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8 聞けば聞くほど

「お茶を淹れるのが上手いね。それにここに来てもそうそうお菓子まで出ることは無かったんだけど」

「あ、いえ私が好きなのでつい作ってきてしまって」

「ほう! 君が作ったの!」


 そう言いつつ、にこにことスリール子爵は私を眺める。

 しかし眺められているだけでは間が保たない。

 だったらいっそ、もう最初に感じた疑問を口に出してしまおうと思った。


「あの、本当にさっきから私の顔をよくご覧になってますが……」

「ああごめんごめん。君があまりにもうちの母親の若い頃によく似ているから」


 ほらどうだい、とスリール子爵は私に手帳に挟んだ写真を見せる。

 かなり古いものだ。


「両親が揃った写真というのがあまり無いのでね、つい若い頃のものでもいいから、と母に頼んだんだ」

「え、では今は子爵には」

「父はもうずっと前に亡くなってね。母と二人暮らしなんだ」

「二人暮らし、ですか」

「まあ、子爵とは名ばかりの貧乏学者のところにはそうそう嫁の来手がなかったからねえ」


 そしてふっ、と遠い目をした。


「子爵様は学者様なんですか」

「そう。母にどれだけお前はもてないだ、と嘆かれたよ。付き合ったひとも殆ど居なかったし」


 私は何度も写真と子爵の間に視線を往復させてから、こう切り出した。


「でも全く居なかった訳ではないのでしょう?」

「うん、まあ。でも向こうは遊びだったんだろうねえ。私は好きだったけれど。彼女を狙っていた男は結構居たし」

「もしかして、そのひとってアルマヴィータって言いませんでした?」


 子爵はカップを置いた。


「え?」

「お付き合いしていたのって、十五年かもう少し前のことでは」

「君……」


 緊張した空気が私達の間に漂った。

 その時。


「ただいまミュゼット! アリサに頼まれた資料、ちゃんと見つけたよ」


 キャビンさんが戻ってきた。


「ミュゼット?」


 その名前にスリール子爵は更に目を見開いた。


「君の名前、ミュゼットって言うのかい?」

「え、ええ…… ちょっと変わっていると言われますけど」


 そう。

 この国の名前らしくないのだ。

 まあそれを言ってしまえばファデットにしてもマルティーヌにしてもフランス人だし、ドロイデはドイツ方面の名だ。

 ハッティはわからないが、ロッティはシャーロットで普通の名だ。

 なのだけど。

 マルティーヌに言わせると、


「わたしの国でそういう音楽が流行ってるとかどうとか」


 そう言っていた。


「もしかして、君、アルマヴィータの娘なのかい?」

「はい」


 それは事実だからうなづいた。


「そうか…… それで彼女は離れていったのか……」

「離れていった?」

「ああ。16年前、私は大輪の花の様な彼女に恋してね。数回ようやく付き合ってもらったんだ。人気者だったからね」

「え…… と」


 つまり、だ。


「貴方は私の本当の父かも、ということですか?」

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