6-3
「ちょっと待って。ロニー、エイミー」
突然、部屋にアイリスの声が響いた。ロニーとエイミーは声のした方向に顔を向ける。
「アイリス……!?どうしてここに」
「アイリスお姉様!?」
「二人のことが気になったから、ここで待っていたのよ」
アイリスは二人を睨みつけながら言う。しばらく呆気に取られていたロニーは、ふいに冷たい声で言った。
「そうか。よくわかった。つまりこれは君の差し金だったということか。婚約破棄された腹いせに俺たちに嫌がらせがしたかったと」
「アイリスお姉様、何もこんなやり方をしなくてもいいのに」
ロニーとエイミーは口々に批判めいた言葉を口にする。アイリスはしばらく黙ったまま二人の話を聞いていた。
「確かに最初は復讐のつもりだったわ。けれど今はそれ以上にあなたたちのやっていることをやめさせたいの」
「はっ。君には関係ないだろう。言っておくが、大臣だって俺たちから子供を買ってるんだぞ。無闇に関わると痛い目をみる」
「アイリスお姉様、あまり簡単な気持ちで口出ししない方がいいわ」
二人は馬鹿にしたような口調で言った。
「そう、やめるつもりはないのね?」
「当然だ。これからも儲けてやるさ」
ロニーがきっぱりと言い切ると、アイリスは部屋の隅を振り返った。そうして左手を上げる。
すると、突然部屋の一面がギィギィと軋み始めた。薄暗かった部屋に、下の方から明かりが差し込み始める。
「……なんだ!?」
ロニーは部屋の異変にきょろきょろと周りを見回す。エイミーは警戒したように音を立てて動く壁をじっと睨みつけている。
壁の一面はどんどん上に上がり続け、ついには別の部屋が顔を出した。
「二人の話は、みんなに聞いてもらったわ」
開いた壁の向こうには、観客席があった。
座席に座る人たちは、ある者は困惑した顔で、ある者は面白がるような顔で、ある者は呆然とした顔で四人のいる部屋……つまり舞台の上を見ている。
「アイリス!!どういうことだ!!」
ロニーはアイリスに向かって怒鳴り声を上げる。
アイリスは淡々と説明を始めた。
「ここは私の知人のギデンズ男爵の別邸よ。男爵は演劇を見るのが好きで、とうとう自分の屋敷に小さな劇場を作ってしまったの。
今日は男爵に頼んで、舞台と観客席を貸してもらったのよ。ここ、普通の部屋に見えた?一日中エリック様たちと準備をして、舞台を部屋に見せかけるために整えたのよ」
アイリスが笑顔で説明しているうちに、二人の顔はどんどん青ざめていく。
観客席には、大勢の人が集まっていた。中には、アイリスとエイミーの親戚や、ロニーの知人もいる。強張った顔で舞台を見つめるエイミーの仲間のシスターたちもいた。アイリスとエリックが、どうしても見て欲しいものがあるので来てくれないかと頼み込んだ人たちだ。
「ちがう、ちがうんだ、僕は……」
ロニーは狼狽しきった様子で、観客席の人たちに訴えかけている。しかし人々の視線は冷ややかだった。エイミーは視線から逃れるようにロニーの後ろに隠れる。
アイリスは立ちすくむ二人と観客たちの視線を見て、以前パーティーでロニーから婚約破棄された時の状況を思い出していた。
これで復讐になったのだろうか。
しかし、アイリスの中にあった二人に対する怒りは、二人への興味と一緒にいつの間にか消えており、今はただ憐れだとしか思えなかった。




