第9話 代償
「そ・の・手・の・ひ・ら・に・あ・る・紋・章・は・何・か・な・?・」
この言葉を聞き、違和感を感じたヒカルは敢えて問いかける。
「グルラモアさん、あなたは誰ですか?」
殺される。そう感じるほどヒカルの背筋は凍り、そしてかつてないほどの恐怖を感じている。
まるで命を握られているかの様な。
「私か?私はグルラモアだよ、正真正銘の」
「違うだろ、俺の冒険者の勘がそう言ってる」
「ほう...」
ヒカルが恐怖の中強がってそう言うと、グルラモアの鋭くなった目が次第に元の柔らかい印象に戻る。
どうやら窮地は逃れた様だ。
「合格だ」
「え?なんですか合格って..」
面食らったヒカルだが、グルラモアはそこで
一息つく。
「はあ..こんな役回りも損だね、そうだろう?ネル?」
(ネルって...あのネルか?)
グルラモアが独り言の様に言葉を発した後に
空気が揺らぎ、まるで水面のように波打って、青い髪のシルエットがにじむように現れる
「あのね、あたしの名前は出す約束じゃなかったでしょ?」
聞き覚えのある声に青い髪。
ヒカルが想像した人物が目の前にいた。
「ネ、ネル...お前なんで...」
「なんでって...あなたには力をつけてもらわないと困るからよ」
「理由になってねーよ!意味分かんねえ!」
さっきまで死にそうな思いをしていただけに強く当たるヒカルだが、彼女は冷静に答える。
「あんた、いつか殺されるわよ」
「は?なんでだよ?なんで俺が..」
するとネルは半ばパニックになっているヒカルの手の平を指をさし。
「紋章よ、紋章には力があるでしょう?ソレを狙う輩は沢山いるの」
「そんな..俺は」
「でも力を望んだのはあなた?そうでしょ?」
その言葉に何も言えなかった。
「力があると同時に代償もあるわ、この力を背負う責任もね」
「力は欲しいと思ったことはあるよ..けど!」
(…力は欲しい。そう思ったのは事実だ。そして母さんを探すと誓ったのも俺の意志だろ?)
少しして、グルラモアが口を開く。
「力には代償が付き物だ」
その言葉にも、ヒカルは何も言えなかった。
しかし聞きたいことはあった。
「だったらまず説明してくれ、2人の関係を」
「師弟よ」
この上ない簡潔な答えが帰ってきたが為に、状況を理解するのに時間がかかった。
「なんだよそれ、2人して俺をどうするつもりだ?」
「鍛えるのよ」
さっきの問答も含めてヒカルは思い返す。
(恐らくこの2人が考えている事は本当だ。
少し冷静になれ、俺)
「じゃあ俺はどうすれば良い?」
そうヒカルが答えた。
「あら、物分りが良いのね」
随分と切り替えの早いヒカルに、ネルも少し意外そうな表情でいた。
「仕方ないだろ、前向きにいかないと」
そう答えるヒカルであったが表情に疲労が強く出ていた。
紋章について聞かれた時から、常に気を張っている為、精神的に疲れたのであろう。
「まあ、今日の所は帰りなさい。疲れてるだろうし」
「また明日話そうヒカル君、夕方にまたギルドへ来て欲しい」
師弟2人がそう言うと、見た事のある歪みが生じる。
恐らく帰りの道である。
「ああ、分かったよ...」
(疲れた。とりあえず今日の所は帰ろう..)
疲れきった顔で空間の扉をくぐろうとすると
「送っていくわよ、家まで」
そう言ってネルが隣に立つ。
「アフターケアまでバッチリですか、ネルさん」
「何よ?嫌って言うなら一人で帰ってもらうけど」
「俺が悪かったよ、頼む」
今のヒカルにはとても断る気力もない為、言われるがままに従った。
そうして帰路に着くヒカルだった。
「送ってくれて、ありがとう」
「やけに素直ね」
「失礼だな、割と俺は素直だぞ」
家に着く頃には軽口を叩く余裕も出来ており
気も少しは和らいだようだ。
「じゃあな、また明日」
「ええ、また」
そうして別れの挨拶をし、風呂に入り湯に浸かりながら目をつぶるヒカル。
(不安だ...急にこんなことになるなんて)
目を開き、紋章を見つめる。
今の状況に少し理不尽も感じている。
急な変化に自身の心が着いて来れていない状態だ。
「とりあえず寝るか」
食欲も無いので、歯磨きを済ませて眠りにつくヒカル。
眠れないような事もなく、思いの外ぐっすり寝れた様だ。
「ふぁ〜よく寝た」
呑気に伸びをするヒカルだが、どうやら寝過ぎてしまったようだ。
部屋の時計の針は12時を指していた。
「うっわ...遅刻とかしたことないのに..終わった」
終わりを悟るヒカルであったが、もはや諦めの境地に達していた。
「サボるか!」
そう独り事を言い、寝た。
目を開いた時には夕方になっていた。
「今日はめっちゃ寝たな、そういえばそろそろか」
昨日の約束は忘れたわけではない。
ヒカルは重い腰を上げてギルドへ向かう。
ギルドへ着いたや否や、大きい体躯の老人がいる場所へ足早に行き口を開く。
「何をすればいい?」
老人は予想外の言葉を口にする。
「とりあえず、屋敷でご飯を食べようか」
「へ?」
「お腹空いちゃって」
年甲斐も無く顔を赤らめる老人が目の前にいた。
「可愛くねえよじじい」
第9話[完]
今までの話が短いのが多かったので少しだけ長くしようかなと思ってます。
評価お願いします!!




