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午後五時を回り、風浦は易国間に事務室でタイムカードを押させた。カードには退勤時刻が打ち込まれた。
「タイムカード忘れがちだけど、出勤したときと帰宅するときは必ず押すように。施設長もチラッと言ってたけど、労基署が入ったりすると、タイムカードもチェックされるから」
「忘れそうだな、これ。もっといい仕組みありそうなもんだけど」
「他の施設だと手書きの出勤簿を使ってるところも多いんだよね、ここみたいにタイムカードとレコーダー使ってる方が珍しいくらいで」
「なんだ、手書きでいいんなら手書きの方がいいんじゃないの?」
「そこも大先生の心遣いなんだよ。安易に勤務時間を書き換えて、見えない早出残業を少しでも無くそうとしてくれたから、手書き出勤簿より改竄が難しいタイムカードなんだよ」
言いながら風浦は自分のカードをレコーダーに差し込む。同じく、退勤時刻が印字された。
「タイムカードはこの箱に入れてるから、ここに戻して。……それじゃ帰って大丈夫です。易国間君、お疲れさまでした」
「はい先輩、お疲れさまでした。……ところで先輩」
退勤の挨拶をした易国間が風浦に問う。
「先輩はまだ帰らないのかい? そこには、オレと同じ退勤時刻が打たれてるけど」
「……僕は夕食が終わってからかな。介助があるから」
「遅番の帰宅時間か。ちなみに朝は何時から?」
「……六時半から仕事だな」
「早番の始業時間か。ざっくり見積もって、十二時間くらいになるのかな、実労働時間は。タイムカードは日勤の時刻で打ってるの?」
「そうだね」
「意味ないじゃん、タイムカード」
「まぁね。そんなもんだよ、この仕事。今は特に人手が足りないし」
「恐ろしいな、十二時間は。半日も働くなんて。しかも、そのうち四時間はサービス残業か」
「大丈夫。君もすぐに慣れるから」
二人は笑いあった。疲れた笑顔を見せる風浦の両眼の下で、大きな隈が深く窪んだ。
「そうか、がんばって。……お先に失礼します」
「はい、お疲れさま。……あ、そうだ」
立ち去ろうとした易国間を風浦が呼び止める。
「言っとくけど、十二時間なんて大したことないよ」




