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アイリスとエリックが入ってきたのを見かけると、子供たちの視線が二人に集まる。
院長先生が二人を紹介すると、大きな子供たちはぺこりと挨拶をし、小さな子供たちは興味深々な様子で近寄って来た。
「可愛い!可愛いわ!エリック様、見てこの子よじ登って来た!」
アイリスは舌足らずな言葉で何か言いながらスカートをよじ登ってくる小さな女の子を見て、甲高い声を上げる。
「劇場でも思ったけど、君子供が好きだよな……」
「ええ、とても!って、痛!髪!この子意外と力が強いわ……!」
よじ登ってきた女の子を抱えてご機嫌だったアイリスは、その子に思い切り髪を引っ張られて涙目になった。
「あ、こらこらモーラ。やめなさい!すみません、失礼を」
「いえいえ。これくらい何でもないわ」
アイリスは引っ張られたところを手で押さえながら言った。
「院長先生、すみません。少し来ていただけますか。お客様がいらしていて……」
二人が部屋に来てしばらく経った頃、孤児院の先生らしき女性が院長先生を呼びに来た。
「ああ、わかった。すみません、少し席を外しますね。ごゆっくりしていってください」
院長はそう言うと、呼びに来た女性と出て行った。アイリスとエリックは目線を合わせる。エイミーの姿を確認するには絶好の機会だ。
アイリスは窓の外に目を向けた。庭の様子がよく見える。
院長先生の言う通り、シスターたちは庭で子供たちの世話をしていた。白い服を着たシスターの中に、一人だけ桃色のシンプルなドレスを着た女の子が見える。エイミーだった。
「普通に子供たちと遊んでいるように見えるがな。どこに彼女の裏の顔があると言うんだ?」
エリックは顎に手を当ててエイミーを見つめながら言う。アイリスは答えた。
「シスターたちと離れたときにわかるわ。……けれど、会話が聞こえないとだめね」
ここからでは小さく姿は見えても、会話までは聞こえない。アイリスは抱えていたままだった女の子を床にそっとおろすと、エリックに言った。
「少し近づいてみましょう」
「院長先生が戻って来るかもしれないぞ」
「伝言を頼めば大丈夫よ」
エリックに小声で言うと、アイリスは机で勉強をしていた十歳くらいの男の子に声をかけた。
「お勉強中にごめんなさいね。お手洗いはどこにあるかしら?」
「廊下を真っ直ぐ行って、突き当たりを右に曲がったところです。案内しましょうか?」
「いえ、大丈夫。ありがとう。院長先生がもし戻ってきたら、お手洗いに行ったと伝えておいてくれるかしら」
「わかりました」
少年はそう言うと、書物に目を戻した。
アイリスとエリックは部屋を出て、院長先生と鉢合わせないように庭へ出る。それから茂みの影に隠れて、エイミーたちの様子を眺めた。どうやら彼女たちは、寄付された洋服やかばんを子供たちに配っているらしい。
エイミーがシスターたちと一緒に子供と話しているのが見える。
「アクセサリーもあるのよ。ほら、このお花の髪飾り、スージーに似合うんじゃない?」
エイミーは天使のような笑みを浮かべて、茶色の髪を二つ結びにした女の子に言う。女の子はこくんと静かにうなずくが、エイミーが差し出した髪飾りを受け取ろうとはしない。
「スージー、ほらエイミー様がくれているわよ。遠慮せずに受け取って」
シスターの一人が優しい顔で促す。しかし、それでもスージーは黙ったまま受け取ろうとしない。
「照れているのかしら。ほら、こっちへ来て。私がつけてあげる」
エイミーはそう言ってスージーを引っ張り寄せると、彼女の前髪に花の髪飾りをつけた。周りのシスターたちが似合う似合うと手を叩く。
アイリスは冷たい表情でその様子を見ていた。
「一体どういうつもりかしら」
「……?ほほえましい光景じゃないか。遠慮する女の子に髪飾りをつけてあげたんだろ」
「あの子の顔、喜んでいるように見える?」
アイリスに言われ、エリックは女の子に目を向けた。
「……確かに喜んでいるようには見えないな。趣味に合わなかったのかもしれない。でも、エイミーは善意でやったのだし……」
「そうかしら。私は多分、あのスージーっていう子とエイミーは以前も話したことがあるんだと思うわ」
アイリスの言葉にエリックは首を傾げる。アイリスは険しい顔でじっとエイミーたちの様子を見ていた。




