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庭から先ほどの部屋に戻った二人は、院長先生が戻って来るのを待って、エイミーのことを説明することにした。
「院長先生、少し相談がありますの。どこか子供たちに聞かれないところで話せませんか?」
「構いませんが……」
アイリスの気迫に押され、院長は戸惑い気味に返事をする。しかし、すぐに孤児院の職員用の部屋へ案内してくれた。
「それで相談とは?」
「慈善活動に来ている方たち……正確にはその中のエイミー・カティックについてです」
アイリスが言うと、院長先生は首を傾げた。
「エイミー・カティック様ですか?彼女がどうかされましたか?エイミー様は伯爵家の令嬢でありながら毎週孤児院に来てくれるお優しい方ですよ」
「実は、先ほど院長先生が部屋を出られた時、お手洗いを借りようとして迷ってしまったんです。その時、偶然お庭の隅でエイミーさんと子供の一人が話しているのを見てしまって」
「ええと、お手洗いを探して庭まで迷い込んでしまったのですか?」
「迷い込んでしまったんです!問題なのは、その時エイミーが言っていた内容ですわ」
院長先生は納得いかない顔をしていたが、アイリスは押し切ることにした。隣でエリックが呆れた顔をしている。
「エイミーさんは、その子のことをみすぼらしい子などと言った上、お母さんがあなたを捨てた気持ちもわかるなどと、傷つけるようなことをたくさん言っていましたわ。もうここに呼ぶべきではないと思うんですの!」
アイリスは感情のこもった声で言う。
院長先生はというと、困惑して目をぱちくりさせていた。そうして遠慮がちに反論する。
「しかし……、エイミー様は子供たちにも評判がいいんですよ。彼女がそんなことを言うとは思えません」
「それは、エイミーが人のいないところでこっそり意地悪を言っているからです!彼女がここへ来るのを許していれば、子供たちが心に傷を負ってしまいますわ」
「いや、しかしですね……」
すっかり興奮状態のアイリスに詰め寄られて、院長はしどろもどろになっていた。エリックが横から口を出す。
「突然こんなことを言ってすみません。エイミーさんの普段の様子から信じられないのもよくわかるのですが、確かにこの目で見てしまったのです。スージーという子に聞けばわかります」
「スージーに?以前見たときは、あの子もエイミー様と楽しそうに話していたように見えましたが……」
「先ほどの様子ではそうは見えませんでした。とにかく、本人に一度確認してみてください」
院長先生はいまいち納得しきれない顔をしていたが、エリックが冷静に話すのを聞いて思うところがあったのか、わかりました、とうなずいた。
「いや、しかしあなた方を疑うわけではありませんが、どうにもエイミー様がそんなことをするとは信じられず……。子供たちだけでなく、エイミー様は職員の中でも評判なんです」
「うわべだけはとても感じが良い子ですものね」
「お、おい、アイリス……」
うんざりした顔で言うアイリスを、エリックは止める。
「感じが良いのは確かですが、それだけではありません。
半年前に彼女がこの孤児院へ来るようになってから、品が良く裕福な方たちが何度も子供を引き取りたいと来てくれるようになりました。エイミー様が、養子に興味のある家庭を探してきて、うちと繋いでくれているのです。
預かれる子供には限りがありますし、何より子供たちにも家族ができますから、私どもとしてはとても感謝しております」
院長先生は、真面目な調子で言った。
アイリスはもどかしい気持ちになる。以前もそうだった。エイミーの天使のような笑顔の前では、誰も彼女を疑わない。
「……あの、半年前?エイミーさんがここに来るようになったのは半年前からなんですか?」
エリックは驚いた顔で尋ねる。院長先生はその様子を見て、不思議そうな顔で言う。
「はい。半年前からエイミー様はシスターさん方と一緒にここへ来てくれるようになりました」
「……そうですか」
返事を聞いたエリックは、難しい顔をして黙り込む。
「あの、半年前というのが何か?」
「いえ、なんでもないんです。……僕たちはそろそろお暇します。中に入れていただきありがとうございました。行こう、アイリス」
「え、ええ」
エリックは突然焦った様子で、部屋を出て行こうとする。アイリスは戸惑いながらもそれに続いた。
「院長先生、必ずスージーに話を聞いてくださいね!」
去り際にそう言い残してから、アイリスとエリックは孤児院を後にした。




