表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖の島へいらっしゃい 〜花杜の守巫女見習いは大忙し  作者: と〜や
第二話 猫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

2.三毛猫は……

 このまま桜輝を振り下ろせば真っ二つになるだろう場所。

 なんでいきなり割り込んでくるのっ。


「あの、猫ちゃん、危ないからどいてくれる?」


 恐る恐る声をかけてみたけれど、我関せずって感じでじっとこちらを見ている。

 もう緊張感も何もありゃしない。

 ちらりと八日坊様を見れば、眉間に深いシワ。そーとーご機嫌斜めよね。


 仕方ない。

 桜輝を散らすとわたしは三毛猫の前に膝をついた。できれば抱き上げて他所に逃がしたいけど、触らせてくれるかどうか。

 そうっと手を差し伸べると、ふんすんと指先を嗅ぎまわる。なんだかくすぐったい。


「あのね」

『祐希、それは普通の猫ではないえ?』


 え?


 背後からの天狐様の声に目を見開くと、目の前の尻尾が揺れて割れた。……二つに。


「しっぽ、割れた……」

『猫又くらい、珍しくもないじゃろ?』


 ちょっとしゃがれたおばあさんぽい声が聞こえる。

 ……えええ、いまの、この子?


「ほんとに、ねこまた?」

『これ、触るでないよ』


 ちくっと爪が刺さった。どうやら無意識で頭撫でてたみたい。

 河童さんが隣で『肝座ってるなあ』と感心していたけれど、そんなことよりっ!


「よく庭に来てたよね? もしかして他の子達も……?」

『ああ、そういうのもおるし、普通のもおるし。ま、さっきからダダ漏れの天狗の威圧でみんな散っちまったけどね』


 そういえばと八日坊様に視線を向ければ、本気モードの威圧は解除されていた。

 でも、猫又さんに向ける視線は厳しい。


『あのタイミングで邪魔をするとは……』

『ああでもしなきゃ、嬢ちゃんぶっ飛ばしてただろ。全く、何を拗ねてるんだか』

「……へ?」


 拗ねる、という言葉に首をかしげる。

 あれ、拗ねてたの?

 どうしてなんで?

 陽平が突っかかったから?

 それとも儀式のことを嫌がったから?

 ええー、わかんないー。


『無駄口が多いぞ』

『はん、猫の口を黙らせたかったら、それなりのモン寄越しな。……あんたの気に当てられて、外で人が倒れてんだよ』

「えええっ!」


 この家の中のことはてっきり外に漏れないんだろうって思ってた。

 そのための結界なんじゃないのかと。

 でも、全部ダダ漏れなのっ?


「ダメじゃん!」


 慌てて縁側から外に出ると、()()を通り抜けた感覚があった。

 ……あれ、今のが結界? いつもならこんなこと感じたことなかった。買い物に行く時も畑に水やりに行く時も、気にしたことなんてない。

 なのに、どうして……?

 沸騰してた頭がクリアになる。

 そうだ、家から出るなとは言われてなかった。『一人で出るな』って……。


「ねーちゃんっ!」


 風を切る音に我に帰る。どれくらいぼうっとしてたんだろう。

 宵闇の月光の下、目の前には陽平がいて、桜輝が桃色の軌跡を残す。

 その向こうには河童さんと天狐様がいて。闇に紛れた()()が蠢く。


『だから言うたであろう』


 ふわりと目を覆い隠すように手が置かれる。


『桜輝がなければ外には出られぬ。言ったはずだが忘れたか?』


 そうだ、言われた。

 一人で家から出るな。誰かを連れて行け、と。

 だから、陽平がいつもついてきてくれてたんだ。

 庭に出るときだって、必ず誰かいた。


『お前はまだ自力では結界を張れん。この家の守りとていつまでも持つわけではない』

「……うん」

『もう時間がないのもわかっておろう』

「うん」


 先代の……祖母が亡くなって、夏がくれば一年。祖母の力が残っているから、この家は守られてきた。

 でも、もうじき消える。


『来週山に登る。それまで潔斎しておけ』


 音が止んだ。手が外されて目を開ければ、三人がこちらを見ている。

 彼らが対峙していたものはすでに消えていた。

 陽平の目に驚きの色はない。……そっか、知らなかったのはわたしだけなんだね。

 知らないところで彼らに守られてきたんだ。


「ごめん、ありがと」


 八日坊様にそっと背を押されて庭に降りる。

 陽平は手にしていた桜輝を散らすと、駆け寄ってきた。


「ほんと、生きた心地しなかったよ。……マジやめて。俺の寿命ぜってー縮んだ」

「うん、ごめん。忘れてた」

「忘れてたで済むかよ」


 ごちん、と拳骨が落ちてきた。痛い。いや、マジ痛いんですけどっ!


「ち、ちょっとっ、手加減しなさいよっ! 仮にも女の子に対してっ!」

「女の子って歳かよっ! てかねーちゃんは痛い目しねぇと覚えないだろっ」

「なによそれっ、人をマゾみたいに言うなあっ」


 拳を振り上げて追いかけるわたしと逃げる陽平。

 そんないつもの日常が、いつまでも続くといいな。


 ……なんて珍しくおセンチに思ったりしたよ。




『ところで、外で伸びてる人のことなんだけど』


 三毛猫さんの割り込みでハッと我に帰る。

 そうだよ、すっかり忘れてた。どうしてこう、忘れっぽいんだろう。


『だから一人で行くなと言うておるに』


 走り出したわたしの襟首を、天狐様がくわえる。


「まったく、仕様のない」

「うわっわっ」


 気がつけば人型になった八日坊様がわたしの腕を掴んでいて、引きずられるように門の外に出る。

 とっさに構えたけど、さっき縁側に降りた時のような感覚はなかった。


『ほれ、あそこに』


 門を出て細い道を下れば、かろうじて車が二台すれ違える道に出る。

 街灯に照らされて見えたものは。


「郵便屋さんっ!」


 赤い自転車とともにバッタリと倒れている、ワイシャツ姿に紺色スラックスの男の人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そーか、霊力なくても威圧は効くのか…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ