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6 子爵家と弁護士事務所を行き来することになる

 そうこうするうちに、アリサから何かと手紙でお願いされることが多くなってきた。


「まあアリサお嬢様の言うことだし、言ってらっしゃい」


 ぎくしゃくしている間もマルティーヌは内職よりそちらを優先させた。

 いずれにせよ、子爵家へのつなぎは取りたかったのだろう。

 それが最近までアリサと一緒に住んで働いていたなら彼女の様子も説明できるし、と。

 しかしアリサは割と簡単に言ってくれたが、結構あっちこっち動く羽目になった。

 まずは子爵家。

 最初に本宅の方へ行った。

 まずそこで、アリサの祖母にマルティーヌからの紹介状を見せた。


「……まあ貴女、そんなことに……」


 まだ五十代だというアリサの祖母は、私の事情を聞くと「敵が同じなら仲間」とばかりにあっさり子爵の蟄居先へと案内してくれた。

 そしてアリサの疑問に答えるべく、弁護士のオラルフ氏も紹介してくれた。

 ラルフ・オラルフという早口言葉の様な名前のこのひと、子爵の失脚当時の顧問弁護士の孫にあたるのだという。

 失脚時に引退した祖父の跡を継ぎ、この十年の間にできるだけ力をつける様にと言われているらしい。

 なのでまだ若い。

 三十にもなっていないのだと。

 私からみたら充分大人過ぎる程大人だが、その筋では若僧に過ぎないらしい。


「男爵の過去ですか」


 そういう話は事務所でまとめましょう、ということで向かったら、共同経営しているひとが居た。

 カムズ・キャビンというひとはオラルフ氏の法科の後輩に当たるとのこと。


「今はちょうど担当している案件も無いから」


と、彼も手伝ってくれた。

 さすがに何から手をつけたものか、と思った。

 何せ昔のことだ。

 そして結婚当時の男爵は、成り上がりと言われていて大した知り合いもいなかったということ。

 ではその辺りを良く見ていたのは?

 ということで「男爵を批判的に見ていた」アリサの母夫人の友人に当たることにした。


「覚えているかしら」

「俺は本当に好きだった昔の友達のことならちゃんと覚えてますがね」


 キャビン氏はそう言った。


「ミュゼットさんは十年先に、アリサさんのことを忘れますか?」


 それはない、と私は即座に否定した。

 アリサも私のことをそう簡単には忘れないだろう。

 そんな気がしていた。

 あの屋敷の中で二年だけだけど、ほぼ同じ歳で、似た境遇に陥った私達だ。



 それからはこの弁護士事務所と子爵家を行き来する日々だった。

 アリサの母夫人のことは子爵夫人に。

 そしてそこから得た情報は事務所の方で逐一まとめ、アリサあての手紙もついでに綴って行く。

 時には子爵家で泊まって行けばいい、と言われることもあった。

 だが、一度だけ厚意に甘えた時、「これは無いな」と思った。

 ここは男爵家とは違う。

 本当のきちんとした貴族の館だ、と感じたのだ。 

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