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07話 森の中の戦い

 怒りに吼えるクマの魔物に、恐れることなく向かう。


「狙いは目だ。目は弱いと相場が決まっている!」


 分厚い毛皮もなく、一突きで十分なダメージが入りそうなのは目しかない。

 たとえ目が固くても、多少傷がつけられればいい。

 目に傷が付けば戦意を失うだろう。

 私は失う。すごいテンションが下がる。


 しかし、目を狙うにしてもかなり高いところだ。

 体を登るか、足をとって転ばすか……。


 幸い、敵は先ほど吹っ飛ばして倒せないと判断したからか、手のひらで上から叩き潰すような動きをしている。

 これを(かわ)し、その手に乗り、腕を蹴って目を狙う!


「……出来るのこれ?」


 ええい、どうせこちらに攻撃は通らないんだ。

 やるだけやろう!


 私は躱す動きを鈍らせ、疲れているかのように見せる。

 これで渾身の一撃を誘い、その隙をつく。


「グオオオオオォォォォォーーーッ!!」


 来た。

 両手を振り上げ、地面を叩き割るかのような一撃。

 それを後ろに引いて避け……ん?


 魔物の背中の岩石が赤く輝き、その腕が炎を(まと)う。

 背中の輝く岩は、町で見た魔宝石と同じものなのだろうか。

 赤いから炎を(つかさど)るとか?


 まあ避けるから問題なし。

 すでに距離はとったし、あそこまで動きが遅いといくら威力を高めても……。


「グオオオオオォォォォォーーーッ!!」


 再びの咆哮と共に燃え盛る腕が振り下ろされた。

 その瞬間、私は宙に浮く。

 足元の地面が爆発して、吹っ飛ばされたのだ。


 ダメージがないから他人事の様に言ってるけど、かなり高いところまで飛ばされてる。

 吹っ飛ばしたクマ自身が、私を見失ってキョロキョロしているぐらいに。


 実はマントを広げて爆風を受け、高く飛んでいた。

 さらにパラシュートの要領でゆっくり落ちているとは向こうも思うまい。


「……ここからどうしよう」


 クマは宝石を光らせ、再び力を溜めているようだ。

 周りの木々を燃やし、文字通り私を(あぶ)り出すつもりだろうか。


 こうなったら、このまま落下の勢いを使って、剣を頭に突き立てるしかない。

 今は力を溜めてて動かないし。


「ちょっと怖いけど、やるぞ……お願いね」


 決意とともに剣を握りしめると、刃が無数の星が瞬く様に輝いた。

 剣も出来ると言っている……の?

 そうとなれば後は実行だ!


 私はマントを閉じ、体に巻きつけた。

 すぐに落下の感覚が襲ってくる。


 できるできる……私はできる!

 自分に言い聞かせると、刃がさっきより強く輝く。

 無我夢中でそれを敵の頭に突き立てた!


 キィィィィィィィィィ!!!


 鋭く高い音と共に、視界が真っ白になった。

 そして、気がついたらクマの魔物は地面に倒れ伏し、私も地面に倒れていた。

 砕けた赤い宝石が辺りに散らばっている。


 ……で、どうなったの?

 立ち上がって、確認しなければ……。


「……っ!」


 体を起こそうとした時、全身に激痛が走った。

 多少運動神経に自信があるとはいえ、あんな無茶苦茶な動きは初めてだ。

 関節が特に痛い……。

 しかも緊張が解けたせいで、痛みがどんどん強くなっていく。


 まあ、これでもマシな方だとは思う。

 マントに多少重力を軽減する効果もある。

 そのおかげで体も軽かったんだ。


 でも、この魔法は戦闘中に常に発動はしていない。

 踏ん張る時とか体が軽いとダメだからね。

 ……戦闘の分析は置いといて……どうしたものか。


「真夜さーん! 大丈夫ですかー!!」


 ドルミーの声が近づいてくる。

 助かった……。


「うわぁ……真夜さん! 流石ですね! こんな大きな魔物をおひとりで!」


「まーね……」


「ど、どこか怪我されたのですか!?」


「いや、疲れただけ。寝てれば治るよ」


 その時、マントが私の体をすっぽり包み込み、前に見た寝袋状態になった。

 寝てれば治ると言ったからかな。


 ……いや、なんか痛みが和らいだ。

 もしかして、この状態なら体の回復が早い……?

 このマントには疲労回復効果もあるんだ。


「……ドルミー、やっぱりあなたは女神様なんだ」


「私の力……役に立ちましたか……?」


「うん」


 ドルミーはとても嬉しそうな顔をしている。

 とりあえず、これで一件落着……。


「す、すごい……。『森の主』と呼ばれる異常成長した個体を一人で……」


 この声は……小屋に逃げ込んでいた金髪ショートの女の子だ。

 彼女の顔は驚きに満ち溢れている。


 いやぁ、私の力ではないんだけどね。

 しかし『森の主』か……名前からして強そう。

 なんだか今さら怖くなってきた……。


 私のそんな気持ちを知らない少女は魔物の頭部に近づくと、興奮気味に叫ぶ。


「こ、この剣を刺したのは真夜様ですよね!? ほ、本当に!?」


 頭に刺さった剣を引き抜いている少女の顔は紅潮している。

 そんなに興奮するとは、あの魔物の頭部は相当硬かったのかな?

 私もあの剣じゃないとどうにもならなかったし、そんな褒められることはないんだけど……。


 ……って、真夜様!?


「それにこのマント! なんなんですかコレ!? どうやって作ったのですか!?」


「これはね、そこにいる……あーっと」


 夢の女神……って言っちゃダメよね。

 神が目の前にいるとか言ったらさらに混乱させそうだ。

 それに小さい子とは言え、知らない人に重要な情報を漏らさない方が良い。


「この夢の女神ドルミーが、後先考えずにありったけの魔力を注ぎ込んだのが、あのマントです! えっへん!」


 あ、言っちゃった。

 褒められていい気になったな。


「なんと! なんと! 流石女神様ですね!」


 すぐ信じる彼女も彼女だけど。

 どうやら、この二人は波長が合うみたい。


 体は大分マシになった。

 今度はこちらから少女に質問してみよう。


「お嬢ちゃんはどこから来たの? 町であなたみたいな子を探している人を見かけたけど……」


「えっ! そ、それは……」


 ここで言葉に詰まるのか。

 これは何か深い事情がありそうね。

 土やらなんやらで汚れている服は地味だけど、顔立ちや武器に非凡な雰囲気がある。


 これは謎が深まる。

 でもまあ、お腹もすいたし、守り抜いた小屋の中で冷めてきているパンでも食べながら考えよう。


「見つけました……!」


 私の背後から、聞いたことのある声がした。

 この世界で聞いたことがある声はまだ少ない。

 そのうちの一人……。


 振り返るとそこに、パン屋で見かけたスカーフの人物がいた。

 その目つきは強く、鋭い視線は少女に向けられている。


「……ひっ!」


 少女は視線に射抜かれ、固まってしまった。

 石化魔法という訳ではなく、スカーフの人物をよほど恐れているようだ。


「あなたは……先ほどパン屋でお会いした……。また、迷惑をかけてしまったようですね」


 目が据わっているけど、口調は優しい。

 そして、探していたのはこの少女で確定だ。

 お互いに面識もあるみたい。


「あなたはどちら様ですか?」


 本当はよそ者である私が言われるべきセリフだが、ここは仕方ない。


「……それは、お教えできません。その少女をこちらへ渡していただきたい。礼はします」


 どうやら、せっかくの焼き立てパンはまだ食べられないみたい。

 奇しくも、そのパンを購入した人物に邪魔をされて。

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