1 暗殺一家を追われる
「テオル、お前は家から出ていけ! このッ……出来損ないが!!」
屋敷の一室で怒号を浴びせられる。
それは、父さんに代わって新たに当主になった叔父──ゴルドー・ガーファルドから発せられたものだった。
長髪に無精髭。鋭い瞳は闇のように黒い。
ゴルドーは忌々しげに俺を睨んでいる。
「なんだその目は!? 気合も能力もない──何もできないお前に、ガーファルドを名乗る資格があるとでも言いたいのか!? あァ?」
「……いえ、ただ理由を聞かせてもらえますか?」
ここで感情的になっても意味はない。
俺の家は祖父の代から始まった暗殺者一家だ。
幼い頃から特殊な教育を施され、各自で任務に当たっている。
元は長男である父さんが当主だったが、病に倒れ亡くなってしまい、弟のゴルドーがそれを引き継いだ。
それからだ。数ヶ月間休みもなく、働き詰めの毎日が始まったのは。
今だって厳しい任務を最速でこなしてきたばかり。
もう──五日も眠っていない。
しかしそんな状況でも、俺はミスなく仕事を遂行してきたはずだ。
「はっ、自分で考えることもできないのか? まったく呆れたものだなッ! ルドとルナから聞いたぞ! お前、仕事中にサボっているらしいな。そんな役立たず、我が一族にいられるとでも思ったかッ!?」
ゴルドーが激しく唾を飛ばす。
するとそれに続くように、周囲にいた従兄妹のルドとルナが口を開いた。
「その通りです、お父様! こいつ、いっつも僕たちに任務を押し付けて、勝手に逃げ出すんですよ!」
「そうそう! 無能のくせに一丁前にビビっちゃって。ダサすぎでしょ」
彼らはまだ仕事に粗が多く、一人前とは言えない。
そのため祖父から直々に頼まれ、任務に出る際はチームを組み、俺はサポートに回って二人が成長できるように専念していた。
「年上だというのに……まさか逃げ出すとはなッ。この腰抜けが!」
「いえ、俺はサボっているんじゃなくて──」
円滑に任務を遂行できるよう、危険すぎる障害の排除にあたっている。
以前から何度もしているが、誤解を解くために再度そう説明した。
しかし、ゴルドーは鼻で笑うだけだった。
「はっ、何度その見え透いた嘘をついたら気が済む。暗殺を稼業にする者、それも我々ガーファルドの人間が気配を感じ取れないとでも言いたいのか?」
「流石に僕たちのこと舐めすぎだって。派手に動いてたら絶対に気づくから」
「反省してさっさと出て行けばいいのに、見栄張って有能アピールとかキモっ。ぷふっ、使えない馬鹿丸出しじゃん」
そう言い、親子揃って嘲笑を浮かべてくる。
「…………」
もう、この場で俺が何を言ってもダメみたいだ。
後で祖父に相談して、ゴルドーと話してもらおう。
正直、人を平気で貶める彼らを好きにはなれない。
だが俺には他に生きていく道がない。暗殺術以外に学んできた物がないからだ。
俺の仕事ぶりを認めてくれ、期待してくれている祖父から話してもらえれば……なんとかなるはずだ。
しかしその前に。
せめても、実際に目の前で気配を消してみせよう。
「じゃあ今から──」
俺が行動で示せば、少しはわかってくれるはずだと口を開いた時。
ゴルドーが俺の目を見て、ニヤリと笑った。
「それと親父──じいさんにも話は通してあるからな。泣きついたって無駄だぞ」
「…………え?」
予想外の言葉に思考が停止する。
そんな俺を見て、ブフッと吹き出すゴルドーたち。
その時。
「テオル、そういうことじゃ」
タイミングを合わせたように部屋の扉が開かれ、祖父が現れた。
「これは一族の総意じゃからな。ゴルドーから話は聞いたが、使えない者に存在価値などない。早く出ていきなさい」
「い、いや……じ、じいちゃん……?」
いつもとは違う祖父の冷たい声音に。
俺は呆気に取られ、全ての音が遠くなっていくのを感じる。
「ふっはっはっは。親父、賛同に感謝する! というわけでだテオル、さっさと失せろ!! そして二度と俺の前にその面を見せるなよッ!?」
まだ頭の中を整理できないでいると、「もしもいらんことをしたら」と。
ゴルドーは真顔になりドスのきいた声で続けた。
「──そのときは、命があるとは思うな?」
人生においてたった一つの生き方、天命だと思った。
だから例え酷い扱いをされても、気にせず身を粉にして働いて来たのだ。
だというのに……これでは生きている理由を奪われるも同然。
「ひゃひゃっ。お疲れー」
「さよなら、無能さん」
「──あ……え……」
部屋を出て行くルドとルナがすれ違いざまに肩を叩いてくる。
心のどこかで「もういいか」と思った。
祖父の言葉に、反論する気も湧かない。
俺はこうして、その日のうちに家を追い出されることになった。
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