第1章 3話 『初クエスト』
この世界において、クエストとは魔物や魔獣を討伐または撃退する依頼のことである。クエストのランクが上がるにつれて、強い魔物や魔獣が対象となる。
さて、今回俺たちが受けるのはクエストである。なんでも装備を支給してくれるらしい。それに対象のレベルも低い。Fランクだ。今回は魔物レッドゴブリンを討伐することになっている。彼らはいつもは森にいるらしいが、なんでも少しずつ村に近寄ってきてるのだとか。俺たちが召喚されたあの草原近くまで来ているらしく、なんでも数が多い。また、レッドゴブリンたちは自分の魔力を使って繁殖するため、食べ物と水さえあれば、どこでも暮らしていけるらしい。ただ、そのぶん食物連鎖の底辺にいるため、弱く、普段は採集したりそこらへんの草を食べている。たまに毒草にやられたり、肉食植物に喰われたりしている。
だが、今回のクエストは少々危険らしい。なんでもFランクのゴブリンが多すぎてDランクに相当するらしい。本来なら俺たちは受けられないが、ゴブリン単体が弱く、緊急のクエストであり、俺たちが今日中にお金を欲している、というのが理由で装備支給という形でDランクのクエストに挑むことが出来る。もちろん今回のクエストは俺たちだけでなく、他に25人の団員で挑む。Dランクパーティが5、Eランクパーティが4、Aランクの助っ人が三人だ。
え?パーティの数と人数が合わない?
そんなことはない。
パーティは最大7人。まだギルドに属して間もない団員はパーティメンバーが少ないんだ。俺たちみたいにね。
因みに俺たちのパーティネームは「リ・ワールド」
異世界でやり直す的な感じだ。
それで、俺たちはこの総勢27人でレッドゴブリン軍団を撃退するわけだ。基本的に三グループに分かれてゴブリン達を撃退する作戦だ。まだ実戦経験の少ないFランクパーティは、Aランクの助っ人のリーダーであるロダン・レールが率いることになっている。そこそこ強く、治癒魔法も使えるらしい。
俺も魔法使いたい。だがやり方だけが分からない。まだこの世界に来たばかりだしな。
さて、俺たちのグループは『犬』だ。
そして、Aランクの助っ人のサブリーダーであり、ロダンの兄弟でもある、レダン・レールが率いるDランクパーティのグループは『猿』
そして、Aランクの助っ人の…特に役職を持っていなくて、ロダンとレダンの兄弟であるラダン・レールが率いるDランクパーティは『雉』だ。
……桃○郎どこにいんだよ!?
とツッコミたい。
まぁ君たちも分かってると思うが、ここの傭兵ギルドで主要な三人、つまりロダンたちのレール家はこの街の貴族で、礼儀正しくて博識でごつい。相当な教育をさせているようだ。大変だったろうに。そんなことではなく、彼らレール家は貴族の中でも有力な家で、9大貴族の一つに数えられる、らしい。実はまだ深層世界に慣れていなくて情報をうまく引き出せないのだ。
それで、そのレール家の主人のダダン・レールがこの町会の代表、町長だそうだ。そのため、レール家は街代表として、このゴブリン退治に参加している。とても心強い。
そんなわけで俺たちは今、草原を歩いている。
ここら辺は傭兵ギルドがパトロールしているので、基本的に安全だ。そこで、奴らと遭遇するまで、あの街のことを話しておこう。
「もうすぐ奴らが出てくると思う。警戒しておくように。」
「「「ハッ!」」」
あの街の名前はワサト。頑丈な城壁で囲まれており、大通りがいくつも通っている。また、交差点も多い。あのトカゲのような生物の名前は地竜。土魔術を使えるらしい。また、比較的おとなしく、飛行する物体がない限り乗せる主人達に忠実になる。
「猿から連絡があった。レッドゴブリンを見つけたらしい。周囲を警戒しつつ、ハサミうちにするぞ。」
「「「イェッサー!!」」」
「どうして掛け声を変えるんだ??まぁいい。」
そして竜は元々危険に敏感だ。魔力的な異変があるとすぐに気付く。例えば、魔獣がたくさんいる、とかね。まぁ地竜は土魔術で魔獣を倒れるらしいが、あまり無理させると走れなくなってしまうので、基本的には主人が護衛を雇ったりする。まぁ大通りを通るぶんには魔獣や魔物は出てこないがな。
因みに最もらしく言ってるのは、深層世界からの情報だからだよ?知ったかぶりじゃないよ?
「レッドゴブリンだ!奇襲せよ!!弓矢には気を付けて進め!即死したら治癒出来んからな!」
おっと、一時中断だ。
「菜川はどうする?」
「私は魔術であいつら倒してみるよ。」
「は?お前魔術使えんのか?」
「道中で深層世界から魔術についての情報を引き出して色々試したから使えるよ。双葉君にも教えようとしたけど、なんか考え事してたから。」
「そうか。」
おい、お前達のせいだぞ!もしこれで俺が死んだらどうすんだ!ゆるさねぇぞ!
っと思ってると弓矢がかすった。
「あっぶねぇ!!くそ、おのれレッドゴブリン!」
俺は矢を射ってきたゴブリンめがけて突進した。
「うぉぉぉぉぉぉお!!!」
「待て新人!そんな前に出るな!!」
「あっ」
視界の端で別のレッドゴブリン五体が俺に向けて矢を放った。
ビュン!!!
ゴブリンの弓矢が首を貫通した。
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目覚めると、そこには青い空と一面の草原が広がっていた。
「俺は死んだのか。そして何やかんやで、ループしてきたのか。じゃなきゃ話せないし、首痛いはずだし。」
「ふざけたことほざけるなら、心配はいらねぇな。」
ふと頭上から声が聞こえた。
いや、俺はどうやら仰向けで横になっているようだ。
つまり声の主は空中ではなく地面上にいるようだ。
周りを見渡すと目が赤くなった菜川とロダンがいた。離れたところで『犬』が周りを警戒している。
「あれ?ロダンさん、あれ?死んでないのか。」
「あぶねぇところだったぜ、俺が治癒魔術使えなかったらあんた死んでたぜ。いいか、戦場ってのはな、凄く危険なんだ。慎重かつ大胆に戦わねぇといけねぇんだ。かつ、っていうのは同時にやるわけじゃない。慎重に行動してから大胆に攻撃するんだ。わかるか?大胆に攻撃することで、敵の戦意を削ぐことが出来るからな。そこら辺がわからねぇ新人はまだ前に出るな。やってるうちに自然とわかるようになるから。それまでは後ろから見ておけ。」
「すみません、ありがとうございます。」
するとロダンは周りを見て言った。
「お前たちだってそうだ。ゴブリンだって舐めてかかると今回ばかりは
数でやられる。覇気を纏えてねぇお前たちはもう少し慎重に行動しろ。これは命令だ。傭兵ギルドは俺に、お前たちの命を預けた。だから俺はこの身が朽ちるまでお前たちを守る。だがそれには限界がある。二人同時に致命傷を受ければ片方が死ぬ。わかるだろう?これは他人事じゃない。いつお前自身が死ぬかもわからない。戦場はいつもそうだ。だから強くなるだけじゃなく、索敵の技術やら応急処置のやり方やらを覚えておけ。これからのお前にとって大切なことだからな。」
ロダンは説得力のある言葉で言った。ヤベェ、この人マジカッケェ。ロダン先輩さすがっす!!一生尊敬します!!
そう思いながら俺は深層世界からある情報を引き出した。
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はぁ、良かった。本当に良かった。双葉君が生きてて本当に良かった。私はあの時何も出来なかった。深層世界から治癒魔術の情報を引き出せたのに。唖然として動けなかった。いや、ロダン以外は動けなかった。彼はすごい。それだけは分かった。
それから私は泣いていた。双葉君の隣から片時も離れなかった。そして泣きながら戦った。私の前には『犬』が全力で戦っていた。双葉君が倒れたことで戦意を喪失した人もいた。だが立ち上がった。仲間意識からゴブリンをやっつけなきゃいけない、そう思ったのかもしれない。だから私も泣きながら立ち上がった。魔術をたくさん使った。初級魔術だけど、ゴブリンによく効いた。私には火の魔術の適正があった。だから焼いた。たくさん焼いた。思うがままに焼いた。途中からは詠唱もせずに火の魔術を操った。普通は出来ないらしいが、私には出来た。きっと天神の仕業だ。どれも天神のせいだ。天神が言った最後の言葉だ。天神はゴブリンで私たちを殺そうとしたんだ。許せない。絶対許さない。あいつは死なない術式を埋め込んだとか言ってるけど、きっと嘘だ。双葉君は危ない状態だった。魂が抜けそうになっていたらしい。そのためか意識を失っていた。もう戻ってこないかもしれない。そう思った。あの笑顔も、二度も見れないかもしれない、そう思った。そんなのもうやだ。死ぬなんてもうごめんだ。死んでもごめんだ。
「俺は死んだのか。そして何やかんやで、ループしてきたのか。じゃなきゃ話せないし、首痛いはずだし。」
顔を上げた。目の前の男の子が目を開けて呟いた。双葉君だ。彼は戻ってきてくれたんだ。
「おかえり、双葉君」
その言葉は声がかすれていて伝わらなかった。その代わり嗚咽した。声は漏らさないようにした。たまに漏れたりしたけど、双葉君はこちらをチラチラ見ながらロダンからお説教を受けていた。
それでひとしきり泣いた後、双葉君は言った。
「ごめんな。」
ただその一言で十分だった。
私はまた泣いた。
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覇気、それは上位の戦士が纏えるものだ。肉体的な防御力だけではなく、魔術的な防御力を自然と身につけるのである。覇気は時に弾丸すら弾き、巨大な魔獣すら圧倒させるだけの力を持っている。そして、それは人にも効果がある。覇気を持つものからは、威圧感が漂ってくる。そしてその人の言う言葉には説得力がつき、戦士としてだけでなく司令塔としても役に立つ場合もある。
ロダンはそれに当たる。彼の威厳は彼の覇気によるものだろう。そういえば、彼の外見について触れてなかったな。ロダンは上半身にシャツを着ていて、短パンを履いている。至る所にある筋肉は、その服装からして目立ち、仲間から強く信頼されている。傭兵にしては軽装備だが、それだけで十分だったのだ。また、彼の顔には古傷があり、額から鼻かけて斜めに切られた跡がある。焦げ茶色の髪は短く整えられており、全体的に茶色で統一されている感じだ。
レダン、ラダンも似たような感じだが、ラダンは少し肩幅が大きく、大きめの剣を振り回して戦う。レダンは少し細身で背が高く、細長い剣で刺突しながら戦う。また、レダンは眼鏡をかけている。そしてラダンは坊主だ。もちろん二人とも覇気を纏っている。
さて、深層世界から覇気をどうやったらまとえるかを調べてみた。
〜〜〜〜〜〜覇気のまとい方〜〜〜〜〜〜〜
ひたすら筋トレをします。
ひたすら回避をします。
ひたすら攻撃します。
ひたすら相手の攻撃を弾いてから攻撃します。
ひたすら実戦経験を積みます。
するとなんということでしょう。
たった5年で身につくではありませんか。
※個人差があります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
は?
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ゴブリン退治が終わった。色々と疲れた。うまくゴブリンの攻撃を回避しつつ攻撃するのが難しかった。とくにあれだ、間合いがわからん。届きそうで届かねぇんだよな。どうすりゃいいのかね。また深層世界に頼るか。
そう思いながら俺たちはギルドへと戻った。そしてゴブリン退治成功の祝いにロダンたちが夕食を奢ってくれた。
「大量のゴブリンたちから街を守った勇敢な傭兵、いや、戦士たちに!!乾杯!!!」
「「「乾杯!!!」」」
俺たちはたくさん食べてたくさん飲んだ。もちろん酒は飲んでないよ?そして色んな話をした。ロダンは自分の英雄譚を語った。どうやらこの街の付近ではゴブリンが大量発生しやすいらしく、傭兵新人だった時にもゴブリン討伐のクエストがあり、ロダンは素晴らしい功績を立てたらしい。また、Bランクの時にはレインボーピッグが現れ、仲間と一緒に懸命に戦い、見事レインボーピッグたちを倒した。そして極上の豚肉をみんなで分け合って食べたらしい。なんでもレインボーピッグの肉を食べたものは強くなれるらしい。因みにロダンが覇気を纏えるようになったのもその時期だ。
レインボーピッグとは、虹色に輝く豚で、人間と同じくらいの身長で、横幅が広く、皮膚が異常なまでに硬い。しかし皮膚の下は柔らかくて物凄く美味しい肉が詰まっている。そのため、食べるためには硬い皮膚を貫ける特殊な魔法道具を使うしかない。しかし、その魔法道具もレインボーピッグも非常に希少なので、非常に高額で取引される。因みに、レインボーピッグは腐らない。
そして、レインボーピッグはSランクの魔物で、比較的おとなしく、雑食であらゆるものを食べるため、人をあまり襲わない。が、他の魔物や魔獣がレインボーピッグを食べようとするため、レインボーピッグは走って逃げ回る。そして、『レインボーピッグ現る所に大量の魔物あり。』と伝えられるように、ランク問わず、大量の魔物や魔獣が押し寄せてくる。そのため、レインボーピッグが現れた時はその街のギルドは総力戦で持ってレインボーピッグたちと交戦する。その中ではレインボーピッグを落ち着かせて罠に誘導する係もいる。因みにレインボーピッグを食えるのは、その戦いに参加した者と、調理した者だけだ。間接的に参加していても問題ない。だが何もしなかった場合は王様だろうと、食べることは出来ないことになっている。規則としてね。だが、もちろんレインボーピッグは希少なため、専属のレインボーピッグハンターは地竜を連れて世界中を歩き回り、見つけしだい捕獲して貴族に高値で売りつける商売をしている。因みにレインボーピッグを丸ごと王族や上級貴族に売りつければ、半生以上はあそんで暮らせるらしい。
俺もレインボーピッグ食べてみたい。
そう思って隣を見ると、菜川がよだれを垂らしていた。
「俺たちもいつか一緒に食べようぜ!」
「じゅる、うん!!」
そんなこんなで楽しい宴は終わった。そして俺たちは宿屋へ向かった。外が暗くなっていて、最初に来た時と雰囲気が全然違くてかなり迷った。真っ白な看板を見た時に幽霊かと思ってゾッとしてしまった。
そして無事に宿屋へ到着。これ今からチェックイン出来るのか?と疑問に思いながら受付まで行くと、受付の女性がいた。昼間話した人だ。よく働きますなぁ。
「すみません、まだ部屋空いてますか?」
「えぇ。空いてますよ。」
「ではなるべく長期で使いたいのですが、いくらですか?」
「ええと、部屋によっても期間によっても値段が変わるのですが……」
「あ、ええと、そうですね、普通のランクの部屋で、10日間くらいでお願いします。」
「普通のランク??と、とりあえず10日間で予約しておきますね。ええと、ギルドカード払い、でいいですか?」
「はい。」
「無事にたどり着けて何よりでした。それに今日中にお金が手に入ってよかったですね。」
「ありがとうございます。結構大変でした(笑)」
「そうでしたか。では、ギルドカードをお預かりします。ギルドカードの場合は宿屋の料金が割引されるんですよ。補助金が町会から出てましてね。だからお客さんが来ない時も経営出来るんですよ。」
そう言って受付嬢はギルドカードに魔力を注いだ。
「では、1000ポイントから10%割引なので、900ポイントをお支払いください。やり方はわかりますか?」
「いえ、教えて下さいますか?」
「わかりました。ええと、ギルドカードのここに魔力を注いで下さい。あー、魔力の注ぎ方はこんな感じに……」
俺は手取り足取り教えて貰った。深層世界から魔力の扱い方とか知ったからそこまで教えて貰わなくもいいんだけどな。まぁこの受付嬢は面倒見がいいし優しいからなぁ。少しだけこの茶番に付き合おう。
「双葉君、魔力の扱い方はもう知ってるんでしょ?さっき言ってたじゃん。」
「え?あ、そうだったんですか、すみません、昼間の時はなんだか小さい子供みたいに見えましたから。」
「いや、良いんですよ。あなたにはお世話になってますから。」
「そう言って頂けると嬉しいです。この仕事をしていて良かったです。」
受付嬢は少し涙ぐんでそう言った。
そして無事俺たちは宿を借りた。これから10日間の寝床を確保することができた。