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婚約破棄されて従妹に乗り換えられましたが、納得いきません  作者: 蚕
第六章 決行

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6-1

 アイリスとエリックは、翌日から早速作戦決行のための準備を始めた。


 まず、二人が向かったのはメラン劇場だった。正体がバレないように、変装をして仮面をつける。


「アイリス、いいか。怒りに任せて暴れたりするなよ。今は騒ぎを起こすわけにはいかないからな」


「暴れないわよ。私を何だと思っているの……」


「何度も暴走しかけていたじゃないか」


 アイリスが抗議の目を向けると、エリックは冷静な声で言った。アイリスは納得がいかなかったが、とにかく今は作戦に集中することにした。



 二人はメラン劇場の中に足を踏み入れる。そして地下のパーティーホールへ向かった。今回は隠れてではない。客としてだ。


「やぁ、エルトンとアイリーン。来てくれたんだね。どんな子供をお探しだい?」


 赤色の仮面の男が出てきて、にこやかに尋ねる。エルトンとアイリーンとは、二人が使った偽名だ。


「一番上等の子供がいい。紫色の仮面の売人と取引させてくれないか?」


「紫色?かなり値が張るがいいのか」


「ああ。金はいくらでも出す」


 エリックはそう言うと、金貨の入った袋を渡す。


「前払い金だ。足りないなら言ってくれ」


 袋を開けた売人は固まった。そうして我に返ると、早口で言う。


「どの売人でも紹介しよう。紫の仮面以外で希望はあるか」


「……そうだな。前にここで取引をした知り合いは、ロビンという売人から買った子供がよかったと言っていた。そいつはいるか?」


「ロビンは今出ているが、希望するなら呼んでこよう」


「そうか。では今晩ヘルロ地区の屋敷まで来るように伝えてくれないか?今、住所を書いて渡すから」


「屋敷で?いや、すまないが、取引は劇場の中限定だと決まっているんだ。後日ここへ来てくれ」


 売人は外での取引と聞いて、一瞬疑わしそうな表情を浮かべた。それから取り繕うように明るい声で提案する。エリックは眉をひそめた。


「そうか……。しかし、あまりここに何度も出入りするのを見られるわけには行かなくてな。どうしてもだめだろうか」


「決まりなのでね」


「……それでは、別のところを探した方がいいかもしれないな」


 エリックは淡々とした声で言う。売人は慌てた様子で言った。



「い、いや、うちの商品はほかとは比べ物にならないくらい質が良いんだ。ほかでは買えないような子供がたくさん用意してある」


「そう言われてもなぁ……」


 エリックは考え込む仕草をする。売人はエリックの顔と金貨の入った袋を交互に眺め、諦めたように言った。


「わかった。ロビンを屋敷に向かわせよう。住所を教えてくれ」


「ありがとう。助かるよ。ああ、それと住所と一緒にメッセージも書くから、これも渡してくれないか。屋敷に売人が来るとばれるのはまずいから、色々対策をしてきて欲しいんだ」


「……あぁ、わかった」


 売人は訝しむ様子を見せながらもうなずく。


 こうして無事二人は、ロニーとメラン劇場外で会う約束を取り付けた。



──


 メラン劇場を出ると、二人はすぐにヘルロ地区の屋敷まで向かった。そこはアイリスの知人の男爵の別邸で、事情を話して今回の作戦のために特別に貸してもらったのだ。


 屋敷に向かう途中の馬車の中で、アイリスは言う。


「エリック様、迫真の演技だったわよ。うまくいったわね」


「あのまま別のところへ行ってくれて構わないと言われたら、どうしようかと思ったよ」


「私もひやひやしたわ。でも、あとはロニーが来るのを待つだけね。手紙に書いたとおりにしてくれるといいのだけれど」


 二人を乗せた馬車は、ギデンズ男爵の別邸に到着した。ギデンズ男爵はアイリスの父の友人で、アイリスが子供の頃から交流がある人物だ。二人が到着すると、男爵はにこやかに迎え入れてくれた。


「やぁ、アイリス。よく来たね」


「ギデンズ男爵、突然こんなことを頼んでごめんなさい」


「構わないよ。君の頼みだからね。そちらが前に言っていた友人か」


「そうよ、伯爵家のエリック様」


「初めまして、エリック・オルセンと申します」


 エリックが頭を下げると、男爵は微笑んで言った。


「アイリスにつきあってくれてありがとう。しょっちゅう無謀なことをするので大変だろう」


「……正直に言うと、彼女は後先考えないで動こうとするところがあるので、毎回驚かされますね」


「ちょっと、二人とも失礼ね。私だってちゃんと考えてるわよ」


 アイリスは二人を不満な顔で見つめながら言った。ギデンズ男爵はおかしそうに笑ってアイリスを見た後、エリックにこう付け足した。


「けれど、誤解されがちだけれど、アイリスはとてもいい子なんだ。見捨てないであげておくれ」


「はい。それは僕もよくわかっています」


 男爵の言葉に、エリックは笑いながら返す。


 アイリスはそんな二人を見ていたら、何とも言えない気持ちになった。



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