表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖の島へいらっしゃい 〜花杜の守巫女見習いは大忙し  作者: と〜や
第二話 猫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

3.郵便配達員は……

『ありゃ、山向こうのトオルんちの末っ子かえ』

「山向こう?」


 目を覚ます様子がないからと、郵便屋さんは八日坊様が社に連れ帰ることになった。河童さんは中学生姿になって自転車を担いで行く。

 ……ええと、担がなくても押していけばいいんじゃ、と思ったら、そのまま石段を昇る八日坊様のあとについて行っちゃった。

 まあ、いっか。押して行けるルートは遠回りだしね。

 残ったメンバーのうち、陽平はさっさと部屋に引っ込んで、わたしは食後の片付け。天狐様はわたしに付き合ってくれるらしくて、台所で毛づくろいをしている。

 家の中だから別に一緒にいなくても大丈夫だと思うんだけど。


『山向こうへは行ったことなかったかの』

「んー、ろくに出かけてないし、あっち方面はお店ないから」


 なにしろここに来てから必要以外のお出かけはしたことがない。

 買い物は車で橋を渡った本土で済ませるし、歩きで出歩くっていったら、家の周辺か花杜の見回りくらい。

 山向こうへは、海岸沿いに細い道を辿って島を半周した先から山に登る道しかないらしいんだよね。

 ネットの情報によれば、その先の磯場がいい釣り場らしいけど。


『そうか、そなたはもっとこの島を知らねばならんの』

「そういうもんかな」

『そなたが守る島じゃ。当然じゃろう?』

「そっか」

『まあ、そのためには一人で出歩けるようにならねばの』

「うーん……」


 天狐様の言葉に、さっきの感触を思い出す。


 ()()()


 あきらかに、隔てるものがあった。

 結界ってガラス一枚的なイメージだったんだけど、あれは違う。

 ざらりとした、ねっとりとした質感の、分厚い層。じっとその中にいたら息苦しくなるような、そんな感触を思い出して右手を握る。


 あれを、自分で張るの?

 全然イメージできない。

 陽平は張れてるのかな。単に桜輝がその役目を果たしてるだけなのかも。

 わたしが桜輝を持ち歩ければ、問題は解決! なんだけどなあ……。

 呼べても顕現させるだけで消耗するんじゃ意味ないし。

 そもそもあんな重たいもの、持ち歩けるわけがない。陽平ってばよくまああんなに軽々と振り回せるもんだ。


『一人で考え込むでない。そなたはまだまだ知らぬことが多すぎる』

「うん……」


 天狐様の言葉に頷く。

 巫女だのなんだのと言われても、それっぽいことをしてるわけじゃない。

 呪文を習ってるわけでも、写本をしてるわけでもない。

 ここにきて半年以上。

 ……ただ普通に寝て起きて、食事して、ネット繋いで勉強して、買い物して料理して。


「ねえ、天狐様」

『なんじゃ?』


 最後の皿を洗いおわって蛇口を締める。


「わたし、なんでここにいるのかな」

『……はぁ』


 背後からもたらされた、深い深いため息に、わたしは振り返る。


「だって、これじゃ家にいた時と何にも変わらない。そりゃさぁ、ここに来なきゃ天狐様にも八日坊様にも、河童さんにも猫又さんにも会えなかった。でも、わたしがここにいる意味がわかんない。八日坊様だって、何にも教えてくれないし……」

『うつけ者が』


 ぺしり、と尻尾でビンタされる。痛くないけどなんだか心が痛い。

 顔を上げれば、天狐様の目がとてもとても冷たく光っていた。


「天狐様……」

『ここにおらねば意味がないわ。天狗から聞いたであろうに……忘れたのか?』

「だって……」


 ーー祐希の役目は、ここにいることだ。


 あの日のことが蘇る。

 祖母ーー先代が亡くなり、跡を継ぐことを決めたわたしに、八日坊様が言った言葉だった。

 何をしなければならないのか、と聞いたわたしに帰ってきた答えがそれで。

 何ができるわけでもないわたしが、役に立つのならと了承した。何をする必要もない、ただここにいればよいと……自分の居場所をもらった気がしたのだ。

 でも、もうじき先代の力は消える。

 この家の守りも、花杜の守りも、わたしがしなきゃならないのに。

 ここに来てから、そのためにしたことなんてほとんどない。


『それは時が来るのを待っておったからじゃ』

「時?」

『そう。……そなたの準備が整うのをの』

「準備」


 そう言われても、思い当たることはない。

 特別なことなんて何もしてない。むしろ、みんなに守られてばっかりで、足手まといなだけだよね?


『準備が整うたから、儀式を言い出したのであろ、天狗は』

「儀式……やっぱり、痛いのか、な」


 途端に尻尾でビンタされた。さっきのより痛い。


『下衆なことを考えるでないわっ』

「だってっ、そのっ、初めては痛いって……痛い痛いっ! 天狐様ひどいっ!」


 高速ビンタをお見舞いされてしまった。うう、尻尾はふわふわで撫でると気持ちいいんだけど、こういう時の尻尾って武器なんだなあって再確認してしまう。


「っていうか、天狐様。儀式のこと知ってるのっ?」

『知らぬわっ! 言われた通り、潔斎しておくのじゃぞ』


 あとは知らん、とばかりに立ち上がった天狐様に、わたしは慌てて抱きついた。


『祐希、これ離しやっ』

「天狐様、そのことで教えてほしいんだけど……潔斎って、何?」

つ、続きは少しお待ちくださいませーっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あっはっは。 そりゃ、潔斎なんて言葉、若い子は知らないよねぇ(^^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ