがる男前高校たち。


次の回から、

男前高校は全員、鼻に洗濯バサミを付けてバッターボックスに立ってきた。

ズバッ、三振。

どうもやりづらいようだ。なかなか、累に出れない。

塁に出ても、登志夫から鷹山への連携オナラ球で、アウト連発だ。


七回表、

0対1、一点差で勝っている富宮山高校。

釣吉先輩に疲れが出てきた。

釣竿投法にも限界が来たようだ。キノコ先輩たちにも疲れが出ている。東大先輩は勉強している。

野球部サイン、

「どうする」登志夫。

「あれを使うか」鷹山。

「あれって?」登志夫。

「あれだよ、」鷹山。

「オナラ球だよ、」鷹山。

「ええっ、ここでか?」登志夫。

「そうだよ、」鷹山。

「ここで使わず、いつ使うんだよ!」鷹山。

「よし、解った」登志夫。

殿山監督に伝えに行く、登志夫。

「ピッチャー、鷹山に交代して下さい」

「はい、頑張ってね、」相変わらずゆるい殿山監督。

審判に連絡、

「ピッチャー交代、鷹山君!」

「おおー、」歓声が上がる。

「よし、登志夫。オナラ球用意、」

「OK、」

ビュンビュン、

男前高校の吉川がバットを振る。打つ気満々だ。鼻には洗濯バサミを2つ付けている。

「いくぞー」

「鷹山君、振りかぶって第一球投げたー」アナウンサーの声。

ヒューーッ、

「遅いー」

吉川のバットが宙を切る。

「いけー、魔球〜オナラ球ーーー!」鷹山。

その時だった。

シュン、

消えた?

オナラ球がホームベース上で消えた。

すると、バコココッ、突然、吉川の鼻の洗濯バサミが弾け飛んだ。

唖然とする審判。ボールはキャッチーミットの中にある。

「ス、ストライーク!」審判。

何が起きたんだ!


解説しよう、

鷹山が投げたオナラ球が、ホームベースに近づいた時だった。急速に回転速度を上げたオナラ球は、辺りの土ボコリを巻き上げ、ホコリ内のケイ素、カリウム、ナトリウム、マグネシウムと、オナラ球のメタン、硫化水素、酪酸、アンモニアが結合し化学反応を起こした。空気中の酸素も添加剤となり、ミニダウンバースト現象を起こした。

静電気を帯びたミニダウンバーストは、一種の電子暴走を始め、今度は、その遠心力で再びボールとオナラ玉に分離した。別々の方向に飛び出す球たち、

そう、分身!

一つはキャッチーミットへ、もう一つは吉川のバットから腕、そして、顔に!

バコッーー

オナラ玉は、川を遡る鮭のように、勢いよく吉川の顔にぶつかった。

ギャラクティカマグナムー(リングにかけろ)を、受けたかのように吹っ飛ぶ吉川。

「これが、進化版オナラ球2号だー」叫ぶ鷹山。

「凄い、本当に凄い。あきれた魔球だ」町田。

「ゴホゴホゴホ、何…が…起きたん…だ」

「ボ、ボールが消えて、くさい…臭いが…」ふらふらの吉川がぼやく。


「これが、魔球オナラ球2号だ!」鷹山。


二球目、ビューン、

バコッーー吹っ飛ぶ吉川。

「ストライーク、」審判。

三球目、ビューン、

バコッーーッ

「ストライーク、バッターアウトー」

すっかり怖気付いた吉川は、なすすべも無く三振した。

鷹山がニヤリと笑う。


そんなんで、最終回、

0対1、いまだ、一点差で勝っている富宮山高校。

「あと二人、」

パシッ、登志夫からオナラ球を受け取る鷹山。

「あれ、何か臭いが薄いぞ」

登志夫が、青い顔をしていた。

「三番サード坂本君、」アナウンサーの声。

ビューン、

「ストライーク」

坂本は、ベースからかなり離れている。

オナラ球2号が届かない距離だ。

ビューン、

「ストライーク」

「ツーストライクだ。あと一球、」登志夫。

ビューン、

あっ、身体が、

ドカ、

「デッドボール、」審判。

男前高校は、オナラ球2号が打てないのでデッドボール作戦に切り替えたのだ。

「ちくしょう、卑怯な手をする」

坂本が一塁へ走っていく。

ワンアウト一塁、

最大のピンチ。

野球部サイン、

「どうした登志夫、顔色が悪いぞ」鷹山。

「大丈夫だ、ちょっとお腹が痛いだけだ」登志夫。

「そうか、頼むぞ、」鷹山。

「ああ…」登志夫。

実は、登志夫はオナラのし過ぎで、腹痛を起こしていたのだった。

「四番センター岡本君」アナウンサーの声。

ビューン、

男前高校4番バッター岡本だ。

打つ気満々の岡本。

「よーし、オナラ球2号」

ビュン、

カーン、打たれた。

やはり、登志夫のオナラ臭が消えていたのだ。

青い顔の登志夫。

「男前高校、代打 佐久間君」アナウンサーの声。

佐久間だ、キャプテン佐久間だ。

今まで、僕たちを馬鹿にして出ていなかったのだ。

鼻の穴はロウソクでガチガチに栓をして固まっている。あれは取れない。

鷹山と登志夫がマウンドに集まった。

「すまん、俺のオナラも、もう限界だ。在庫ゼロだ」真剣な表情の登志夫。

「解ったよ、なんとかするよ」真剣な表情の鷹山。

寝ている殿山監督。

鷹山、汗を拭き手首を回す。

「いくぞ!」

「ピッチャー鷹山君、大きく振りかぶって投げたー」アナウンサーの声。

ビューン、

カーン、

「ファール、」審判。

もうだめだ、オナラ球は魔球では無くなった。ただの緩い球だ。

「惜しいな、あと少し」佐久間が吠える。

タオルで汗を拭く鷹山。

「鷹山君、第二球投げた」アナウンサーの声。

カーン、

大きい、ライト線ギリギリだ。

「ファール」審判。

「惜しいー、だんだん感が戻って来たぞ、へへへ」佐久間。

野球部サイン、

「すまん鷹山」登志夫。

「気にするな、登志夫」鷹山。

「どうする」登志夫。

「何とかするよ」鷹山。

鷹山、ボールを掴みゆっくり天を仰ぐ。

「よし、」

「鷹山君、振りかぶって第三球投げたー」アナウンサーの声。

シュッ、

「遅いー、超スローボールだ」アナウンサーの声。

ヒューーーーーーーッ

「こんなスローボール、ホームランだー!バカ富宮山高校!ガハハハハ」佐久間が吠える。

ヒューーーーーーーッ

「ガハハハハーーー」佐久間のバットがボールに近づく、

5、4、3、2、1、

ストン、

ボールが落ちた。

ズバッ、

「空振りー」アナウンサーの声。

「フ、フォーク…ボール?」佐久間。

ボテ、ボテ、ボテ、

ゆる〜いボールが転がる。

パシッ、

登志夫がボールを掴んでタッチする。

「ヘーイ」

「タッチアウトー、試合終了!」審判の声。

「勝った、男前高校に勝った」

走り出す、みんな。

「何だ?どうした、試合終わったのか?」眠っていた殿山監督が目を覚ます。東大先輩も勉強をやめた。

「やったー」僕たちは、飛び跳ねて喜んだ。

抱き合う三人。サンキュー3のポーズ。

「野球っていいね、」

「ああ、最高だ、」

「最後だよ」

「えっ?」

鷹山が言った。「魔球オナラ球は、封印するよ」

「これからは、超スローボールで勝負だ、」

「がんばれよ」

「うん、」


僕たちの青春が、始まった!

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