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09話 近衛騎士団長

「驚きました……。魔物を分解して吸収するとは……」


 ドルミーがクマの魔物を吸収する様を目の当たりにし、リアスさんは大層驚いているようだ。

 吸収したのはクマの本体のみ、砕けた赤い魔宝石は辺りにまだ散らばっている。


「あの魔物はジュエルベアーと言って、ファンシーな名前に似合わず、非常に危険な魔物なのです。魔力を蓄えることにより背中の宝石が成長し、力を増します。本来は人里に近づくこともなく、奥地で強力な魔物を捕食しているはずなのですが……。何かが原因で姫様と出会ってしまったようですね」


 おぉ……魔物の説明だ。

 聞けば聞くほど、突然森の中であんなのと出会って足が動いた姫はすごい。


「背中の宝石は、魔法を使う際にもっとも輝きと純度を増します。その瞬間に絶命させられれば、今回の様に質の良い魔宝石を入手できるのです。魔宝石は持ち主の魔力の増幅や制御を助ける効果があり、質の良い魔宝石ほどその効果も高いです」


 リアスさんは砕けた赤い宝石の一つを拾い、私たちに見せてくれた。

 うーん、今まで見た宝石の中では一番大きいし綺麗……。


「しかし、ジュエルベアーを一撃で仕留めることがまず難しい。徐々に弱らせると宝石が傷つき、魔力も弱まるので質が落ちる。仮に一撃の必殺技があるとしても、それの準備中にのんびり向こうも魔法発動の準備をしてくれる事はないでしょう」


 そこまで言って、リアスさんが私を見る。

 これはもしや……。


「今回の戦闘方法、可能ならば教えて頂きたいのです。一人の騎士として」


「あはは……偶然上手くいったんですよ……」


 私は覚えてる限りのことをそのまま話した。

 その後、魔宝石を回収すべく、荷馬車を引いた騎士さんたちが来た。

 騎士さんたちもヴァネッサと姫様の言動に驚いていたようで、リアスさんから詳しい経緯(いきさつ)を聞いている。


 そんなこんなで、この騒動がひと段落つくのに一時間ほどかかった。




 ◯ ◯ ◯




「ささ、どうぞどうぞ。ボロボロですけど、まあまあ住みやすいんですよ。本当は私の家じゃないんですけどね」


 後始末を終えた後、ドルミーがリアスを小屋へと招き入れる。

 それと同時にとんでもないことを言った気がするけど、以前は実体がなかったと言っていたから、そもそも持ち家などあるはずないか。


「それではお言葉に甘えて」


 リアスさんはすでにローブも脱ぎ去っており、身体に装着された防具や武器が露わになっている。


 武器は細剣、レイピアと言った方がカッコいいか。

 装飾も最低限で武器としての質を追求した……ような印象を受ける。


 防具はお金持ちの家に飾られていそうな全身を覆う甲冑ではなく、胸当てと腰に少し金属が付いた……スカートかな?

 詳しいことは分からないけど、動きやすさを追求してるのだろう。


 防具が無い所も服はキッチリ着こまれており、肌の露出は少ない。

 うーん、スレンダーな身体。

 細いんだけど、華奢だと思わせないオーラがある。


 全体的に質素というか、無骨な雰囲気があるファッションの中、左腕に着けているサファイアの様な青い石があしらわれたリングが異彩を放っている。


「ここにお掛け下さい」


「し、失礼します」


 比較的きれいで状態の良い椅子を運んでくるドルミー。

 彼女はリアスさんの事を信用しているようだ。

 ドルミーは緩いけど勘は鋭い。

 何かを感じ取ったのだろうか。


「えーっと、リアスさんのパンがないのが申し訳ないのですが……」


「いえ、私にはお構いなく。どうぞお食事をとってください」


 そう言うと彼女は、私たちの食事風景をじっと眺めていた。

 そのせいで少し食べにくかったけど、パンとジャムの味は元の世界と変わらず美味しかった。何とかやっていけそう。


 それにしても、ものを食べると見て感じてる事が夢じゃないとハッキリわかる。

 このパンは異なる世界の食べ物って感じはしないけど、なんとなく異質なものを体に取り入れた気がする。


 怖くはない。

 私を呼び出したドルミーは優しいし、帰れない訳じゃない。

 私次第で何とでもなる。

 武器……だってあるもの。


「真夜さん。こちらの世界のパンはお口に合いませんでしたか?」


 仏頂面でパンを咀嚼(そしゃく)していた私の顔を、ドルミーは心配そうに覗き込む。

 彼女が私を呼び出した理由は、単純のようで難しい。

 彼女自身もよくわかっていない部分もありそうだ。

 だから悩んでも仕方ないんだ。

 まだ答えは用意されていない。


「ううん、美味しいよ。私のいた世界と変わらないぐらい」


 そう言うと、彼女は嬉しそう微笑んだ。

 この笑顔の裏に、何か黒い企みがあるとは思いたくない。

 私はパンの最後のひとかけらを飲み込み、そう思った。


「ふー、お腹いっぱいです。でも、言っている間に晩ごはんの時間になりそうです。真夜さん、晩ごはんのおかずはなんですか?」


 遅い朝食を終えたばかりだというのに、ドルミーは夕食の心配をしだした。

 そういえば焦って買い物を切り上げたから、晩ごはんの材料がないや……。

 正直に言おう。


「えっとね。その私……町でリアスさんに会ってね。探してる金髪の子がドルミーじゃないかと思って、心配でパンだけ買って帰ってきちゃった」


「その件は失礼しました。しかし、よかったです。そこで買い物を切り上げていなければ、姫様がどうなっていた事か……。的確な判断に感謝します」


「あはは……。まあ、結果的にそうなっただけですよ……」


 確かにかなりタイミングが良かった。

 リアスさんのパン屋まで姫を探しに来る熱意がそうさせた、と思っておこう。


「まぁ真夜さん。私の事を心配して帰ってきてくれたんですか! 嬉しい……」


 こっちはこっちで目をうるうるさせている。


 とりあえず、買ってこなかったことは責められなさそうだ。

 まあ、また買い出しに行くのも私だろうし。

 いや、もしかして……。


「ドルミー、さっきの魔物から魔力を吸収して、何か変わった? 体力とか魔力とか……」


「まだまだ……と言ったところでしょうか。安定して魔法を使いこなせるレベルではないです……」


「そもそも魔力って休んでたら回復しないの? 体力みたいに」


「えーっと、どう説明したらいいのでしょうか……。本来、魔力は時間経過などで回復するのですが……私の場合、そもそもの魔力を溜められない状況と言いますか……」


 えーと……。

 要するにドルミーはゲームとかでいう『最大MP(マジックポイント)』が0の状態だったんだ。

 魔法を使うのに魔力を消費するとするなら、この状態では無論何もできない。


 そこに『森の主』を吸収したことで、『最大MP』が少し伸びた。

 これにより、魔法を扱えるようになった……のかもしれない。


 でも、上限が低いから魔法一発で終わり。

 次は少し休憩してからになる。

 つまり、安定して使えない……って事かな?


 大部分を私の妄想で補ってるけど、まあいい線いってると思う。


「うん、大体わかった。道のりはまだまだ遠そうね」


「ごめんなさい……」


「責めてるわけじゃないよ」


 流石にデカイとはいえ、魔物一体じゃ大した変化は無しか。

 そんなに簡単な道のりではなさそうね……。


「今日の魔物退治はもういい?」


「はい。この森の中でも大物を仕留めて頂けました。今日はもう十分です」


 良かった。

 体はマントの魔法で回復していても、心はまだ疲れてる気がしてる。

 その心を癒すためにも、今やらないといけないのは……お腹を満たすこと!


「じゃあ私、買ってこれなかった晩御飯の食材を買いに行って来ますから。リアスさんは何かリクエストあります?」


 何かハッキリこれが良いと言われた方が買ってくるのも楽だ。

 それにお客さんだしね。


「その、私もお買い物に同行させてもらえないでしょうか? 食材の他に、真夜殿の服を購入したいので」


 おっ、そうきたか。

 やっぱりこのパジャマのデザインはこちらの世界でもおかしいか!


「この服装じゃとてもお城に入れませんよね……?」


「いやっ、そういう訳ではないのですが……」


「正直に言って構いませんよ?」


「この世界の基準だと、もう少しふさわしい服があります……」


 無理に気を使わせてしまった。

 私も着替えないといけないと思っていたところだ。


 パジャマは落ち着くし、気持ちいい。

 でも休みの日とかに着たままにしておくと、なかなかやる気が出てこない。

 何か行動を起こす時は、それ相応の服に着替えないとね。


 あと、私が他の世界の人物だとリアスさんが把握している。

 『神の使徒』は、女神によってこの世界に転移させられた人を指す言葉で間違いなさそう。


 そして、そんな言葉があるという事は、過去にも転移が行われていたという証拠だ。

 買い物の途中にそこんところ詳しく聞いてみよう。


「わかりましたリアスさん。一緒に行きましょう。ドルミーはもう一回お留守番ね」


「あの……ですね。私、さっきの魔物を見て、一人でいるのが怖くなってしまいまして……」


 そりゃそうか。

 あんなでかいのに出くわした後、お留守番するのは怖いに決まっている。

 「出てきそう」というだけで恐怖する人間もいるのに「出てきた」のならばなおさらだ。


「じゃあ、ドルミーも一緒にお買いものね」


「はい! 体の調子は多少良くなってますし、頑張ります!」


 少し元気になったドルミーと、それを珍しそうに眺めるリアスさんを連れ、私は再び町への道を歩き出した。

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