第2話 開け世界
突然視界が開ける。
目の前には扉があった。
周りは灰色のレンガで囲まれており、どうやら個室に出てきたようだ。足元には怪しげな魔法陣が描かれている。
「なんだこの部屋。やたら狭いな…。
お?」
周りを見回していると、何やらヒラヒラとしている物が目に入った。
「服が変わってるな…。さっきまでスウェットを着てたはずなのに。」
俺はもっぱら家ではスウェット派だ。たまに家でもきっちり服を着ているやつがいるが、俺には絶対無理。
どうして唯一のプライベートスペースでも身なりに気を使わないといけないのだ。そんな奴正直正気を疑うレベルだ。
…、とまぁそんな事は置いておいて。
俺は自分の服装を確認してみる。
ゲームで初めて着ている服って大体その職に適した物であるケースが多い。つまり、俺の服装は〈鼻血使い〉に適した服装になっている可能性が高い。
さあ、鼻血使いの服ってどんなのだろう。
…赤っ!
俺の服装は黒いマント以外は殆どが赤だった。端的に言えば黒マントに赤色のタキシード。
とは言え。一種類の赤ではない。濃いめの赤。薄めの赤等、一括りに赤と言えど、赤色にもバリエーションはある。
それと、腰のあたりに何やら棒状のものを携えている。
…以外と悪くないな。
〈鼻血使い〉というアホな名前の職にしては思ったよりかっこよくて驚いた。
そういえば武器は何を持っているのだろう?
そう思って腰にぶら下がってある獲物を引き抜く。
ん?なんだこれ?
うん。これは棒状の何かだ。
手で掴むための所は存在するが、ただの棒としか言えない気がする。
あ!そう!こんな時こそ!ステータスだ!
ゲームの世界なら自分の情報くらい確認できるはず!
俺は頭で念じてみた。
パッと目の前にステータスが浮かび上がってくる。
___________________________________________
〈名前〉花枝 戦斗
〈年齢〉 26
〈容姿〉 中
〈性別〉 男
〈種族〉 血族
〈職業〉 鼻血使い 属性 血
〈称号〉 全てを捧げし者
〈状態〉 正常
〈レベル〉1
〈HP〉 10000/10000
〈MP〉 1000/1000
〈筋力〉1000
〈防御力〉10000
〈魔力〉1000
〈技量〉1000
〈敏捷〉1000
〈魅力〉100
【特殊ステータス】
〈鼻〉 999999
《装備》
〈武器〉鼻血棒 (攻撃力+1)
〈頭〉 サークレット
〈胴〉 鮮血の紳士服
〈腰〉 鮮血のスラックス
〈その他〉 黒のマント
___________________________________________
「あ?」
なんか俺、強くね?
いや、他の人のステータスを見てないからなんとも言えないけども…。
しかもよく見たら種族が人間じゃない…。
血族ってどんな種族なんだ…?
確か〈鼻〉にしかパラメータ触れなかったから種族の欄は空欄だったはず…。
「まぁ、いいか、取り敢えず外に出てみることにするか…。」
俺は扉を開けて、外に出た。
「チッ男か。死んじまえ《落牙》」
少しだけ歩みを進めた時、どこからか舌打ちと金属音が聞こえた。
頭に何かチクっとするような感覚。
「痛っ!」
脳裏にステータスが浮かぶ。
___________________________________________
〈名前〉花枝 戦斗
〈状態〉普通
〈HP〉9999/10000
〈MP〉1000/1000
___________________________________________
「あれ?なんかHP減ってる。」
「げっ!俺の技を受けてなんでテメェ生きてやがる!!」
後ろを向くと、バンダナを巻いた露骨に奪うことを生業にしてそうな見た目の細い男が、抜き身の幅広の剣を持って立っていた。
剣には少し血が付いている。
どうやら俺はあれで切られたらしい。
すげー格好してんなーとか自分の服装を棚に上げて、目の前の男を凝視していると、ガチャっと少し奥の方から扉が開く音が聞こえた。そちらの方を振り向いてみる。
俺が出てきたのと同じ背の低い個室がいくつも続いている。なんだか高校生の時の部室を思い出すな…。
並んでいる扉の一つが光っている。その建物のちょうど上あたりに大きな体の男が待ち構えているのがわかる。男は今か今かと待ちきれない様子だ。
なるほど、俺はああやって奇襲を受けたんだな。
所謂初心者狩りという奴だろう。
昔オンラインゲームをやった時によくやられたな。強い武器と高いレベルでゲームを始めたばかりの初心者をいたぶって優越感に浸る為の行為だ。
扉から出てきたのは女の子だった。恐る恐る扉を開いている様子だ。驚くことにその子の髪の毛は銀髪だった。女の子は丁寧に扉を閉めるとホッと一息をついた。
距離があるのでこちらには気がついていないようだ。
続いて建物の上にいた大きな男が女性の前に飛び降りた。こちらまで届くくらいの地響きがなる。
「ひゃ!」
「お、上玉だぁ!スーパーレアだな。じゃ、取り敢えず《威圧ぅ》!」
キャーという悲鳴が聞こえる。
俺はガラの悪い細身の男を置き去りにマントをたなびかせながら大男と女の子の方へと駆け出した。
体が軽い。いつもとは違う感じがする。
「お、おい!待てよ!」
細身の男は俺を止めようと言うが、無視した。どうやら俺の方が足が速いみたいだ。
バレないように途中から忍び足で近づくと、既に女の子が扉の方へと追い詰められている所だった。
「お、およよよよ…。や、やめとくれ!私なんて襲っても何の得はせんぞ。」
10台くらいの女の子のようで、とても怯えているようだ。
自らを守るように両手で自らを抱くような格好である。
…うん。なんか喋り方が気になったけど、間違いなく美少女だ。銀色の長い髪の毛がとても神秘的な少女である。キリッとした目つきで、凛々しい顔をしているが、涙目で困った表情をしており、なんだか保護欲を刺激されるタイプだ。
「んああ?なんか随分ババくさい喋り方する女だな。まぁ、いいやぁ上玉だし。売りさばくには十分だ。
もちろんたくさん楽しんだ後でな。」
「ひ、ひぃ。そんな…酷い…。」
少女は目の前の巨漢の威圧感に圧倒されてしまったようで扉の前で腰を抜かして涙ぐんでいる。
「うわ。
すげぇ。ここまで露骨な悪者は初めて見たわ。」
男の真横で感想を告げる。
「あ?」
少女に夢中になっていた男がこちらへ振り向いた。
筋骨隆々な体に鋼鉄製のツノの生えた兜。そして巨大な両手斧。
ゲームでこの見た目の敵が出たら大体はこの名前だろう。
《山賊》そう。多分奴らは山賊だ。
「ア、アニキ!ヤベェ!こいつヤベェですよ!」
「あ?せっかく初心者ガチャで当たり引いたのに何だってんだ?大したことなかったら殺すぞ細川。」
「ち、違うんですよ太田のアニキ!あ、あいつ召喚の間から出てきたばっかりなのに俺の技を受けて1ダメージしか受けなかったんです!しかも敏捷も恐らく俺より速いですぜ!」
細川と呼ばれた細身の男は俺を指差して怯えるように言った。
「はぁ?そんなわけ…
ん?なんだその服。なんの職だテメェ?」
太田と呼ばれた巨漢は俺に向かって言った。
い、言いたくねぇ…。
俺の職業は!鼻血使いだ! (キリッ!)
なんて言った日にはこの場が爆笑の渦に飲み込まれる事は必至である。少女に爆笑されるまであるぞ…。
「さ、さあな。当ててみな。」
俺は誤魔化すように挑発するそぶりで言った。
「まぁいいかぁ。どうせ死ぬんだしなぁ。良いことを教えてやろう。この世界で死んだら現実でも死ぬんだぜ。」
太田はニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
何言ってるんだこいつ。ゲームで死ぬわけないだろ。
しかし、…取り敢えずここは逃げるか。多分俺は強い。でも、目の前の巨漢に勝てるという保証はどこにも無いのだから。
最初からデスペナルティは避けたい。
「おい!そこの女の子!今のうちに先に逃げろ!ここは俺がなんとかするから!」
ガラにもなく、女の子に話しかける。下心?そんなものあるに決まってるだろ。
「ひっ!わ、私の事かい?」
「ああ!」
爽やかな笑みを浮かべながら言う。
「ご、ごめんよぉ。腰が抜けて立てないんだ…」
女の子は申し訳そうに涙ぐんで言った。足がプルプルと震えている。立つことも出来なさそうだ。よっぽど怖かったのだろう。
「そうか…。じゃあ仕方ない。
戦ってみるか。」
俺は腰の鼻血棒とやらを引き抜いた。
…でもこれどうやって使うんだ?
取り敢えず俺の防御力は高い事はわかったけど、武器の使い方がさっぱりわからない。
「ばははは!驚いた!テメェこの俺たち戦う気か!初めに教えといてやる!俺のレベルは15で細川のレベルは13!ここに来たばかりのテメェに勝てるわけねぇ!
命乞いをして裸で踊ったら助けてやってもいいせぇ。あ、ついでに土下座もしてみるか?無様に地面を舐めながらよぉ!」
完璧な悪人ムーブに俺はなぜか笑いがこみ上げてきた。
「やーゲームの中なのになりきってんなぁ。オッサン。どう?楽しい?」
「殺す!」
額に浮かんだ血管が切れそうなほど怒り狂った太田が巨大な斧を振り下ろす。
取り敢えず受け止めてみるか。
うん。多分いけるだろ。
キン!と金属音が響く。
「ど、どうして…。」
俺はあっさりと巨大な両手斧の攻撃を防いでしまった。
「だから言ったじゃないですかぁ!アニキィ!!」
細川はその光景を見て一目散に逃げ出した。
「ま、まて!細川!殺すぞ!〈威圧!〉」
太田から鋭い殺気が放たれる。
細川は動きを止めた。
「ア、アニキ。〈威圧〉はやめてください…。心臓に悪いんで…。」
「チッ。じゃあちゃんと戦え。」
太田が視線をそらすと細川は動き出した。
「はぁ…はぁ…。へ、へぃ。すんませんアニキ。」
かなり憔悴した様子の細川は剣を抜きながらこちらへ向き直って言った。
「一発防いだからって調子乗んなよ!」
「危ないっ!」
「死ね!剛打〈ボーンクラッシャー!〉」
左腕と肋骨のあたりに強烈な痛みを感じた。
巨大な両手斧の背による強烈な打撃。
俺は細川の方を向いていて完全に太田への注意を、怠ってしまっていた。
「うがっ…!」
もろに食らってしまい三メートル程吹き飛ばされる。
「かっはっ!」
内臓にもダメージを負ってしまったのだろう。俺の口から見たことのない量の血が吹き出す。息を吸うたびに強烈な痛みが体を襲う。
こ、これじゃあ鼻血使いじゃなくて、口血使いじゃねーか…。
頭の上あたりに赤い8000が浮かぶ。
その後、すぐに100の数字が浮かんだ。
___________________________________________
〈名前〉花枝 戦斗
〈HP〉 1890/10000 (出血により徐々に減少)
〈MP〉 1000/1000
〈状態〉骨折 (左腕 肋骨) 内臓出血 (肺)
___________________________________________
太田の笑い声が聞こえる。苦しい。息ができない。
「ばーははは!振りが長いが攻撃力が馬鹿高い〈ボーンクラッシャー〉をモロに喰らいやがった!」
「さっすがアニキ!俺の演技もうまくいきましたね!」
「んあ?あれ演技だったのか?」
「あ、あったりまえですよ!アニキー!俺が太田のアニキを裏切ると思います?」
「お、おう。そうだな。さすがだ細川」
「どこまでもついて行きます!」
ドスンドスンと足音を鳴らして太田が近づいてくる。
「どうだぁ?肋骨が肺に食い込むと苦しいだろ?徐々にHPも減っていって、苦しみの中お前は死んでいくんだ。
その状態で立てるわけもないしな。ここはゲームの中だが、ゲームじゃないんだ。怪我に関しちゃ現実とかわらねぇ。良いこと知ったな。がはははは!」
確かにゲームの中では例えHPが1だとしても最大値の時と同じように動ける。しかし、このゲームでは違うらしい。
現実と変わらない。徐々に減っていく《HP》
太田と細川がニヤニヤと俺の顔を見下ろしている。
時間経過で死ぬのを待ってるのか…。悪趣味な奴らだ。
「もうすぐ死ぬかな?」
「しかしこいつ8000もダメージ受けて死なないなんてどんな職なんでしょうね?」
「まぁ、俺たちは勝ったんだ。そんなどうでも良いことは気にすんな。これが終わったらお楽しみタイムだ。後でお前にもおこぼれをくれてやるから楽しみにしてな。」
「えー?アニキがヤッた後って穴が広がりすぎて全然気持ちよくないんですが…。」
「まぁそう言うなって。」
「《聖なる祈祷》(イノセントシャイン)」
突然俺の体を暖かな光が包む。体の痛みがどんどん引いていく。
「ち、治癒魔法だと!?誰だ俺たちの邪魔しやがる奴は!」
「ひ、人殺しはいかんぞ…。戦争も終わったのに平和な世の中でまた人が目の前で死ぬなんて見ておれん…。」
「な、なんだその翼…。」
細川が呟く。
太田と細川の奥に見える少女の背中から虹色に輝く光の翼が伸びるように浮き出ている。
綺麗だ…。素直にそう思った。
その時、体の状態に気がつく。
う、動けるぞ…!
___________________________________________
〈名前〉花枝 戦斗
〈HP〉 1190/10000
〈MP〉 1000/1000
〈状態〉疲労
___________________________________________
ステータスを見ると怪我が完治していた。
これならいけるはず!
俺は頭の中で〈スキル〉と念じた。
あいつらやあの女の子にもつかえるんだ!俺に使えない筈がない!
頭の中にウィンドウが浮かぶ。
___________________________________________
〈スキル〉
〈鼻血〉 MP 5 徐々にHP減少
消費したHPの分だけ鼻血を垂らす。
〈血砲〉 MP 5 HP減少
強靭な鼻より放たれる無慈悲なる血液の弾丸。
血剣〈ブラッドソード〉 MP 10 HP 100減少
鼻血棒を触媒に召喚する血液の剣。一度攻撃すると硬化は解ける。
___________________________________________
やっぱり思った通りだ!
俺にもスキルが使える!
ってか鼻血!おい!鼻血っ!
MPとHPが減るだけじゃねーか!なんだこのクソスキル!
「いやぁっ!」
女の子の悲鳴が聞こえる。
そうだ!それどころじゃなかった!早く奴らをなんとかしないと!
「どうせ男の方は殺すし先にお楽しみタイムだぁ。あん怪我じゃ傷が治ってもそんなにすぐ動けねぇよ。その翼がどうなってるか服を脱がして確かめてやるよ!大丈夫。初めてでも傷が治る前に回復魔法をすぐかければ元に戻るからよぉ!」
「へぇ。こりゃあ、上玉だぁ。しかも回復能力持ちときた!こりゃあ高く売れますぜ。」
太田と細川は女の子を羽交い締めにして服を脱がせ始めた。
俺は無我夢中だった。
体が動く。どうすればスキルが使えるのかわかる。
「血剣〈ブラッドソード!〉」
俺は鼻血棒を右の鼻の穴に思いっきり突っ込んだ。
我ながらバカみたいだ。しかし、スキルを使うためにはこうする他ない。
「痛っ!」
頭の上あたりに赤い100が浮かび上がる。
鼻血棒は俺の鼻から血を吸い、禍々しい血液の剣になった。
女の子を羽交い締めにして後ろを向いている細川を切りつける。
細川は〈山賊〉だ。戦うための服装。つまり、皮の鎧を着ている。簡単な剣戟くらいなら弾いてみせるくらいの強度はある鎧だ。
しかし、俺の鼻血が形作った剣はやすやすと強固な鎧ごと細川の体を切り裂いた。
細川の頭の上あたりに赤い1000の数字が浮かんだ。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁ!」
「あ?」
細川は女の子を離し、膝から崩れ落ちる。
俺は、緩んだ手から女の子を助け出すと太田の方に細川を突き飛ばした。
細川はまだ意識があるようでボソボソと何かを言っている。
「…ア、アニキ…。助けて。この前のエリクシルまだ持ってるんで…しょ…?俺のHP 1100だから死んじまう…。」
「ふぅ。仕方ねーなぁ。」
そういうと、太田はポケットを漁り、何かを細川に振りかけた。
「そ、それは爆鱗粉…。ア、アニキ…。なん…で…?」
「悪りぃな。俺はまだ死ぬわけには無いんだわ。」
そう言って太田は細川に向けて手をかざした。
「じゃあな。細川〈火球〉」
「…そ、そんな…。」
次の瞬間。細川は絶望の表情を浮かべながら爆発した。
飛び散る細川の残骸。さまざまな部位が異臭を撒き散らしながら飛び散り、大きな煙幕となり、辺りを覆った。
「じゃあな血液野郎!次にあったらタダじゃおかねぇ!」
そう言い残し太田は走り去っていった。
え?死んだ?…というか殺したのか?
ドチャっと言う嫌な音と共に目の前にサッカーボールくらいのサイズの何かが落ちてきた。
それを見て俺は驚いて腰を抜かす。
「う、うわっ!…。」
ほとんど原型を留めていない細川の頭部が俺を恨めしそうに見ている。そんな気がした。
「う、うぅ…。まだ人が目の前で死んでもうた…。
どうして私の周りで人が死んでしまうの…。」
白髪の女の子は細川だったものを見て涙を流した。
…人が死んだ。目の前で。
殺すつもりは無かった。
でも、結果的に死んだのは確かだ。
俺は細川の絶望の表情と、飛び散った細川だったものを見て少し吐き気を催した。
口から血の混じった吐瀉物が流れ落ちる。
「お前さん。ありがとうな。私の事を助けてくれて。こんな婆なんて放って置けば良いものを…。」
そう言って女の子は俺の口を拭いてくれた。
ってか今なんだが妙な事を言ったような気がするが…。
「へ?婆?そんなに小さくて可愛いのに?」
「まぁ。嫌だねぇこの子は。そんなに婆を褒めても何も出ないよ。」
そう言って彼女はポケットを漁り始めた。
「ああ。ごめんねぇ。黒飴あげようと思ったけど今のポケットには入ってなかったんだったよ。」
確かにこの子の喋り方は婆さんっぽい。
でも、どう見ても可愛い女の子にしか見えないんだけど…。すげえいい匂いするし。
んー!わからん!とりあえずそれは置いとこう!
「ま、まずはここから離れよう。こんな血生臭いところに居たくない。俺は花枝 戦斗。君の名前は?」
「せんと君と言うのかい?変わった名前だねぇ。私の名前かえ?香月 聖だよ。」
「せんと君は某マスコットを想像するからできれば呼び捨てで呼んでくれ…。
じゃあ聖!早く行こう!」
「こりゃ!年上はさん付けで呼ぶものじゃぞ!」
プンプンと怒る聖。
「へ?」
彼女は26歳の俺よりも確実に若い。というか幼い。どう見ても10台前半くらいに見える。
さっきの婆発言といい、変なこと言うな…。この子。
「じゃ、じゃあ聖さん?」
「うんうん。そう。それでよい。いい子には飴玉をあげよう。」
再びポケットを弄る聖さん。
「あっ!持っとらんかった。残念。」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「そ、そっか。
じゃあ、そろそろ行こうか。何をするにしてもまずは情報収集からだ。
行くよ。聖さん。」
「はいはい。わかったよ戦斗さんや。」
なんだか何か噛み合ってない気がする。
そんな違和感を感じながら俺は聖と名乗った銀髪の少女と見知らぬ大地を歩き始めたのだった。