36 次の仕事はそうきたか
騎士団室に戻ってきた団長に呼ばれ、リーナと共に団長室へ入る。
ひとしきり騒いで満足したのか、ルナは機嫌良く書類仕事をこなしている。
「ほんと油断できないわね……初めて見た時はあんたに対してつんけんしてたのに。一体どんな反動なのよ、あの子」
リーナが手に負えないとばかりに眉を顰める。
椅子に座った団長も苦笑いしている。
「ところで団長、あいつ家に帰らなくてもいいんですか?」
「あー。なんかもうほっとけば良いって言ってたよ」
「そ、そうですか……。まあ本人がそう言うなら俺は別にいいんですけど」
ゴルドーが捕まり、ルナがここで働くことになったと知ったらルドたちは混乱するだろう。まあいずれ誰かが様子を見に来てくれるはずだ。
人が変わったようなルナをどう説明するか問題はあるが。
ルナを見ていると、リーナが団長に用件を尋ねた。
「それで、私たちに何の用かしら? ペアでの仕事?」
「うん。君たちに姫様の警護を頼もうと思ってね」
「フラウの……? あの子には昔からの護衛チームがいるじゃない。どうして今更私たちなのよ」
リーナが訝しげに団長を見る。
確かに俺が競技場の待合室でフラウディアに会った時も、彼女はかなり仲が良さそうな護衛たち後ろに引き連れていた。
俺たちが出る幕はないと思うが……。
もしかしてその人たちが長期休暇を取るとか?
そう思ったが、どうやら理由は別にあるらしい。
団長は深刻な表情を浮かべ腕を組む。
「姫様の身に危険が迫っているんだ。実は僕たち、国家転覆を謀っていてね」
「「は?」」
リーナと声が重なる。
俺たちは間の抜けた顔を見合わせた。
「「……ぷっ。い、いやいや!」」
それから二人で吹き出し、首を振って団長を見る。
「ジン、いきなり何の冗談よ? そんな真面目な顔して」
「結局どんな理由で警護を……あっ、もしかしてこの話自体が嘘ですか?」
「違うよ! あんまり大きな声では言えないけどっ、本当に僕たちは計画してるんだ。彼女の命が狙われるかもしれないから、警戒を引き上げて君たちに任せようって話だ!」
「「またまたぁ〜」」
尚も至って真面目な態度に顔を引く。
護衛の理由も何も、ただの暇潰しだったのか?
真剣な表情に騙されてしまったが……。
「じゃあ俺たちはこれで」
「そうね。昼が遅くなっちゃったけど、どこかに食べに行きましょう」
「お、それはいい──」
「ちょっ、二人して帰ろうとしないでくれるかい!?」
リーナの昼食の誘いに乗り部屋を出ようとすると、慌てて立ち上がった団長が手を肩に置き俺たちを引っ張ってきた。
力任せに振り向かせられる。
「本当の話なんだ! この騎士団だって元はと言えばそれが目的……なっ、なんだいその目は!? まだ疑っているだろう! あぁまったく君たちは、どうしたら信じてくれると言うんだ!?」
「いや、キレられてもね……」
「だな……」
団長は怒りを露わにして頭を抱えている。
いや待て。
この感じ、ひょっとすると流石に俺たちが勘違いしているだけじゃ……。
「あ、あの……もしかして本当なんですか?」
「だからさっきからそう言っているだろ! 気づくのが遅すぎるよ!」
「「え」」
やっぱり、そうだったらしい。
「……じゃ、じゃあ団長たちは国家転覆を目論んでいて、それでフラウディアが危険かもしれないと?」
「そうだよ!」
「あの、団長にはお世話になっていますけど、俺はその悪行には……」
「私も嫌ね」
と、リーナも俺に続く。
場合によっては仲間のままでいるかもしれないが……国家転覆はな。
リスクがデカすぎる。
団長のことなので何か考えがあるのだろうが。
「これは正当な行為なんだ。大体テオルは仕方ないけど、リーナは少しくらい知っているだろう? この国の現状を」
「あ、そういえばそうだったような……。確かフラウの兄の第一王子が政治を牛耳って、宗教組織がなんとかで」
リーナには何か覚えがあったらしい。
詳しいことはほとんど知らないに等しいみたいだが。
「ということはつまり、この国を良くするためにってことですか?」
「そうだ。現国王は病に臥せていてね、第一王子がやりたい放題やっているんだ。今や中央の貴族や役人は酷いものさ。で、その連中の共通点が──勇者正教の信徒でね」
「っ!?」
「だから先日の一件を踏まえて、最終的に強行策を取らざるを得なくなった。姫様はあれこれ動いてきたんだけど、思いの外きな臭くなってきてしまったからね」
「……なるほど。そういうことなら話はわかりますけど」
「おお! 助かるよ! 順番に団員に協力を仰ごうと思ったら、最初の君たちからこんなリアクションでどうなるかと……」
「す、すみません……。で、リーナはどうするんだ?」
すんなりと話が伝わらず気苦労をかけたようだ。
身勝手な話ではなく、国や国民たちを思っての行動だろうに。
申し訳ないことをしたな。
それに、フラウディアが危険なのだったらまず護れという話だ。
心の中では最初から結局こうなるとはわかっていたが、事実確認を済ませ、心置きなく団長の言葉を信じられる。
「冗談よ、わかってる……当然やるわよ。フラウは友達なんだから」
髪を払ってリーナが言う。
「で、どれくらいの護衛をいつまでやればいいのかしら?」
「なるべく四六時中、期間は邪魔な連中をこちらが排除するまでさ。危険が迫ったら全て跳ね除けてほしい」
敵はすぐ近くにいるからな。
しかしこれは、かなり長期間の仕事になりそうだ。
「わかったわ」
「了解です」
「うん。僕たちの詳しい計画はしっかり話すとして……じゃあ制服とか新たに必要な物は全部こっちで揃えておくから。よろしく頼むよ、二人とも」
「ん? 団長、制服って……」
「姫様が通ってる王立学園のだよ。四六時中って言っただろ?」
「あ、あー……なるほど」
フラウディアの生活に合わせるのだからこんなこともあるのだろうが、うちの姫様は学生だったのか。
年齢的に考えれば、俺たちと同年代はそれが普通なのかもしれない。
けど、俺たちまで学生として通う必要があるのか……?
第二章はじまります。
まさかの学園編突入……!?
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