2.銀髪
目覚めるという感覚は不思議な物で、ずっと深くて暗い、暖かくも冷たくもある場所に沈み込んでいた意識が、ふっ、と誰かにつまみあげられるような感覚を味あわせる。
全てがリセットされ、体に爽快感が走るのと同時に、何処かに虚しさを残した様子で、俺はゆっくりと現実の光をレンズの中に流し込む。
「うぅぅ...........ここは.....??」
頭にやらかい感触を感じた。
そして視神経の働きが始まると、美しい銀色の髪を垂らした少女の顔が目の前に映った。
「ご主人様大丈夫ですか?」
さっき俺を助けてくれた子だな。
ご主人様って誰のことだろうか。
「ご主人様痛みはありますか?」
彼女は心配そうに俺の目を覗き込んでそう言った
ご主人様って、まさか俺のことか?
「....痛み? そういえば、無いな。」
目が冷めるまで体中に走っていた痛みが嘘のように引いている。挫いた足も、痛くない。
「よかった.....【最上級爆裂広範囲回復魔法】を使ったかいがありました」
「いやなにそれっ!....」
初めて聞いたわそんなワード。
魔法か何かか?
もう訳が分からん(放棄)
「怪我をしていたので、僕が治しておきました」
僕?たまにいるよね、自分のこと僕っていう女の子。ボクっ娘というヤツかな?
「そうだったのか、先程は助かった。それに怪我まで治してもらって、ありがとな」
「礼には及びませんよ。僕はご主人様が元気でいてくれればそれでいいんです!」
チャーミングな笑顔でそんな事を言われた。
いい子だ
なんていい子なんだ
俺にカナタがいなかったら今ので惚れていたことだろう。
「しかしエクスプロージョンとかいう物騒な療法でよく治るものだな」
「エクスプロージョンとは、患部の表面や付近の空気中に存在する有害な細菌を殺すという意味なので、ご主人様さまが想像されているようなものではないかと。」
「思ったより繊細だった」
「ちなみに最上位魔法程度なら、ご主人様の膨大な魔力を少しお借りすれば何発でも打つことができますよ。
僕単体の魔力量であれば5発が限度でしょうか」
「5発も打てるのか」
なるほど俺は魔力を沢山持っているのか。
どうやって使うのかは分からんが。
その時、柔らかい感触が頭にかかっていることを思い出した。
これってもしや.....
「.....俺は今どういう状態だ....?」
「ご主人様の状態ですか....?
僕に膝枕されています」
だよな。だと思った。
どうしよう、膝枕だと認識した瞬間めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「そうか悪かったな、今起きるから」
「そんな、ご主人様は何も悪くないです。
これは僕がしたくてやったことだし、なんならこのままでも僕は構いませんよ..?」
「もう....大丈夫です」
いいか、平常心だ。
俺にはカナタという心に決めた相手がいるんだ。
ここでうつつを抜かすわけにはいかない。
ということで、銀髪美少女の膝枕とはお別れをする。
真顔で、なるべく自然に、体を起こした 。
そして銀髪美少女と向き合ってあぐらをかいた。
面と向かうと改めて銀髪美少女の整った容姿に魅入られそうになる。
「そうですか...
ご主人様が元気になられたようでなによりです!」
少し残念そうな顔を見せたが、すぐにシャキッとしてこちらを見据えてくる銀髪美少女。
少し気恥しい。
先程会ったばかりの子なんだけど、どこか懐かしくて、昔から一緒だったような気がして、あまり嫌な感じがしないんだよなぁ。
「そういえば、何故俺のことをご主人様と呼ぶんだ..?」
正直な所、噂に聞く秋葉原のカフェにいるようで落ち着かない
「それは僕が蛍石の眷属でありその持ち主がご主人様だからです。僕にとって、ご主人様に仕えることが定めであり生きがいでありますゆえ、どうかご理解を。」
なんだか世界観がおかしくなってきたが、ツッコまないぞ俺は。
蛍石の眷属ってなんだよ。
「事情は分かった......。要するにお前は俺のメイドか何かかだってことか」
「そのような物です。ご主人様様に仕え、ご主人様のために生きる眷属です。
何かご命令などがありましたら、なんなりとお申し付けください!」
「今は特に無い、取り敢えずよろしくな........えぇと。名前を聞いてなかったな」
「僕に名前はありません。名前はご主人様から賜るものなので。」
「そういうものなのか。
わかった、俺が付けよう。
そうだな.......
蛍石のストラップだからホタルでどうだ?」
「ホタル、良い名前です。
大変ありがたくちょうだい致します!」
ホタルは嬉嬉として頭を深くさげた。
ものすごい安直なネーミングなのに素直に喜ばれてしまった。
なんだか申し訳ない。
てか、畏まりすぎじゃね?
こっちまで堅苦しくなりそうだ。
「それで、一体ここは何処なんだ。」
さっきの化け物といいホタルの設定や魔法といい、俺の理解が追いついていない。
「ここはご主人様の住んでいた世界とは異なる世界です。そしてご主人様は何らかの力でこの世界に転移してきたものと思われます。」
「さらっととんでもないことになってるなおい」
前にアニメ好きな友人が話してた異世界転移ってやつじゃないか。
「そして今居るこの森は、赤大国の南西部に位置する、鮮血の森と呼ばれている場所です。」
「随分と物騒な名前の森だなおい」
「えぇ、この森には凶悪な魔物達が多数存在し、1度迷い込んでしまったら最後、辺り一面鮮血を飛び散らして死ぬしかないと人々の間で言われておりますが、実際は大したことありません。」
「大したことあるだろ」
そんな森に飛ばされてきたっていうのか俺は。
危うく鮮血で森を染め上げるところだったぞ。
まじでありがとうホタル。
「ひとまず安全で人がいる場所へ行きたいな」
「それなら近隣の街へ行きましょう!僕が案内します」
「それは助かる。道は分かるのか?」
「はい。【地図魔法】を使えば周辺の地形や街の場所を把握する事が出来ますので。」
「成程。それは便利な魔法だな。もう少し休憩したら出発するか。頼んだぞホタル」
「はいっ!」
◆◆◆
有能なメイド件ストラップ件美少女に連れられて、俺は森の中を歩いていた。
道中に出てきた魔物達は、全てホタルが一撃で仕留めてくれた。
「水の音がするな、近くに川でもあるのか?」
「そのようですね。このまま進んで行けばいづれ川にあたると思います。」
こうして俺たちは川に出たのだが。
出たのだが........
「赤い.....」
「赤いですね.....」
川の水が明らかに普通の色じゃないのだ。
赤い。しかも結構濃い赤だ。
深く、どす黒い気味の悪い色をしている。
これは川なのか...?
「ホタルはなにか知ってるか?」
「このような色の川は知りません.....山脈の方から流れているみたいですね。」
さすが鮮血の森。まるで川に血が流れているようだ。
ファンタジーと言っていいのか分からんが、変なところで異世界感を味わってしまった。
明らかにやばい色をしているが、飲んだり触ったりしなければ、別にどうということは無いだろう。
ということでまた歩きはじめる。
この川は街まで続いているらしいので、そのまま川に沿って歩くことにした。
しばらく歩くと、ホタルが何かを感じ取ったのか、辺りを見回している。
「どうしたんだ?」
「ご主人様、トレントが近付いてきたので倒してきます。」
「トレントって何!よく分からないけど取り敢えず頼んだ!」
ホタルの姿が消えた。
どこに行ったんだろう。
辺りを見回す。
あ、居た。
川の向こう岸に銀髪がみえた。
どうやって渡ったんだ。
結構な川幅だぞ。
向こう岸に居るヤツを相手するのか。
あぁ、たしかに、なんかいるな。
木みたいなやつ。
あれがトレントか。
あっ、倒した。
一撃だった。
1本の大木がなぎ倒される。
すげーな。
刀をしまうと、倒れた木を物色しはじめた。
何かを取っている
川の方をよく見ると、魚が泳いでいたり、鳥が水に浸かって獲物を探していたり、鹿のような生き物が水を飲んでいたりと、普通の川のような穏やかな光景が目の前に広がっている。
変なのは色だけで、普通の川なのだろうか。
地球にも赤潮と呼ばれる現象があるのだし、似たようなことがこの川でも起こっているのだろうか。
「ただいま戻りました」
そんな事を考えていたら、ホタルが戻ってきた。
「お疲れ様」
「労いのお言葉、感謝致します」
「ホタルはとんでもなく強いんだな...。貧弱な俺がご主人様だなんて不甲斐ない。」
「そんな事ありません!
ご主人様は力を自覚してないだけで十分お強いです!」
「ありがとな、嘘でも強いって言ってくれて」
「嘘ではありません!
ストラップの所持者は特別な恩恵が与えられるのです!その力は絶大で、世界を変えてしまうほどの強さなんです。」
「まじか」
「では、試しに【鑑定】スキルを使ってみてはどうですか?
どのような恩恵が与えられているのか、ストラップを鑑定すればわかると思います。」
え、何?本当に強いの?
ということで、スキルというものを使ってみることにした。
えぇと、どうやるんだ。
「....【鑑定】」
できた。
ブォン!
目の前に、電子画面が現れた。
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青緑の魔力大結晶 《蛍石》 装飾品
所持者の願いを叶えると言われる伝説の装飾品。
所持者には様々な恩恵が与えられる。
所持者は魔力大結晶に宿る眷属と契約を交わすことができる。
呪いのアクセサリー
1度装備すると外すことが出来ない。
取得した経験値は全て眷属に吸収される。
他の装備品をつけると眷属が嫉妬する
付与効果
火炎耐性
毒耐性
麻痺耐性
呪い耐性
水属性魔法無効化
風属性魔法無効化
土属性魔法耐性
光属性魔法耐性
闇属性魔法耐性
氷属性魔法耐性
雷属性魔法耐性
精神魔法耐性
時空魔法耐性
重力魔法耐性
魔力保有量増加(極大)
魔力保有量倍化
体力増加(小)
攻撃力減少(大)
防御力増加 (大)
俊敏性増加 (小)
付与スキル
【魔力障壁】
物理、魔法攻撃を無力化する障壁。
強度、設置可能枚数は魔力保有量に依存。
【水属性魔法吸収】【風属性魔法吸収】
水属性魔法、風属性魔法を吸収し、自身の魔力に換算する。
【水属性魔法反射】【風属性魔法反射】
受けた水属性、風属性の魔法を等倍で反射する。
【蛍の光】
対人専用広範囲精神干渉魔法
発動中、蛍の光で対象の範囲にいる人間の戦意を失わせる。
最大発動時間、1時間。
【鑑定】
【アイス】
ソーダ味のアイスを生成する
大きさは魔力量で調節できる
【ウォーター】
水が、コップに注がれた状態で生成される。
飲むとコップは消滅する。
大きさは魔力量で調節できる
〖化身強化〗未開放
〖反射障壁〗未開放
〖性能反転〗未開放
〖瞬間移動〗未開放
〖輝石化〗 未開放
〖時空魔法〗未開放
耐性で防ぎきれないような干渉を何度か受けると、耐性から無効化へグレードアップする。
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「とんでもないチート性能じゃねぇか......」
「ご主人様はお強いんです。
ですが、お強いご主人様であれ僕は全力でお守りしますし、たとえご主人様が貧弱な人間だったとしても僕が全力でお守りします。」
ホタルがなにやら頼もしいことを言ってくれているが、情報量の多さに頭がパンクしそうで言葉が右から左に流れていく。
細かい部分は、時間がある時に改めて確認するとして、ざっくり重要そうな部分を見ていくか。
効果の半分以上は理解できないが、色々と恐ろしい効果が書いてある。
このストラップって呪いのアクセサリーなんだな。
絶対に落としたくなかったし、かえってありがたかった。
耐性がえげつない。
もうとにかく生存率が高そうだ。
持ち主を絶対に死なせないという意気込みがひしひしと伝わってくる。
地味に火属性魔法の耐性がついてないのが、妙に現実的だな。弱点なのか?
防御系のスキルが使えるようになるみたいだな。
俺自身が攻撃する手段は無い。
待て、最後の2つは記述がおかしい。
アイスとウォーターって、名前からして明らかに攻撃系の魔法だろ。
いつでもお水が飲めてアイス(ソーダ味)を食べられますって、随分と生活に便利な魔法じゃねえか。
人は食事を取らなくても水さえ飲めれば1週間は生きられるっていうけど、そういうことなのか?
つくづく生存することに特化したような性能だな。
俺は早くカナタのいる天界に行きたいんだが、カナタの形見にここまでされてしまうと、簡単には死ねなくなるな。
防御に特価した装備品を身につけて、攻撃は装備品に付属でついていた美少女を戦わせてさらに俺は守られる。
とんでもなく過保護で、男としては少し情けない恩恵だった。