4-3
そのうち、スージーがそっと人の輪から抜け出すのが見えた。シスターやほかの子供たちは洋服に気を取られている。スージーは庭の隅の木の下に腰を下ろすと、乱暴に髪飾りを外して地面に投げ捨てた。
すると、シスターたちのいる場所から離れて、エイミーがスージーの元に近づいてくる。
アイリスには、エイミーに気づいたスージーが、体を固くするのが見えた。
「スージー、こんなところで何をしてるの?あっちでみんなとお洋服を選びましょう」
「でも……」
「あら?せっかくお花の髪飾りをつけてあげたのに、取っちゃったの?」
スージーの顔が強張った。怯えたような顔でエイミーを見ている。
エイミーはにっこり微笑んで、スージーの頬に手を当てると、女神のような優しい声で言った。
「賢明ね。あなたみたいなみすぼらしい女の子に、あの髪飾りは似合わないもの」
アイリスは、隣に座るエリックが息を呑むのがわかった。彼はあっけに取られた顔でエイミーとスージーが話す様子を見ている。
「エ、エイミー様が渡したんじゃない……。似合うだなんて言って……」
「あら、本気にしちゃった?ごめんなさいね。あなたが髪飾りの一つも持っていなくてかわいそうだから渡してあげただけなの」
エイミーは相変わらず優しい顔のまま言う。スージーの顔が泣きそうに歪んだ。
「あら、また泣くの?こんなことで?面倒な子ね。あなたのお母さんがあなたを捨てたくなったのもわかるわ」
「お母さんは私を捨てたんじゃないもん……!迎えに来るって言ってたもん!」
「かわいそうに。そんな言葉信じているの?」
エイミーは口に手を当てて、大げさに驚いた顔をして言った。スージーは耐えきれなくなったのか、声を上げて泣き出した。
「アイリス!おい!落ち着け!!今行ったらエイミーに探っていたのがバレるだろ!!」
「だって、前々からああいう子だったけれど、ここまでひどいこと言ってると思わなかったの……!一発殴るだけだから許して!!」
「何発とかいう問題じゃないから!」
エリックは茂みから飛び出そうと暴れるアイリスを慌てて押さえつけた。
スージーの泣き声に気づいたのか、シスターたちが駆けてきた。
「スージー!どうしたの?」
「大丈夫?エイミー様、何かあったんですか?」
すると、エイミーはシスターたちに向かって、心配そうな表情で言った。
「スージー、具合が悪いみたいなの。急に泣き出しちゃって……」
「ええ?だいじょうぶ?スージー」
「すぐに医務室に行きましょう」
エイミーはほかのシスターと一緒になって、心配ね、や大丈夫?といった言葉をかけている。スージーは何か言いたげにエイミーを睨みつけていたが、口を開くことはなかった。
「……見た目じゃわからないものだな」
シスターたちが行ってしまうと、エリックは呆けたような顔で呟いた。
「あなたはショックを受けたでしょうね。でも、エイミーのことを誤解しているようだったから、知って欲しくなったの。知りたくなかったのならごめんなさい」
「え、ああ、うん」
エリックは戸惑いを隠せない表情で言う。アイリスはエリックの態度に少し違和感を覚えた。あれだけエイミーを崇拝していたのだから、もっとショックを受けるとか、あれは何かの間違いだとか言うと思っていたのだ。
しかし、エリックはかなり驚いてはいるものの、取り乱す様子はなかった。
「それにしても、いつもあんなことをしているのか。ここの子供たちが心配だな」
「ええ。ここの子たちだけじゃないわ。ほかのところでもそうなの。私は前に一度だけエイミーと、こことは別の孤児院に慈善活動に行ったことがあるんだけど、その時エイミーが陰でこっそり子供に意地悪を言っているのを見ちゃって……」
「それで君はどうしたんだ?」
「もちろん止めたわ。その場で何をしてるのって問い詰めた。でも、そうしたらエイミーが泣き出しちゃって、……絶対嘘泣きだと思うんだけど……、それで私が悪者扱いよ。
エイミーに意地悪言われていた子も泣いていて事情を説明できる状態じゃなかったし、私は善良な仲間の女の子を泣かせたってことで、もう来るなって言われちゃった」
「ひどい話だな……」
エリックは顔を引きつらせて言った。
「あら。信じてくれるの?」
「それはさっきの様子を見た後だし……」
エリックは神妙な顔で言うが、アイリスは意外な気持ちだった。あの時だって、詳しい話を聞く前からみんなアイリスが悪いのだと決めつけたのに。
「それに、君は何の理由もなく人につっかかる人間じゃないだろう」
エリックは呟くようにそう言った。アイリスは言葉に詰まる。
「……そんなこと初めて言われたわ」
「そうなのか?君の周りの人間はよっぽど見る目がないんだな」
エリックは当然のような顔をして言う。アイリスはそわそわと落ち着かない気持ちになり、エリックの顔を真っ直ぐ見ることができなかった。




