今日の晩ご飯は……1
今日の晩ご飯は餃子。
ふふふ、驚くなかれ、手作り餃子よっ!
ここにきてから本当に料理の腕だけは上がったと思うのよね。
なにせ、近くにお店がないから基本自炊だし、あれちょっと食べたいなって思っても、コンビニはないし。
仕方なくて自分でレシピ見ながら作ったりしてるうちに、作った方が美味しいんだって知ったのよねえ。それに安いし。
家では出来合いや冷凍食品のお世話になりっぱなしだったけど、それはそれでお金がかかるんだよねえ。
いやまあ、生活に困らない程度のお金はちゃんとあるのよ?
ただ、父にはこれ以上は負担かけられないし、あっちの家だって維持しなきゃならない。
生活に困ったからお金送って? なぁんて言えるはずがないのよ。
だって……もう、山野辺の人間になっちゃったんだもの。
ま、そんなこんなで、わたしの料理スキルはメキメキ上達中である。
「ねーちゃん、今晩は餃子?」
見回りから帰ってきた陽平が飛んできた。後ろには天狐様。
「おかえりぃ。ちょうどよかった、包むの手伝って」
「やったっ」
さっさと手洗いとうがいを済ませて弟はやってくる。
そう、うちの弟はなぜだが餃子を包むのだけは大好きなのである。
……うん、青春真っ盛りな青少年としてはそーとー変だとは思うけど、一応口に出すのはやめといた。
だって、へそ曲げられて手伝わなくなったら嫌だもん。
それに、こうやって何か作ってる時の陽平は実に楽しそうなんだもの。
そんなおねーちゃんの心中を察することなく、弟は嬉々として餃子の皮のタネを丸めて広げていく。
ふふふ、驚くなかれ、うちの餃子は皮まで自前なのよっ!
強力粉と米粉もいれてあって、モッチモチのくせに焼いたらパリッとするの。
「ちょっと陽平、そんなにデカくしたら蒸さないと中まで火が通らないでしょ?」
「蒸した後で焼けばいいだろ。このサイズじゃないとダメなんだってば」
なんて言いながら、手のひらよりも大きく広げていく。
その上に餃子のタネをたっぷり……ボウルに残ってた半分入れてんじゃないわよっ!
「ちょっと、残りどうすんのよっ」
「いーからいーから。材料買ってきた」
「はぁっ?」
綿棒を握った陽平は顔を上げるとニカッと笑う。
「ねーちゃんの餃子食べたいなあって思ったから買ってきたら作ってるし、以心伝心?」
にしし、と笑う弟に、わたしは呆れ顔でため息をつく。
まあ、でもこれ、まんざらでもないのかもねえ。朝からずっと今日は餃子って思ってたし。
「はいはい。わかったわよ」
買ってきたという材料はどこだろう、と視線を巡らせると天狐様ががさがさとビニール袋をくわえて持ってきた。
うそっ、天狐様に何やらせてんのよっ!
「うわあっ、ごめんなさい天狐様っ!」
『別に構わぬよ。我が愛しの許嫁殿が楽しそうなのを見られるのは妾にとっても眼福じゃ』
「……ほんと、ごめんね」
ビニール袋を慌てて受け取ると、天狐様は尻尾でわたしの頭を撫でてひらりと縁側へと身を翻す。うん、なんか嬉しい。
「さあてと、じゃあ作るわよぉっ」
ザクザク。キャベツと白菜をみじん切りしていく。
こういう作業って頭空っぽにしててもできるんだよねえ。
うん、いらんことを考えないようにしよう。
昨日のこととか、考えたって仕方ないもん。
鼻歌を歌いつつ、刻んだ野菜にニラを混ぜて塩を振る。
ボウルいっぱいのみじん切りの野菜。
水を絞りつつ、用意したひき肉に混ぜ込む。
味の決め手はすりおろした生姜とニンニク。チューブじゃないんだよ、これ。生をすりおろすから匂いは強烈。でも、それがいいんだよね。
匂いがーって気になるところだけど、ここにいる限り、買い物と花杜の見回り以外はほとんど人に会わない。
だから、みんなで食べれば怖くないのだっ!
「ねーちゃん、皮の追加できたよ」
「おー、こっちもタネできたとこ。……って、陽平、それ誰の分?」
テーブルの方を振り向けば、麺板の上には立派な巨大餃子が二つ。うちで育ったきゅうりより巨大って、どういうこと?
うちにある蒸し器には……入んないわ。
仕方ない、中華鍋を臨時蒸し器に任命するかぁ。
「これは八日坊様とあの河童さんの分」
「え」
河童って、餃子食べるの?
あーでも、スルメ食べてたっけ。それなら食べられるかなあ。
なんとなくあの河童さん、悪食な気がするし。
うん、ビールに餃子はよくあうしねっ。
「まあいいけど、ちゃんと自分で蒸してよぉ?」
「わかってるって」
中華鍋を渡したら、あとはわたしの出番だ。
最初に用意したのよりも多いネタと皮を前に置いて、腕まくりをするのだった。
「祐希」
「八日坊様、お疲れ様。……ってまさか、その姿でそのまま来たんじゃないわよね?」
美男すぎる神主さんの登場に、わたしは盛大に顔をひきつらせる。
ここに出入りしてるなんて知られたら、大変なことになるんだよっ?
自分のファンクラブが何個あってどれだけ在籍してるか、知らないんだろうなあ……。
まあ、できたと聞いて、一応誰もいなかったら寂しいよね、なんて仏心出したわたしが悪かった。
流れてくる八日坊様情報を止めようと退会方法を探したけれど、未だに退会できていない。なーぜー。
まあ、お陰で八日坊様の人気がどういうものかはよーく理解してるけれど。
あのおねーちゃんたちに目をつけられた日にゃ……。
「案ずるな、手は打ってある」
ぽん、と頭の上に置かれる手。
「もう、手洗いとうがいっ」
ぺいっと頭上の手を掴んで放り投げると、わたしはガスレンジの前に立つ。
今日もたっぷりの餃子、焼きまくるわよっ。
「陽平、蒸しあがった?」
「もうちょい。こっちは焼き目つけるだけだから、先に焼いちまって」
「わかった。じゃあちゃぶ台出したら河童さん呼んで」
「了解って、え?!」
「祐希?」
『よいのかえ?』
陽平、八日坊様、天狐様の順に驚きが伝播していったらしい。
わたしは熱くなってきた鉄板から目を離さずに言う。
「ご飯も炊きたてだし、お味噌汁もたっぷりある。餃子も美味しくできたのに、河童さんだけ仲間外れにできないっしょ?」
途端にため息が三つ。
……あのねえ、わたしが馬鹿だと思ってるでしょ。
「うん」
「……そうだな」
『よう分かっておるではないか』
どうせどうせ、そんなところだと思ってましたよ。
はいはい、残念乙ーって感じ。
「ねーちゃん、大丈夫か? そんなに簡単に信用して」
「だってわたし、天狐様と八日坊様を信用してるもの」
「……は?」
『ほう』
約一名、沈黙した人が……あ、人じゃなかったっけ。
「わたしに対して危険のある人物を、近寄らせるわけないでしょ?」
「ねーちゃん、それ短絡すぎ」
「そうかなあ」
呆れ顔の弟をちらりと見やって、フライ返しを準備する。
あー、いい香り。やっぱり生のニンニクは違うわ。
『それほど信用してくれるのは嬉しいがの、祐希』
『……他人の判断を信用するな』
声音が変わった。振り向けば、八日坊様はいつもの姿に変化していた。……でも、なんで背中向けてんのかな。
「二人の判断を信用してるわけじゃないよ。わたしが二人を信用してるの」
「それって同じことじゃね?」
「ぜんっぜん違うわよ」
もー、なんで分かってくれないかな。
むうっとほっぺたを膨らませたら、天狐様がため息をついた。
『ほんに……これほどとはのう。これ、天狗の、そなたも何か言わぬか』
天狐様がくいくいと八日坊様の作務衣をくわえて引っ張るも、八日坊様はこちらを見ることなく台所を出ていった。
むー。
怒った?
呆れられた?
まあいいや。とにかくわたしとしては河童さんはもうお友達のつもりだし。
「ほら、陽平。ちゃぶ台出してってば。もう出来ちゃうでしょ」
「おっと、忘れてた。ねーちゃん」
「なによ」
「……まあ、いいけど、色々覚悟しといたほうがいいよ?」
ばたばたと足音が遠ざかる。
はぁ、なにを覚悟すりゃいいのよ。
八日坊様に呆れられるのなんか日常茶飯事じゃないのさ。
『ほんに……鈍いのう』
天狐様までため息をついて出て行く。
むー、なんなのようっ。
昨日といい今日と言い。
「まったくもーっ!」
なんかむしゃくしゃして叫び声を上げるのだった。





