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ダヴラフィからの呼び出しと依頼

「ごきげんよう」

「あっ、リトリス!」


 翌日、リトリスはエルに話しかける。

 今日はベインも一緒だ。


「あなたのために、これを持ってきて差し上げましたわ」


 リトリスは魔術杖をエルに差し出した。


「えっと……なんだ、これ」

「魔術杖ですわ」

「これが魔術杖なのか。見たことがなかったぜ」


 エルは魔術杖を受け取ると、簡単な装飾があしらわれただけのその金属の棒をまじまじと見つめる。


「それをあなたにお貸し致しますわ」

「ありがとよ……それで……これが一体なにになるんだ?」

「ワタクシはその杖の中を通るまりょ……えー、神の力を意識することで魔術と自分の間にある繋がりというものを意識できるようになりましたの。ワタクシの魔術のコントロールの上達はすべてこの特訓のおかげですわ」

「そんな方法があったのか!?」


 エルは自らの手に持った僅かに装飾された金属の棒を見つめる。


「これで魔術が上達できるんだな……本当に助かった!」

「特訓の成果が実感できたら返してくださいまし。あとはセンスの問題ですから、ワタクシから言えることは何もございませんわね」

「ああ、十分だよ!」


 エルは上機嫌で魔術杖を持って自らの席へと戻っていく。


「まぁ、ワタクシにできることはこれくらいですわね。あとはエル次第でしょう」

「リトリスもまだまだ試験に向けてやることは多いからな」


 そう、リトリスもまた魔術を上達しなくてはならない。

 今度こそSクラスに確実に入らなくてはならないのだ。


 そのとき、後ろからリトリスに声をかける者が現れた。


「リトリス・マギ・コーデリア。放課後、話をする時間を作ってもらえないか」


 そこに立っていたのはダヴラフィだ。


「ダヴラフィ先生、研究室に入るお話はお断りしたと思いましたけれど」

「それとは別件だ。改めて話がしたい」

「分かりましたわ」

「では、放課後にオレの部屋に来てくれ」


 ダヴラフィはそれだけ言って去っていく。


「リトリス、なにかしたのか?」

「いえ、心当たりはありませんわね。一体何のお話か検討もつきませんわ」


*


 放課後、リトリスはベインを連れてダヴラフィの部屋にやってきた。

 ダヴラフィの研究室に隣接するその部屋は、たくさんの書類や本が並べられている。

 しかし、そのどれもが几帳面に整理されていた。


「呼び立ててすまないな。とりあえず、座ってくれ」


 言われたままにソフィに座るリトリス。

 ベインは後ろで立って話を聞こうとしたのだが……


「リトリス・マギ・コーデリア、これからするのは重要な話だ。従者は部屋の外で待機させておいてくれないか」


 ダヴラフィの話はよほど重要らしい。

 ベインはそれ聞いて部屋から出ていこうとする。


「ベイン、止まりなさい。それがどのくらい重要な話かは分かりませんけれど、従者が聞いたらそんなにまずい話なのかしら?」

「……この話は外に漏らすわけにはいかないんだ。その従者は信頼できるのか?」

「ええ、ワタクシはベインを信頼しておりますわ」


 そう凛と答えるリトリス。

 ベインは、リトリスがそう言ってくれたことが嬉しかった。


「……仕方ない。従者の同席も認めよう。従者の君も一緒に座ってくれ」


 ベインはリトリスの横に座った。

 一方のダヴラフィは小さなテーブルを挟んでベインたちと向かい合うように座る。


 そして、懐から何かを取り出してテーブルに置いた。


「まずはこれを見てほしい」

「これは……王印ですの!?」


 テーブルに置かれたものは金の装飾で縁取られた小さな水晶のようなものだった。

 リトリスはそれを手に取り、水晶部分を覗き込む。


「確かに本物の王印ですわね。国王の命令で動いていることの証明品……ワタクシも見たのは初めてですわ」

「オレは国王から依頼を受けて様々なことをこなしている。冒険者をしていたことがあるのも、こうやって教師になっているのも、すべて任務のためだ」


 ダヴラフィは大公家でありながら冒険者や教師をやっている変わり者として知られていたが、まさかそんな事情があったとは知らなかった。


「そして、今オレに課されている任務は第一王子の護衛だ。王子はすでにこの学院の生徒として生活している」

「第一王子? 生徒にそんな要人がいらっしゃいましたの?」

「ああ、一般の貴族だと身分を偽って、今年秘密裏に入学することになった」


 つまり、今年入学した生徒のうち、誰かが王子というわけだ。

 リトリスは生徒の顔を思い出したが、心当たりのある人物は居なかった。


「本来、オレに任された護衛任務はただ第一王子を見守るだけの簡単な仕事のはずだった。だが、入学直前……第一王子が何者かに殺害されかけたんだ」

「!?」

「なんとかオレはそれを阻止し、敵が誰なのかを徹底的に調べ上げた」

「一体、誰だったんですの……?」


 ダヴラフィは一呼吸置いて答えた。


「第二王子だ。自らが王位につくため、第二王子は第一王子の殺害を企てている」


 驚くべき話ではあったが、信じられない話ではない。


 一般的に、この国では第一王子に王位継承権が与えられる。

 第二王子以下も十分な身分が与えられるとは言え、決して王位を継ぐことができない。

 その例外があるとすれば、王位継承より前に第一王子が死ぬことだった。


「これも伏せられているが、現在国王は病でもう長くはない。第二王子はその状況を見て第一王子の殺害を企てたというわけだな」

「だったら、第一王子は魔術学院に来ている場合ではないのではなくて?」

「いや、どちらにしても殺害される危険性がある。それならば、魔術学院に居たほうがまだマシだと判断したわけだ」


 国王がもう病で先が長くないという情報は、大公家であるリトリスですら知らなかった事実だ。

 それを知っているダヴラフィは、本当に国王の(めい)で動いているのだろう。


「だが、困ったことに第二王子は大公家すら仲間に引き入れていることが判明したんだ」

「まさか……! 大公家が王族殺しを企てるなんて、あり得ませんわ!」

「しかし、実際に第二王子は大公家であるマグヴァリス家とリステスフォン家を取り込んでいる。王になった暁にさらなる地位と権力を保障すると言ってな」

「マグヴァリス家とリステスフォン家!? まさか、大公家の半数が王族殺しを企てていると?」

「そのまさかだ。だからこそ、オレには一緒に動く仲間が必要なんだ。お前を研究室に誘ったのも、最終的にはオレの仲間になってもらうためだった」


 つまり、ダヴラフィは最初からリトリスを仲間に引き入れるつもりで動いていたのだと言う。


「お前はトリプルだし、成長の見込みがある。入学試験のときにお前しか居ないと直感で感じたよ。お前がコーデリア家だったのは偶然だ。しかし、二つの大公家に対抗するにはこの上なく適任でもある」


 この国にある四つの大公家。


 リトリスの居るコーデリア家。

 ダヴラフィの居るオルデガルト家。

 ロシュールの居るマグヴァリス家。

 そして、残るリステスフォン家。


 もしリトリスがダヴラフィに協力するのであれば、図らずも大公家をちょうど半分に割る戦いになる。


 この事の重大さを、リトリスは理解していた。


「……なるほど、お話は分かりましたわ」

「何にしても、オレだけでは王子の護衛に限界がある。こうなった時点で生徒の中にも一人協力者が必要だった。リトリス、仲間になってくれないか」

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