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Dクラスのエル

 月夜の霧雨亭を訪れて数日。 

 リトリスは魔術杖を使って魔術のコントロールの特訓に励んでいた。


 成果としては、さすがはリトリスと言ったところか。

 魔術杖を使ってすぐに、魔術と自身の繋がりというものを意識できるようになっていった。

 そこからの成長も早く、順調に日々魔術のコントロールが増している。


 そんなある日の放課後のことだった。


「オイ、お前リトリスだよな」

「どなたですの……?」


 教室から出ようとしたリトリスが呼び止められる。

 今日はベインが別行動をしているので連れてきていない。


 失礼にもお前呼ばわりでリトリスを呼び止めたのは、同じDクラスに所属する銀髪の青年だった。


「オレは、エルレ……違う、えーと……エルって言うんだ」

「同じクラスですわよね。ワタクシに何の用ですの?」

「オレに魔術を教えてほしい」


 エルと名乗った青年の用事はシンプルだった。

 だが、それを聞いてリトリスは疑問を浮かべる。


「はい……? 魔術学院に居るのですから、教師方に聞けばいいじゃないですの」

「違うんだよ。なんて説明すればいいかなぁ。最近のお前の魔術の上達……教師に聞いたからできるってもんじゃないと、オレは思ったんだよ。一気に魔術の操作が上手くなってるだろ?」


 確かに、リトリスは魔術杖を手に入れてからメキメキと魔術のコントロールが上達していっている。

 授業でも担任の教師が「トリプルな上に魔術操作の上達も早い。逸材ですね。入学試験では何か大きなミスでもしたんですか?」と言っていたほどだ。


 エルはそのリトリスの様子をしっかりと見ていたらしい。


「言葉にすると恥ずかしいけどよ。オレははっきり言ってDクラスに相応しい実力しかない。だけど、お前はもっと上に居るべきだと思うんだ」

「なかなか、分かっておりますわね」

「絶対次の試験ではお前はクラスが変わると思う。だから、Dクラスであるうちに、お前に魔術を教えてほしいんだ。これはオレの勘でしかないんだが……お前に聞けば魔術が上達できる気がするんだよ」


 エルの目は真剣だ。


 リトリスはそれを見て、魔術が使えなかった頃の自分を思い出す。

 人のことをお前呼ばわりするなど礼儀はなっていないが、エルの言葉からは確かに真剣さが感じ取れた。


 それに、リトリスに目をつけたエルの勘もあながち間違っていない。

 中々人を見る目というのがある人物のようだ。


「エル……と言いましたか。ワタクシもまたただの生徒。人に教えるほど魔術に精通しておりませんわ」

「そんなこと言わずに……!」

「……しかし、考えておきますわ。本当に魔術を上達したいという覚悟があるのなら、ワタクシも少しくらいは協力してあげてもよろしくてよ」

「ああ! 覚悟ならある。オレは絶対に結果を残さないといけないんだ!」


 やはりエルには、本気で魔術を上達したいという熱意がある。

 それならば、リトリスとしても協力してあげたい気持ちはあった。


 とはいえ、リトリスとしても新魔術理論は身につけている最中で、人に教える時間は惜しい。

 自身の時間を割くほどの余裕はなかった。


 それでも、魔術杖を貸してあげるくらいのことはできるだろう。

 魔術杖がなくてもリトリスは魔術との繋がりを意識できるようになっているので貸しても大きな問題はない。


 まずはベインに相談してみよう。


「それでは、ワタクシは今は失礼いたしますわ。また明日、教えて差し上げましょう」


 その場を後にしたリトリスは、ベインにどう話をするか考えていた。


*


 部屋に戻ると、まだベインは帰っていなかった。

 仕方がないので、リトリスは一人で魔術の特訓を続ける。


「魔術杖がなくてもだいぶ体の外の魔力というものを意識できるようになってきましたわね」


 リトリスの手の先には水の球が浮かんでいる。

 ウォーターボールと言われるそれを、リトリスはすでに身につけていた。


「そういえば、魔物図鑑には熱湯を発射する魔物というのもいましたわね」


 魔物図鑑の内容を思い出し、ここからさらなる発展を意識する。


 この水をお湯に変えられないか。


 リトリスは浮いている水の球を巡る魔力に変化を加えてみる。

 どうすればお湯にできるのかなど皆目検討もつかないが、色々と試してみるしかない。


「お湯にするというのはイメージがつきづらいですわね……」


 どうも、水の球は変化していないように見える。


 ……体の外の魔力を意識できるようになってから、魔術の変形や移動はある程度簡単に行えた。

 例えば、水を球形にして浮かせるには、魔力の流れを球に沿わせて動かす。

 魔術と自分がつながっている意識というのがあれば、割とそれ自体は難しいことではなかった。


 しかし、水をお湯にするとなると一体どんな魔力の流れが必要なのか?


 リトリスは頭を悩ませつつも、とにかく魔力を動かして試す。


「あっ……」


 そうこうしているうちに、集中力が途切れて水の球はバシャリと床に落ちてしまった。


「外でやればよかったですわね。屋内なら光で試すべきでしたわ」


 リトリスは布で濡れてしまった床を拭く。

 それでもめげずに、次は光の魔術を使って操作の訓練を始めた。


 こうして、一人でもリトリスの特訓は続いていく……


*


 しばらくリトリスが特訓を続けていると、ようやくベインが帰ってきた。

 リトリスは特訓を切り上げて、エルについて話をする。


「そんなことがあったのか」


 ベインは何か買い出しにでも行っていたのだろうか。

 鞄から色々な物を取り出して整理していた。


「この魔術杖を使った特訓方法は、ワタクシ以外にも使えるんじゃないですの?」

「ああ、確かに使えるとは思うが、リトリスの才能が飛び抜けているだけだとも思う。同じようにやったからって上達するとは限らない」


 ベインは考える。


 リトリスは才能があったのはもちろんのこと、魔術が使えなかったからこそ常識にとらわれることなく、最初から魔力を意識することができていた。

 しかし、エルのように魔術師として魔術を自然に使っていた者は、逆に魔力を意識するのが難しいのではないかと思う。


 エルにセンスがないとは言い切れないが、苦労はするだろう。


「それでも、魔術杖を貸すくらいならやってもいいんじゃないか? 新魔術理論のことを話すのは危険だが、話さなくても今回なら問題はないしな。魔術杖があれば魔術との繋がりが意識することはできるようになるかもしれない」

「それなら良かったですわ。エルに魔術杖を貸してあげることにしましょう」


 リトリスは話題を終えて一息つく。


 しかし、すぐにベインの近くまで行くと、ベインの肩を叩いた。


「そうだ。ベイン、これを見るのですわ!」

「おお、それはライトリザードの技の再現か!? さすがの上達だな」

「ワタクシにかかればこんなものですわ!」


 いつもと変わらぬ日常。


 リトリスは一歩ずつ前に進む。

 ベインはそれを支える。


 こうして、一日が過ぎていった。

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