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1/1

サブタイって何?

 

 1


「失礼の無い様にな」


 ここは水の国、リーヴァ。

 国の中心にある巨大な湖が特徴的で、湖を囲うように街が展開されており周りには三メートル程の分厚い壁が聳え立っている。


「分かってる」


 ツィオーネは男手ひとつで育ててくれた父親に見送られ、明日、火の国へと嫁ぎに行く事となる。

 政略結婚・・・は言いすぎだが、二国の同盟を結ぶ為に王女の替わりとなって顔も知らぬ火の国の王子と結婚する事となったのだ。


 アタシなんて、ただの生け贄だろうが・・・。


 笑顔を浮かべるツィオーネの心中は穏やかではない。

 会った事もなく、好きでもない相手と結婚しなければならないのだから当然である。

 しかし、自分が行く事によって父の生活は国の援助で裕福なものとなる。

 国からそう提案された時、考えさせてくれと言おうとしたツィオーネの後ろから間髪入れずに父が二つ返事をして、今回の結婚が決まることとなった。


 家を出て、最後になるかもしれない街の風景を眺め歩いていく。

 昔からの散歩ルート。家の間を抜けていき湖を一望できる公園へと向かう。

 公園に着いたらお決まりのベンチに腰を下ろし、夕焼け空が反射する湖を眺めた。


「しっかし、今でも笑えるな・・・何だよあの返事の早さ。結局、アタシが他人だから金の為なら直ぐ捨てられるんだろうな」


 ツィオーネと父親は血が繋がっていない。育ての親と娘。その関係であった。


「・・・まっ、本当の親も微妙だけど」


 記憶に無い産みの親、しかし誰なのかは知っている。

 そして自分に姉が居ることも勿論知っている。

 自分はその姉の身代わりになるのだと先週言われたから、本当の両親もその時に知った。

 別に知りたくも無かったのに、何故、今さらそんな事を知らされなければならないのか。

 必要無いからと捨てておいて、必要になったからと利用する。

 考えれば考えるほどツィオーネの苛立ちは膨らんでいき、それを誰にもぶつけられないと理解した時、自然と溜め息が漏れた。


「・・・アホらし」

「ホントにね」

「!?」


 声の聞こえた方へ顔を向けると、そこにはツィオーネの姉、第一王女サラスの姿があった。

 いつもみたいにおめかしはしておらず、至ってラフな格好で住人に気付かれない様にか帽子を深く被っていた。


「こんにちわ」

「・・・こんにちわ王女様。王族なのにこんな所へ来られたりするんですね」

「小さい時から城を抜け出しては家の間を通ってここまで来ていたの。ここが一番湖を綺麗に見られるから」

「・・・そうですか」

「そうなんです」


 ふふっ、と笑うサラスにツィオーネも釣られて笑みをこぼした。

 その笑みは、ただ自分の好きなものを好きと言われ嬉しかっただけにすぎず、それ以外の感情は全く籠ってはいなかった。


「だからアナタの事もよく知ってるの。私がここに来るといっつもアナタが居たから」


 幼き頃の淡い記憶が甦る。

 ツィオーネがまだ小さかった頃、この場所で自分とよく似た女の子と遊んでいた記憶。

 それがサラスだと気付いたのは何年も後になってからであった。


「直ぐに意気投合して、好きな遊びも一緒でーーーって、姉妹だから似るのは当然よね」

「ただ単に子供だったからですよ」

「そんな事は無いわ。きっと同じ血が流れているから似ちゃうんでしょうね」


 なんて下らない事を言うのだろう。

 ツィオーネは心の中で見下し、サラスの笑顔を吐き捨てた。

 アタシを身代わりにし見捨てておきながら、自分は隠れて好きな昔馴染みの男と婚約をしている癖に。

 今更姉妹面されても迷惑だ。


「・・・明日、ね」


 夕日を眺めていたサラスから笑顔が消え、神妙な面持ちで言葉を続けた。


「フィアンマ様とは一度お会いした事があるけど、とても良い方よ。誠実で優しくて、他の人の事を考えられる素晴らしいお方」


 ツィオーネは、アンタとは正反対の人間だな、と、そう思ったが口にする事はしなかった。


「それは良かったです」

「えぇ、本当に。お幸せにね」


 だったらアンタが結婚しろよ。

 王族は王族同士で仲良くしてろ。

 心の中では精々してる癖に。

 何でアタシなんだ。

 アタシはただ普通に暮らして自由に生きていたかっただけなのに。

 産みの親と育ての親に捨てられ、見知らぬ土地で見知らぬ奴と結婚して、幸せになんかなれねーよ。


 この世界はふざけている。

 人は皆、平等ではないと笑いながら語りかけてくる。


 ムカつく。

 ムカつくムカつくムカつく。

 見えるもの全てがムカついてくる。

 優しさの仮面を被り続けた父がムカつく。

 親の仮面を被った両親がムカつく。

 笑顔の仮面を被っているコイツがムカつく。

 人を騙す為に自分を偽るコイツ等が心の底からムカつく。

 叶のであれば顔面を殴ってやりたいが、王族や大人の男を相手にそんな事が出来る筈が無い。

 逆にシめられて今より幸せが遠退いて行ってしまう。


 それならばいっそ、


「ありがとう、王女様。幸せになります」


 アタシも自分を偽り、仮面を被って、幸せな振りをしながら生きていこう。

 だって、世界はこんなにも騙し合っているのだから。

 アタシも、死ぬ際まで周りの奴等を騙し抜いてやる。

 結婚して、子供が出来て、孫が出来て、死ぬ間際にアタシの本当の言葉を全部言ってやるんだ。


 翌日、ツィオーネはサラスと名乗り火の国でフィアンマと結婚した。

 それにより、宗教の違いで交わることの無かった火の国ファカルドと水の国リーヴァは同盟を組み、お互いの親交を深めていった。

 翌年、ツィオーネは子を身籠り、母となる。

 ツィオーネが母となる一年前、サラスは表上は王族から民へと変わり、トラディへと住み移った後に昔馴染みの男と結婚をする。

 それから数ヵ月後、とある母娘を庇った男は魔女狩りによって殺されてしまう事となる。


 そして、空間を飛ばされた少年と二人の少女はその同盟が組まれた二年後にリーヴァへと入国した。



 2



 それは一瞬の出来事。視界が歪んだと思ったら、次の瞬間には見知らぬ街並みを視界に捉えていた。

 近くにはアカリとレジスタもいる。


「何だよ、これ・・・」


 白と青の二色をメインに色付けされた建物と風景。

 夕焼け色に染められた空には、白い鳥が何羽も飛んでいた。

 夕陽の位置からしてもうすぐで夜になるだろう。


「やられた・・・っ!」


 アカリの顔は悔しさで塗り潰されていた。


「ごめんなさい・・・」


 レジスタはお得意の謝り芸を見せている。


「お前、謝るのほんっとーに好きだよな」


 ここまでくると呆れて何も言えなくなってしまう。

 取り敢えずお腹を空かせた俺は座り込みを決め込んでいた二人の腕を強引に引っ張り、飯が食えそうな所へと連れて行った。

 そこは寝泊まりも出来る施設になっており、値段的にも一部屋くらいなら俺のポケットのお金で足りそうだったのでそのまま寝食を取る事にした。

 出来るならばこれからの事を話し合いたかったが、葬儀ムードのままでは会話にならないと見込み、大人しく飯を食べ、俺達は部屋へと足を運んだ。

 部屋は、床に敷かれた布団があるだけで他には何もない殺風景な部屋となっていた。

 俺は疲れていたせいか倒れる様にその布団に体を預け、大きなため息を吐いた。


「・・・どうなってんだ、ほんと」


 何がどうこうではない。何もかもがどうなっているのか分からない。

 アカリが人を殺し、故郷を離れ、牢屋に入れられたかと思えば今は名も知らない街の宿で横になっている。


「どうなるんだろ、俺達・・・」


 回らない頭で考えても答えなんて出やしない。

 そんな事は分かってる。分かってるからこそ俺は、とりあえず今日の所は眠りに着こうと思う。

 明日になれば何かが変わる。

 明日になれば物事が上手く動き出す。

 明日になればいつもの日常に戻れる。

 明日になれば長かったこの夢から覚められる。

 そんな楽観的な考えに甘える事にした俺は、ゆっくりと瞼を閉じた。


 翌日、何も変わらない朝を迎えた。

 まだ多少の疲れは残っているが幾分か休めたので、気持ち晴れやかにこの変わらない現実に絶望する事は無かった。


「まぁ、当たり前だよな」


 冴えた頭で部屋の窓を開ける。俺は大きく背を伸ばし、吹き抜ける風に目を細めた。

 本日も快晴なり。


「よし、行くか」


 後向きになってても仕方がない。

 折角の機会だ。どうせ今すぐには戻れないだろうし、俺なりにこの世界を楽しませてもらうとしよう。

 そう決めた俺は、ドアノブを回し、ドアを開けると、新たな世界へと歩を進めた。



 3



 火の国ファカルド。

 この国の特徴として火山と鉱石が真っ先に取り上げられる。

 街の最北端に位置する火山からは、火石かせきもしくはレッドストーンと呼ばれる熱を持つ紅い鉱石が採れる事で有名だ。

 そんなファカルドにもトラディやリーヴァと同じく立派な城が建っている。

 そのファカルド城の一室で二人は密会をしていた。


「―――ナルホド。いきなり呼ぶから何かと思ったら、コリャまた大胆な事で。しかも明日とか・・・急すぎない?」


 声からして二人の内の一人は女性である事が分かる。


「すまない。だが、こんな事頼めるのは君しかいないんだ。頼む」


 もう片方は男性。男性は言葉を続けた。


「明日しなければ手遅れになってしまう!だから―――」

「分かった分かった。アンタの顔を見れば切羽詰まってるのぐらい分かるから声抑えて。聞かれたらアンタの方が殺されちゃうかもよ?」

「す、すまない・・・」

「取り敢えず殺るなら騒ぎに乗じるのが一番手っ取り早いし殺り安いね。それに姿も見られにくい」

「騒ぎか・・・そうは言ってもそう都合良くは起きないんじゃないか?」

「そんなの当たり前じゃん。だから明日誰か殺してよ、アンタが。そうしたら多少はパニックになるだろ?」

「ころ・・・ッ!?そ、そんな事できる訳な―――ッ!」

「しーっ」


 女性はその豊満な胸で男性の口を塞いだ。


「赤ちゃんじゃないんだから騒がないで」

「ふがふが」

「第一、アタシに父親を殺させといて自分は手を汚さないなんて、そんなの卑怯だし傲慢だし自己中じゃない?殺るなら覚悟を決めな―――全てを捨てる覚悟を。なぁに、嫁さんと子供までは捨てなくて良い。国を捨てるだけで良いんだ、それなら簡単でしょ?」

「国を、捨てる・・・」

「そう。いくら王子とは言え人を殺したら民はどう思う?」

「それは確かに・・・」

「国を救いたいなら国を捨てて手を汚しなさい。それが、アンタが本当に守りたい者の為なら尚更、ね」

「・・・」

「急には決めれないと思うけどなるべく早く決めてね?夜までにはアタシもリーヴァに戻りたいから」

「・・・分かった。やろう。君の為に、そして愛する家族の為に」

「いい顔ね。それじゃあ明日―――“コロシアム”で」



 4



 水の国リーヴァ。

 俺はまず、隣の部屋に泊まっている二人を呼びに行く事にした。

 数歩先にある部屋の前で立ち止まる。コンコン、と二回ノックをしたら暫くしてゆっくりとドアが開いた。

 少し空いた隙間からアカリが顔を覗かせてきた。


「おはよう、アカリ」

「ん・・・おはよ」


 朝の挨拶もそこそこに、レジスタについて尋ねる俺にアカリは、


「・・・まだ、寝てる」


 と、眠たそうに目を擦りながら答えた。


「そうかぁ・・・」


 顎に手を当て考えるフリをする。

 既にどうするか決まっているのにわざわざこのポーズをするのは何故なのだろうか?

 この世界の謎を解明して、偉い人。

 などと、どこに居るかも分からぬ偉い人へ向けたメッセージを届けた俺は「それじゃあ」と話しを切り出した。


「少し付き合ってくれないか?この街を見て回りたいんだ」

「・・・本当に良いの?」

「どういう事だ?」


 言いたい事は分かる。

 だけどこうして聞き返してしまうのもまた世界の謎なのである。


「君の大好きな掟を破るよ?」


 心配そうなアカリに反し、俺は脳天気に応えた。


「もう破ってるさ。良いよ、もう。ここまで来たら不可侵も糞も無いだろ?」


 少し間を開け、アカリはコクンと頷いた。


「顔だけ洗ってくるから、待ってて」


 ドアが閉まる直前に小さくレジスタを呼ぶアカリの声が聞こえた。

 どうやらレジスタも一緒に連れて行く気らしい。

 俺的には二人っきりでデート的なものを考えていたんだが、アカリが決めた事に文句を言うつもりなど無かった。

 それに、レジスタが起きた時周りに誰も居なかったら可哀想だしな。

 そう考えると、アカリの判断が正しかったのかもしれない。

 その判断が出来なかった俺は冷たい人間なのだろうか、と、ふと考えてしまった。


 数分後、部屋から出てきた二人と宿屋を出て、行く宛もなくただブラブラと街の中を歩いて行く。

 中心に向かって徐々に低くなっていく街の造りは見ているだけで興奮するものがあった。


 段々に立ち並ぶ露店では、透明な器に様々な模様を入れた器やガラス玉の中に水を入れたガラス細工が売られていた。

 レジスタから聞いたのだが、話好きの店主によると、火を使った細工はここ数年で流行りだした工芸らしい。


 昼飯にと立ち寄った店では焼き魚や煮魚、更には刺し身といった魚のフルコースを堪能させてもらった。

 俺とアカリは母さんが良く魚料理を作ってくれていたから特に何も思わなかったが、レジスタがぼぞっと「私は熊ですか」と言ったのには意味が分からず思わず失笑してしまったものだ。

 そんなレジスタも最初は浮かない顔をしていたが、次第に表情も柔らかくなり今では笑顔も見せるようになってきている。

 段差でよく躓くのは本来の調子に戻ってきたからなのだと俺は思う。


 二時間程歩いて気付いたのだが、どうもここは母さんの故郷である水の国リーヴァで間違いないらしい。


 街の中心にある大きな湖。

 そこに建つ大きな城。

 そして湖を囲う様に建ち並ぶ白で統一された建物。


 その全てが母さんが話してくれたリーヴァと全く同じなのだ。

 母さんは「見た目は綺麗よ、見た目はね」と言っていたが、確かにその通りだと思った。


 そんな感じで一通り街を見て回った俺達は、湖に架かる橋が見える所まで来ていた。

 目の前に聳え立つ城に、城まで続く橋。

 橋の入り口には兵士が二人立っている。

 思い出す。昨日の事。俺達を捕まえた二人の兵士を。

 確か、態度の悪いアイツはセンパイと呼ばれていたな。何とも変な名前だ。

 そしてもう一人の大男。

 アイツだけは絶対許さない。例え掟を全て破ろうともアイツだけは許す事ができない。

 俺達が捕まったあの時、アイツはアカリの手を後ろに回して左手で捕まえていた。

 それは良い。そこは良いんだ。

 だがアイツの右手は確実にアカリのお尻を触っていたんだ。

 恐らく手の甲でチョンチョンと触っていた。間違いない。

 だから俺は、アイツだけは絶対に許さないのだ。


 あー、思い出すだけで熱くなってきた。


 湖から吹き抜けてくる冷たい風が熱くなった俺の顔を優しく撫でる。

 後ろに居るレジスタが、


「ここの風は冷たい色をしてますね!」


 と言ってアカリに無視されていた。

 それもそうだろう。色って何だよ、色って。

 俺は地面に膝と掌を付きながら心の中で突っ込みを入れた。


「ほほう・・・」


 しかし、その風が撫でるのは何も頬だけではなかった。


「あそこ、行くの?」


 城を指差し聞いてくるアカリに、俺は体勢を戻し悩むフリをした。


「んー、見てみたいけど止めといた方が良いだろうな」

「そうだね」


 また捕まったら大変、と微笑むアカリに「何笑てんねん」とは言わず、俺も笑い返した。

 笑う俺達の間をさっきよりも強目の風が吹き抜けていった。

 俺は静かに、速やかに、無駄無く先程と同じ姿勢を取る。


 ほほう・・・これは中々に。


 これは世紀の大発見なのでは無かろうか。

 神が与えしスカートというエロと可愛さを併せ持ったヴェール、その中にある神が造りしパンティーという何かよくわからんが可愛くてエロい布を自然かつ怪しまれずに覗ける方法を俺はついに見付けてしまった。

 普通にしていると上から見下ろす形になる為、スカートはまだしもパンティーを拝む事は絶対に出来はしない。

 しかし、この様に膝と腰を徐々に低くしていき、地面に膝が付くまで姿勢を低くする。

 次に、お目当てののパンティーが見えるまで上体を前へと倒していくのだが、これもまた掌が地面に付くまで下げていく。

 そうしたら最後に、顔はあまり上げずに視線だけを空に向ける。

 すると、なんということでしょう。

 そこには、パンティーがあるではありませんか。


 土下座。


 俺はこの態勢にそう名前を付けた。


「さっきから何してるの・・・気持ち悪いよ?」


 侮蔑の眼差しを向けるアカリに、俺は心外だと憤怒した。


「大地と空に感謝してるだけだし!神聖な儀式に対して気持ち悪いとは何事か!ふざけんなよっ」


 別にもっとパンティーが見たいとかそんなんじゃないからなっ!


「生き生きしだしたのが更に気持ち悪い・・・」

「何だか変態さんみたいですよ?」


 スカートじゃない奴は黙ってろよ!この短パン野郎が!


「まぁ、確かにそう取られても仕方がないかもな」

「ではもう立ってください。早く他の所に行きましょう?」


 そう言って、レジスタは手に持った杖で地面を二回叩いた。

 急かしているのだろう、だがーーー


「それはできない!!」

「えぇ・・・何この人」


 そこでアカリは何かに気付き、サッと手でスカートを押さえてしまった。

 酷い。酷すぎる。この世界は地獄かよ。


「・・・えっち」


 ほう・・・その反応も中々に良いではないか。


「ナイスピンク」


 勢い良く突き出された親指は天をも貫く神槍の如く光り輝いていた。



 4



 そんな感じでリーヴァを満喫した俺達は、足休めと腹ごなしの為に街一番と言われている酒場へと足を運んだ。

 何故、金もないのに飯屋なのかと言うと、先日で有り金をほぼ使い切ってしまった俺とは逆に、レジスタはまだお金を持っていたからなのだ。

 そのレジスタがお酒を飲みたいと言うのでそれならと、話好きの店主がオススメしてくれたこの店“水の精霊”に決めた次第である。


「お待たせしましたー」


 注文の品をテーブルへ置いていく店員さんの胸元には名札が下げられて、そこには可愛らしい丸文字で“シャルロット(ハート)”と書かれており、その方は大変おっぱいの大きな方であった。

 俺の視線に気付いたシャルロットちゃんはウィンクを飛ばすと、他のテーブルへと向かって行った。


「凄いな」


 歩くだけで揺れてたぞ。


「それはどういう意味の、凄いなの?」

「もちろん料理だよ」

「・・・へぇー」


 疑いの眼差しを向けるアカリに、俺は広角を上げて見せた。

 その行動には「本当だぜ?」の意味が込められているのだがアカリは気付いてくれただろうか?


「え、なに?気持ち悪い・・・」


 どうやら分かってくれなかったみたいだ。


「それより、これからどうするんです?」

「どうしようか」


 運ばれた料理を口に運びながらレジスタに応える。


「あっ、いただきます!」


 そんな俺を見て、レジスタも顔の前で手を合わせてから料理を一口頬張った。


「はんはえへはいんへふぅは?」

「はひひっへんほ?」

「へっ?ははんはいへふ。はんへふは?」

「はぁは、ほはへはひひっへふほハ」


 はんはほへ。


「二人共、うるさいし汚い」

「・・・んっ。いやぁ、ごめんアカリ。美味いから手が止まらないんだな、これが」

「ほへんははい」


 お前はまだやるのか。

 ほら、悪ノリを続けるからアカリの顔が凄い事になってるぞ。

 レジスタは多分明日には死んでるな。


「レジスタ、それはもう良いよ」

「んんっ!?」


 頬を膨らませハムスターの様になっていたレジスタは、口の中の食べ物を一気に飲み込み、代わりに目を飛び出さんばかりに見開いた。


「い、今・・・」


 え、なに?


「今・・・初めて名前で・・・」


 あぁ、そんな事で驚いていたのか。

 と言うか、今まで一回も名前で呼んでなかったっけ?

 自信はないが確かにずっとお前と呼んでいた気がする。


「まぁ、いつまでも“お前”呼びじゃ可哀想だしな」


 俺は、それに、と付け加え言葉を続けた。


「暫くは一緒に居るだろうし、名前で呼んだほうが仲間って感じがするだろ?」


 仲間。

 その言葉にレジスタは瞳を潤した。

 下を向き、小さく肩を震わす。

 俺はなんだか急に照れ臭くなりアカリの方に視線を向けると、アカリは「あーあ・・・」と言いたげな表情で、静かに無音のため息を吐いていた。


 こ、これは俺が悪いのか?


「あー、レジスタ。・・・なんかすまん」


 とりあえず謝ることにする。


「いいえ、こちらこそいきなりごめんなさい。ただ、嬉しくて・・・あー、私も入れてくれるんだって思って、そしたら自然と、こうーーー」


 言いたい言葉が見つからないのだろう。

 レジスタは身振り手振りで伝えようと必死にジェスチャーをしている。


「と、とにかく、ありがとうございます。短い間かもしれませんが、よろしくお願いしますね!」


 そう言って右手を差し出してきたレジスタに、俺は照れながらも同じく右手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。

 握り合った手をブンブンと上下に動かしたレジスタは、今度は空いてる左手をアカリの方へと差し出す。

 アカリも最初は嫌がっていたが、いつまでも左手を戻さないレジスタに負け、仕方無しに握手を交わした。


「これで私達は仲間、ですねっ」

「そうだな」

「・・・今だけ」


 所でーーー仲間になったのは良いんだが、結局これからの予定を何も決めていないぞ?


 なんて、そんな事を言い出せる雰囲気でもないのでとりあえず今は、レジスタと仲間になった記念に好きなだけ、お気の済むまで俺の右手とアカリの左手をブンブンさせてあげようと思う俺なのであった。





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