表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/26

08話 新たな出会い

「もう一度お願いします。その少女を渡していただきたい」


「嫌だ……といったら?」


 私は思わず、そう返してしまった。

 明らかに敵対を示す言動だ。

 しかし、ここで「はい」と返すのも違う気がする。


「えっ!? そ、その時は……」


 あれ?  意外と動揺している。

 この返事を全く予想していなかったのか。

 王道な返事だと思ったんだけど……。


「その時は力ずくで取り返す……でしょ? 団長殿」


 木の陰からもう一人、女性が現れた。

 団長と呼ばれた人物と違い、顔は隠されていない。

 

 ボサボサで燃える炎の様な赤髪。力強い目。金属や革製の防具。

 露出した部分から見える体は引き締まっていて、とても力強そうにみえる。

 そして何より大きい……。


 一つは身長。

 私が同性の身長に対して「大きい」という感情を抱くことは少ない。

 何故なら私自身が長身だから。

 その高さ……数字にして170cm!

 16でこれはかなり目立つけど、小さいころから他の子より高かったからもう慣れた。


 それに対して、赤髪の女性の身長は遠目にも上だとわかる。

 身長を気にして生きてきたからこそ、目測で測ることが出来る。

 あれは180を超えてるね。うん。


 もう一つは胸。

 私が同性の胸に対して「大きい」という感情を抱くことは多い。

 別に私自身が貧乳というワケではないけど、何か惹かれる。

 それにしても彼女はデカイ。

 生で見た中では断トツの一番。


 あ、防具の間から少し谷間が……。


「お姉さん、熱い視線をどうも」


「えっ、あっ……」


「あたしぐらいになると、視線がどこにいってるのかわかっちゃうのよね」


「すっ、すいません……」


「いいよいいよ。初めて私を見て、このおっぱいに目を奪われなかった奴はいないからね。これも与えられた物を使った戦法ってね!」


 豪快に言い放つと、赤髪の女性は前屈みになり、さらに深い谷間を見せつけてくる。


 見抜かれてた……。

 は、恥ずかしい……。

 しかし、あれほど深いと武器でも仕込めそうだ。

 覗き込んだ相手に刃を飛ばして頭部を狙ったり……。


「ヴァネッサ、待機を命じていたはずです」


「団長殿がお困りの時に黙って待ってられないってね。それに知らない人と話すの、昔から苦手でしょうに」


 団長に対してこの話し方って、赤髪の人はただの部下という訳ではない?

 いったいこの人たちは何なんだろう……。

 そう思っていると、赤髪の人が答えを教えてくれた。


「私たちは騎士なのよ。それでね、そこのお姫様を探していたの」


 騎士……お姫様……。

 街の風景を見た時、なんとなくいるんじゃないかなーと思ってた職業の方々がこんなに近くにいたなんて。


 そうか、この少女はお姫様だったのか。

 確かに顔立ちはどこか高貴。

 武器もすごい力を秘めていたし、答えを聞くと全然納得できる。


「ヴァネッサ!」


 団長殿が急に大声を出す。

 表情は相変わらずわからないが、声色から怒りが読み取れる。


「いやいや。力ずくとは言ったけど、それは相手が悪い奴の時。この場合は事情を話した方がいいって。どうやら姫様の恩人のようだし」


 すこし焦った表情を見せながら、ヴァネッサさんは私が倒した魔物を指差す。


「あっ!」


「大きな音がしたからここに来たんでしょ。姫様の事になると、ほんと周りが見えなくなるんだから」


「……これは、申し訳ありませんでした」


 そう言うと、隊長殿は顔に巻いていたスカーフとマントのフードを取り去った。

 現れたのは長く真っ直ぐな青髪、切れ長の蒼い目。頬は少し赤らんでいる。


「私はリアス・ヴェール。ヒロウ王女に仕える騎士……ヒロウ近衛(このえ)騎士団の団長です」


 団長殿改めリアスさんは、ハキハキと自己紹介をした。

 コントのような会話劇を繰り広げていた二人も、この世界での立場はかなり高そう。

 

 姫に仕える近衛騎士団……とってもカッコいい響き。

 そして気になるのは、そんなすごい人たちがなぜ森の中にいるのかということ。


「その、近衛騎士団とお姫様は何故こんなところに来たのですか?」


 ちょっと直球すぎるかな。

 さっきは立場を明かすことすら渋った人だ。答えてくれないかもしれない。


「それは私がお話しします」


 声をあげたのは、私の後ろに隠れていた女の子……じゃなくてヒロウ姫。


「私たちがここへ来た理由は他でもない、私の戦闘訓練の為です。魔物を相手にした実践的なもので、この森……正確にはもう少し町から離れた場所で、まれに行なっています」


 彼女の喋りから、さっきまでの怯えは感じられない。

 リアスさん怒ると怖そうだし、それを恐れていたのかな。


「それで……その……私は訓練に飽きて休憩中に抜け出して来たのです。魔物を仕留めれば強さを認めて訓練をやめられると思って……。ごめんなさいリアス、ヴァネッサ。それに真夜様にドルミー様」


 姫様の方から魔物を探し求めていたんだ……。

 あのクマを狙っていたのかはわからないけど、なかなか血の気が多そうだ。

 勝手に国の行く末を心配してみる。


「そういうことだったの。私は全然大丈夫だけど、自分のことを大切にしてくれる人を困らせちゃダメよ」


 正直、訓練の過酷さや魔物を相手にすることがこの世界でどれほど危険なのかわからないので、当たり障りのないことしか言えない。


 しかし、この言葉は今の私にも刺さる。

 先の戦闘は頭に血が上っていて、冷静ではなかった。

 ドルミーも放ってはおかないけど、無事に帰ることを忘れてはいけない。


「あぁ、なんと素晴らしいお言葉……。ドルミー様の話された通りです。私も心を入れ替え、真夜様のように強くなります……」


 姫様は何故か当たり障りのない言葉にひどく感激なされたようだ。

 というかドルミーは何を吹き込んだ。


「そ、そう。まあ頑張って。それで近衛騎士団と一緒に帰る気はある?」


「はい。他の騎士の方々にも謝らなければなりません」


 姫の目はまっすぐだ。

 特に心配はいらないだろう。

 転移早々なかなか派手な事件だったけど、これにて一件落着かな。


「真夜様とドルミー様、もしよろしければ私の住む城に来ていただけませんか? 助けていただいた恩、ここでは十分に返せませんし……」


 そうきたか。

 お城ねー。率直に言うと見たい。

 地味な服から美しいドレスに着替えたヒロウ姫様も見てみたい。


 でも、行動の決定はドルミーにしてもらおう。

 彼女の為に私はここにいるのだから……といっても、何にでも従うわけじゃないけどね。


「ドルミーどうす……」


「わぁ! お城行きたいです!」


 話しはまとまった。

 でも、少しだけ確認しておこう


「そんな簡単に決めて大丈夫?」


 言うが先か、ドルミーが私の腕を引っ張り、耳元で(ささや)く。


「お姫様に気に入られた方が、これからずっと動きやすいですよ。強い魔物がいる地域に侵入するには、それなりの資格がいると言われていますし、後ろ盾があるに越したことはありません」


 おお……想像以上に打算的だ。

 なんだか心強い。


「それに、美味しい物もたくさん食べらますよ。なんせ、王族のお客様ですから……」


 どちらが本心に近いのだろうか。

 ……どっちもね。


「そうです! 食べ物はもちろん、武器や防具もお渡しします! お部屋も用意させます! なので、ぜひ、来てください!」


 内緒話のはずが思いっきり姫に聞かれてた。

 彼女はそのまま私の腕に抱きつく。


「ねぇ、ねぇ、いいでしょう? 真夜様」


「これだけ歓迎されてるんだから、断るのは申し訳ないですよ!」


「いや、私は別に反対してないからね……。あの、行きます。ぜひ、行かせてください」


 ここまで歓迎されると、むしろ疑いたくなるのは私がひねくれているからか。

 まあ、出会ったのも何かの縁。

 流れに身を任せよう。


「まぁ! 嬉しい! では早速……」


「あっと。それは少し待ってください」


 今にも私たちをお城へ連れて行こうとする姫を、ドルミーが制した。


「荷物をまとめたりしたいので、出発は明日という事に出来ませんか?」


「あっ、私ったら舞い上がっちゃって……。そうですね。出発は明日にしましょう」


 そういうと姫は、黙って話が終わるのを待っていた騎士たちに向き直る。


「今の話の通りです。明日、お二人を王都へと招待します」


「了解しました」


 短い受け答えの後、ヒロウ姫がこちらをちらっと振り返る。


「……そうですね。お客様に何かあっては困ります。なのでリアス、明日までお二人の護衛を命じます」


 訓練を抜け出し、森へ魔物を狩りに来るだけあって、姫は強引のようだ。

 リアスさんあからさまに困った顔してる……。


「お言葉ですが姫様……。団長である私が騎士団を長時間離れるのは……」


「その間の指揮はヴァネッサに任せます。大丈夫、私の近衛騎士団はリアスがしばらく離れたところで機能しなくなるほど、(やわ)じゃありません」


 姫は説得しようとしているのだろうけど、なかなかに酷いことを言っている。

 表情からして天然みたいだけど。


「……了解しました。リアス・ヴェールはこれより護衛任務に就きます。ヴァネッサ、後は任せます」


「了解! 隊長殿も気負わず頑張ってください。姫は責任をもってあたしが守りますよ」


 ヴァネッサさんはハキハキと答える。

 最後にウィンクまでした。

 うーん、カッコいいかも……。


 それを見てリアスさんも少し頬を緩める。

 この二人の信頼関係は本物みたいね。


 いやぁ、私たち二人のせいで騎士団をギスギスさせて、何か大事(おおごと)になるのは回避できそうで良かった。


「それでは、あたしと姫様は本隊に戻ります。他の兵士たちも姫の無事を伝えて、捜索を終わらせないといけないからね。よろしいですね、姫様?」


「はい。騎士のみんなには、本当に申し訳ないことをしました……。リアスも迷惑ばかりかけますが、頼みましたよ。まあ、お二人は女神とその使徒ですから、心配ないとは思いますが……」


「女神と!?」


「……使徒」


 ……使徒?

 『女神と』ということは、私が使徒なのかな。

 それにしても二人の驚き様ったら。

 特に驚かなかった姫はなかなか大物だと言える。


「へー、姫様が気に入られる理由がわかりましたよ」


 意味深なことを言うヴァネッサさん。

 すっごく気になるんですけど……。


「ふふっ、詳しいことはリアスから聞いてね。えーっと……黒髪の使徒さん?」


 ヒロウ姫は不敵な笑みを浮かべる。


「私は真夜。根田間真夜です。えっと、こ、これから宜しくお願いします……」


 思わず口から出た自己紹介。

 最後の方がしどろもどろになってしまった。


「あたしはヴァネッサ。ヴァネッサ・ヴァルケニー。ヒロウ近衛騎士団の自称最終兵器にして、リアスの幼馴染よ。これからはヴァネッサって呼び捨てにしてね。あたしも真夜って呼ぶから」


 リアスさんとはそういう関係だったのね。

 上司と部下にしてはかなり距離が近いのも納得。


 それでなくてもコミュニケーション能力が高いとみえる。

 会って数分の私とも距離を詰めようとしてくるし。

 まあ、悪い気は全くしない。


「じゃ、今度こそ失礼しますよ。また明日」


「真夜様、ドルミー様、リアス、また明日会いましょう」


 ヒロウ姫とヴァネッサはぺこりと頭を下げると、森の小道を町の方へと歩き出した。


「あっ、ヴァネッサ! 魔宝石の回収部隊を組織して、ここへ呼んできてください! それに修理に出した武器をちゃんと受け取っておくように!」


 小さくなりつつある背中にリアスさんが叫ぶ。

 それに対しヴァネッサは後ろ手に手を振って答えた。


「ふぅ……。あー、それで何しましょうか……」


 一仕事終えたリアスさんは、困ったような笑みを浮かべながらこちらに話しかけてきた。

 そういえば人見知りなんだっけ。


 私もあんまり初対面の人と話すのは得意じゃないけどね。

 でも、今はそうもいってられない。


「とりあえず、小屋の中でお話……」


「その前に、倒した魔物から魔力を頂戴しなければなりません」


「あっ、そ、そうだったね」


 私たちの本来の目的を忘れていた。

 あれだけ大きい魔物なんだから、魔力もそれなりのものでしょう。

 一歩前進ね。


「……では」


 ドルミーは大きな熊の様な魔物に向かう。

 そして、クマの前で胸のエンブレムを取り外し、杖を出現させた。

 さて、どうやって魔力を吸収するんだろ。


「死せるものに留まりし力よ……我が(かて)となれ」


 杖を魔物の死体に触れさせ、ドルミーは短くそう唱える。

 その声は美しいもので、私は思わず息をのむ。


 唱え終えた直後、死体は光となり、彼女の体に吸収されていった。

 こうして見る分には、すごく神様なんだけどね。


「……さあ、ご飯にしましょう。私お腹が空いて倒れそうです」


 真剣にそんなことを言う女神の顔に、先ほどまでの威厳は欠片も感じられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ