第1話 99
気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。
目の前にウィンドウが表示される。
________________________________________
ようこそ!《Re:write》の世界へ!
あなたにはこれから、自らの分身のステータスを割り振って頂きます。
〈名前〉花枝 戦斗
〈年齢〉 26
〈性別〉 男
〈容姿〉 中
〈種族〉
〈体力〉 0 ←
〈筋力〉 0
〈魔力〉 0
〈技量〉 0
〈敏捷〉 0
〈魅力〉 0
〈耐久力〉 0
【特殊パラメータ】
このパラメータは個人によって異なります。
〈爆〉 0
〈鼻〉 0
〈霊〉 0
残り99
〈決定〉
あと180秒
【※最後までポイントが割り振られなかった場合、カーソルが合わせられているステータスに残りのポイントが割り振られます。】
________________________________________
ふむ。子供の頃からゲームをやっている俺にはとてもわかりやすい説明だ。
要はこの99の数字を好きなように割振れって事だな。
うん。一番下に決定ボタンがあるな。
上の方にある不親切な奴もあるからこれは割と親切な方だな。
これは大事なところだぞ。ここでステータス割り振りを間違うと積んでしまうケースもあるかもしれない。
さっきの作業員のように非現実的な力を手に入れるなら〈魔力〉の項目にはしっかりポイントを割り振りたいところだな。
しかし、筋力に多く降ってムキムキ戦闘ライフを送るのも悪くない。ガタイがいいのはいい事だ。
うーん。悩み所だ。
そういえば…。俺は、特殊パラメータの欄に目をやった。
個人によって異なるパラメータか。ここに何か良さげなパラメータがあれば面白そうなんだけど。
〈爆〉と〈霊〉はなんとなく特殊能力の様な気がするが、〈鼻〉ってなんだよ!〈鼻〉って!
めちゃくちゃ気になる。
カーソルを合わせると何か説明が出るかもしれない。
そんな希望を抱き、俺は〈鼻〉にカーソルを合わせた。
…説明は無しか。
〈体力〉とか〈敏捷〉とかの数値と違って結構わかりづらいな…。
どうしたものか…。
しばらく考えていると、突然ビーと音が鳴り、画面が赤く染まる。
突然の出来事に心臓がどきりとした。
『時間内にポイントが割り振られなかったため、残りのポイントは最後にカーソルが合わせられているステータスに割り振られます。』
「は?嘘だろ?」
1人しかいないのに思わず口に出てしまった。
さ、最後にカーソル合わせてたのって何だっけ?
〈魔力〉じゃないにしろ〈筋力〉とかでありますように!
俺は塞いだ目をそろそろと開けた。
________________________________________
割り振られたステータス
〈鼻〉99
このステータスから適切な職が表示されます。
〈次へ〉
________________________________________
「ノォオオオオオオ!!?」
全部〈鼻〉に振っちまった!
ど、どうなるんだこれ?
てか〈鼻〉の適切な職業ってなんだよ!
逆に気になるよ!
しかも戻るボタンねーし!
前言撤回!なんて不親切な説明なんだ!
クソがっ!
俺はすぐに〈次へ〉ボタンを押した。
________________________________________
以下の中から職業を選択してください。
〈鼻魔法使い〉
〈鼻血使い〉 属性 血
〈鼻毛使い〉
〈鼻油男〉
〈決定〉
________________________________________
ヤベー。予想より全く意味わかんねぇ。
何〈鼻魔法使い〉って。ただし魔法は鼻から出るってか。
アホか。
ほかの職もろくなもんないし。
なんで剣士とか、格闘家とか普通の職が一つも無いんだよ!
しかも〈鼻油男〉ってなんだよ!もはや悪口だよ!
「…マジか。」
この選択肢の中から選ぶしか無いのか。
唯一気になるのは属性 血
との記載がある鼻血使いか…。
でも鼻血使いって…。
何、鼻血で戦うの?それか以外と輸血できたりとかしてサポート職だったりするのか?
もうどうでもいいや。
俺はこの世界で生きていく事を諦めた。
さっさとチュートリアル終わらせてログオフするか。
〈鼻血使い〉にカーソルを合わせて〈決定〉を押した。
________________________________________
以下の能力で決定します。
〈名前〉花枝 戦斗
〈年齢〉 26
〈容姿〉 中
〈性別〉 男
〈種族〉
〈職業〉 鼻血使い 属性 血
〈称号〉 全てを捧げし者
〈体力〉 0
〈筋力〉 0
〈魔力〉 0
〈技量〉 0
〈敏捷〉 0
〈魅力〉 0
〈耐久力〉 0
【特殊パラメーター】
〈鼻〉 99
〈確認〉
_______________________________________
ヤベーよ何度見ても〈鼻〉全振りだよ。
ってか称号だけなんかかっこいいな。
でも捧げたのは〈鼻〉なんだよな…。
大丈夫かこれ?まぁ、さっきのお兄さんも簡単に帰れるって言ってたから大丈夫だよな。
俺は観念して〈確認〉ボタンを押した。
________________________________________
これで、全ての項目の設定が完了しました。
それでは、しばらくお待ちくださいませ。
________________________________________
…これから新たな世界へと足を踏み出すのか。
これですごく楽しそうな世界だったら嫌だなぁ。
だってステータス〈鼻〉にしか降ってないし。
まぁ、なるようになれだな。
________________________________________
おまたせいたしました。
主よりのお言葉をどうぞお聴きください。
________________________________________
主?誰のことだろう。
そんな事を思っていると、唐突に景色が変わる。
そこは
荘厳な雰囲気の教会だった。
大きなモニュメントの後ろには巨大なステンドグラスがあり、様々な色彩の光を拡散させている。
大きな女性型のモニュメントの前に誰か立っている。
「ようこそいらっしゃいました勇者様。
どうぞ、こちらへ。」
俺はその人物を見たことがあった。
作業員の兄ちゃんに見せてもらった映像に映っていた少女だ。
「私の名前はエルと申します。」
とてもゲームの中だとは思えないリアルさ。
というか、ここは本当にゲームの中なのか?試しに頬をつねってみたが、現実の感覚とは相違無いように感じる。
「ど、どうも。花枝 戦斗と申します。」
「ハナエダ様。これからあなたは自由です。何をしてもどんな生き方をしても構いません。それが、生き物の本質なのですから。」
「は、はぁ。」
「しかし、当たり前のことですが、命は1人に一つしか与えられていません。それを踏まえて、第二の人生を歩んでください。」
「つまり、この世界で死んでも現実で生き返る事は無いって事か?」
「はい。そうなります。」
まぁ、リアルさを追求する為のフレーバーだろう。
ゲームで死ぬなんて馬鹿げている。
おっと、そんな事より最も大事な事を聞く事を忘れていた。
「ところで、元の世界に戻るにはどうすれば良いんだ?」
「元の世界に…戻る?」
少女は可愛らしく首を傾げた。相変わらず無表情だが。
「そう。俺のステータス見た?〈鼻〉99だぜ?鼻に全振りしちまったんだよ。こんなステータス流石にクソ雑魚だろ?こんなのもう帰るしかねぇよ!」
「いいえ。そんな事はありません。」
少女はなぜか小さな手で俺の両手を包んだ。
「え?」
「それはあなたの生きる為の力。それを馬鹿にする事など誰にも出来ませんよ。
大丈夫。あなたはきっとやっていけます。この私が保証するのです。
安心して下さい。」
そう言って俺の目をじっと見つめる少女。
…。な、なんか照れくさいな。なんだこれ。
「そろそろ時間のようです。あなたの新たな旅立ちに。幸多からん事を。」
俺の体が光りだす。
「ま、待ってくれ!どうやれば元の世界に変えることができるんだ!?」
「それはまだいずれ。あなたがこの世界を感じてから…。」
少女は嫋やかに手を振った。
俺の意識は徐々に遠のいていった。