34 騎士生活は続く
「乱入事件、あんたとは関係ないってフラウが揉み消してくれたのね」
騎士団室で新聞を読みながら、リーナがほっと息を吐いてそう言った。
「良かったじゃない。対戦相手の個人的な問題ってことに落ち着いて。むしろテオルが守ったことになってるわよ」
「……みたいだな」
「なに、家のこと気にしてるの?」
「いや、まあな……」
窓の近くに寄り外を見ると、枯葉が散っていた。
団長が留守にしているので部屋の中には二人しかいない。
あれから数日。あの後、ルナに話を聞いた。
上位竜の暗殺という依頼を失敗したことをキッカケに、やはりガーファルド家は存続の危機にあったらしい。
じいちゃんは「いずれ看板を下ろす時がやってくる」と言っていたが、まさかこんなに差し迫った話だったとは、正直かなり驚かされた。
加えて当主が投獄され、家は今後より一層厳しくなるだろう。
「どうしたのだ、二人して暗い顔で」
「あ……実家のことを少し考えていて。アマンダさんは訓練ですか?」
「ああ。少し体を動かそうと思ってな」
首にタオルを掛けたアマンダさんが、汗を拭きながらやってきた。
俺が物思いに更けていたせいで空気が重くなっていたようだ。
切り替えないとな……。
アマンダさんは疲れ果てた様子でソファーに腰を下ろす。
「紅茶でも飲んでリフレッシュすればいい。実家といえば、やはり手助けをするつもりはないのか?」
「はい。これ以上はもう何も知りません」
あとは残されたルドやルナが考えればいい。
「それにしても驚いたわよね。誰かさんが倒したドラゴンが、ルナちゃんたちが狙ってたターゲットだったなんて」
「被害がなかったから良かっただけだろ」
リーナに言われてツッコむ。
ガーファルド家が存続の危機に追い込まれる原因となった依頼。それは俺が以前倒したドラゴンの暗殺だった。
依頼主は秘宝──おそらく魔王の魂を必要としていたらしいが、それよりも何より、その人物が勇者正教の教王だったというのだ。
勇者正教といえば、このオイコット王国にも絶大な数の教徒がいるが……。
「テオルが魔結界を解除したと聞いて、彼女はえらく態度が変わっていたな」
「あの時に魔結界の中に閉じ込められていたそうなのよ」
「なるほど、救ってくれた恩人というわけか」
アマンダさんが面白がった目を向けてくる。
もう屋敷に帰ったはずだが、ルナは俺に対する接し方が変わった。
試合をして実力がどの程度なのか目の当たりにしたからなのか、リーナが言うように偶然窮地から救ったからなのか、昨日までやたらとくっついてきた。
……ちょっと気味が悪いくらいに。
からかってくるアマンダさんを流すように向かいのソファーに座って言い返す。
「偶々ですよ。それにルナだって、もう家に帰ったんじゃあああああああッ!?」
い、いる。
何気なく横を見たら、ルナが立っていた。
紅茶が入ったカップを盆にのせ、小首を傾げてこっちを見ている。
「ええと、ルナ……なんで?」
「どうしたの、お兄様? 体調でも悪い?」
机に人数分の紅茶を並べると、狭いソファーの隙間に座って──
「ちょ、ちょっと。なんで抱きしめてくるんだ!? おい、ルナ!」
「うーん……熱くない。熱はないみたいね」
「お、お、落ち着け……! 体温測るのに誰が抱きしめるッ」
「え……嫌だった……? 私に触れられるの……」
「いやな、その、胸が!」
従妹に胸を押し付けられてる画は流石にヤバいだろ。
リーナとアマンダさんも見てるし。
落ち着け……とにかく落ち着け、俺。こんなことで慌てちゃダメだ。
今は年上として堂々とだな……。
「私がしたいからいいじゃん。それに、わかっててやってるし……」
頬を染めながら、気恥ずかしそうにルナが視線を逸らす。
くっ、こいつ……。
冷たい視線を感じそっと顔を向けると、リーナが鬼の形相をしていた。
やばいっ。早く離れないと、殺された後にドン引きされる。
とにかくだ、一旦抱きしめてだな──
「血鬼神降剣……」
「じょ、冗談だ。リーナ、な?」
「じゃあなんで手を回してるのよ!」
「お兄様も私の熱を測ってくれるの!? だったらほら、早く! リーナさんが来る前にぎゅっとして」
「おいルナ!? お前の目的を言ってくれ。お金か? お金だったらある程度やるから……あの、リーナ? な、何をするつもり──」
「この変態ッ!」
「ぐふぇっ」
後ろに回ったリーナが背中を蹴ってくる。
「い、痛いって! 大体なんでルナがここいるんだよっ?」
「ははっ、楽しそうだな。じゃあ私は昼ご飯にでも行ってくるとするか」
楽しそうに笑いながらこちらを見ているアマンダさんが立ち上がる。
軽い足取りで去っていく彼女に手を伸ばすが、なかなかルナが離れてくれず、挙げ句の果てに痺れを切らしたリーナが後ろから引っ張ってきた。
「ま、待って……助けてくださいっ、アマンダさん!」
騎士団室の入り口まで行くと、アマンダさんは振り返った。
良かった、流石にふざけていただけだよな?
この人だけは信頼できるままでいてくれ。
笑顔を浮かべて助けを待つ。
「早く……」
しかし、一向に戻ってきてくれないアマンダさんは、フッと爽やかな笑みを浮かべたかと思うと、
「団長がその子を事務員として雇ったそうだ。良かったな、楽しくなりそうで」
最後にそう言い残し、背を向けてしまう。
「ちょ、ちょっと……っ」
ルナが事務員に?
じゃあこれからもずっとここにいるのか?
リーナとルナが俺を引っ張る力がどんどん強くなっていく。
「いい加減に離しなさいよ! テオルが苦しそうじゃない」
「じゃあリーナさんが先に離せばいいじゃん! そしたら私も離すから!」
「……二人ともさっさとやめればいいだけだろ!?」
三人で騒いでいると、酔っ払ったヴィンスが部屋に入ってきた。
「お? ……な、なんの芸術だよこれ!」
俺たちを見て涙を浮かべて笑い出す。
なんでうちの団員は面白がるだけ面白がって、全く助けてくれないんだ。
頭を抱えたい気持ちに苛まれながら、今日も俺の騎士生活は続いていく。
これにて第一章、完結となります!
明日、おまけで短い幕引き話を更新しますが、一応ここまでが第一章です。
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第二章も頑張って書いていくので、少しでも
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