第8話 迷い人
ありのままに書いてみました。
「実は私も、迷い人でね」
その言葉を聞いた瞬間、ヒカルの脳内では思考が駆け巡る。
(迷い人って事は...もしかしたら同じ世界にいた人か? いやもしくは別の....)
「 ...?どうしたんだい?」
そうグルラモアが問いかける。
どうやら1分ほどヒカルは思考に耽り、立ち尽くしていた様だ。
「すみません色々考えちゃってて」
屋敷の中に入ったヒカルはそう答える。
無理もない、同じ世界から来た人に初めて出会った可能性があるからだ。
「もしかしてグルラモアさんって、日本って知ってますか?」
「日本?ああ!もしかして君は」
「日本出身なんです」
どうやら広い意味で言えば、2人は同郷だったようだ。
「なるほど、私はヨーロッパに住んでいたよ」
「そうなんですか!じゃあアレって知ってますか?」
2人の話は弾む。
「懐かしいな、日本には1回だけ行ったことがあるんだよ」
「旅行ですか?」
ヒカルがそう問いかけると、彼は少し言い淀み
「ああ..まあその様な物だね」
(旅行じゃないのかな?まああんまり触れるのもアレだし辞めとこうか)
ヒカル自身プライベートな事に干渉され過ぎるのが苦手な質なので聞くのはここで切り上げた。
するとグルラモアが口を開き。
「それじゃあお礼なんだけど」
「はい」
「ヒカル君は今何が欲しい?」
問いかけてくるグルラモアに、困惑した。
「欲しい物と言われたら...なんでしょう?」
「ハッハッハ!それはヒカル君しか分からないよ」
それもそうだ。
少しヒカルは頭の中で考える。今の自分が欲するものを。
「知識と力です」
そう言うと、グルラモアは目を丸くして次の瞬間。
「ガッハッハッ!普通はお金とか言うんだけどなあ」
口を大きく開けて笑っていた。
ヒカルはそこでムッとした顔で
「なんで笑ってんすか」
「いやあ面白いなあと思ってね」
涙を見せながらそう答えるグルラモアだが、ヒカルは至って真剣である。
「真面目に答えたんだけど」
「分かってるよ、もうひとつ聞いても良いかな?」
「なんですか?」
「理由はなんだね?」
真剣に問いかけてくる、グルラモアに背筋が凍るような、首元に剣をかけられているような錯覚を覚えた。
しかしヒカルも引かずに答える。
「俺、迷い人だって言いましたよね」
「そうだね」
「両親も転移事故で2人ともいなくなって、この世界についても知らない事が沢山あるんです。それと力をつけなくちゃいけなくなった出来事もあって」
(後は誰にも言ってないけど1つ疑問がある。そう、あの時の...)
「なるほど..なんとなく事情はわかったよ、なら自分が手助けは出来るかな」
「本当ですか?」
「ああ、もちろん」
内心喜ぶヒカルだが、気を浮かせずに話を聞き続ける。
「知識なら屋敷には書庫があるし、力なら僕が直接稽古をつけることもできる」
「よし!!」
グッと拳を握り、抑えきれない喜びを出すヒカル。
「この屋敷に関してはいつでも出入りして良いから、この指輪をつければ今日みたいに来れるよ」
そう言ってひとつの刻印が成された指輪を渡された。
「これ1つで..すごい..」
「ああ、後は」
グルラモアが人差し指を立てて、ヒカルに問いかける。
「書庫なんだけど、本の量が膨大すぎて自分もどこに何の本があるかは分からないから、そこは気を付けて」
「そこはしらみ潰しに調べてみます」
時間はたっぷりある。
また明日にでも顔を出そう。
「今日の所はちょっとここら辺で、ありがとうございました!」
「いやいや、こちらの方こそありがとう」
「でもなんで猫のお礼ぐらいでここまでしてくれるんですか?」
少し気になった事を聞いてみるヒカル。
「まあ勘だよ、冒険者のね」
「ああ、そうですか」
釈然としない答えだったが貰えるものは貰う主義だった為 、無理矢理納得させる。
「僕からも最後にひとついいかね?」
「その手のひらにある紋章は何かな?」
ソレを聞かれた瞬間、さっきの寒気とは別の違和感を感じた。
何か別の誰かが、聞いているような。
第8話 [完]




