32 VSガーファルド家①
集まった観衆に、見応えのある試合を見せる。
それが俺に課せられたハンデであり、ノルマだ。
「では両者──構えてッ!」
よく通るアマンダさんの声が響き、競技場内がしんとする。
誰にでも動きが見えるように気配は消さず、派手な技を進んで使うなんて、俺の本来のスタイルとはかけ離れている。
しかし、面白い。
上手くできるか不安はあるが、ワクワクしないといえば嘘になる。
「始めッ!!」
そのとき、アマンダさんが振り上げた手を下ろした。
「一気に決める……っ!」
俺が距離を詰める前にルナは魔弓を引き、魔法で生成された矢をつがえた。
瞬時に放たれた炎の矢が、グングンと加速し迫ってくる。
一度目は軽く躱す。
「──! まだまだッ!」
絶え間なく連射される矢は、次第に速度を上げていった。
寸分違わず俺を狙う矢を跳躍し、身を捻り、全てギリギリで避ける。
すると魔力障壁に守られた観客たちが、感嘆したように口を開いた。
「す、すげぇ。なんだあの動き……」
「矢もめちゃくちゃ速いわよ!? 同じ人間とは思えないレベルね」
「少しでもタイミングがずれて当たっちまったら、絶対に無事じゃ済まないだろ。なのになんであんなに完璧に躱せるんだ?」
中には戦闘に慣れた人も来ているみたいだ。
しっかりと鍛えたから、動体視力などには自信がある。
「こいつ……ハンデをパフォーマンスにッ!」
ルナが苛立たしげに呟いた声が耳に届いた。
「じゃあ次は、こっちの番だ……行くぞ?」
まだまだルナは奥の手を秘めているはず。
矢を他のものに切り替えようとした刹那、俺は攻守交代を宣言した。
前まではこんなに大量の観客を相手にはできなかったが、魔力が増えた今ならできるだろう。
初めての規模、使い方で魔法を発動する。
「闇魔法・〈幻想演劇〉」
次の瞬間、太陽が消え──星空が現れた。
突然夜になり観客がざわめく。
ルナも信じられないとばかりに目を見開き、それからキッと俺を睨んだ。
「テオル……な、何してんのよ! こんなものに魔力を使って、どうせ余裕アピールのつもりでしょ!?」
「別にそういうわけでは……」
「っ! 気に入らない。ほんっと腹立つ!」
しっかりとハンデを守った上での行動だ。
誠実に戦おうとは思っているが、王女命令なのでこれくらいは許してほしい。
俺が歩くと、足を中心に紫色の光が波打つ。
水面を歩いているような演出だ。
これくらいで観客たちが満足してくれてたらいいのだが。
「三連追尾矢──『氷』!」
魔弓が白い光を帯び、ルナが次の矢を放つ。
慌てて俺は炎を浮かばせ、俺たちの周囲だけを明るくし見やすいようにした。
同時に迫る三本の氷の矢を回避する。
だが、大きく後ろに流れた矢は旋回し、俺の元へ戻ってきた。
「くっ……!」
深淵剣を出す暇もなく、魔力で強化した拳で破壊する。
触れた瞬間に手が凍りかかった……?
「まだまだぁあ! 四連、五連、六連追尾矢──『氷』!!」
すぐにルナは弓を引く。
すると四本五本六本と、先程の矢が計十五本……三段階に分かれて放たれる。
この技──威力もかなりあるな!
反撃の隙を与えてもらえないほどの連撃だ。
速度も速い。そして何より標的を追尾し、接触すると属性効果があるらしい。
しかし、この程度ならこいつが喰らい尽くす。
深淵剣を取り出し一本一本に打ち付ける。
パリンッ、パリンッ、パリンッ。
「う、うそ……。剣術まで……っ!?」
今まで俺が剣を振っているところを見たことがないルナが驚愕する。
高速で剣を振り、氷を叩き割っていく。
追われ続けるのなら、全てを受けて破壊するまでだ。
その後もルナは一度に放つ矢の数を増加させていった。
かなり魔力消費も激しいことだろう。
どんどんと増えていく氷の矢を全て受けながら、俺は前へ進む。
一歩一歩前進。空気中に冷気が漂う。宙を舞う炎の光に反射し、キラキラと氷の破片が煌めいた。
美しさとは裏腹に、払った大きな破片は地面を抉る。
一発でも叩き損ねては危険だ。
だがしかし、俺はルナの元に辿り着いた。
「ちっ──まだまだ終わりじゃないッ!」
歯を食いしばって距離を空けようとするルナの腕を掴む。
「こんだけ手を抜かれて負けるわけには──うッ。な、なんで……!」
「もういいだろ」
「わ、私はこの程度のはずじゃ……。そんなに強いんだったら、私たちが無能だったことに……!」
何度か腕を引いたルナはそう言うと、やがて地面に崩れ落ちた。
魔弓が淡くなり消えていく。
腕を離しても動かない。もう闘志はないようだ。
「俺の勝ちでいいか?」
「……うん。私の完敗。もうどうでもいいや……家が潰れても」
「え、なん──って、い、今はそれどころじゃないな。とにかく」
最後の方がよく聞き取れなかったが、家が潰れると言ったのか?
気になったが、今はまだ試合の途中だ。
俺が魔法を全て解除すると、空が明るく戻る。
それから拳を突き上げてみせた。
「勝者──テオルッ!」
「「「うぉおおおおおおおおおおお!!」」」
会場の端にいたアマンダさんが中央に来て判定を下す。
それと同時に、割れんばかりの歓声が上がる。
……よし、これでこの件に関しては一段落だな。
俺はこれからも誰に文句を言われることもなく、騎士として生きていこう。
そう、思ったときだった。
黒い外套を羽織った人物が、俺の眼前に現れたのは。
無から這い出てきたような人物。
怒りの気配を感じる。
面倒ごとを連れてきた乱入者を見て、俺は呟いた。
「もう一踏ん張り必要か……? ゴルドー」




