第五話 紋章持ち
「いやいやいや!先生、流石にまだ早いですって!」
「まあそうネル君が言うのも分かるがのう、時間が無いんじゃ」
2人の会話を聞いたヒカルが訝しげに問いをかける。
「先生?時間が無い?状況も全く分からないし説明して貰っても良いですか?」
「仕方ないのう1回だけじゃぞ」
「なんでだよ!…痛って!!」
思わずつっこむ彼にゲンコツが降りかかる。
「一々ツッコまない!」
「ネルは暴力系ツッコミね…って冗談ですって!!」
またもや重い一撃を喰らいそうになったが得意の謝罪で何とか回避した所で話は始まる。
「コホン…まず1つ目の質問について簡単に答えると、ネル君はワシの弟子じゃな」
「まあそう言う事よ」
「はあ…じゃあ2つ目の時間が無いって言うのは」
そうヒカルが再度問うと学長は神妙な面持ちになり、答える。
「この世界に強大な力を持った邪悪な何かが目覚めようとしている」
「邪悪な何か?」
「左様、言い換えるなら魔王と呼ぶべきかの」
(魔王?待て、俺ってもしかしてとんでもない事に巻き込まれてる?)
ヒカルは想像を働かせるが全く今の状況を飲み込めずにいた。
「魔王とは選ばれし者と似た力を持っており世界を脅かす存在じゃ」
「それと俺とで何か関係ってあるんですか?」
「ヒカルってほんと鈍いよね、つまりあたし達2人が魔王と戦う可能性があるって事よ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
西園寺ヒカルという人間は、今まで至って普通の人間であり偶然異世界転移をしてきたただの一般人である。
そんな彼には戦う覚悟など微塵も無かった。
「嘘ですよね?」
「本当よ?そもそもあたし達に紋章が発現した事がこれから魔王が現れる予兆でもあるのよ、それと…」
そうネルが何かと言おうとしたが言い淀む。
「それと何だ?聞かせて欲しい」
「やけに素直ね」
「これからの俺の人生にも関わる話だからな、心の準備は出来てないけど聞かなくちゃいけない気がする。」
(俺は父さんの分まで生きなくちゃいけないんだ。そして母さんの記憶も絶対に取り戻す!)
「分かったわ、この間紋章を持つ者は1人しかいないっていう話をしたわね?」
「ああしたな」
「実は大昔に1度だけ2人同時に発現した時があったらしいの」
「まじか」
ネルは前に2人の紋章持ちがいる事に疑問を持ち、調べあげたそうだ。
「その時、魔王は現れずに一時は平和な時を送ったそうなの…でもその後の100年間の間の歴史が空白なの!」
「つまりは歴史上でも最も激しい戦いが起こった可能性もあるわけじゃ」
学長がそう補足し、更に深堀りして行く。
「紋章が2つ発現したという事は遠くない未来に厄災が起こる可能性が十二分にあるのじゃ…だから君達2人には力をつけて貰わないと困るのじゃ」
(厄災…そんな事があったのか)
「だから対抗戦に出て力をつけろと?」
「要するに戦いを通して強くなってもらう、叩き上げって事ね」
ヒカル自身は話に納得はしているが、全く持って良い精神状態では無かった。
「正直言ってそんな事したくないです」
「まあそう言うと思ったわい」
ヒカルの回答は想定済みだったようでヒカルも少し面を食らった。
「しかしこれを聞いたらどうかしら?」
「?」
そんな事を言ったネルが突然1つの紙を取り出して机の上に出す。
「読んでみなさい」
「大陸対抗戦…優勝校には1度だけ知りたい事を知れる知罰の鏡の鏡が送られる…」
これを読んだ瞬間ある想像がヒカルの頭を駆け巡る。
「もしかして…」
「あるみたいね知りたい事、言ってみなさいよ」
(お前の母親が実は俺の母親と同じかもとか言ったらまずいよな…)
そこでヒカルはある矛盾に気づき呟く。
「俺が転移してきたのは5年前…イロアスさんの子供がネル…記憶喪失…なあネル、今年で何歳なんだ?」
「何よ急に、15だけど」
(という事は養子か?なら本人には聞かない方が良いかもな)
過去の出来事もあってかヒカルには人のデリケートな部分に触れる話題には言及しないというこだわりが少しだけがあった。
「いいや、何でもないよ」
イロアスさんが自身の母親であるという証拠は無いが確信はあった。何故かは分からないがこの感覚はあっているだろうという物が。
「すみません、学長」
「何じゃ?まだ聞きたいことがあるかのう」
「少し自分に気持ちの整理をする時間を頂けませんか?」
彼の言葉に嘘は無く、現状を整理する時間が欲しかった。
そして自分の目的を見失わない為にも向き合う時間は必要だった。
「まあ突然じゃからのう、1週間期限を設けよう!もし協力してくれるならまたここに来て欲しい」
「分かりました!あ、それと…」
「何じゃ?」
「もし優勝出来たら授業の単位とかって全部くれたりしますか?」
ヒカルの元いた日本の大学生のような願いに学長は深く独特なため息をつく。
「ほほぉ……」
「あれ、また俺なんか言っちゃいました?」
「そのとぼけ方やめて」
第五話 [完]
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