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その後二人は侍女や下男たちに手伝ってもらいながら、準備を進めた。
ロニーたちを招き入れる場所を違和感のないように整え、エリックは正体がわからないようにかつらを被って仮面をつける。二人と知り合いのアイリスは、目立たないようにフード付きのロングケープを羽織った後、棚の影に隠れることにした。
「ロニーはエイミーを連れてくるかしらね」
「どうだろう。怪しまれないように女性と同伴で来てほしいとは書いたが」
エリックは硬い声で言う。ロニーに渡すように頼んだ手紙には、人身売買組織と関わっていることが周囲にばれたくないので、極力怪しまれない恰好で来てほしいと書いた。可能であれば、女性を連れて、夫婦で招かれたように訪問して欲しいとも。希望に沿ってくれれば、報酬は弾むと追記した。
「ねぇ、今更だけれどエイミー以外の人が一緒に来たらどうしましょう。巻き込むことになるわ」
「そうだな。けれど、取引に来るくらいだからメラン劇場と無関係の女性ってことはないんじゃないか」
「そうね。そうだといいけれど」
準備をしているうちに、あっという間に夜が来た。約束の時間が近づく。アイリスたちは、ロニーが来るまでじっと部屋で待った。
別邸の前では下男が待機しており、ロニーが来次第アイリスたちのいる部屋に案内してくれることになっている。
「エルトン様、ロビン様とその奥様がいらっしゃいました」
下男がアイリスたちのいる部屋の扉を叩いた。紫色の仮面をつけたロニーと、同じく黒い仮面で顔を隠したエイミーらしき人物が顔を出す。アイリスは予想通りエイミーがやって来たことにほっと息を吐いた。
エリックとロニーは早速交渉を始める。
「こんなところまで来てもらってすまないな」
「いや、構わない。どんな子供が希望なんだ?」
「そうだな……」
エリックが希望する子供の特徴を説明すると、ロニーは絵姿を見せながら何人かの候補を出してきた。エリックはうんうん頷きながら、真剣に聞くふりをしている。
「この子はどうだ?名前はニーカ。異国風の八歳の美少女。ほかの客からも散々買いたいと言われているので、今を逃すとすぐに売れてしまうぞ」
「ほぉ、なるほど」
エリックは受け取った絵姿を眺める。しかし、ふいに顔を上げて言った。
「しかし、こういう取引で売られる子供というのはどんな気持ちなんだろうな。顔やステータスで値段をつけられて、よく知らない者の家に連れていかれて。想像すると複雑な気持ちになるよ」
エリックの言葉に、一瞬ロニーの口元に浮かんでいた笑顔が消えた。今まさに子供を買い取ろうとしている客がこんなことを言うのだから、不審に思うのは当然だろう。しかし、ロニーはすぐに明るい調子で言った。
「そんな深刻に考えて何になるんだ?取引されている子供たちはもともと身寄りのない不幸な身の上の子ばかりだ。お金持ちに引き取られてみんな喜んでいるさ」
「本当にそう思うか?子供たちが引き取り先でどんな扱いを受けているか、わからないはずないだろう」
ロニーは言葉を止める。そうして警戒したようにエリックの全身を見回した。
「……なぁ、さっきから何を言ってるんだよ。お前、子供を買うために俺を呼んだんだろ?」
「ああ。けれど売人の君がどう考えているか気になったんだ」
「商品が何を考えているかなんて考える必要がどこにある。俺たちは必要とするやつらに子供を渡して金を受け取っているだけだ。お前も俺らみたいな組織に関わっておいて今さらきれいごとはやめろよ」
ロニーは苛立たし気な様子で言う。
エリックは腕を組んで考え込むような仕草をした。そうしてふいにエイミーの方に目を向ける。
「君も関係者だろ?子供を売買することについてどう思っているんだ」
エイミーは急に話を振られて驚いたようだった。しかし、にこやかに返事をする。
「かわいそうに思うこともありますわ。けれど、必要とされるところに行くのなら、そんなに悪いことでもないと思いますの」
「性のはけ口にされたり、暴力を振るわれたりしてもか」
「だから、かわいそうにとは思っていますわ」
エイミーは頬に手を当てて言う。エリックは黙り込んだ。
「なぁ、結局冷やかしだったってことか?わざわざ説教するために俺たちを呼んだのか」
「君たちの考えを聞きたかっただけだ」
「それを冷やかしって言うんだよ。用がないならもう行くぞ。面白半分に劇場に関わって、ただで済むと思うなよ」
ロニーは苛立ちを滲ませた声で言うと、くるりと背を向けた。その後ろにエイミーが続く。




