4.消失
今回は少し長めです
追記
題名を、
彼女の形見が美少女になり困ってます から
彼女の形見が美少女になって困ってます
に変更しました!
題名にふりがながつけられない....だと....?
「冒険者ギルドです」
「おお、でかいな」
そこはオレンジ屋根で、大型ログハウスのような造りの、とてもオシャレな建物だった。
テラスに飾られた植物達の緑がアクセントになっていて、清潔感があり非常に美しい。
ギルドには酒場が併設されているらしく、テラスからは仕事終わりの冒険者達が木製のジョッキを片手に談笑している姿が見られる。
冒険者ギルドという名前から、もっと質実剛健でざっくばらんとした印象の建物を想像していたから、実際正反対の小綺麗な外装は、俺の目に鮮烈な印象を残した。
「ご主人様、ここで素材を売りましょう」
「冒険者ギルドは素材の買い取りもやっているのか」
「冒険者でなくても、Dランク以上の魔物の素材であれば、通常価格で買い取って貰えるんです。」
「便利だな。買い取りに関してはよく分からないから、ホタルに任せてもいいか?」
「はい! 最初からそのつもりでしたし、喜んで!」
心なしか意気込んで見えるホタル。
サラサラの銀髪が揺れて夜の街でも輝いて見える。
その美しい髪を両手でワシワシしたい......
そんな欲求にかられるのを必死で押さえ込んだ。
平常心だ、平常心。
俺にはカナタという絶対の存在が居る。
それ以外の輝きは、全て中身の無い偽りだ。
サラサラの銀髪もまやかしだ。
「それとご主人様、ギルドの中には野蛮な連中もいますので、念の為僕のそばから離れないで下さいね。」
「おう」
絡まれるのか。怖いな。
毎回思うんだけどホタルはどこでそんな情報を仕入れてくるんだろうか。
昨日まで俺と一緒に日本に居てストラップをやってたんじゃないのか.....?
ホタル知恵袋の情報量は計り知れない。
「入りましょう」
「ああ」
「おい、そこの兄ちゃん。
見ねえ顔だなぁぁ、あ゛ん?」
秒で絡まれたあああああ!
「おいおい可愛い嬢ちゃんまで連れてるじゃねえか、ああ゛ん?」
なるべく穏便に済ませたいところだが、ホタルの方を一瞥すると、殺気立った目でいかつい格好の男を睨み、手を刀に添えている 。
今にも切り伏せてしまいそうだ。
「何か用か....?」
「お前どこからきたんだ? あ゛ぁん?」
「青帝国だったかな」
「青帝国だってぇ?めちゃくちゃ遠いじゃねえかあぁん?」
「そうだな、疲れたから早く宿をとって休みたい。もう行っていいか?」
「ああ゛ん?、そんな事よりこんな奴とつるんでないで俺とたのしいことしようぜぇ??」
話が通じてるのか通じてないのか分からんな。
ホタルの方をじろじろと舐め回すように見てから、欲望むき出しの目で言ってくる。
この男はやばいやつだ。
「すまないがコイツは俺の物なんだ。お前に渡すつもりは無いぞ。」
「ご主人様...!?」
俺の言葉になんだかよく分からない複雑な表情をするホタル。
「ああ゛ん!? 何言ってんだてめぇ?そっちの嬢ちゃんのことじゃねぇよ!」
「ん?」
「だから俺とたのしいことしようぜって言ってんだよ兄ちゃん!!ああ゛ん?」
はい?
コイツは何を言ってるんだ?
「ご主人様、この様な不埒者は今すぐ殺すべきです。いえ殺しましょう。いや殺す....!」
「まてまてまて!早まるな。一体どういうことだ」
「言い方が悪かったなぁ、あ゛ぁん?
俺と肉体同士を激しくぶつけ会おうぜって言ってるんだよぉ、あ゛ぁん?」
「んんん?」
喧嘩を吹っかけられたのだろうか俺は。
「いくらご主人様が魅力的な殿方であるとはいえ、そのような破廉恥な事、僕が許しません!」
「上等じゃねぇか、ああ゛ん?」
破廉恥?
こっちの世界では喧嘩は破廉恥なものに含まれるのか...?
それよりホタルが完全に刀を構えてしまっている。
怪しげな赤い光が刀身に帯びてきてしまっている。
もうバチバチの臨戦態勢である。
男の方も やるかぁ? とか言って拳を握りしめてるし。このまま喧嘩が始まったら絶対死人が出る。
大分カオスな状況になってきたな。
「やっちまえぇえ!」
「女に手を出すなんて最低だなぁあ!」
「おらぁ!」
「何すんだてめぇ!」
「ぐはぁっ」
「やったなあぁ!」
面白がった野次馬たちがさらに空気を悪化させてく。
なんならもう既に殴り始めている奴らまでいるぞ。
やめろやめろ、いくらなんでも頭に血が登るのが早すぎるだろう。
どうなってんだこの世界は。
「ご主人様は渡さない!覚悟おぉぉぉ!」
「死ねやあ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
ああもう何でそうなる
「お前ら落ち着けよ【蛍の光】」
混沌としていたギルドの大広間に、ぼんやりと明るい青緑色の光の玉が次々と現れ、人々のあいだをゆっくりと流れていく。
あたりは時間が止まったように静まり帰り、人々は魅惑的な輝きに釘付けになっている。
さっきまで殴り合っていた連中やホタル達も喧嘩を辞めて、魂が抜けたようにその場で呆然と光を見つめていた。
ストラップの恩恵で使えるようになったスキルの1つ、【蛍の光】。
このスキルは、対象の範囲にいる人間の戦意を失わせることが出来る。
まさかこんな場面で使うことになるとは思わなかった。
しかし戦意を失わせるだけでなく、多くの人の意識を光に集中させることが出来るようだ。
乱闘に参加していない冒険者や受け付け嬢なども光に夢中になっている。
結構効力が強いな。
俺はぼんやり光を見つめるホタルの肩を叩いた。
「おいホタル、大丈夫か?」
「........はっ!......ご主人様これは一体」
「俺のスキルだよ。少しは落ち着いたか?」
「申し訳ありませんでした......僕とした事が.....ついカッとなって取り乱してしまいました。」
ホタルは俺の事になると周りが見えなくなることがあるらしい。
自分の許容できない範囲の事まで一生懸命やろうとするから、たまに空回りしたりボロを出したりする。
普段は冷静沈着としているけど、実は感情的になりやすい要素を秘めているようだ。
振る舞いは妙に大人びているが、まだ見た目相応のあどけなさが残ってるんだな。
というのが1日一緒にいて分かったことだ。
「あまり気負いするな、お前はお前らしくしていればいいんだ。無理する必要も無いからな。」
「ご主人様......ありがとうございます」
ホタルはなにかを考え込むように、整った眉をひそめて俯いた。
「さて、もういいか。」
スキルを解除し、飛んでいた光が消えると、人々の意識が戻っていった。
「い....今のは....?」
「なんだか心がスッキリとしている..!!」
「先程の高度な魔法は一体.....」
「俺はなんで喧嘩なんかしていたんだ?」
「すまなかったな突然殴ったりして」
「あぁ俺も悪かった....」
ギルド内は先程の騒ぎが嘘のように和やかな空気包まれ、皆が笑顔で和解しあっている。
これはすごい効き目だな。
使えるのが夜限定じゃなければ、世界中の戦争を止めることが出来るだろう。
割と地味なスキルだと思っていたが、使い方によってはとてつもない効力を発揮するかもしれない。
「おい兄ちゃん、突然絡んで悪かったな、久しぶりに生きの良い奴を見かけたから、興奮しちまった。そこの嬢ちゃんも悪かったな。」
「い...いえ、私もあそこまで感情的になってしまい申し訳ありませんでした.....」
「ああ゛ん、いいってことよ!今日のところは諦めてもう帰るぜ!またな兄ちゃん!」
「ああ、元気でな」
もう二度と会いたくない。
とにかく丸く収まってくれたようで何よりだ。
「ホタル、素材を売りに行くぞ」
「はいご主人様、あちらです!」
俺たちは広場の端に設置された、素材買い取り用のカウンターに向かった──────
─────最後に鮮血の森産ブラックホーングリズリーの全身.......以上で合計が金貨32枚と銀貨50枚での買い取りで、外部価格の手数料金貨1枚と銀貨50枚を引いて金貨31枚でございます。」
目の前にドサッと硬貨の山が積まれた。
「「金貨31枚!?」」
「想像以上に高値で売れてしまいましたね......」
「ホタル.....この世界での貨幣換算をもう一度教えてくれ」
「銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚です」
銅貨1枚がおよそ100円だとして、
日本円に換算すると.......およそ3150万円!?
今日の夜代どころか普通に家でも買って定住できるレベルの金額だぞ!
「いややばすぎだろ。そんなに貰って良いのか...?」
突然大金をぽんと出されたら、誰だって戸惑う。
怖いので受付嬢に確認をとる。
「正当な金額でございます。
理由を申し上げますと、鮮血の森の魔物は凶暴で、どれもランクがAランク以上、その上討伐数が異常に少ないので素材は貴重なんです......
それが死体丸ごと.....
さらにどの死体も腐敗が見られず状態がとても良い点から、このような高額買い取りとさせて頂きました.....」
「そんなに強い魔物だったのか.....」
魔物のランクはE、D、C、B、A、Sと強さが決められていて、それぞれのランクに通常のAランクと上位Aランクがあるらしく、Aランクの魔物は、王国騎士団の精鋭50名が相手してようやく倒せるか否か、という規定になっているそうだ。
鮮血の森の魔物討伐に、軍が出動したこともあるとか。そんなAランクの魔物を一撃で倒していたホタルは一体何者なんだ...
とんでもない化け物が身近に居たもんだ。
「それでは有難くいただきます。
ご主人様、どうぞ」
「どうぞと言われてもだな.....その大金はホタルが稼いだものなんだから、俺が受け取る訳にはいかないだろう....」
「ですが僕はご主人様の魔力を頂いているから化身として実体化出来ているんです。
そもそも僕の存在自体がご主人様の能力でもあります。
ですからこのお金はご主人様が稼いだと言っても過言ではないです。」
「うぅむ.....せめてホタルが預かっていてくれ。さっきのスキル、使えるだろ?」
「かしこまりました【異空間収納】」
そう言ってホタルは現れた空間の裂け目に硬貨が入った袋を入れた。
【異空間収納】
先程素材を出すときにホタル使っていたスキルだ。
持ち物を異空間に収納できる。
異空間内は時間が進まないため、保存も効く。
容量は魔力保有量に依存、ということらしい。
とても便利なスキルだよな。
俺も覚えられるなら覚えたい。
これがあったら一生部屋を綺麗な状態で保つことが出来るだろう。
「おい見たかよ今の魔法!?」
「無詠唱だったな....さっきも使ってから間違い無い」
「しかもあれ、時空間魔法じゃなかったか...?」
「いくらなんでもそれはないだろ」
しまった、こんな大金を手に入れたから、俺達に注目が集まってしまった。
たかられないように、早々にギルドを出るとしよう。
「行こう、ホタル。ディナーにしよう。」
「はいご主人様」
「お待ち下さい!」
カウンターを離れようとした時、受付嬢に呼び止められた
「ん?」
「冒険者登録をしていきませんか...?
それほどのお力があれば、冒険者としてもきっとご活躍なされると思うのですが....」
冒険者登録ねぇ.....
いつまでも偽造の身分証を使う訳にもいかないし、この世界で職を手に入れるにはいいかもしれないけれど....
これから先の方針が決まるまではなんとも言えないな.....
「考えておくよ。」
「分かりました。またお越しくださいませ」
◆◆◆
「普通に美味しい」
大通りにあった、適当な食堂に入った。
そこで適当なメニュー注文したが、空腹という事も相まって食べ物はしっかりと美味しかった。
ざっくりとした野性味のある味付けで、素材の美味しさが引き立てられている。
「どれも美味しいもばかりですが、やっぱり1番美味しいのはご主人様がおつくりになったこのお水ですね!」
「水は料理じゃねーよ!味なんてないだろ」
「ありますよぉ」
「味がしなくても赤い水は飲みたくないけどな」
ホタルもご主人様と同じものが良いと言って、同じメニューを頼んでいる。
食事と一緒に、街で採れたブドウと赤い川の水で造られた、名物のブラッディワインをすすめられたが丁寧にお断りしておいた。
またお冷の水はほんのりと赤みがかっていたので、そちらには手をつけずにスキルの【ウォーター】でつくった水を飲んでいる。
行儀が悪いかもしれないが、得体の知れない物を自分の体にいれるのは少々気が引けたので、避けられるものは避けておく。
今日こっちの世界に来たばかりだしな、最初は慎重に行動したい。
どうやらこの街では赤い川の水が生活用水として使われているようで、飲み物が基本的に赤い。
これが鮮血の街の由来だったりするのだろうか。
「さて、明日はどうしようか」
「ご主人様は何がしたいですか?」
「この世界の事がもっと知りたいな。」
「では明日は街を見て回るのはどうですか?」
「それはいいな、観光地とかはあるのか?」
「この街だと....どうやら時計塔が有名らしいですね」
「そういえば街に入った時に鳴っていたよな」
「はい、古くからある歴史的な建物だそうです」
「面白そうだな」
「時計塔までは僕が案内します!」
「頼んだぞ」
「あとあと...時計塔へ行くまでにあそことあそこに寄って......」
「それにしても街の中で流れている川も赤いのはほんとになんなんだ...?」
「赤い川!そしたら小舟に乗って行きましょうご主人様!」
「お、おう分かった」
ということで、明日は街の観光をする事にした。
◆◆◆
その後、ホタルの案内で、そこそこ安くて広々としている宿へ泊まることが出来た。
「ああ、疲れた.....」
ぼふっと柔らかいベッドに飛び込んだ。
たった1日で、色々な事がありすぎたな。
ベッドがこんなにも安らぎを与えてくれるものだったのかと、俺は今日ベッドのありがたみを改めて実感した。
「お疲れ様です、ご主人様
その...本当によろしいのでしょうか...?」
「ストラップの中に戻って寝るより、ベッドで寝る方が心地良いだろう?
それともストラップの中の方が良いのか?」
「いえ....こちらの方がいいと思いますが、念の為、ストラップに戻って確認してきます。」
そう言うと、ホタルが青緑色の光に包まれ消えた。
腰につけていたストラップを見ると、さっきまで光を失っていた蛍石が、ぼんやりと青緑に輝き出した。
ホタルが実体化を解いていて中に戻っている時は、蛍石が光るようだ。
しばらくすると、蛍石の光は消えて、ホタルが隣のベットの上に現れた。
「ベッドの方が良かったです!」
「そうか、じゃあ決まりだな。」
1人部屋を2つとろうとしたのだが、ホタルがいつでもご主人様を守れるように同じ部屋が良いと言うので、それならばと2人部屋をとったが、畏れ多いから自分はストラップの中で寝ると言い出すホタルをなんとかなだめて、ベッドに寝かせる。
この宿代もホタルが稼いだものだしな、功労者を蚊帳の外にして俺だけベッドで寝るなんて、罪悪感しか無い。
「そうだ、今日は色々とありがとな」
「例には及びません。僕はご主人様に仕える身として当然のことをしたまでです。」
「ホタルがストラップで良かったよ。」
「僕も、ご主人様がご主人様で良かったです」
「今日会ったばかりだけどな。」
「今日が初めてではないです.....」
「なんか言ったか?」
「いえ、何も。
ありがたきお言葉、感謝致します!」
ホタルへの感謝は伝えられた。
今の率直な気持ちだ。
「もう寝ていいか....?」
「はい、おやすみなさいご主人様」
「おやすみ、明日もよろしくな。」
そう言って、俺はランプを消した。
部屋を照らすものはなくなったけれど、何故か心に、ほんのりと暖かい光が灯りはじめたようなきがした。
複雑な気分だった。
少し肌寒い日の晚に、沈黙と調和して、深海から目覚めたような、夢の光。
ゆったりと休憩を楽しむような、安らかな気持ちを与えてれる、生命感溢れる光。
それは、儚く脆く、とても繊細で精巧なガラスの靴のようで、美しい。
光。
その夜、俺はとても長く、楽しく、切ない夢のなかで、溺れるようにその光を探していたような気がした。
◆◆◆
目覚めるという感覚は不思議な物で、ずっと高くて明るい、暖かくも冷たくもある場所に浮かんでいた意識が、ふっ、と落っこちるような感覚を味あわせる。
全てがリセットされ、体に倦怠感が走るのと同時に、何処かに清々しさが生まれるのを感じて、俺はゆっくりと現実の光をレンズの中に流し込む。
鐘の音が聞こえる。
「すげーよく寝れた........ん?」
目が覚めると、ホタルが居なくなっていた。
「ホタル....?」
ストラップは光っていない。
外に出ているのだろうか。
俺は身支度を整え、静かな部屋を出て階段を降りる。
受け付けの人にホタルを見ていないか聞いてみよう。
そう、思っていた。
「これは.....一体.......」
静寂。
「誰か....居ないのか?」
受け付け、ロビー、窓の外の大通り、どこを見ても、人が居ないのだ。
静まり返った風景。
人が存在しない絵画に、ただ1点、観測者のみが存在を許されているような状態。
外に出た。
風は一切立たず、自分から生み出される音以外には何も聞こえてこない。
生き物の気配を一切感じない、この世から忽然と生が消えてしまったような感覚。
孤独
抗いようのないもない強大な存在に殴りつけたれたような衝撃が身体から湧き出てくる。
胸が苦しくなる。
分からない。
今までの情報量にも大分ついていけなかったが、ついに俺の許容量を超えた。
一体どうなっている。
朝起きたら、人が居なくなっていた。
目の前に広がる、冷酷なほどの静寂。
何故だ。
ホタルもいない。
俺、パニック状態に陥る。
誰も助けてはくれない。
怖い。
人がいない。
虫一匹見当たらない 。
俺以外、いない。
いない。
「誰か、誰か..........誰か!」
「誰か誰か誰か誰か誰か!!!!!!!!」
「誰か居ないのかあああああああああああ!!」
異世界生活2日目、街から人が消えた。
ランプ(のような魔道具)