さあ、次は誰?
その少し前――――
ある王宮の廊下を品位を落とさず早歩きをする人たちがいた。
ふと途中で先頭を歩く2人の少女が話し始めた。
「あー眠い。ねぇレイン、何でお父様私達呼んだと思う?」
「さあね。でも珍しいわよね」
明らかに苛立っている少女––シェリーはスピードを一切緩めずに隣に歩く双子の妹––レインに話しかけた。レインもスピードは落とさずに、なんでもないように答えた。2人は早歩きしながら話しているとは思えないほど姿勢も良く、息も切れていない。
余談ではあるがこの双子の少女たち全く外見が似ていない。所謂二卵性というやつだだから初対面の人には姉妹とすらも思われることがほぼない。ちなみにレインはレインビアの愛称だ。
「二人とも今はそれでもいいですが、一応親とはいえ陛下なんですからちゃんとなさって下さいね」
そのすぐ後ろを歩いている少年––ナイトが笑顔で2人を諌めた。彼はレインビアの側近で、性格は主人によく似ている。
ナイトが2人にぐちぐちと嫌味を言い始めると、ナイトの隣を歩く少年がすぐ後ろを振りかえった。
「……リフィルもだからな」
「……………」
彼––シェリーの側近であるデュークは後ろを歩く少女––リフィルを注意したのだ。それに対してリフィルは、無言で明後日の方向に顔を向けて今にも口笛などが聞こえてきそうな雰囲気だ。そんなリフィルのそばにそのまた後ろからこの中では顔が平凡といえる少年が駆け寄ってきた。
「リフィル!顔を!こっちに向けて!」
その少年––リフィルの側近の一人のチェインがなんとか歩きながら顔の方向を直そうとする。それを手助けしようとチェインの隣にいた少年がリフィルのそばに来て声をかける。
「リフィル?注意は聞かないとダメだよ?」
笑顔で優しく言ったこの少年はもう一人の側近フレイだ。彼は髪が長いのが特徴的でそれに加わり中性的な容姿をしているので、たまに女性と間違われることがある。またリフィルにだけ側近が二人いるのは三姉妹の中で一番手がかかり、一人だけでは色々手に負えないからだといわれている。
「…はーい」
「「ちゃんとしろ!」」
その明らかにやる気のない返事を聞いたあと、シェリーとデュークは即座に後ろに下がりリフィルにチョップを下す。そしてまた前を向き歩き出す。
「あ、痛っ⁈ちょっとやめてよ姉様、デューク」
リフィルは流石に歩くのが止まったが一瞬経つとされたところを抑えながらまた歩き始め、不満そうに抗議をした。
「リフィルがちゃんとしないからでしょ?」
「制裁だ」
それに二人とも真顔で返し、一度沈黙が降りた。はぁ、と一度ため息をついたナイトが助け船でも出すのかと思えたが。
「シェリー、デューク一応王女なんですから。思いっきり別の方向向いて返事して、イラッとしても一応王女ですから、これでも」
「…そういうナイトが一番ひどいと思う」
助け船を出されるわけもなく、ただの言葉の暴力だった。リフィルにダメージはそこまでないが、なぜか不穏な空気が流れていた。
「はいはいとりあえず終了。話かなり変わってきてるから…リフィルはどう思うの?」
「父様が私達を呼んだ理由だよね」
「ええそうよ」
「うーん例えばだけど3人の誰かに婚約者が出来たとか?」
レインがその場を納めて、別の話題を振った。
その答えのリフィルが冗談で軽く言った内容はありえない話ではなかった。彼女たちは王族なのに誰一人として婚約者がいない。本人が拒否しているからというのもあるだろうが、表舞台にたたずほぼほぼ外交などもしないため、顔さえ知られてないからだろう。
「うん、そんなことで呼び出したんだったら殴るかな。グーで」
「仮にも父親の前に国の王なんだから抑えろよ」
シェリーが笑顔で拳を見せた。その横にいたデュークは顔をそちらに向けようともせずに淡々と注意した。
「いやそんなことに睡眠妨害されたと思うと…」
「もし婚約者だったらやってもいいわよ?私もやりたいくらいだし」
「え、二人でやっちゃう?」
「私も混ぜて~姉様達」
シェリーは一度あくびをした。普段なら全員寝ている時間だからだ。
ノリノリなこの姉妹は本当にそうだったらやるだろう。確実に。目が本気だ。
「あのナイト様止めなくてよろしかったんですか?」
「あぁレインたちのことですか。まあ今回は止めませんよ?そうじゃなかったら全力で止めますけど」
「「ですよね‼」」
「ある意味ちょっと愚問だな」
後ろではそんな会話が繰り広げられていた。最後にデュークにまで言われ、真面目に愚問だとチェインとフレイは察したのだった。
そんな会話をしているとそろそろ目的地に到着しようとしていた。
「もうすぐですね――レイン達ずっと話してないでちゃんとして下さい!」
最終的にはレインに怒られ渋々元の並びに戻って目的地に着いた。
そして現在––
「とかねここに来るまで話してたんだよ!予想の斜め上をいったねお父様⁉王座退くなんて想像出来るか‼」
この王はシェリーの言う通り退位すると言い出したのだ。で、次の王を決めるために呼んだと。その瞬間ほぼ全員が頭がフリーズしていた。今は少し経ったので復活しているけれど。
「で、どうするんだ?お前たちの中から次の王決めるんだが。長女だしシェリーがやるか?」
「え、嫌ですよ?そんな面倒くさいっていうか私達ある意味引きこもりじゃないですか」
「え、でも仕事は出来るじゃないか?じゃあレインはどうだ?」
「え、前に同じですよ?頭良いんだしリフィルがやったら?」
王は座っている椅子を人差し指でカツカツと叩きながら聞いていった。そして王は真顔で返してきた双子に若干ひいていた。
前にもいったが、シェリーが言った引きこもりというのは表舞台にまったく出ていないということだ。
またリフィルは3人の中でも残念ながらずば抜けて勉学的には頭がいいのだ。それが普段の行動に使われているかは別として。
「えっとじゃあな、リフィルはどうだ?レインから指名来てるんだが」
「…いいよー♪」
『軽っというかいいんだ⁉』
少し間を開けて答えたリフィルの返事に、王と王妃以外の心がはもった。リフィルは面倒くさがりだから拒否すると思ったからで、王と王妃は長年の経験と王になってくれる喜びが勝った。
「ありがとなリフィル!というわけでシェリーの言ってた通りもう遅いから、解散な。詳しいことはまた明日話すから」
「はーいおやすみ~」
「はっ……え、ちょっとお父様⁉…もういないし!お母様とリフィルもどさくさに紛れていなくなってるし‼」
王にリフィルがなるということが決まって少しフリーズしていた間に、王及び王妃、リフィルは光の速さで消えていた。逃げたともいう。そんな人達にシェリーは半ば逆ギレしていた。
「すみませんシェリー様、今すぐリフィル追いかけますので!」
「変なところにいても困りますし、十中八九自分の部屋でしょうが。では失礼いたします」
そのことを即座に理解したチェインとフレイが礼はきちんとして二人同時に出て追いかけていった。
「…チェインにフレイ早いわね」
「しょうがないと思いますよレイン。リフィルと鬼ごっこ状態の時なんて普通にありますから」
「無駄に逃げ足早いよなリフィル」
シェリーは二人の勢いに気圧されて黙りこくっている。そこでレインは残っていた人達の心を代弁していた。残りの人達はしみじみリフィルに呆れ、チェインとレインに尊敬の念を向けた。
逃げ足が早くなった理由はちょっと姉様達と関係している。リフィルが自業自得の面もあるけれど、それはまた別のお話。
「シェリー、私達はどうしようか?もしリフィルが王になったとして」
「ちょっと待った。今考えると、物凄く嫌というか変な想像しか出来ないんだけど」
「奇遇ね私もよ。…リフィル王にしたらいけないんじゃ?」
「でも私達王になりたくないからね」
リフィルを王にしたという想像をしたところ、二人の中ではろくなことがなかった様子。姉だから分かるという点は絶対あると思う。
「だったらリフィルの補佐にでもなればいいんじゃないか?二人で」
「それだったらいいと思いますよ?今の二人には最適だと」
「確かに、王にならずにリフィルに色々言える立場よね。補佐だから基本的には支えるだけど」
「リフィルのためにも国のためにもなろうか!補佐に。レインもなるでしょ?」
「ええじゃあ明日お父様に言おうか王辞めたい理由聞いて」
「そうしよー」
結果的に二人は補佐になることになった。決して自分の身が可愛かったわけでは…ない…はず。
「レイン、シェリーそろそろお部屋に戻られたらどうですか?」
「そうだな。早くしないと朝が来るぞ?」
「そうだね眠い…」
「シェリーちゃんと部屋まで頑張ってよ?」
チェインとフレイはおそらくいると思われているリフィルの寝室に足を運び、ノックした。
「リフィル~居るか~?入るぞ?」
返事を聞かずチェインがドアを開けて入り、フレイもそれに続いた。部屋を見回すとベッドで熟睡しているリフィルがいた。
「…うんやっぱり寝てたね」
「見事にぐっすりだな」
「早すぎでしょ色々と。服も着替えてるし、さすがにお風呂には入ってたけどさ?」
まだあれから10分たったかたってないかくらいだと思う。その時間のうちに帰って着替えて…かなり部屋の距離あるのに…。
「だよなーっていうか、シェリー様達に寝てましたーって一応報告した方がいいか?」
「いいんじゃない?多分分かってるだろうし」
「そうだよな!じゃあ俺達も自分の部屋戻るか」
「うん早く帰って寝てリフィルより早く起きないとシェリー様も来るだろうし」
「たまに早く起きてどっか行ってることもあるからなリフィルは」
くすっと二人で笑いあって静かに部屋から出て行く。
リフィルの側近二人組はこの短時間でそれなりに疲れたらしく。まあ当たり前に主のせいだ。そのせいで二人はかなりの苦労性となった。だが、側近を自らやめるという選択肢は二人の中にはない。