さあラルーナへ
遅くなってすみませんでした!
隣の国・ラルーナへ行くことが決まって一週間――
「しばらく見ないと思ってたら今日出発するのか?」
「ああ父様…うん今までマナー漬け一週間という地獄だったけど」
庭を歩いていた王はリフィルを見つけ声をかけた。それにリフィルは自嘲気味に笑って答えた。しばらくというかシェリーたちが補佐になると言ったあとから一度も会ってない。
「私もいくらなんでもあそこまでとは思わなかったかな!」
「こっちとしても疲れたわよねーまあ私は基本シェリーの手伝いだったけど」
そこへ姉二人が来て愚痴を言う。――あの後リフィルにダンスや挨拶などの簡単なマナーをやったところ、まったく出来てなかった。そのため姉妹・側近総出で一から教えることになった。
ある人にその事について聞いてみたところ――
ある側近 Cさん談
「シェリー様がある意味お母様化されてました。あと助っ人で入った人達がえげつなかったというか容赦?がなかったです。――ええリフィルのことは自業自得だと思いますが…」
という感じだったそうです。
「バカだろ」
「違いますよデューク。一応頭はいいんですからアホでしょう」
「少しくらい手加減しましょうよ…」
「あの地味にグサグサ効果音聞こえて来てるんですが…」
リフィル達の方に行きながらおもいっきり暴言を吐くデュークとナイト。フレイは少し諌めチェインは状況分析。自分の主だけどこれに関しては諦めている。
「お前たちいつも仲いいよな」
苦笑いでいうお父様。でも娘達が仲いいからちょっと嬉しそう。そこに今度はハルカが来た。
「陛下、今回は私も行くことになりました。事後報告で申し訳ありません」
「ああ色々あるからな…ハルカもまあとりあえず頑張って来い」
「はい、ありがとうございます」
そして王に報告。一応侍女一人もいなかったら世間体とかヤバいだろうということで。でも全員一人で生きていく力はリフィル以外はある。ハルカも危なっかしいところはあるけれども、さすがメイドというか…意外と何とかなる。
「そういえば父様王のことについて詳しく話すって言ってたけど来なかったよね?」
「ああ部屋の前までは行ったがなシェリーとか怖くてやめた。入りづらかったしな。それにどうせもう出発するんだから、また帰って来たときに話す。覚えといてくれよ?忘れそうだからな」
リフィルが次の王になると決まったときあとで詳しく話すと言っていたが、結局出発直前まで一回も会ってないので聞いてもいない。ので、試しにリフィルが聞いてみた。王は行く努力はしたらしいが、まあ面倒くさくてなったのだろうと勝手に推測していた王女たちだが、努力はあったという意外な結果。話は時間がないので先送り。ちなみに王がいうにはシェリーたちは色々ヤバいのに見えたらしい。オカルト的な。
「結局あの日はマナー三昧だったよ」
「そりゃそうだろうな」
「リフィルの出来が悪いせいだと思うけど?」
「すみませんでした!」
リフィルは笑いながらしごかれたことを話す。そして王も笑って返す。リフィルが笑い話にしようとしたら、レインにぼそっと嫌味を言われたことで強制的にカットされた。これには返す言葉がないので普通に謝る。
「で、忘れものしてないか?」
「ちゃんと持ってるリフィル?」
「そうよ忘れものしてない?」
王が忘れものをしてないか聞いたらシェリーとレインからも追い討ちをかけられた。
「え、何で私限定?!」
「いつも忘れものって言ったらリフィルだから」
「シェリー姉様ひどい‼…でもまあ事実なんだけど」
リフィルは本当に忘れものばっかりで何か頼んでても忘れるという…それは自他共に認められているからリフィルも大きく出れない。
「じゃあ確認しようか?ね?シェリー様に怒られないためにも」
「はーい」
フレイが優しく諭す。フレイは基本的にリフィルには優しい。他の人にもそうだが。まあフレイはリフィルの飴と鞭の飴。鞭はもちろんお姉様達とその側近。チェインはどっちにもなる微妙な立ち位置。
リフィルが面倒くさそうに返事しながらゲームでいうウィンドウらしきものを出す。この世界は魔法がある。その魔法の中の一番基礎的なものが収納魔法。ウィンドウ(もうウィンドウでいいや)には入っている物が書いてありそれを押すと物が出てくるという仕組みだ。もちろんその人の魔力量で入る量は変わってくる。
「はい、じゃあいるもの言うよー」
シェリーはそう言い、一回息を吸って
「タオル10枚歯磨くやつ動きやすい服ネグリジェズボン靴ショール下着羽織るもの靴帽子日傘くし枕防寒具布団テント鍋調味料動物の餌鏡目隠し用の布簡易食糧薬ランプ髪どめコップ皿8枚セットお菓子王家の紋章書くもの紙時計料理器具マナーの本羅針盤望遠鏡水お金剣網ロープ楽器ティーセット一式弓矢ナイフ絵の具キャンバスしおり大量の本お土産ドレスアクセサリーいわゆる夜会セット以上!」
というのを一息で言った。これだけ聞いたら何がなんだか分からないが。
「全部ありまーす」
まあそれを理解したリフィルもリフィルだが…
「ならいいや」
「うん何だしおりって?」
持っていくものの内容も内容だが、いつも突っ込む人が共犯なのでツッコミなしでお送りします。王は普通に納得して気になったことだけ聞く。
「いや何がいるとかこれをしたらダメとか予定とかをまとめたものですよ?」
「私とデューク監修」
それに答えるレイン。自慢げにいうシェリーはわざわざ誰かさんのために作ったらしい。誰かさんが誰とは言わない。
「忘れものしたら困るしねー、かさばるものは全部リフィルに持たせてるから」
魔力量が一番多いのはリフィルだから。まあいわゆる荷物持ち。力だけで言ったら普通に側近組には負けるが。というか側近の荷物も持つ王女とはこれいかに。
「絵の具とキャンバスは私の趣味です!」
「ハルカってそんな趣味あったんだな。ハルカは目立つからそういうの分かりそうだが、今まで聞いたことなかったな」
「陛下には言ったことありませんしね」
ハルカも持たせているという一応侍女なのに。 ラルーナで写生したいらしい。王も変なことにしか食いつかない。
「大量の本は全員の分ですよ」
「剣は私と側近全員の分です」
「ティーセット一式は私」
フレイ、レイン、シェリーが持たせているものを言う。本当遠慮ないよなこの人たち。本はみんな読んでいるそれぞれの趣味のもの。剣は護身用のもの。ティーセットはシェリーの趣味というか日課。
「量多くないか?」
「いやリフィルには悪いと思ってるけど」
「うんその顔で言うと説得力ないぞ?」
王が聞くとまったく悪びれない顔で返す。
「あ、今日は野宿の予定」
「テントってそれかやったことあるのか?」
「チェインとフレイやったことあるらしいので教えてもらいます」
シェリーは話を変え、王ももういいやみたいな感じで野宿について聞く。そしてそれにデュークが返す。デュークはさすがに王の前ではちゃんとする。
「うんまあとりあえず気をつけてな」
なんかだんだん面倒くさくなってきて無理矢理切り上げる王。
『行ってきまーす!』
王女全員がそう手を振りながら言い、先に門の方に行く。
『では行って参ります』
側近組とハルカが礼をしながらそう言って王女を追いかけて行く。そのあと王は門を出るまで見送った。
「まあこれからどうなるかな?」
独り言を言いながら。
城門を出た王女達ーー
「じゃあどうしますかこれから。城下町ですけどこの人数だと目立ちますよ」
「よしグッとパーで二つに分けよう」
ナイトが言うとリフィルがキリッと提案した。グッとパーとはリフィルが東の国の文献で見つけた“じゃんけん”という遊びの一種で、二つに分ける時に使う。じゃんけんは手を使ってグーとチョキとパーで勝敗を決めるもの。リフィルがやりたいとごねたので最終的にみんな馴染み、結構みんな使っている。
「じゃあせーの」
『グッとパーで分かれましょ!』
レインがかけ声をしてやったところ…
「やった、ハルカ一緒だね!」
「うん!」
「いやいや何言い出した本人チョキ出してんの」
「ハルカも何してんの?」
リフィル、ハルカ…チョキ。レイン、ナイト、フレイ、チェイン…パー。シェリー、デューク…グー。というわけで怒られているリフィルとハルカの図。チョキは出したらダメだから。
『すみませんでした!』
「はいじゃあ仕切り直そ。もう二人ともチョキ出したらダメだからね」
リフィルとハルカが謝るいつもの光景。たまにこの二人はやらかす。で、シェリーにたしなめられる。
「じゃあシェリー行くぞせーの」
『グッとパーで分かれましょ!』
「…見事に真っ二つになりましたね」
デュークが掛け声をしてやったところ、結果としてまあフレイの言葉から分かるように、誰もチョキは出してないが。
リフィル、シェリー、ナイト、フレイ…グー。
レイン、ハルカ、デューク、チェイン…パー。
「じゃあ決まりましたし、行きましょうか」
ナイトが言うと、
「では東と西の道で分かれましょう」
「フレイに賛成。集合時間は2時間後で南の町の広場にしませんか?」
フレイ、チェインが提案した。
「じゃああとでねー」
「迷子にならないようにな」
「それ言うならハルカ」
「私はリフィルもだと思う!」
「はいはい行くよー」
リフィルがからかわれ、反論するとハルカは否定せずに主張する。それをシェリーやチェインが回収して行く。まあ日常のいつもの光景だった。