第1話 久しぶり
絶対に破れない契約を行うアプリ、『コントラスト』。その騒動に巻き込まれた圭たちは巷の噂を利用し、解放者として動くことを決意。
打倒キングダムという目標を掲げ、かつて王と名乗り接近してきた女子生徒を倒すことに成功。
そして、今度はキツネの仮面をかぶる、真の王と名乗る人物がついに現れるようになった。
果たして、あれは本当にキングダムのリーダーなのだろうか……、ただ、少なくとも仮の王のスマホには、確かに「真の王」という名前で連絡先が登録されていた。
仮の王も直接会ったことがないということなので、その真相を確かめようがないが……今回ばかりは、かなり可能性は高いと見ている。
少なくとも、あのキツネは、キングダムのリーダー、すなわち真の王か、仮の王に直接契約を結ばせに来た影武者か、その二択にしぼり込めると考えている。
「やっほー、圭。来たよ」
「……亜壽香……これはまた、随分と久しぶりに会った気がするな」
「へへ~、まあね」
圭に向かって手を振る女子生徒、幼馴染の亜壽香。変わらない黒髪ストレートをふんだんに揺らしている。
「で、何勝手に俺んちに来てんだよ」
そう、ここは圭の家。しかも、ばっちり圭の部屋である。ちなみに、スマホにもケータイにもそんな連絡は来ていない。
「えぇ? 大丈夫、おばさんにはちゃんと挨拶してるよ!」
「そういうことじゃねえ! あと、そのグッドサインやめなさい」
圭は念のためスマホの電源を落としポケットにしまった。
「一応さ、俺たち高校生だろ? あんまり男子の部屋へ勝手にあがるもんじゃ」
「お客さん、来てるけど……お水もでないの?」
やったね、圭は軽く怒りを覚えた。
で、下にいた母からジュースをもらって、部屋に上がっていった。
「てめえ、しれっと嘘ついてんじゃねえよ」
「え、なに?」
「母さん、お前が来てること、知らなかったぞ?」
「あれ? バレた?」
「バレたじゃねえ!?」
やったね、圭が覚えた軽い怒りが強い怒りに進化した。
チョコンと圭の部屋に居座り、ジュースを飲む亜壽香。なんというか……もうすごい。正直言って、圭ならもう、亜壽香の部屋にはもちろん、家にも入る勇気はなくなりかけてるんだがな……。
なんというか、幼馴染といえど、男女ってのがな……どうも……。
「お前、俺んち来るの、抵抗ないのか?」
「抵抗? なんで?」
「いや……なんで……って」
そうはっきり質問し返されると何とも言い返せない。
「なんか、用事が?」
「ないよ」
ほんとこの人、なんで圭の部屋にいるんでしょう?
「でも、まぁ、強いて言うなら。本当に最近会ってなかったからかな? さっき言ったように、本当に久しぶりな気がするよ」
「まぁ……それに関しては……な」
というか、普通ならそういうものじゃないだろうか。幼馴染だとかいって仲がよかった男女も、中学や高校という時期を得て、どんどん離れていくもの。むしろ、圭たちは、その傾向になる時期が遅かったほうだと思う。
「なんかさ、ちょうど……圭がスマホを持ち始めた頃からだよねぇ?」
「……っ!? ……なにが?」
「えぇ? 顔を合わせるのが少なくなってきているのが、だよ?」
まぁ、それは……否定しない。
「たまたまだろ?」
たまたまじゃないのは自分も分かっている。特に解放者として動くということになってからは、亜壽香とはほとんど接触することがなくなっていた。
「たまたまぁ? 圭がぁ、スマホを持ち始めてぇ……あたしと離れ始めた? うん、女の匂いがするね」
「……ご想像にお任せしよう」
そういう勘違いなら嬉しい限りだ。なんか、言い方がもう、ババくさいのは気のせいにしておこう。
「というか。どちらかといえば、お前だって俺から離れていっているんじゃないのか?」
「え? あたしが? 圭から?」
本当に心外だとでも言わんばかりに驚く表情を見せてくる亜壽香。だが、それは本当に素の表情なのだろうか。
「だってよ。俺が前と同じ時間通りに家でても。ここ最近は、お前が家の前でまっていること、なかったよな?」
「あれ? えぇ~と、……そうだったっけ?」
そうだよ、とセリフの変わりに視線で突きつける。
実際、前は大概俺が登校で自宅を出ると、玄関の前で待ち伏せでもしているがごとく、亜壽香は立っていたのに。
「あぁ……そう言われたら……そうかも……ねぇ。あたしも、最近、ちょっと忙しかったかも」
なんともあやふやな答え。かも……て、自分では離れてるって意識もないってわけか? でも……忙しい?
「あれか、バイトでも始めたのか?」
「あたしがバイト? なんで?」
違ったらしい。だが、あまりに予想外な反応。そこまで首をかしげるほどのことを言ったか?
「いや、だってさ。ほら……その……金……」
「……うん? あぁ! 借金のこと! あぁ……、と。あれはもうちょっと待って! 一段落してから……ね?」
「いや、別に期限までに返してくれりゃあいいよ。催促してるわけじゃねえから」
つい、そこまで言ってしまったが、妙に重い空気にするのはどうしても避けたくて、その話はすぐに打ち切った。