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9 スリール子爵の家を訪ねる

 スリール子爵曰く。

 派手で明るい人気者の高級娼婦アルマヴィータには常にパトロンがついていた。


「薔薇か椿か…… 何というか、近づきたいけどなかなか手が出せない、という感じの女性だったんだ」


 スリール子爵は二杯目の茶を口にしながら話し出した。


「私もまだ法科の学生で、うちは子爵と言っても家も小さい、父の遺産で生活と学費がぎりぎり、という程度だったから、まあ彼女に相手にはされない、と思っていたよ。それでも一度でいいから、と頼み込んだんだ。彼女からしたら、よれよれの服にぼさぼさ頭の男が真っ赤になってそんなことを言ってくるのがおかしかつたらしいね。二、三度は言葉を交わしただけで終わってしまって。ただ、彼女はどういうところが好きなの、とともかく聞きたがったね」

「母が?」

「うん。他のひとにどうかは判らないけど、少なくとも私にはしつこくそれを聞きたがり、誰よりも、とかどのくらい、とか私の語彙を試す様にね。専門らしいところを見せなさい、って。いや専門ったって、詩人じゃないんだから、と言ったのだけど」


 そして一度自分の家に来て欲しい、と用事を済ませた帰り際、スリール子爵は私に言った。

 住所と地図を書き、自分は居ないけれど、常に母は居るから、と。



 私はそれから少しして、スリール子爵の家を訪ねた。

 街中の、縦に細長い家。


「はいどなた」


 そう言って四十代くらいの雑役女中が出てきた。


「あの、私ミュゼットと言います。キャビンさんの紹介で、子爵様に一度自宅にいらっしゃいと言われて」

「ああ! 奥様! 奥様!」

「何なにどうしたの、マーサ」

「坊ちゃまが話していたお嬢さんがやってきましたよ」

「え、そうなの」


 以上の会話が丸聞こえだ。

 縦長の家の一階は、そのくらいの広さしかないらしい。

 ぱたぱたぱた、と夫人が玄関までやってきた。


「まあまあ貴女が…… !」


 スリール夫人は息を呑んだ。

 私はどうしたのだろう、と首を傾げた。


「アビー……? アビーなの?」

「アビー?」

「奥様、この方がミュゼットさんですよ」

「あ、……ああ、そうね。あの子である訳がないからね…… さあさあ入って、お茶を淹れるわ」


 ありがとうございます、と私はそのまま応接に呼ばれた。

 こぢんまりとしているが、それでも落ち着いた家具、暖かい色合いの刺繍のタペストリ、古風だけどこの家にしっくり来る時計…… 何となく、とってもゆったりとした気持ちになれる部屋だった。

 大きさから言ったら、子爵家の何分の一という程度しかない。

 だけど私はこのくらいが一番落ち着けると思う。

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