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その週の日曜日、アイリスとエリックは、エイミーが毎週末仲間と通っている孤児院へ行くことになった。
「エリック様、エイミーと孤児院で会ったそうだけど、中には入ったことある?」
「いいや、外から庭で子供たちと遊ぶ彼女を見ていただけだ」
「そう。私もあの孤児院には行ったことがないの。中に入る口実はどうしようかしら」
「普通に見学したいと言えば入れてくれないのか?」
「入れてくれるかもしれないけれど、何の目的もなく見学に行くのは怪しまれるかもしれないじゃない?……そうだ。私たち、夫婦のふりをして、養子を探しているってことにするのはどうかしら!」
名案を思い付いたと言うように、アイリスは明るい声で言う。しかしエリックは明らかに動揺した様子で言った。
「夫婦……!?いや、そんな、だめだ、僕にはエイミーがいる」
「だからふりだってば。孤児院の先生に言うだけだしいいじゃない」
「いや、でも、しかし……」
エリックは顔を赤くしてしどろもどろに言う。アイリスは潜入のために夫婦のふりをしてはどうかと提案しただけなのに……と困惑した。
「エリック様がそこまで嫌がるのならいいわ。普通に見学に来たって言いましょうか」
「あ、いや。違うんだ。大丈夫だ。その夫婦のふりをするやつでいこう」
「え?いいの?」
アイリスはエリックの態度を不審に思いながらも、とりあえず設定を決めることにした。二人は結婚して二年目になる夫婦だが子供ができない。そこで孤児院に自分たちと相性の良い子供はいないか探しに来た、と。
「よし、これで大丈夫ね!」
「あ、ああ……。俺にそんな大役が務まるだろうか……」
「適当に話を合わせてくれればいいんだってば」
アイリスはやけに深刻に考えているエリックに呆れながら言った。
「そうそう。確かエリック様の家は孤児院の近くにあるのよね。どの辺りなの?」
アイリスは話題を変えることにした。しかし、何気なく聞いた質問にエリックは目を見開く。そうして目を泳がせた。
「ええと……。どこだったかな」
「どこだったかなって、自分の家でしょう?」
アイリスが訝しむと、観念したようにエリックは言った。
「……ミアナ地区だ」
「え?ここから結構離れているじゃない」
アイリスは眉をひそめて言う。確か、初めて会った時にエリックは自分の家は孤児院のすぐそばにあると言っていなかったか。ミアナ地区では、近い場所でもここから半時間はかかる。
「ねぇ。もしかしてエイミーを見に日曜日はここまで来ていたの……?」
「い、いや!偶然だ!たまたま日曜日にはこの付近にくる用事が多かったんだ!」
必死な様子で訴えるエリックを見ながら、アイリスの頭には彼はやっぱりストーカーなのでは?という考えが浮かんだが、深く考えないことにした。
「……まぁいいわ。とりあえず、孤児院への潜入がんばりましょう」
「ああ……」
二人はなんとなくぎこちない空気のまま、孤児院への道のりを急いだ。
──
孤児院につくと、初老の院長先生が笑顔で出迎えてくれた。
「なるほど。子供ができないので、合いそうな子がいたら引き取りたいと。大歓迎ですよ。どうそ子供たちと話していってください」
「ありがとうございます」
「今日はちょうど街のシスターさん方が慈善活動に来てくれているんです。よければ彼女たちと一緒に子供たちと遊んでいきませんか」
院長先生は人の好さそうな笑みを浮かべて言う。アイリスは慌てた。そのシスターさん方というのは、いつもエイミーが一緒に孤児院まで来ている仲間のことだ。そこへ行けばエイミーに見つかってしまう。
「ありがたい申し出ですけれど、お邪魔になっては申し訳ないので遠慮しておきますわ」
「そうですか?まぁ、ご夫婦二人で回られた方がゆっくり子供と話せるかもしれませんね」
院長は不思議そうな顔をしたが、特に強く勧めることはなかった。アイリスはほっと胸を撫で下ろす。
「では、こちらのお部屋へどうぞ。シスターさんたちは庭の方で子供たちの世話をしてくれますので」
「はい。お邪魔します」
院長に案内され、アイリスとエリックは部屋に足を踏み入れる。そこでは、ほとんど赤ちゃんくらいの年齢の子から、学校に通っているくらいの年の子までの十数名がそれぞれ過ごしていた。




