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トュペロ  作者: 奥村まさる
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プロローグ

 鶯谷のラブホテル街から男女を拉致した黒塗りのワンボックスカーは、まず第一の目的地であるパーキングエリアを目指し、首都高四号線を八王子方面に走らせていた。車内は凄まじいばかりの体液臭が充満しているにもかかわらず、ハンドルを握る若者…吉田も、助手席に座る若者…佐藤も、バックミラー越しに映る、ホテルを出た直後から始まった、後部座席での井口と村山ら、兄貴分たちによる強姦に釘付けだった。

 挿入を繰り返す度、白く泡状となった体液が結合部から排出・飛散。シートを汚し、車内にはさらに悪臭が立ち込める。女は十代後半~二十代前半で、薄暗い車内だが時折、外からの光に照らされると、顔面に相当に殴打された跡が確認できた。すでに意思がないのか瞳孔は開いたまま、窓越しの夜空を見つめていた。まだ死んでいないという証しは、根本まで挿入された瞬間に起こる全身の痙攣とかすかな瞬き、そして涙だった。

「あ~たまんねぇ、出しても出しても、このツルツルの肌にチ●ポ擦り付けるだけでスグに勃起して、ぜんぜん萎えねぇ」

「当たり前だよ、ランキング一位の単体だからよ、金じゃ買えねぇ価値を、いま俺たちは堪能してる」

「それにしてもこの精子の数、妊娠でいうとどれだけのガキが生まれる計算になるんだ?」

「馬鹿か、お前知らないの? コイツ、一五の時点ですでにガキが生めねぇカラダだったんだよ?」

「そうなの? …って、一五ってまだガキじゃねぇか! その時点でかよ!」

「うん。カシラから直に聞いたから本当の話だよ」

「それにしても社長は酷いよな…なにも娘同然の女をさあ…」

「言うなっての。社長がどう思ってるかなんて、社長しかわかんねぇだろ?」

「それもそうだけど…」

「アクリル板越しからさ、こんな指示を出すわけだよ。尋常じゃねぇだろ?」

「確かにな…」

「まいいからいいから。まだ出したいんだろ?」

 そんな狂った兄貴分の掛け合いに、なぜか興奮気味で佐藤が割って入る。

「兄貴たち、大丈夫なんすか、ヤバくないっすか? その分だとパーキングエリア着く前に、女死んじゃいますよ」

「お前そういえば、死体とヤッたことあるよな?」

「えっ…誰から聞いたんですか? もうだいぶ昔の話ッスよ…」

「どうせこいつは死ぬからな…そうだ、引き渡す際に、お前もそっち同行すりゃいいじゃん? こっちは人数足りてるし」

「そしたらお前、処理するまでヤリまくれんぞ」

「えっ…マ、マジっすか? いいんすか?」

「クックック…お前何コーフンしてんだよ!」

 井口、村山の指摘通り、この佐藤というまだ十代の少年は言いながら興奮し、直後に悟られぬよう、パンツの中で射精していた。

 引き続き女を代わる代わる強姦する井口と村山。彼らの背後、つまり最後部にはもう一体、ミイラのように毛布にくるまれた男性が横たわっていた。


 パーキングエリアに到着すると、同色のワンボックスカーがヘッドライトを点滅させ、その前で仲間の男たちが手招きしていた。車が横付けされると、両車のスライドドアが同時に開けられ、素早く毛布にくるまれた女が引き渡される。

「うわっ臭ぇ! なんか垂れてるぞ!」

 引き渡し役の男の反応に、散々犯した井口と村山は、タバコをふかしながら肩を震わせ、片手でハイタッチをして笑っていた。その兄貴分たちに恐る恐る、助手席の佐藤が話しかける。

「あ、あのう…いいっすか? さっきの話し。向こう移っていいっすか?」

「あっ? …お前マジか。いいよ。いいけど、その代わり、しっかり指示通りの処理はしろよ」

「オ、オス!」

 そういって佐藤が車から降りると、井口と村山はベルトを締め運転席の吉田に発車の指示を出し、パーキングエリアを後にした。佐藤はといえば、女を乗せたワンボックスカーを運転する兄貴分に、小便に行かせてほしいと断りを入れ、内股でトボトボ歩きながら公衆トイレへ入っていった。


 首都高四号線から中央自動車道に入った彼ら…新宿を拠点とするヤクザ、唐木組の面々が向かう次なる目的地は、八王子の山奥にあるアジトだった。アジトといっても、彼らの事務所でなければ、廃屋でもない。元資産家のれっきとした日本家屋の屋敷と、広大な山々だった。


 元資産家の名を氷室。祖父から二代続いた不動産事業で築き上げられた数一〇〇億にも上る資産の一部を相続したこの三代目は、その大半を違法ネットカジノ、高級風俗、銀座通い、ソーシャルゲームなどで僅か一年半で溶かしてしまった、クズ中のクズだった。それだけならばまだいいが、上客だった氷室を違法ネットカジノの元締めである唐木組が逃すはずもなく、彼らの策略によって溶かした遺産とほぼ同額の借金を背負わされ、原発作業員として福島に飛ばされるか、最後に残された資産である祖父が建てた屋敷と所有する近辺の山々を差し出すかの二択を迫られた。

 結果、氷室は後者を選んだが、それが原因で、既に隠居し静かにこの屋敷で余生を過ごしていた両親と揉めに揉めた。それを唐木組に相談し、何とか他の返済方法を模索したい…と伝えたところ、その日のうちに唐木組の若い衆が召喚され、両親が目の前で絞殺された。それだけでは終わらず、泣き叫ぶ彼の後頭部に彼らは拳銃を突きつけ、実の息子に両親の遺体を山に埋めさせたのだった。

 その一件自体、偶発的な出来事だったが、組長の唐木が機転を利かせ、以来、八王子の氷室屋敷は、組による、ある闇ビジネスの拠点として現在まで機能しているのだった。


 まもなく氷室邸の敷地内に、唐木組の面々を乗せたワンボックスカーが入ってくると玄関が開き、Tシャツにトランクス、小太り、油まみれの禿げ散らかした頭で黒ぶち眼鏡をかけた中年男が出迎えた。屋敷と山の管理のためだけに生かされている、氷室だった。と同時に、所有する周囲の山々から、野犬と思しき複数の遠吠えが、けたたましく鳴り響いた。まるで食事を待ちわびていたかのように。

 その頃には空から星々は消え、暗雲が立ち込め、近くで雷も鳴り始めていた。この分だと、間もなく強い雨が降る。

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