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28 仲間に囲まれ

 王都に戻った俺たちは騎士団室に向かい、早速団長に報告をした。

 紅玉のこと。魔王とその軍勢のこと。そして黒服の男による襲撃について。


 話を聞く団長の顔は、非常に険しいものだった。


「なるほどね……。うん、了解。一応上には話を上げておくよ」


 最後に一つ頷くと、団長はいつもの陽気さを取り戻す。

 深刻に受け取ってはいるが、決して絶望的ではない。

 そんな落ち着きがある。


 魔王の復活は暗黒時代の再来を意味すると思うが、この時代の平和は、仮初のものだったのだろうか?

 反対に俺たちはどうしても気楽ではいられず、伏目がちに団長室を後にする。


「ちょ、ちょっと待ちなよ」

「?」


 その背中に声をかけられた。


「そんなに暗い顔しないでさ、どうだい? せっかくの休暇がこんなことになっちゃったし、ぱぁっと一杯」


 振り返った俺たちに、団長が酒を飲む仕草をして見せる。

 どうやら気を利かしてくれたみたいだ。

 特に断る理由がないし、気分を変えるためにも同行するとしよう。


「そうですね、行きますか」

「おっ、いいね。アマンダたちはどうするかい?」

「私も行かせてもらいます。リーナも行くだろ? ジンの誘いだ」

「もちろんよ。このまま一人になってあれこれ考えるのも面倒だし、当然奢ってもらえるのよね? なら参加しないわけには行かないじゃない」

「あ、あーいいとも! 今日は僕の奢りだ」


 順々に首を縦に振り、全員の参加と団長の奢りが決まる。


「うぉいッ! ジンが金払うなら俺も行っからな!?」

「あ、そういえば今日はヴィンスも来てたね……」


 ソファーから起き上がって現れた赤髪に、団長が項垂れる。

 ちょうど自分がいるタイミングで帰ってきた俺たちに、「正体、分かったか? 後であの赤いの(紅玉)のこと教えろよな」と言って、ここで待っていたのだ。


「なんだその反応! 俺は除け者かよ!?」

「ああいや、別に来てもいいよ。みんなもいいよね?」

「俺はいいですけど……」


 団長に尋ねられた俺は答え、目を横に向けた。

 そして面倒くさそうにしているリーナとアマンダさんを見る。


「まあ別にいいんじゃないかしら……煩いけど」

「だな。いくら騒がしいとはいえ、一人だけ不参加は流石のこいつでも不憫だ」

「その目やめろッ。いくらなんでも憐れむんじゃねぇよ!」


 二人が捨て犬を見るような目を向ける。

 今日も元気がいいヴィンスが吠えると、ふっとリーナたちは笑った。


 以前に比べるとヴィンスの刺々しさがなくなった気がする。

 まあ今も普通に、鬱陶しい時はかなり鬱陶しいけど。

 前までは新参者の俺がいると、変な威圧感があったのにそれがなくなった。


「じゃあ五人で行くとしよう。店は……」


 ヴィンスたちの言い争いを見て笑っていた団長が思案する。

 すると、リーナが人差し指を立てて言った。


「『空舞う小鳥亭』一択よ!」

「お、そうだね。あそこにしようか」


 団長も頷き、彼女の提案で店が決まったようだ。

 ヴィンスやアマンダさんも「定番だな」みたいな顔をしている。

 俺だけがそこがどんな店なのか分からずにいると、リーナが説明してくれた。


「テオル。ほら、前に行ったじゃない」

「ん?」

この馬鹿(ヴィンス)があんたに喧嘩売ってきて、ガリバルトさんが土下座した店よ」

「ああ! あそこか」


 前にリーナに連れていってもらった酒屋のことか。

 確かにあの店に置いてるものは何でも美味いと評判なんだったな。


「よし、混んでしまう前に早く行こう」


 団長の呼びかけで話がまとまり、出発しようとしたその時。


「──あの……」


 騎士団室の入り口から、鈴の音のような声が聞こえてきた。

 みんなで一斉に見ると、線の細い、透き通った白い肌の少女がいた。

 年は俺やリーナ、ヴィンスと同じくらいだろうか。

 彼女は腰まで伸びた銀髪をさらりと揺らし、手をあげている。


(わたくし)も、参加しても良いでしょうか?」

「はぁ、また厄介な……」


 突然の申し出に、額を抑え溜め息を吐く団長。

 他のみんなも同じような顔をしている。


 反応から察するに、酒屋の名前と同じく、俺だけが知らない人物らしい。


「あの、団長。彼女は……?」

「ああそうか、テオルはまだ会ってなかったね。彼女が僕たち第六騎士団が仕えている相手──オイコット王国第一王女の、フラウディア様だよ」

「え…………お、王女!?」


 ふらりと現れた少女は、護衛を付けている様子もない。

 団長が言ったことを信じられず、リーナたちの顔を見るが頷かれる。

 次にフラウディア様──らしき人物の方を見ると、彼女も黙って首肯した。


「だ、大丈夫なんですか? 一人で」

「テオル。フラウディアは、少し特殊な力を持っているのだ。だから──」


 俺の素直な疑問にアマンダさんが答えてくれようとしていると。

 件の王女様が、素早くこちらに寄ってきた。


「貴方がテオル様なのですね! お噂はかねがね聞いております。何やら、ドラゴンをお一人で倒されたとか! すごいですね! 私、その時のお話をたくさん聞きたいでしゅっ」


 あ、噛んだ。

 手を取られ、上目遣いでキラキラと目を輝かせながら、嬉しそうに捲し立てていた王女が……カーッと赤くなる。


 気づかなかったふりをした方がいいのだろうか。

 どんな距離感で話せばいのかと思っていると、リーナが間に入ってくれた。

 王女の手を掴み、離してくれる。


「フラウ、また勝手に城を抜け出したのね? 怒られるわよ?」

「そ、それは……。リーナっ、私は今テオル様とお話を──」

「まぁあんたなら安全だろうけど、一人で帰すわけにもいかないし。ジン、どうする?」


 かなりラフな関係みたいだ。

 抗ってリーナの奥から顔を出し、王女は俺に話そうとしてくる。

 しかし、それを阻むようにリーナは体を移動させた。


「そうだな……店の席がなくなったら困るし、送る時間もね……。ま、いいか。外套でも被ってもらって、一緒に行こう」

「だ、団長……それいいんですか?」


 絶対に問題になるやつだと、俺は突っ込んでしまう。

 けれど団長はそんなことは気にしていない様子だ。


「いいんだよ。僕たち全員が周りにいれば、この国のどこにいるよりも安全さ」


 さらりとすごいことを言うな……。

 そんな会話をしていると、ヴィンスが持ってきた外套を王女に投げる。


「……あうっ」


 ばさりと頭に乗ったそれを手に取り、王女は俺の方を向いた。


「あの、私のことは気軽にフラウディアとお呼びください」

「え、でも……」

「わかりましたね!?」

「あ……はい。じゃあ俺のこともテオルと」

「──い、いえ! テオル様はテオル様です! リーナやヴィンスと同じように呼び捨てだなんて、私にはそんなことはできませんっ」


 謎の理論だったが、押し切られてしまう。

 騎士団のメンバー以外に様付けを聞かれでもしたら、お咎めがあるかもしれない。

 しかし本人がそれでと言うので、俺はひとまず従うことにした。


 しっかりとフラウディアを警備しながら酒屋に行く。


 ヴィンスが大量の酒や料理を注文し、団長が苦笑いする。

 アマンダさんがリーナに負けずとも劣らない大食いっぷりを発揮し、驚かされた。

 団長はあの姿で、どれだけ呑んでも酔い潰れない。

 ()()に囲まれての宴会は、今まで経験したことがないほど楽しかった。


 俺たちを見て笑っていたフラウディアも楽しんでくれたようだ。


「はぁ〜食った食った。ジン、美味かったぜぇ!」


 千鳥足のヴィンスが先頭を進む。

 空には月が浮かび、夜の街を照らしている。


 フラウディアのことも考え、俺たちは余裕を持って食事を終えたが、ヴィンスは満腹で万が一の時に使い物にならなそうだ。


「あいつ、本当に調子がいいわね」

「まあいいだろ。楽しそうだし」


 俺はリーナと肩を並べ、後ろを歩いている。


「それにしても、ちょっと肌寒くなってきたな」

「うーん、そういえばそうね。アイライ島に行ってたから、余計に王都の寒さを感じるわ」

「何も問題なく、落ち着くといいんだけどな」

「……ね。誰も傷付かず、笑って過ごせればそれで十分なんだけど」

「そのためには俺たちが戦わないといけない、か」

「あんたは誰かを護るためにここにいるのね」

「ん、リーナは違うのか?」

「私は一族の仇を討つためよ。まずはあの黒服から」

「……そうか」

「復讐みたいで、自分勝手な話だけど」

「いや、いいんじゃないか? じゃあ俺は、リーナも護るか」

「……っ!? そ、それはどういう……」


 ヴィンスや団長、フラウディアやアマンダさんの背中を見ながらとめどなく言葉を交わす。

 ふと俺が呟いた言葉に、リーナがびくりとした時。


「テオル……」


 背後から俺の名前を呼ぶ声がした。

 振り向くと、道の後ろに旅人のような格好をした従妹──ルナがいた。


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【新作】モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜



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