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40 売られた喧嘩

「兄貴から聞いたぜ。入団試験で幻惑魔法を使いやがったって! どうせ周りの奴ら騙して、ドラゴンも倒してねえんだろ? 貧弱そうな詐欺師さんよぉ??」


 翌日、学園の一画にある訓練場で。

 学園指定の運動服に着替え、選択実技の授業を受けていた俺は、絶賛グウェンに煽られていた。


「はぁ……」


 思わず溜息が出る。

 このグウェンという男はやはり要注意人物だったみたいだ。

 それも、最も厄介な。


 フラウディアの護衛に関係なく、性格に難ありのただの戦闘民族。

 剣や魔法、体術を総合的に学ぶ『武術』の授業が始まると、待っていましたとばかりに俺に近寄ってきた。


 俺も、立ち居振る舞いを改善したほうがいいのかもしれない。

 でもなかなか骨身に染みたものを変えるのは難しいからな……。


「テオル様……大丈夫ですか?」

「あんた、また弱いと思われてるわよ? いっそぶっ放しちゃなさい。このまま舐められてたらテオル自身のためにも、側に仕えさせてるフラウのためにもならないのよ?」


 小声で話しかけてくる運動着姿のフラウディアとリーナ。


「まあそうだよな……でも今、授業中だろ?」

「──それは構わないぞ! 皆もドラゴン殺しの実力をこの目で見てみたいようだ。もちろんこの私もな」

「先生……」


 頭を掻いていると、この授業を受け持つメイ先生がそう言ってきた。


 先生は元探検家だったこともあり、俺たちのクラスの選択科目では『武術』を担当している。

 ちなみにそれ以外の普通科目についても彼女が担当だ。


「また魔法でなんとかこの場を凌ごうとしたらすぐにバレるからなぁ? 単純な力比べといこうや。骨折程度で済むように手加減してやるからさぁ〜」


 挑発するように、にやにやと笑うグウェン。

 どうせ、「実物を見たら弱そうだな」「自分の力を試すために喧嘩でも売ってみるか」みたいな考えなのだろう。


「まあいいけどさ……。いちおう兄貴?って誰のことか知らないが、俺は入団試験で幻惑魔法も何も──魔法は一切使ってないからな?」

「──嘘つくんじゃねえ!」

「いや本当に」

「兄貴は何年も努力してたんだ。それなのにお前のせいで、試験で気づいたら気絶してたって言うんだぜ? 今じゃ騎士になれず冒険者の端くれだ」

「……? あ、もしかして」


 その時、グウェンの顔が誰かに重なったような気がした。

 記憶力はいい方なので一度見た人間の顔は忘れない。


 それでも重要度が低くて気付くのが遅れたが──


「お前の兄貴って試験の時にいた、スキンヘッドの大男か?」

「そうだ。それがうちの兄貴だ!」


 やっぱり。

 グウェンは髪があり印象がかなり違うが、顔がそっくりだ。

 あの、試験の時に俺に絡んできた大男と。


 それにしてもあいつ、あんな態度だったのに良いところの出だったのか……。


「とにかく魔法を使わずに戦えばいいんだな? みんなももう、なんか期待した目で待ってるし……早く済ませて、授業を再開しよう」

「──っ! 舐めやがって……!」

「ああいや、別に不快にさせる気は……」


 何気なく煽ったみたいになってしまった。

 落ち着けと両手を胸元に上げて見せると、グウェンは手に持った木剣をこちらに荒く投げてきた。


「それを使って勝負だ。第六騎士団とやらに所属するエリート様の力を見せてみろ! もうビビったって言ったって逃さねえぞ?」

「……あ、はい」


 バシッと木剣をキャッチし頷く。

 メイ先生の誘導で授業を受けている全員が俺たちを囲むように円になっている。

 リーナは退屈そうな、フラウディアは心配そうな顔をしてこっちを見ていた。


 こんな状況ではもう言えないな。

 身動きが制限され、俊敏さを損なうから剣はいらないんだが。

 黙っておこう。

 グウェンを刺激しないように、勝負が始まってから地面にでも刺しておけば問題にはならないはずだ。


「言い訳すんじゃねからな?」

「ああ、わかってる」

「んじゃあ始めるかぁ……!」

「だけど──」


 お互いに怪我にだけは気をつけよう。

 そう言おうとしたが、


「ブッ潰してやるッ!」


 その前にグウェンは、駆け出してしまった。

 明らかに開始の合図を出すつもり満々だったメイ先生も、まだ何も言っていないんだが……まあ仕方ないか。


 学生が剣や魔法を使う学園だ。

 おそらく治癒技術に関して優秀な教員や魔法陣もあることだろう。


「──もらったァッ!!」


 俺が物思いにふけていると、グウェンは一気に距離を詰めてきた。

 そして、高く宙に舞うと──振り上げた剣を、その大きな筋肉を存分に使い力強く下ろしてくる。

 たしかに才能も努力も感じる。

 兄が剣士的な正々堂々とした戦いではなく、トリッキーな魔法で貧弱そうな男に負けたとなったら、喧嘩を売ろうとするのも理解できる。

 だが──


「動きが単純だ……」

「なッ!?」


 くるりと身を翻し、迫り来る剣を躱す。

 クラス一の剣士かもしれないが、リーナやヴィンスとは天と地ほどの差がある。


「──このッ!」


 信じられないとでも言いたそうにグウェンは目を見開いた。


 最初に全力で出すくらいだ。

 驚き具合から考えて、最も自信がある技だったのだろう。

 それが片足を引き、身を逸らしただけで回避されたのだ。


 苛立たしげに目尻をピクつかせ、すぐに続けて剣を振ってくるが……俺は一連の攻撃を全て最小限の動きで躱し続けた。


「な、なんで当たらねえんだ! ま、魔法か……っ!?」

「ルールを破るわけないだろ。じゃあそろそろ、こっちからも行かせてもらうぞ」


 これは売られた喧嘩だ。

 兄を倒したのは幻惑魔法ではないと証明する。

 それに、クラスの中で俺のことを弱そうだと思っている人が何人かいそうなので、力をアピールするいい機会だ。


 学級内で実力を認められれば、喧嘩を売ってくる第二のグウェンは出てきにくくなる。

 それに、フラウディアと敵対する勢力の息子や娘たちも手を出しづらくなるはずだ。


 魔法は使わず、魔力制御だけで気配を薄くすると、


「あ……あいつ、どこに消えやがった!?」


 隠密行動をする相手に慣れていないグウェンが驚愕の声をあげる。

 そこにはただ地面に刺さった木剣が残り、俺は消えていた。


「ここだ。俺の勝ちだな」


 背後の、少し離れた場所に立った俺は声をかけた。

 声を聞き、素早く振り返るグウェン。


「い、いつの間に……ッ!」


 周囲の生徒も同様に、息を呑むのがわかった。

 どうやってそこに移動したのかと。

 だが、それに答える前に──彼らはさらに激しい驚き、疑問を抱いた。


「お前ッ! 何が勝、ち……だぁ?」


 ふらり、と。

 立っていたグウェンが突然、地面に膝をついたのだ。

 そしてそのまま……前に倒れ込む。


 バタンッ!


 白目を剥いて動かなくなったグウェンに、メイ先生が急いで駆けつけ、息があるかを確認する。


「き……気絶している……。これは、て、テオル君が?」


 問われ、俺は静かに首を縦に振った。


「はい──()()で」

「しゅ、手刀……?」


 怪我に気をつけ優しめに振り下ろしたから、多分大丈夫だろう。

 兄には木剣を使ってしまったからな。その反省もしっかりと踏まえた。

 これで授業再開だと、時間を取らせてしまったことを謝ろうと周囲を見ると──


「す、凄い……あのグウェンが負けたぞ!!」

「いま、何が起きたのかしら……!?」

「これが……第六騎士団……」


 みんな唖然とし──それから、大きな熱狂に包まれた。


「な、何をなされたのか、教えていただけませんか!?」

「お、俺も知りたい!」


 男女問わず大声で騒ぎながら近くに寄ってきたと思うと、すぐに周りを囲まれ、肩を叩かれたりしながら押し潰されそうになる。

 助けを求めようとメイ先生を探したが。


「テオル君。私にも、私にも聞かせてくれ!」


 生徒たちに混ざり、彼女も楽しそうに押し合っていた。

 先生、グウェンは倒れたままでいいのだろうか?


 同時に喋る声の中、ただ二人だけ輪の外にいるリーナとフラウディアの話し声が聞こえてくる。


「やっぱりこうなったわね……」

「はい、やっぱりです……」

「た、助けてくれ……二人とも!」


 息苦しさを覚え、手を伸ばして助けを求める。

 しかし、二人はそっと目を逸らし、それきり無言になってしまった。



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只今、この作品は日間ジャンル別ランキング6位です。


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