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婚約破棄されて従妹に乗り換えられましたが、納得いきません  作者: 蚕
第七章 その後

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7-4

──


 後日、二人の婚約発表パーティーが行われることになった。


 アイリスは瞳と同じ色の赤いドレスを着て、グレーのタキシードを着たエリックと並んで会場に入る。


 たくさんの人が二人におめでとうと声をかける。アイリスとエリックはにこやかにお礼を言った。


(ついこの前の、ロニーとエイミーの婚約発表パーティーのときはあんなに惨めな気持ちだったのに。今はこんな晴れ晴れとした気分でいられるなんて)


 アイリスはそう思いながら隣に立つエリックに目を向ける。視線に気づいたエリックに微笑まれ、アイリスは思わず顔を赤らめた。


 パーティーは和やかに進んでいく。



 談笑の最中、突然ガシャンとガラスの割れるような音が聞こえた。見ると、会場の端に立つ女の子が慌てた様子で床に手を伸ばしている。床には、割れたグラスと零れたワインが広がっていた。


「あら、大丈夫かしら」


「落としてしまったんだな。誰か人を呼ぼうか」


 エリックとアイリスがメイドを呼ぼうと辺りを見回すと、男性がグラスを落とした女の子に近づくのが見えた。アイリスは始め片付けを手伝いに来たのかと思ったが、どうも様子が違うことに気づく。


 アイリスは会話が聞こえるところまで近づいた。男性が小声で女の子に対し文句を言うのが聞こえてくる。


「本当鈍くせーな。またかよ。グラスを持つことすらまともにできないのか」


「ご、ごめんなさい、アルフ……。すぐに片付けるから」


「ドレスが汚れるだろ、メイドにやらせろよ。そんなこともわからないのか」


「ごめんなさい……」


 男性に苛立たし気な声で言われ、女の子はおどおどと謝っている。アイリスは眉をひそめてその様子を眺めていた。


「あーあ、なんでお前みたいなやつが婚約者なんだろうな。自由に選べたらもっとちゃんとした女を選ぶのに」


「ごめんなさい、アルフ……」


 女の子は悲しそうな声で謝っている。アイリスは腹立たしくなり、思わず男の前に立った。


「ねぇ、ちょっと。何してるの」


「ア、アイリス様。すみません、せっかくのパーティーで俺の婚約者が失礼を」


 突然近づいて来たアイリスに驚いたのか、男性は戸惑った様子で言う。アイリスは彼を睨みながら言った。


「失礼なのは彼女じゃなくてあなたよ!なんでたかがグラスを落としたくらいでそんなに責めるの」


「いや、俺だって一回目なら怒りませんよ。でも、こいつはいつも鈍くさくて。さすがに何回もだと呆れるんです」


「それにしたってあなたの態度はないわ。それに、婚約者をこいつだなんて言うのは失礼よ」


 アイリスはじろりと男性を見ながら言う。


「あ、あの、アイリス様。私が悪いんです。いつも彼を怒らせてしまって」


 横から女の子が慌てた様子で謝る。アイリスはその子の方に目を向ける。


「そんな風に自分を卑下することはないわ。こんな小さなことで怒る男性の方が器が小さいのよ」


 アイリスはぷりぷりしながら言った後で、会場がやけに静かなことに気づく。見ると、周りの視線はアイリスに集中していた。当然だ。婚約発表パーティーの主役が、参加者に向かって声量も落とさず説教しているのだから。


「えっと、アイリス様、俺たちはこれで」


 視線に耐えられなくなったのか、男性は女の子を連れて部屋を出て行く。女の子はアイリスに向かってぺこりと頭を下げて、彼に続いた。


 アイリスは会場の視線を受けて固まる。


 自分はおめでたい場で一体何をやっているんだ。注意するにしても、もう少し状況を考えられなかったのか。エリックは婚約者が早速軽率な行動を起こすのを見て、さぞ情けない思いをしているに違いない……。


 アイリスがおそるおそるエリックに目を向けると、彼は耐えきれないと言った様子で笑い始めた。アイリスはぽかんとして彼を眺める。


「君は本当にいつでもその調子なんだな。パーティーでもお説教なんて」


「ご、ごめんなさい……。こんな性格で……」


 アイリスはさっきの女の子に負けず劣らずの恐縮した態度で謝る。


 エリックは急にしおらしくなったアイリスを見て、さらに大きな声で笑いだした。


「いや、いいよ。そこが君のいいところなんだから。普通の子になったらつまらない」


 エリックが思い切り笑うのを見て、戸惑い気味だった出席者たちもくすくすと笑い始めた。会場が和やかな笑い声に包まれる。


 アイリスは少し恥ずかしく思いながらその声を聞いていた。けれど、エリックが隣で目に涙を浮かべて笑っているのを見ていたら、自分の性質はそんなに悪いものではないのかもと思えてきた。


 胸がじんわりと暖かくなるのを感じながら、アイリスは会場の空気につられるように小さく微笑んだ。



終わり


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