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ベイン、お前は魔術学会から追放だ!

「ベイン、貴様……魔術学会をコケにするのもいい加減にしろ!! 貴様は魔術の基礎すら分かっておらぬクズだ! 魔術学会からの追放を言い渡す!」

「なっ……! もっとよく聞いてくれ! 俺の”新魔術理論”はこれまでの常識を覆す全く新しい発見なんだ……!」


 魔術学会本部のホールで、一人の男が追放を言い渡されていた。

 男の名はベイン・クレバース。

 多くの魔術論文を発表し、若くありながら魔術学会に所属する研究者の中でもそれなりの役職についていた男でもある。


 魔術学会は魔術を研究する団体ということになっており、国のお抱えの機関であることから与えられている権限も非常に大きい。


「話を聞けだと? 笑わせるな! 貴様の”新魔術理論”とやらは『魔術は個人差はあるが誰でも使える』そういうことだったな。しかも、『魔術の発現は神の加護によるものなどではない』とも言ったな」

「そのとおりだ! この事実が周知されれば魔術は大きく発展を遂げる!」

「黙れ!」


 ホールの壇上、最も豪華な服を着た会長のヘルモンドが、ピシャリとベインの言葉を遮る。


「その発言は神聖なる神の加護である魔術への侮辱だ! 魔術への侮辱は魔術を重視するこの国そのものへの侮辱と言っても良い行為。これ以上その戯言を続けるというのであれば、貴様には死刑を言い渡しても良いのだぞ!」

「く……」


 突然眼前に死刑をちらつかせられ、思わず黙ってしまったベイン。

 その黙る様子を見て周囲の学者たちもベインを非難し始める。


「そもそもお前は魔術が使えない面汚しではないか! 前任のオースレン会長はなぜかお前のことを気に入っていたようだが、このような者が学会に参加していたこと自体がおかしいのです!」

「そうだ! あいつは凡民(ぼんみん)だ! 魔術学会にふさわしくない!」

「若くして学会でも良い座についていたというのに欲を出して虚言とはな」


 ベインの味方をする者は誰一人して居なかった。


 それもそうだ。

 ベインは魔術師ではない上に、今回発表した魔術理論はそれまでの常識とは異なっていた。

 いや、異なりすぎていた。


 この国では魔術が使える者を魔術師(まじゅつし)と呼び、魔術が使えない者を凡民(ぼんみん)と呼んで明確に区別をしている。


 魔術の使えない凡民に対し、魔術師は様々な現象を引き起こす魔術を使って、国に利益をもたらす。

 当然、国も魔術師を優遇し、魔術師は高い地位を持つ者がほとんどだ。

 そのため、ベインの提唱した『魔術は誰でも使える』などという新理論は到底受け入れられるものではなかった。

 もしもこれを受け入れてしまえば、魔術師の地位が揺らいでしまうからだ。


 加えて、魔術は神の加護によるものだと信じられてきた。

 ベインの新理論では『魔術は体内に誰もが持つ魔力によって引き起こされるもの』とされており、神の存在を否定するも同然の理論であった。


 こんな荒唐無稽な理論が受け入れられるはずはなかったのだ。


「ベイン、皆もこう言っているぞ。学会からの追放程度ですんで幸運だったと思うのだな」

「く……待ってくれ、これを見てくれればわかってもらえるはずだ!」


 ベインはなんとか自分の正しさを立証するために声を上げた。

 同時に、手を前に突き出す……


「水の魔術だ!」

 

 ベインの手のひらから、ちょろちょろと少しの水が流れ出した。

 よく見ないとわからないほどではあるが、確かにベインの手のひらからは水が出ている。


 凡民であるはずのベインが魔術を使う……これこそが新魔術理論の何よりの証明となるはずだった。

 しかし……


「貴様……! そのような子供騙しの手品で我々を愚弄するか……!?」

「ふざけるのもいい加減にしろ……!」

「くだらん……水の魔術ってのはこういうのを言うんだよ!」


 怒りをあらわにした近くの魔術師がベインの顔に向かって水の球を発射する。

 その球はベインの頬を強く打ち、ベインの顔をびしょ濡れにした。


 ベインは悔しさのあまり拳を握ったが、ベインではどうすることもできなかった。


「この哀れな男ベインを魔術学会から追放することに異論のある者はいるか?」


 誰一人、それに手を挙げる者は居ない。

 異論のある者など居るはずもなかった。


 魔術学会などという大層な組織名ではあるが、どちらかと言えばその実態は魔術師という貴族階級が自らの力を誇示して権力を守るためのもので、ベインのように魔術に対して真摯に向き合っている者は少ない。


 加えてベインの魔術学会への貢献は大したものだったが、だからこそ、若くして出世していたベインをよく思わない者も多かった。

 そもそも魔術研究に熱心であったオースレン前学会長が評価してくれていた側面が強く、今となってはベインの存在が邪魔に思う者は多い。


 とどめと言わんばかりに、ベインの渾身の魔術も下らない手品だと言われてしまっている。


「……待ってくれ!」

「黙れと言っておろう! ……それに、異論のある者は居ないようだぞ? 貴様は学会追放だ! 今すぐ皆の前から消え失せるがいい!」


 こうして、ベイン・クレバースは魔術学会を追放された。

 魔術の研究に心血を注いできたベインにとって、すべてを失ったも同然だった。


本日はこのあと18時過ぎ、19時過ぎ、20時過ぎに投稿予定です!


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