第1章 5話 『宿屋の夜』後編
※前回よりも若干えっちぃ描写があります。
R15に抑えようとしていますが、
もしかしたら結構アウトかもしれないので、
苦手な人は遠慮して下さい。
この話を飛ばしても特に内容に差し障りはありません。
俺は浴室を出て菜川の元へ向かった。
さっきの菜川、結構苦しそうだったよな。熱あるのに無理して筋トレするからだよ。それに風呂入ってから筋トレしてどうすんだよ。普通は逆だろ。
「すまん、待たせたな。お前大丈夫か?」
菜川は寝ていた。疲れて寝てしまったのだろうか。
「熱あるんだから、薬飲んどいた方がいいぞ。さっきの変な店の品物だけどな。一応効くらしい。」
「…あ、ありがと。でも大丈夫だよ?元気だもん。」
「いやでも心配だぞ。熱あるのに風呂入ったり筋トレするから具合悪くなるんだぞ?」
「だから熱ないってば。それに筋トレなんてしてないよ。心配してくれるのは嬉しいけど。」
「温度計かなんかあればわかるのになぁ。それとさっきお前が筋トレしてた声聞こえたぞ。」
「温度計あればねぇ。それと私は本当に筋トレなんてしてないよ。そういえば、さっき、その、双葉君の、アレ、聞いちゃった、かも…」
そう言うと、菜川の顔がみるみる赤くなった。やっぱり熱あるんじゃねぇか。なんで隠すんだろう。意地でも張ってるのかな。こういう時まで意地張らなくてもいいのにな。
「さっきの店で温度計買っておけば良かったな。売ってるか知らないけど。ああいうのはコンビニじゃなくて薬局とかに売ってるんだっけか?それと、俺のアレってのは何だ?」
俺は薬局とか行かないからわからん。病気の時はいつも母さん頼りだったな。お世話になったな。やべ、まだまだ親孝行出来てねぇ。まぁいいか。
「そうかもね。それと、えっと、ほら、浴室で、ヤってた、でしょ?その、もし、あれだったら、い、一緒にやっても……い、いや、そういうのは、やっぱり一人でやるのが良いよね、落ち着かないもんね、はは」
やたら菜川がテンパっている。頭がやられているらしい。この世界の風邪怖いな。気をつけよう。
「まぁな、確かに一人でやった方が集中出来るよな。そりゃそうだ。でもまぁ、手伝うやつがいると助かるかな。」
「そ、そっか、て、手伝い、か。なら、わ、私が手伝っても……い、いいよ?」
「おぉ、まじか、なら任せるよ。」
「う、うん……任せて……」
菜川の顔がさらに赤くなる。顔から火が出そうだ。比喩的な意味でな。でも熱でこんなになるだろうか?
「まぁ腕立て伏せは自分で出来るけど、腹筋とか背筋とかは誰かが足を支えてくれてないと動いちゃうもんな。そういう時は手伝ってもらうぜ。」
「え?」
俺がそう言うと、菜川はポカーンとした顔で首を傾げて言った。そしてすぐに菜川は驚いた顔して顔を枕に埋めた。どうしたんだろう。
「ん?菜川、どうしたんだ?」
「くぅぅぅ………」
菜川から変な声が出た。よく見ると耳が赤い。これはあれだ、照れてる時の顔だ。昔から菜川は照れると耳がかなり赤くなる。あれ?そういえば顔が赤かったのは照れてたからか?照明が暖色だから気付きにくいんだよなぁ。つまり、菜川の顔が赤かったのは、熱があったからじゃなくて照れてただけって事だな。俺が勘違いしただけか。
「なんかよくわからないけど、どうして照れてるんだ?」
「うぅ……気にしないでよ……」
面白い。菜川は本当に熱なんて無かったんだな。っていうかいつから顔赤かったんだ?覚えてないや。あ、あれば、部屋のくだりだ。……わかったぞ。そういうことか。
「そっかそっか、部屋が一つしかなくて俺と一緒に寝ることになるから、そんなに顔が赤いんだね。」
芝居掛かった言い方でわざとらしく言った。
すると、菜川はこちらを見ながら口を尖らせ、
「双葉君、はじめは気付いて無かったでしょー。」
「まぁそうだけどな。照明のせいで気付くの遅れた。ごめんな。お前が嫌なら早く言えば良かったのに。お前はベッドで寝てろ。俺はソファーで寝るから。」
「むっ…別にここでいいし。というかここで寝ろ!」
「なんで命令口調!?」
どうやら菜川を怒られてしまったようだ。からかったとはいえ、最後のは優しさだったのだがな。嫌味かなんかに聞こえたのだろうか。
「いやごめんって。意地張らなくてもいいんだぞ?」
「意地なんて張ってない!いいからここで寝ろ!」
随分とご立腹だ。俺そんなにからかってないよな?少しだけだったよな?どうですか、皆さん?助けて。
「は、はい。わかりました。」
とりあえず菜川の熱を冷ます。熱さま○ートだ。
「うん、わかったなら良い。」
うーん、でも菜川はそれでいいのか?こんなこと聞いたらまた怒られそうだから言わないけど。別に俺はソファーで寝ても良いんだけどね。前世ではソファーに座ってたらよく寝落ちしてたし。気付いたら横になってるという、不思議な家具だ。
「とりあえず俺もここで寝るけど、一応言っておく。俺かなり寝相悪いぞ?それでも大丈夫か?下手したら寝たまま富士山まで行っちゃうぞ?」
これは俺が修学旅行で毎回やるギャグだ。このギャグ単体ではつまらないが、その後誰かが「お前ここから富士山まで行けるわけねぇだろ」というツッコミが来て初めて笑いが起こる。まぁガキの頃の話だが。
「ここ異世界なんだから富士山まで行けるわけないでしょー。……ふふ」
「ナイスツッコミだ。」
「ほんとよくやるよね、それ。覚えてる?小さい頃、小学生の時さ、一緒に旅行することになったじゃん。それで、行きの車の中で双葉君眠そうにしててさ、お母さんに『まだ着くまで長いから寝てれば?』って言われてさ、その時に双葉君言ったよね「俺が寝たら富士山まで登っちゃうよ?』って。最初はよくわかんなかったけど、少しずつ言葉を変えてやっとわかりやすい言葉になったんだよね。懐かしいなぁ。」
菜川の機嫌が直ったようだ。良かった。けど、俺は昔の記憶があんまりない。いつもくだらないこと言ってたからなぁ、そんなこともあったかもなぁ。
「うーん、昔はいつもふざけてたからそんなこともあったかもな。覚えてないけど。」
「覚えてないのかぁ。少し残念だな。」
「すまんな。言った回数が多すぎて詳細までは覚えてない。」
「そんなにたくさん言ってたんだ…」
「おい菜川、少し引いただろ。そんな憐れむ顔で見ないでくれ。」
「ええと、憐れんでないよ?」
「あぁいや、今のもネタだ。自虐ネタから連結させて使うやつ。」
「それ面白いの?」
「いや?別に面白くはないけど、自虐ネタだけだと場の空気を悪くするだけだからな。」
「そうだね。ちょうど場の空気が悪くなってたところだよ。」
「嫌味だな。」
「え?嫌味に聞こえちゃった?ごめんね?」
文字だけ見ると最後のは煽りに聞こえなくもないが、たまたま菜川の天然が発動しただけのようだ。まぁ菜川はそんな露骨に煽ったりしないと思うしな。いや、これは推測じゃなくて願望だが。
「まぁいいや、もう遅いし、さっさと寝ようぜ。」
「うん!」
顔は赤いが凄く嬉しそうだ。もしかして菜川は俺のこと好きなのかな?いや、そんなうまい話はないか。
「ちょっと話しすぎたな。ちょっとトイレ行きたくなって来た。菜川、先入るか?」
「あー、じゃあお先に使わせていただこうかな。」
菜川はベッドから降りてトイレに向かった。
「…………… 」
ゲームが無い世界の中だと、一人ですることが特に何も無いよね。暇だ。深層世界から情報でも拾うか?
そう思いながらベッドに横たわる。
そういえばここは菜川がいたベッドだ。
少しだけ、少しだけ寝てみようかな。
あ、菜川の匂いがする。いい匂いだ。幸せだ。
ずっとこのままでいたいな。
というか菜川ごと貰っちゃうか。
「ね、ねぇ、双葉君?そ、そこ私がいたところ、だよね?たまたま寝てるだけ、なんだよね?」
ひっ、やべぇ見つかっちゃった。どうしよう、何か言い訳を……
「い、いや、これは違くてな、その、あれだ、あれを探しててな。」
「あれって?」
「あれはあれだよ、名前が出てこない…」
「ふーん。なら私も一緒に探してあげるよ。」
ふぅ、助かった。俺さすがだな。とっさに言い訳を思いついたぜ。しかも探しものなら正当な理由になる。
「でも、どうしてそこに寝てたの?探してる素ぶりなかったじゃん。」
うげ、いつから見てたんだよ。いや、俺の行動が遅いからいけなかったか。いや、もう少しだけ、と欲が出たからか。
「いやーその、これは、あれだよ。あの……」
「別に、そこで寝たいならそこで寝てても良いよ?ごめんね、先にベッド取っちゃって。奥側の方で寝たかったんだよね。わかるよそれ。なんか狭いところが落ち着くんだよね。」
「え、あ、まぁな。でも菜川はここが良いんだろ。交代で使うことにしようぜ。明日は俺がここで寝るから今日は菜川がここでいいよ。俺は手前側な。」
「わ、わかった。交代、ね。絶対だよ?」
「あぁ。」
なんかやたら交代したいらしい。まぁ好都合だけど。それにしても俺の交代作戦すごいな。毎日菜川の匂いが……宿の人が洗濯するんだった。お、俺は何のためにぃぃ……あ、手前側なら菜川がベッドを降りるときに一度俺を媒介するし、まぁいいか。
「そんじゃあ俺がトイレ行く番だな。」
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます。って夫婦かよ。」
「ふ、夫婦!?え、い、いや、夫婦じゃないよ!」
菜川が慌てた。反応は可愛いけど、拒絶されるのはやっぱりなぁ。ちょっとしょんびり…
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双葉君は私のことどう思ってるだろうか。やっぱりただの幼馴染としか見てないのだろうか。私の裸見たときは顔を赤く染めて可愛かったな。双葉君が浴室に入って筋トレしてる時の声を聞いた時は、てっきり私の裸に興奮して、ア、アレしてたのかと思っちゃった。
それとさっき私がトイレから出て来た時は双葉君が私のベッドで枕の匂いを嗅いでいたのを見てしまった。
もしかして、私に興味があるのかな。私は双葉君のこと好きだから隠れてやる必要無いのにな。
そういえば、私はいつから双葉君のこと好きだったんだろう。ゴブリン討伐で双葉君が死にかけた時に自分の気持ちに気付いてしまったけど、もっと昔から好きだったかもしれないなぁ。だって色んなこと覚えてるもん。あぁ、双葉君とここに来れて良かったなぁ。少なくともこの瞬間だけは幸せだ。でも、いつ双葉君がいなくなっちゃうかわからないから、そろそろ覚悟決めなきゃいけないよね。どうしよう。双葉君が戻って来たら…そうだ、なるべく手前側で寝て、双葉君の近くで寝ることにしよう。そうしよう。
菜川はダブルベッドの中間で寝た。
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「お待たせ。」
「……………」
「もう寝ちゃったか。おやすみ、菜川。……本当にら寝てるのか?じーーー」
「……… 」
返事がない。あるいは早く寝ようとしてるのか。
そして俺は小声で呟いた。
「菜川って意外と早く寝るんだな…少し寂しいな…」
「あれ?なんか菜川近くね?」
ベッドに乗りながらそう言った。
「おぉ、菜川が近い……寝てるのか?本当に寝てるのか?」
起きる気配はない。
「菜川と添い寝かぁ…。生きてて良かった。」
「ちょっと寝顔見てみるか。」
すると菜川がうつ伏せに寝返りを打った。
「あぁ…。仕方ない、寝るか。おやすみ菜川。また明日な。って明日起きたら菜川が隣に…ふふ」
「ふふふ、ふふふふ、やべぇ寝付けない。」
「ちょっとイタズラしようかな。」
「でも怒られるかなぁ。」
仕方なく俺は寝ることにした。
そして明かりを消した。
すぐ隣では菜川が寝ている。
あぁ触れたい。少しだけで良いから触れたい。ちょうど菜川は近くにいるのだ。あと少し時間が経ったら奥側のベッドに戻ってしまうかもしれない。菜川が寝てるなら、良いよな。そもそもここに寝ろってことはそういうことだろ?オッケーってことだよな?
あぁでもなぁ。ここで菜川に何かして菜川が俺から離れてしまったら…俺もう生きていけないかも。
そうだ、ちょっと寝返りを打って菜川に触れてみようかな。ちょうど俺たちはお互いに背を向けて寝てるからな。反対向きになりつつ背中に触れてみるか。
よし、いくぞ!
ゴロゴロ…
あっ距離感間違えた。左手が菜川の背中を通り越してしまった。な、なんか左手に柔らかいものが…こ、これはまさか、あの、で、伝説の○っぱいか!!
なにこれ癒される。ちょっと揉んでみようかな。あ、でも菜川が起きてないかを確認しなくちゃな。露骨に動いてはバレてしまう。そっとだ。なにせ俺は今寝てるのだ。寝てたらそんなに器用に動かせないはずだ。
不器用に、少し動くのだ。いくぞ!
ゴソゴソ…
身をよじったら余計ヤバくなった。右手が背中に触れたのは良かったが、俺の足が菜川の足と重なってしまった。温かくて柔らかいな。あぁ。俺はこの時のために生きてきたんだな。
ん?こ、これは!菜川の匂いだ。髪から菜川の匂いがするぞ。も、もう少しだけ近付いてみよう。さりげなくだぞ、さりげなく。
ガサゴソ…
あー失敗した。菜川の背中と密着してしまった。右手が菜川の頭の上にあって左手は菜川の胸にあって、俺の体は菜川の背中に密着。両足は菜川の足とさらに密着した。太ももあたりから少し絡まっている。
あ、やばい。こんなことしてたら俺の聖剣が動き出した。待て、ここで動いては菜川にバレてしまうかもしれない。落ち着くんだ!意識的にくだらないことを考えるか…よし、大丈夫だ。この程度なら大丈夫だ。
すると菜川の匂いがした。あ、やばい、また動き出した。駄目だ、菜川の匂いに反応している!待て、待つんだ。今はお前が出るまでもない。お前は終盤で主人公が手にするまで待つのだ。この場合、主人公は菜川か?っと、そんなこと考えてるから…あーあ。気付くなよ菜川。気付くな。絶対気付くなよ。
菜川が身をよじった。あれ?なんかさっきより余計密着してないか?完全に足と足が巻きついている。菜川と物凄く密着している。菜川の匂いが凄い。くんか。くんか。あぁいい匂いだ。それと俺の右手が菜川の右手と重なっている。そして聖剣は堂々としていた。菜川の腰あたりに食い込んでんじゃないか?それとなんか少し聖剣が押されてる気がする。
菜川、こいつ起きてるな。だが俺は動けない。寝ているからな。ここで動いたら確実に終わる。俺たちが培ってきた友情も破綻する。出来れば愛情にしたいが。
菜川はピクりと動いた。何かに気付いたのだろうか。あれ?なんか聖剣が押されなくなったな。
あ…気付かれた。もう駄目だ。このまま寝ちゃえ。
俺は抵抗するのをやめて動きを止めた。菜川に触れる感触を味わいながら寝た。
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【双葉が寝てからの話である】
あれ?双葉君が動かないな。もっと密着しても良いのにな。でも、まさか、双葉君のアレがあんな風になるなんて思わなかった。結構あれだ。防御力がある。でも、あんまり押さない方が良いだろう。それにしても双葉君は寝てしまったのだろうか。ここ数分、全く動かない。左手も重ねたかったのにな。右手だけで我慢しておこうかな。まぁ左手は私の胸に触れてるし、きっとそうしたかったんだろうな。
すると双葉が身をよじった。
双葉君起きてたんだ。ならもっと密着しよう。あ、そうだ、正面同士で密着するのはどうだろうか。背中に抱きつかれるのも良いけど、左手が辛そうだし、楽に触れられた方が良いよね。よし、いくぞー。
ゴロゴロ…ゴソゴソ…
よし、双葉君どうだろうか。
私は正面で密着している。私が抱きつく感じで。足同士が密着していて、私の右手は双葉君の右手と繋がっていて、枕の上へ伸ばしている。このままの姿勢だと右腕が痺れてしまうな。どうにかしなきゃな。そして私の左手は双葉君の背中に回して、双葉君の左手は私の胸へ触れている。なんか双葉君から力が抜けてるけど、もしかして本当に寝てるのかな?
「双葉君…起きてる?」
「……………………」
寝ちゃったみたい。
よし、ならもういいか。抱きついちゃえ。
私は双葉君に完全に抱きついた。ああ、幸せだなぁ。
そして菜川は眠った。
次回から2章に入るまで少し話が逸れます。