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49 魔力測定で引き寄せる面倒ごと

「それでは今から、午前の二コマを使って体力測定を行う」


 自身も俺たちと同様、運動着に着替えたメイ先生が腕を組んで言った。

 今日は一年に一度行われる体力測定の実施日だ。


 選択実技で武術のクラスを取らず、普段から運動をしていない生徒も皆受けることになっているので、憂鬱そうな表情がちらほら見える。

 体育館の中央に座って先生の説明を聞きながら、俺は固く決心した。


 ──絶対に目立たないぞ……!


 これ以上に注目を集め、決闘を申し込まれるのはもう御免だ。

 仕事で戦っている俺が運動能力で他の生徒に勝るのは不思議じゃない。

 影を薄くして、今日は適度に手を抜いておこう。


「まず初めはここで魔力の測定をする。この一年間日々魔法の鍛錬に励んだ者も、特に魔法を行使できるほど魔力がない者も、これは他人と比べるものではないからな。ただ、自分の変化を確認するだけだ……わかったな?」


 メイ先生が念を押すようにそう呼びかける。


「それじゃあ端の者から順番に来てくれ」


 そして、名簿順に並んだ列の端から、生徒が前に行く。

 この日のために体育館に設置された──水晶がはめられた台に手を置くと、魔力総量が数値化されるらしい。


 クラスメイトたちが一人ずつ測定をしていく。

 俺とリーナは編入してきたので、最後尾で二人で横に並び、ちょうどフラウディアが台に手を置くのをぼうっと眺めていたのだが──


「──なんか俺、いつにも増して睨まれてないか?」

「──滅茶苦茶に睨まれてるわね。今日は対抗心じゃなくて嫉妬心で」


 前方に座るグウェンから、鋭い視線が突き刺さってくる。

 ずっと無視していたが流石に決まりが悪くなってきた。


「はぁ……なんでだよ。俺があいつの妹からの決闘の申し出を断ったからか?」

「まあ、そうなんじゃないかしら」

「いやでも、まさか双子だったなんて……知らなかったし」


 今日登校すると、グウェンの俺への目が険しいことに気がついた。

 積極的に距離を置いているので、苛立たせるようなことをした覚えはない。


 俺が首を捻っていると、突然フラウディアが爆弾を落とした。


『──昨日の彼女、グウェンさんの妹さんですよ?』

『え、嘘だろ……』


 兄妹揃って俺に決闘を申し込んできたのか?

 信じたくはなかったけど、グウェンは妹がせっかく売った喧嘩を、俺が断ったことに腹を立てているらしく朝からずっとあんな調子だ。


「はぁ……」


 何度目かもわからない溜息を吐き、極力気配を薄くする。

 これで俺に意識を向け続けるのが難しくなるはずだ。


「──いや、すっごい見てる……!」


 なんでだ。

 自分の番がきて、グウェンは台に手を置き魔力を測定しながらも、目はバッチリこっちに向けてブツブツと何かを呟いてる。


「あぁー、あれは完全にあんたのこと呪おうとしてるわね……。呪詛よ、呪詛。不幸に見舞われろって一心不乱に唱えてるわ」

「おいリーナ、嫌なこと言うなよ……」

「うぅっ、近くにいると私まで巻き添えを喰らいそうだわ」

「…………」


 自分の身を抱き締めながらリーナが立ち上がる。


 そろそろ俺たちの番のようだ。

 続いて俺も腰を上げ、前に行こうとすると──測定を終えたグウェンが、俺に視線を固定したまま近づいてきた。

 すれ違い様にずっと呟いていた声が鮮明に聞こえてくる。


「クロアを誑かしやがってクロアを誑かしやがってクロアを誑かしやがって」

「──っ!?」


 怒りに満ちたその声に、思わず足を止め身構えてしまった。

 だがそのままグウェンは横を通り過ぎて行く。


「な、なんなんだ……」


 クロア──は、あいつの妹の名前だ。

 俺が戦わず彼女の気持ちを無下にしたってことなのか。

 グウェンの兄に続き双子の妹まで勝手にあっちから挑もうとしてきたのに、なんで俺が恨まれないといけないんだ。


 ここで本人の謎すぎる俺への対抗心に火をつけないため、今日の体力測定ではいい具合にグウェンに負け続けておこう。

 そうしたら少しはマシになるはずだ。


「次は……テオル君で、最後がリーナさんだな」

「はい」


 メイ先生に確認されたので頷く。


「じゃあそこに手を乗せてくれ」

「わかり──あっ」

「ん? どうしたんだ。そこに手を置くだけでいいんだぞ?」

「いや、その……えーっと……」


 上手く魔力の流れを調整すれば測定値を低くすることはできる。

 もちろんメイ先生やリーナにはバレるだろうが……その前に。

 他の人たちの数値はどれくらいなんだ?


「早くしなさいよ。私もパパッと終わらせたいんだから」

「ああっ、すまん」


 後ろに立つリーナに促されてしまった。

 すでに終わったみんなも俺たちが終わるのを待っているからな。


「……わかった、もうやる」

「テオル君の魔力は多いから、そのまま手を置いてしばらく待ってくれ」

「はい……」


 心を決め、大体このくらいならいい塩梅だろうと魔力を停滞させ抑え込む。

 これでどのくらいの数値になるのか。

 四分の一くらいにしたから、多分少なすぎず多すぎずと言ったところだろう。


 しかし。

 しばらくすると、先生が手元の画面を見て眉を顰めた。


「ん? テオル君、これは……」

「あっ。ど、どうかしましたか?」

「いいや、こんなことで何か小細工をしたりするわけが……」


 メイ先生に怪訝な表情を向けられドキリとする。


 ──やばい。

 先生は俺が魔法を使っているところを見たことがあるので、小細工をしていることがバレて、真面目にやれと怒られるのかもしれない。


 もう一度数値を確認し、先生は震えながらゆっくりと顔を上げた。


「こ、これは……」

「すみません。先生、俺──」

「歴代最高記録じゃないかぁあああああ!!」

「……えぇ?」


 測定とはいえ授業で手を抜くのは良くないよな……と素直に謝ろうとしたが、メイ先生は目を丸くして大きな声を上げた。


 次の種目を待ち各々会話をしていたクラスメイトたちが、一瞬でどよめく。


「最高記録!? やっぱすげええ!!」

「ほら、私の言った通りになった! 絶対に全種目で記録更新するって!」

「むしろ出来ないことが想像つかないレベルよね……」


 先生が持つ、数値を記録した紙に群がりながら次々と声があがる。


 なんだ、魔力の調整に失敗したのか?

 この測定器の構造上、上手く誤魔化せると思っていたんだが……。


 頭を抱えたい気持ちに襲われながらも、未だに突き刺さる視線が、クラスメイトが騒ぎより強くなった気がした。


「涼しい顔しやがって……くそっ、なんでクロアがこんないけ好かない野郎を」


 大変だ。

 謎すぎる俺への対抗心にも火を着けてしまったらしい。

 早く、早くグウェンに負けてガス抜きをしなければ。

 これ以上なんでもかんでも付き纏われて、勝負にされるのは御免だ。


 俺はグウェンの視線から逃げるように、そそくさと後ろに下がることにした。


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【新作】モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜



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